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遊戯王GX-音速の機械戦士-

作者:蓮夜
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―精霊狩り―

 アモンの主催したパーティーによるデス・デュエルにて、ラー・イエローの生徒とオベリスク・ブルーの生徒の大多数は、体力を吸われて倒れることとなった。主催者のアモンも例外ではなく、デュエルをしていた万丈目とともに倒れ、アカデミアは騒然としているのだった。

 今回の事件の首謀者を見つけ出して解決する為とはいえ、この状況になるかもしれないと解っていた自分にとって、申し訳ない気持ちで一杯だったが……その甲斐もあって、ジムは場所の特定に成功したらしい。十代やジムを始めとするメンバーは、アカデミアの倒れた生徒を無事な生徒に任せ、プロフェッサー・コブラがいると思われる場所に赴いて行った。

 プロフェッサー・コブラがいるという森の奥には、何やら巨大な建造物がそびえ立っており、プロフェッサー・コブラとの戦いも最終局面を迎えていると思わせる。

 アカデミアの森の奥にある旧SAL研究所――自分にとっては懐かしい名前だ――には、俺もついて行きたかったものの、デス・デュエルで倒れてしまった自分では足手まとい。後は明日香やジム、十代に任せてゆっくりと倒れていよう……と思ったのだが。

「……行かないのか、明日香」

 俺は明日香に肩を貸されながら、今回で倒れた生徒を纏めている場所に運ばれていた。一度倒れてデス・デュエルに身体が慣れたのか、他の生徒よりも意識を保つことが出来た俺は、補助があれば一人で歩くことが出来たからだ。

「悪かったわね」

 旧SAL研究所には行かずに肩を貸してくれている明日香は、勿論とてもありがたいのだが……少々ご立腹な様子である。その原因は、俺にだって少しは察することが出来ているが。

「悪かったって、デス・デュエルのことを言わなかったのは……」

 わざとデス・デュエルをすることによって、首謀者とその位置を割り出すのはジムと考えた作戦で、他の誰にも明かしてはいなかった。明日香も例外ではなく、その言ってくれなかったことに怒っている……のだろうか。

「私だって、言ってくれれば協力したわ。……そんなに私は頼りない?」

「……そんなことは……」

 明日香の糾弾は容赦なく続いていく。先立ってはオブライエンとのデュエルでも巻き込まれた彼女を、今度こそは巻き込みたくなかったというのが本音だが…… 

「心配してくれるのはありがたいけど、私だってデュエリストなんですからね」

「明日――」

 ――そして更に言い訳を重ねようとしていた俺は、近くの森から飛来する物体に気づかなかった。銀色のマジックハンドのようなソレは、俺の腕に装着したままだったデュエルディスクに狙いをつけ、正確にデッキホルダーに刺さっている【機械戦士】デッキを掴んだ。

「なっ……!?」

 俺の驚愕の声をよそに、マジックハンドは忠実に使い手の命令を実行する機械のように、【機械戦士】デッキを掴みながら縮んでいく。そのまま縮んでいったマジックハンドに掴まれていたデッキは、その持ち主の手の中へと納められた。

「ちっこい精霊ばっかだが……大量だな」

 バイクのような物に乗って現れたその男は、【機械戦士】デッキをバイクに取り付けられた球状の箱に入れると、こちらに視線を向けた。その視線は鋭くこちらを射抜き……いや、何やら品定めをしているような視線だ。

「誰だお前……機械戦士を返せ!」

「返せと言われて返す馬鹿はいねぇ。そしてオレの名前は、精霊狩りのギース、だ」

 精霊狩り。ギースと名乗った男の言ったことに、俺は一瞬で事態を悟って戦慄した。カードの精霊を狩るものということは、あの伝説のグールズと同様に……『デッキを狩る』ということと同義だからだ。

「精霊狩り……?」

「ああ。この世にはびこる精霊を狩って、コレクションしてるような奴に売りつけるのが俺の仕事だ。このアカデミアは大量で、今はデュエリストも倒れてやがる」

 明日香の質問に嬉々として答えたギースを、早速プロフェッサー・コブラ側のデュエリストと判断すると、明日香から離れて一歩前に出た。精霊狩りだか何だか知らないが、【機械戦士】をくれてやる訳にはいかない……!

「【機械戦士】を返してもらおう!」

「だから、返せって言われて返す馬鹿はいねぇ。オレとデュエルしても良いが、デッキは持ってんのか?」

 自然と俺は、ポケットに入っているもう一つのデッキホルダーに手を伸ばすが、あの趣味のデッキで勝てるはずもない。しかしここで勝たなければ、【機械戦士】デッキを取られてしまう……!

