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銀河転生伝説 ~新たなる星々~

作者:使徒
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第15話 それは嵐の前の騒がしさ


――惑星イストア――

ルフェール財界の重鎮たちは、この日、先日のアルフォルト星域会戦の結果について話し合っていた。