「デッキなら……」

「私が代わりにデュエルするわ」

 もう一つのデッキを取りだそうとした俺を制し、明日香がデュエルディスクを構えながら前に出た。デュエルディスクにはもちろん、彼女のデッキである【サイバー・ガール】が取り付けられている。

「ん、そっちの女か? ……まあ良いだろう、ネオスペーシアンと宝玉獣相手の肩慣らしには丁度良い」

 やはりギースの目当てはコブラの元へ行っている十代とヨハン……正確に言えば、その二人の精霊とデッキ。彼らが本校に帰ってくる時は、十中八九コブラとのデュエルで疲弊している……ギースは、そこを狙っているのだろう。

「遊矢。ちょっと聞いてくれる?」

 ギースがバイクから降りてデュエルの準備をしている間に、明日香はこちらを振り向かずに話しかけて来た。つまりはギースの方を見ている為に、その表情は伺いしれない。

「私は三沢くんみたいに頼りにならないかも知れないけど、遊矢と一緒に戦うぐらいは出来る。いつも守ってくれてありがとう。……これからは、私も一緒に」

 明日香はそれだけ早口で言い残すと、デュエルディスクを構えたギースへと向かっていく。……明日香が向こうを見てくれていて良かった、流石にこうまで言われては照れる。

「待たせたな。オレが負けたらこのデッキは返してやる。お前が負けたら……負けた時のお楽しみ、って奴だ」

「ええ、その条件で構わないわ」

 明日香はギースの下卑た挑発を軽く受け流すと、自らのデュエルディスクを展開する。……そう、あまりにも一緒にいるものだから忘れかけてしまうが、彼女はカイザーと並ぶアカデミアの女王なのだ。

「チッ……その生意気な鼻っ柱、叩き折ってやる!」

 対するギースも言動はただのチンピラのようだが、彼は実力主義と標榜しているコブラの部下だ。その実力は疑いようも無いものだが、そもそも『真っ当な』デュエリストかも怪しいものだ。

「くそっ……!」

 デュエルが始まろうとしている今、もはや俺の言葉など何の意味も無しはしない。俺に出来ることはと言えば、明日香の勝利を願うことだった。

『デュエル!』

明日香LP4000
ギースLP4000

「先攻は俺から。ドロー!」

 デュエルディスクの選択によって先攻を得たのは、残念ながら明日香ではなく精霊狩りのギース。彼はどんなデッキなのか、それを見定めるチャンスではあるが。

「オレは《ルアー・ファントム》を召喚」

ルアー・ファントム
ATK0
DEF0

 その名前の通り、釣り竿についているルアーの幻影のようなモンスター。その攻撃力・守備力ともに0ということもあいまって、かなり不気味な様相を呈している。

「カードを二枚伏せ、ターンエンドだぜ」

「私のターン、ドロー!」

 不気味なモンスター《ルアー・ファントム》が攻撃表示に、カードを二枚伏せたギースの布陣に、明日香はどうするか。何かあると言っているようなものだが、明日香ならば攻めるだろう。

「私は《ブレード・スケーター》を召喚し、バトル!」

ブレード・スケーター
ATK1400
DEF1500

 今回先陣を斬ることになったのは、明日香の主力モンスターの内の一体である《ブレード・スケーター》。召喚して即座に攻撃を宣言し、ルアー・ファントムへと狙いをつける。

「ブレード・スケーターでルアー・ファントムに攻撃、アクセル・スライサー!」

「《ルアー・ファントム》の効果を発動! このカードが攻撃された時、このカードと攻撃したカードを手札に戻すぜ!」

 ルアー・ファントムに攻撃しようとした瞬間、ブレード・スケーターはそのルアーに引っかかってしまうと、そのまま明日香の手札へと帰還するように引っ張られてしまう。永続魔法《門前払い》のような効果を持ったモンスターか、と思ったその時、ブレード・スケーターをどこからか発射した網が捕らえた。

「ブレード・スケーター!?」

 ブレード・スケーターを捕縛したその網は、元をたどればギースの開かれたリバースカードから発射されており、ブレード・スケーターを捕らえてギースのフィールドに置かれた。

「カウンター罠《ハンティング・ネット》! 相手モンスターが手札に戻った時、そいつをオレのフィールドに捕まえちまうカードさ!」

 ブレード・スケーターはそのネットから出ることは出来ず、じたばたともがいているしかない。捕らえられたモンスターは、ギースの魔法・罠ゾーンへと置かれて、更に専用の『獲物カウンター』が付く。

 墓地に送られれば再利用の方法はいくらでもあるが、相手のフィールドに置かれてしまっては再利用も出来ない。更には自分のモンスターが捕らえられている、ということから、精神的にも苦しいものがある。

 精霊狩りの名前に相応しいデッキ、ということか……!

「……カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「ククク。オレのターン、ドロー!」

 どちらもがら空きになったフィールドだったが、明日香は悔しそうに顔を歪め、ギースは嬉しそうに笑っている。ギースは、先程手札に戻したカードと同じカードを取ると、そのままデュエルディスクに置いた。

「《ルアー・ファントム》を召喚!」

 再びフィールドに召喚される幻影の釣り竿に、伏せられているリバースカードが一枚。もちろんあのリバースカードの正体は解らないものの、明日香がこのまま攻撃しては同じ結果となるかも知れない。

「ターンエンドだぜ、再び獲物にされたければ攻撃しな!」

「……私のターン、ドロー!」

 挑発を仕掛けてくるギースをスルーしつつ、明日香はカードを一枚ドローする。先のターンではブレード・スケーターが捕らわれてしまったが、今回はどう攻めるのか。

 ……何にせよギースの戦術が前回と同じならば、明日香がそれを攻略出来ない筈がないのだけれど。

「魔法カード《高等儀式術》を発動! デッキから通常モンスターの《ブレード・スケーター》を二体墓地に送ることで、手札の《サイバー・エンジェル-茶吉尼-》を儀式召喚!」

サイバー・エンジェル-茶吉尼-
ATK2700
DEF2400

 デッキの通常モンスターを素材とすることで儀式召喚出来る通常魔法《高等儀式術》により、千手観音のような手に無数の刃物を持った、最強のサイバー・エンジェルが儀式召喚される。儀式召喚されるや否や、早くもその効果を発動しながら《ルアー・ファントム》へと近づいた。

「サイバー・エンジェル-茶吉尼-が特殊召喚された時、相手はモンスターを一枚破壊しなければならない。あなたのフィールドにいるモンスターは一体、《ルアー・ファントム》を破壊してもらうわ!」

 ギースのフィールドに伏せられているリバースカードは反応せず、サイバー・エンジェル-茶吉尼-はルアー・ファントムを切り刻んでいく。その効果はもちろん発動せず、ギースのフィールドはがら空きとなった。

「バトル! サイバー・エンジェル-茶吉尼-でダイレクトアタック!」

 《ルアー・ファントム》はもうおらず、ギースのリバースカードが《ハンティング・ネット》だとしても何の問題もない。ギースを切り裂かんと近づいたサイバー・エンジェル-茶吉尼-は……突如として地面から出て来た、網に捕縛された。

「ハハハ、リバースカード《生け捕りの罠》! オレのフィールドに獲物カウンターが載ったモンスターがいる時、攻撃して来るモンスターを、その名の通り生け捕りにしちまうのさぁ!」

 網に捕らえられたサイバー・エンジェル-茶吉尼-は、ブレード・スケーターのようにギースの前に捕らえられ、明日香の元に帰ることは適わない。

「……ターンエンドよ」

「オレのターン、ドロー!」

 明日香は通常召喚せずにターンを終了し、フィールドにはリバースカードが一枚しかない。このままではギースのペースに乗せられてしまう、そんな恐れが俺に伝わって来る。

「オレは《魂を削る死霊》を召喚し、バトル!」

魂を削る死霊
ATK300
DEF200

 フードと鎌を持った悪霊のような外見をしたモンスターが召喚され、明日香へと攻撃するような態勢を取る。そのステータスは下級モンスターでしかないが、戦闘では破壊されない効果に加え、このタイミングで持って欲しくはない効果を持っている。

「魂を削る死霊でてめぇにダイレクトアタックだぜ!」

明日香LP4000→3700

 明日香のことを守るモンスターはおらず、死神の鎌は明日香に直撃した後に、その手札を一枚狩っていく。《カードを狩る死神》のように、この死神はダイレクトアタック時に手札を一枚墓地に捨てさせるのだ。

「さらに永続魔法《身代わりの痛み》を発動! エンドフェイズ、オレの獲物の数だけ相手に400ポイントのダメージを受けてもらう!」

 ギースのフィールドに捕らわれてしまったいるのは、ブレード・スケーターとサイバー・エンジェル-茶吉尼-の二体のモンスター。

「ターンエンド……800ポイントのダメージを受けてもらうぜ!」


 獲物となっている二体のモンスターの苦しみが、永続魔法《身代わりの痛み》を介してダメージとなって明日香を襲う。明日香はダメージに顔を少し歪めながら、彼女のターンが回って来る。

明日香LP3700→2900

「私のターン、ドロー!」

 ギースのフィールドにリバースカードはなく、今はモンスターが獲物として捕らわれる心配は無い。だが代わりにギースのフィールドは、戦闘破壊耐性を持つ《魂を削る死霊》と《身代わりの痛み》により、ロックバーンの様相を呈していた。 

「私は《サイバー・チュチュ》を召喚!」

サイバー・チュチュ
ATK1000
DEF800

 明日香の主力であるダイレクトアタッカーが召喚されるが、《魂を削る死霊》の攻撃力は300ポイントのため、その効果を活かすことは出来ない。幸いにも今は攻撃表示なので、サンドバックにすることは可能だが……

「さらに装備魔法《エンジェル・ウィング》! 装備するのは……もちろん、《魂を削る死霊》!」

「……チィッ……!」

 《魂を削る死霊》に似つかわしくない、機械で出来た天使の羽根のような物が装備されていくが、装備された瞬間に魂を削る死霊は破壊される。その戦闘破壊耐性とハンデス効果の代償に、魂を削る死霊は効果の対象になった時に破壊されてしまうのだ。

「バトル! サイバー・チュチュでダイレクトアタックよ、ヌーベル・ポワント!」

「ふん……効かねぇなぁ」

ギースLP4000→3000

 サイバー・チュチュの回し蹴りがギースに直撃するが、そのダメージは僅か1000ポイント。ダイレクトアタックの火力としてはやや物足りなく、ギースも余裕しゃくしゃくといったポーズをしている。

「ターンエンドよ」

「オレのターン、ドロー!」

 ギースのフィールドは二体の獲物と永続魔法《身代わりの痛み》であり、明日香のフィールドは《サイバー・チュチュ》とリバースカードが一枚。やはりまだギースが優勢だが、明日香は手札に攻める準備を整えているようだ。

 ならばこの戦局がどちらに傾くかは、このターンのギース次第と言えるだろう。

「オレは《スター・ブラスト》を発動し、500ポイントを払って手札のモンスターのレベルを一下げる。そしてレベルを下げたモンスターを召喚させてもらう!」

ギースLP3000→2500

 手札のモンスターのレベルを変更出来る魔法カード《スター・ブラスト》を発動し、どのモンスターのレベルを下げたか確認すると同時に、そのモンスターをデュエルディスクへと叩きつけた。

「現れろ《ヘル・ガンドック》!」

ヘル・ガンドック
ATK1000
DEF500

 レベル5のモンスターにしては、そのステータスは明日香の《サイバー・チュチュ》と大差のないモンスターだったが、確かその効果は《魂を削る死霊》と同じくハンデス効果。魂を削る死霊と違うのは、直接攻撃ではなく戦闘ダメージを与えるだけで問題ないということで、その低いステータスを補うことが出来れば力を発揮する。

「続いて魔法カード《破天荒な風》を発動! ヘル・ガンドックの攻撃力と守備力を1000ポイントアップさせ、バトルだぜ! ヘル・ガンドックでサイバー・チュチュに攻撃!」

 魔法カードの支援を受けて攻撃力が上がったヘル・ガンドックが、サイバー・チュチュをその強靭な顎で噛み砕き、そのまま明日香の手札にも迫った。しかし明日香への攻撃は、明日香の前に張られたカードの壁によって守られた。

「伏せてあった《ガード・ブロック》を発動! 戦闘ダメージを0にして、カードを一枚ドローするわ」

 一ターン目から伏せてあったリバースカード《ガード・ブロック》により、ヘル・ガンドックのハンデス効果のトリガーである、戦闘ダメージを無効にする。それだけではなく一枚のドローも果たし、皮肉にもギースが狙った状況とは真逆の状態となった。

「チィ……だがエンドフェイズ、《身代わりの痛み》により800ダメージを受けてもらう!」

 獲物となった二体のモンスターからエネルギーを吸い取り、そのエネルギーが明日香に向けて発射される。リバースカードがない明日香には防ぐ手段も救う手段もなく、甘んじてそのバーンダメージを受け入れた。

明日香LP2900→2100

「カードを一枚伏せ、ターンエンドだぜ」

「私のターン、ドロー!」

 明日香のターンに移って一枚ドローすると、ドローカードを見て微妙に明日香の表情が変わった。少しだけ薄く笑ったと表現すべきか、明日香がそのように笑った時は、攻撃をする準備が整った時だ。

「私は《儀式の準備》を発動! 墓地から儀式魔法カードを、デッキからレベル6以下の儀式モンスターを、それぞれサーチすることが出来る!」

 一枚で儀式モンスターと儀式魔法を手札に加えることが出来る、まさに《儀式の準備》と言える魔法カードにより、明日香は二枚のカードを手札に加える。

 そしてまずは、墓地から加えたカードをデュエルディスクに差し込んだ。

「私は《機械天使の儀式》を発動!」

「《高等儀式術》じゃねぇ……!?」

 明日香が墓地から加えた魔法カードは《機械天使の儀式》……《魂を削る死霊》の効果により墓地に送られていたのだろうが、明日香は《高等儀式術》ではなくそちらを選択した。

 しかしさしたる問題はない――《儀式の準備》で手札に加えたサイバー・エンジェルの効果を考えれば。

「手札の《サイバー・プリマ》を捨て、私は《サイバー・エンジェル-韋駄天-》を儀式召喚!」

サイバー・エンジェル-韋駄天-
ATK1600
DEF2000

 儀式召喚されたのはやはり予想通り、サイバー・エンジェルの一角である《サイバー・エンジェル-韋駄天-》。そのステータスは三体のサイバー・エンジェルの中でも最も低いが、それを補って余りある効果を持っている。

「サイバー・エンジェル-韋駄天-が特殊召喚に成功した時、墓地から魔法カードを手札に加えることが出来る! 私は《高等儀式術》を手札に加え、そのまま発動する!」

 そして再び発動される《高等儀式術》。先程の《高等儀式術》の発動により、明日香のデッキの通常モンスターである《ブレード・スケーター》は墓地に送られてしまっているので、儀式召喚されるのは三体目のサイバー・エンジェルであろう。

「デッキから通常モンスターの《神聖なる球体》を三体墓地に送り、手札から《サイバー・エンジェル-弁天-》を儀式召喚!」

サイバー・エンジェル-弁天-
ATK1800
DEF1600

 明日香の儀式におけるエースカードであり、三体のサイバー・エンジェルの最後のモンスター。そのバーン効果は、一撃必殺の威力が込められていることもしばしばある。

「まだよ! 《フルール・シンクロン》を召喚し、《サイバー・エンジェル-韋駄天-》とチューニング!」

 通常召喚される機械の花だったが、即座にサイバー・エンジェル-韋駄天-を包み込む光の輪となり、シンクロ召喚の態勢となる。合計レベルは8、俺が交換した機械騎士がシンクロ召喚されるだろう。

「光速より生まれし肉体よ、革命の時は来たれり。勝利を我が手に! シンクロ召喚! きらめけ、《フルール・ド・シュヴァリエ》!」

フルール・ド・シュヴァリエ
ATK2800
DEF2400

 白百合の騎士がフィールドに現れ、その姿をサイバー・エンジェル-弁天-とともにギースに表した。その姿はまるで、ヘル・ガンドックを退治しに来た騎士と天使のようだった。

「行くわよ! フルール・ド・シュヴァリエで、ヘル・ガンドックに攻撃! フルール・ド・オラージュ!」

 ギースが前のターンに発動した通常魔法《破天荒な風》は、ギースのスタンバイフェイズまで効力は続いている。しかしフルール・ド・シュヴァリエの前には、ヘル・ガンドックごとき一太刀浴びせるだけで終幕となった。

「ぐうっ……! だが、ヘル・ガンドックは破壊された時、デッキから同名モンスターを特殊召喚出来る! 現れろ《ヘル・ガンドック》!」

ギースLP2500→1700

 破壊されたヘル・ガンドックから、再び新たなヘル・ガンドックが再生する。もちろん《破天荒な風》の効力は消えているため、攻撃力は1000程度であるのだが……ヘル・ガンドックは、明日香に対して攻撃の意志を示していた。明日香のフィールドにはまだ、攻撃していない《サイバー・エンジェル-弁天-》がいるにもかかわらず、だ。

「どうする、攻撃するかぁ?」

 明らかに罠だと見せつけた態度をギースは取り、さらには以前に捕らえた二体なモンスターを見せつける。攻撃してくれば、またトラップカードの餌食になるのだと、暗に示しているのだろうが……明日香はそれを一笑に付した。

「サイバー・エンジェル-弁天-でヘル・ガンドックに攻撃! エンジェリック・ターン!」

「ハッ、かかったなバカが! リバースカード《ミニチュアライズ》を発動して返り討ちだぜ!」

 ギースが発動したリバースカードは、相手モンスターの攻撃力を1000ポイント下げることが出来る永続罠《ミニチュアライズ》。確かにサイバー・エンジェル-弁天-の攻撃力を1000ポイント下げれば、ヘル・ガンドックの攻撃力の方が上がる。フルール・ド・シュヴァリエの攻撃の時に発動しなかったのは、この――『二択を外してモンスターを破壊された』という――状況を作り出し、明日香を精神的に追い詰めるつもりだったのだろう。

 ……どちらにせよ無駄な話だが。サイバー・エンジェル-弁天-にミニチュアライズの効果が及ぶより早く、フルール・ド・シュヴァリエがギースの近くへ駆け抜け、ミニチュアライズのカードを切り裂いた。

「フルール・ド・シュヴァリエは、自分のターンの時に発動された魔法か罠を無効に出来る! ミニチュアライズを無効にし、そのままサイバー・エンジェル-弁天-で攻撃!」

「なあっ……!?」

ギースLP1700→900

 ヘル・ガンドックはサイバー・エンジェル-弁天-の舞に翻弄され、そのまま持っている扇に切り裂かれる。ヘル・ガンドックは倒れ伏しながらも、その効果により後続のモンスターを特殊召喚しようとしたが、それより前にサイバー・エンジェル-弁天-の効果が発動される。

「サイバー・エンジェル-弁天-がモンスターを戦闘破壊した時、そのモンスターの守備力分のダメージを与える!」

「ぐっ……こっちも新たな《ヘル・ガンドック》をデッキから特殊召喚する!」

ギースLP900→400

 《ヘル・ガンドック》の守備力はその攻撃力の半分の500という数値で、ギースにトドメを刺すには至らないが、もう一度戦闘破壊すればフィニッシュとなるライフポイントとさせた。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「オレのターン、ドロー! もう遊びはヤメだ!」

 ギースは物騒な台詞を叫びながらデュエルディスクにモンスターを置き、新たなモンスターを召喚する。そんな台詞とともに召喚されるモンスターとして、明日香は警戒を強めたものの。

「チューナーモンスター、《ダーク・リゾネーター》を召喚!」

ダーク・リゾネーター
ATK1300
DEF300

 しかして召喚されたのは下級モンスターだったが、チューナーモンスターだということで、明日香はむしろ警戒を強めることとなる。二本の音叉を持ったチューナーモンスターの悪魔は、その音叉を鳴り響かせた。

「ククク……レベル5の《ヘル・ガンドック》とレベル3の《ダーク・リゾネーター》をチューニング!」

 その音叉がぶつかり合った音により、自身の身体を光の輪として《ダーク・リゾネーター》はヘル・ガンドックを包み込み、シンクロ召喚される準備が完了する。今はまだ何の変哲もないシンクロ召喚だが、ギースの様子はどこかいつも以上に自信満々で、怪しげな雰囲気を醸し出している。

「心の闇より生まれし者、今、魂と引き替えに降臨するがいい! シンクロ召喚! 脈動せよ、《ブラッド・メフィスト》!」

ブラッド・メフィスト
ATK2800
DEF1300

 血の悪魔という物騒な名前の、黒いシルクハットを被った魔法使いのようなモンスターがシンクロ召喚される。その攻撃力はフルール・ド・シュヴァリエと同じ2800であり、禍々しげな視線を明日香へと向けた。

「バトル! ブラッド・メフィストでサイバー・エンジェル-弁天-に攻撃! カースド・ブラッド!」

「ならリバースカード《ダメージ・ダイエット》を発動! このターンのダメージを全て半分に――ッ!?」

明日香LP2100→1600

 ブラッド・メフィストが杖を振りかざすと、サイバー・エンジェル-弁天-を軽々と吹き飛ばしたが、明日香へのダメージはリバースカードによる半透明のバリアが包み込む。……しかし《ダメージ・ダイエット》の甲斐もあっての、僅か600ポイントのダメージにもかかわらず、明日香はそのダメージによって膝を着く程のダメージを受けていた。

「明日香!?」

「くっ……大丈夫よ、遊矢」

 大丈夫と言いながら明日香は早くも立ち上がったが、この程度のダメージで膝を着いたことがまず異常なことに他ならない。フィールドに高笑いが響き渡り、俺はその発信源をギースの方を睨みつけた。

「この《ブラッド・メフィスト》は、カードを製造した時にプレイヤーの身体にまでダメージが発生する、という不具合が発生した正真正銘の闇のカード! ダイレクトアタックなんて受けたら……現実のライフが無くなっちまうかもなぁ……」

 セブンスターズたち以来の闇のカードの登場に、一瞬だけ「偽物か?」という思考が頭をよぎったものの……その明日香のダメージを見る限り、そんなことは無いようだ。

「明日香……」

「止めろなんて言わないでよね、遊矢」

 先んじて言おうとしていたことを言われてしまい、ぐうの音も出ないとはこのことか。明日香はブラッド・メフィストを前にして、一歩も引かないと言わんばかりの態勢を示した。

「ふん、ならばメインフェイズ2に魔法を発動だ、通常魔法《デコイ・ベイビー》!」

 ギースの使用した魔法カードとともに、ギースのフィールドで獲物となっていたブレード・スケーターが解放された。捕らわれていた仲間を助けようと、フルール・ド・シュヴァリエはブレード・スケーターに近づいていったが、そこをさらに巨大な網が二人を捕まえた後に分離し、《ブレード・スケーターに加えてさらに《フルール・ド・シュヴァリエ》をも獲物とした。

「囮を使って生け捕りって奴さぁ。……《身代わりの痛み》のダメージで1200ポイントを受けてもらうぜ!」

「……《ダメージ・ダイエット》の効果でダメージを半分にする!」

明日香LP1600→1000

 新たに《フルール・ド・シュヴァリエ》のエネルギーをも吸い取った一撃だったが、明日香は未だに《ダメージ・ダイエット》のバリアに守られているため、その一撃は半分程度の威力となる。

「ターンエンドだ!」

「……私のターン、ドロー! 《貪欲な壺》を発動して二枚ドロー!」

 汎用ドローカード《貪欲な壺》により二枚ドローし、明日香は手札を整える。ギースのカードによって、フィールドには先のターンに展開した、サイバー・エンジェル-弁天-とフルール・ド・シュヴァリエはもういないのだから。

 対するギースのフィールドには、闇のカードこと《ブラッド・メフィスト》と、バーンカード《身代わりの痛み》と捕らわれた獲物が三体。

「私のモンスターを返してもらうわ! 魔法カード《ハリケーン》を発動!」

 フィールドに巻き起こる《サイクロン》とは違う旋風に、心中で「ナイスだ明日香」と呟く。獲物カウンターは確かに相手フィールド上に封印する、という厄介極まりない効果だが、逆に言えばそのモンスターたちは相手フィールド上にいる。

 ならば、魔法・罠ゾーンのカードやモンスターカードを戻すことが出来れば、捕らわれていた仲間たちを救うことが出来る。明日香の魔法カードによって現れた旋風に、モンスターを縛っていた網が破壊され、三体のモンスターは手札へと戻る。

「テメェ……!」

「……さらに《死者蘇生》を発動! 墓地から《サイバー・エンジェル-韋駄天-》を守備表示で特殊召喚!」

 万能蘇生カードによって、墓地からサイバー・エンジェル-韋駄天-が特殊召喚されると、そこには一枚の魔法カードもともに浮かんでいた。それは特殊召喚に成功したことにより、《サイバー・エンジェル-韋駄天-》の魔法カードサルベージ効果が、問題なく機能しているということを示していた。

「私が手札に加えて発動するのは、《高等儀式術》!」

 デッキから二体の通常モンスターが墓地へと送られていき、手札の儀式モンスターを降臨させる準備が完了する。手札にある儀式モンスターはもちろん、先程獲物から救い出したカードに他ならない。

「デッキから《ブレード・スケーター》を二枚墓地に送り、《サイバー・エンジェル-茶吉尼-》を儀式召喚!」

 またもや儀式召喚される最強のサイバー・エンジェルに、隠せないほどにギースの顔が歪む。サイバー・エンジェル-茶吉尼-は特殊召喚に成功した時、相手は一体選んで自分のモンスターを破壊しなければならないのだから。

 そしてギースのフィールドにモンスターは、切り札である《ブラッド・メフィスト》しかいない。

「サイバー・エンジェル-茶吉尼-で、ブラッド・メフィストを破壊!」

 ずっと獲物として捕らわれていた恨みだろうが、サイバー・エンジェル-茶吉尼-はいつも以上にブラッド・メフィストを切り刻み、そのままギースの前に立ちはだかった。今度切り刻む相手は、このプレイヤーだと示すように。

「バトル! サイバー・エンジェル-茶吉尼-でダイレクトアタック!」

「手札から《バトルフェーダー》の効果を発動!」

 八本の腕と刃物を振り上げたサイバー・エンジェル-茶吉尼-だったが、ギースの前に現れたモンスターに対し、攻撃せずに明日香のフィールドへと戻ってきてしまう。俺が多用する《速攻のかかし》の相互互換カードであり、速攻のかかしと違うところは、攻撃を無効にした後もフィールドに残ることだ。

 しかし肝心のバトルフェイズを終了する効果は何も変わらず、サイバー・エンジェル-茶吉尼-の攻撃は失敗に終わった。

「……ターンエンドよ」

「オレのターン、ドロー!」

 明日香は残念そうにターンを終えるものの、ギースのブラッド・メフィストは破壊して自分のフィールドにはサイバー・エンジェルが二体、という明日香に優勢な状況のはず。それでも明日香が不安がってしまう理由のは、デュエルをしている二人にしか預かり知らぬことなのだろう。

「オレは《二重魔法》を発動! 《身代わりの痛み》を墓地に送ることで、テメェの墓地の《死者蘇生》を頂くぜ!」

 自分の魔法カードを捨てることで、相手の墓地の魔法カードを奪う扱いの難しい魔法カード《二重魔法》。そのようなカードを採用するまでに、ギースのデッキは奪うことに特価しているのだろうか。

「そして《死者蘇生》を発動し、墓地から《ブラッド・メフィスト》を特殊召喚!」

 ……そんなことを考えている場合ではなく、明日香の魔法カードを使用してギースは自身の切り札たる《ブラッド・メフィスト》を特殊召喚する。闇のカードと呼ばれた血の悪魔は、再びフィールドに現れそのマントをたなびかせた。

「バトル! ブラッド・メフィストでサイバー・エンジェル-茶吉尼-に攻撃だ、カースド・ブラッド!」

「つっ……!」

明日香LP1000→900

 サイバー・エンジェルの中で最強であろうとも、サイバー・エンジェル-茶吉尼-の攻撃力はブラッド・メフィストには及ばず、そのダメージは現実の明日香にすら効力を及ぼす。100ポイント程度のダメージだったから良かったものの、ギースのハッタリではなくダイレクトアタックを喰らっては不味いことになりそうだ。

「ターンエンドだ!」

「……私のターン、ドロー!」

 明日香がカードをドローした瞬間、ギースのフィールドにいるブラッド・メフィストが持っている杖が、怪しく光り輝いた。その光は寸分違わず明日香の元に向かっていく。

「なっ……!?」

明日香LP900→600

 その光の正体は、明日香のライフポイントを300程度だが削るバーン効果。光を喰らった場所を抑えて耐えきる明日香に、ギースは高笑いとともにその効果の説明を行い始めた。

「ブラッド・メフィストはテメェのスタンバイフェイズ時、フィールドのカードの数×300ポイントのダメージを与える! そしてまだ、第二の効果も隠されている……いくらテメェが守備を固めようと、オレは立ってるだけで勝てるってわけだなぁ!」

 守りを固めれば固めるほど、スタンバイフェイズ時に《ブラッド・メフィスト》が与えるダメージは増していくが、守りを固めねば高攻撃力のブラッド・メフィストにやられてしまうという矛盾。明日香の墓地には《ダメージ・ダイエット》はあるが、そのバーン効果と併せて第二――恐らくそちらもバーン効果――のバーンを防げるだろうか。

「……それなら問題はないわね」

 しかしギースの誤算は、プレイヤーにダメージを与える闇のカードであるブラッド・メフィストを前に、明日香が臆して守りに徹すると考えていること。明日香のデュエルは守りが苦手、とにかく攻めることなど……ギースには知る由もないのだから。

「そして私には、まだエースカードが残っているわ。魔法カード《融合》!」

「《融合》だぁ!?」

 ギースの驚愕も当然であり、儀式にシンクロ召喚までデッキに投入しているにもかかわらず、明日香にはまだ融合が残されている。あの扱いにくいカードたちを扱い、そしてデュエルに勝つのがアカデミアの女王なのだ。

「手札の《ブレード・スケーター》と《エトワール・サイバー》を融合し、《サイバー・ブレイダー》を融合召喚!」

サイバー・ブレイダー
ATK2100
DEF800

 最初のターンに獲物として捕らわれ、《ハリケーン》によって救われて《ブレード・スケーター》を融合素材に融合される、明日香の融合のエースカード《サイバー・ブレイダー》。フィールドを華麗に滑りながら、明日香の前に《サイバー・エンジェル-韋駄天-》とともに並び立った。

「サイバー・ブレイダーは相手モンスターが二体の時、その攻撃力を倍にする! パ・ド・トロワ!」

「倍ってことは……4200!?」

 フィールドを制圧していた《ブラッド・メフィスト》の攻撃力を大きく超し、サイバー・ブレイダーは悪魔にトドメを刺すべく接近した。

「……これが、あなたが獲物として扱って来たモンスターたちの力よ! サイバー・ブレイダーで、ブラッド・メフィストを――」

「おっと待ちな!」

 サイバー・ブレイダーの攻撃がブラッド・メフィストに炸裂しようとする直前、ギースの制止の声が明日香に向かって放たれる。明日香は不審に思いながらもサイバー・ブレイダーの攻撃をストップすると、ギースはそのまま明日香に向かってこう言い放った。

「オレをこのまま攻撃すれば……友達の大事なデッキがどうなるか解ってんだろうなぁ?」

「――ッ!?」

 暗に奪った【機械戦士】と精霊たちを人質にする、と発言したギースに明日香は息を呑んだ……その一瞬後に、薄く笑った。そんなことはどうでも良い、と言っているかのように。

「好きにすれば良いわ。……出来るなら、ね」

「ああッ?」

 明日香の妙な反応を気にしたギースが、奪ったデッキや精霊を捕らえてある、斜め後ろに構えているバイクを――さらに言えば、そのバイクに乗っている俺を見た。もっと正確に言えば、ギースのバイクに乗ってデッキを取り返している俺を、だ。

「テメェ……どうやって……」

「機械関係は得意なんだ。後はスキを見て、な」

 明日香とのデュエルに集中している中、俺はギースの隙をついてバイクに接近し、機械戦士と精霊たちを閉じ込めているものを解放し、後は明日香のデュエルを見学させてもらった。……思いの外上手く言ったことに、自分も驚いている。

 ……そして驚愕するギースを尻目にしながら、サイバー・ブレイダーはブラッド・メフィストに引導を果たすべく動きだした。

「サイバー・ブレイダーで攻撃、グリッサード・スラッシュ!」

「うわああああ!」

ギースLP400→0

 サイバー・ブレイダーの蹴りがブラッド・メフィストに叩き込まれ、そのままギースのライフポイントごとブラッド・メフィストを消し飛ばした。……闇のカードと言えど、破壊されれば墓地に送られるし、ライフポイントを0にすれば敗北するのは変わらない。

 そしてギースは尻餅をついた後にバイクの方を見て、驚愕……いや、怯えた表情をして後ずさる。もちろん俺やバイクを見て恐怖している訳ではなく、ギースが【機械戦士】より早く捕らわれていた、俺には見えない『何か』に怯えているのだろうが。

「明日香、大丈夫か?」

 そのまま森に向かって走っていくギースはともかく、デス・デュエルをした明日香へと駆け寄った。ブラッド・メフィストによってのダメージに加えて、デス・デュエルでの体力減少ともあれば、明日香もかなり疲弊しているに違いない。

「ええ、大丈夫よ……」

 無理しているのは見て取れる表情で言う明日香を、無理やりギースが置いていったバイクに乗せると、俺も同じようにバイクへと乗った。幸いなことに大型車故に二人ぐらいなら乗せられる上に、ギースが走っていったせいでキーは刺しっぱなしで動かせる。

 ……バイクを借りてアカデミアに急ごうとしたところ、今はコブラや十代がいるのだろう森の奥の建造物から、何やら動きがあった。遠目で良くは見えないものの、屋上から何かが……人間が落ちていっているようだ。

「何が起きてるんだ……?」

 落ちて行ったのが十代たち仲間の誰かではないことを祈りつつ、やはり放っておくわけにはいかないと、バイクを発進させようとしたところ……光が見えた。

 その建造物の屋上から光が放たれると、俺はどこかに飛ばされるような感覚を味わった……

 
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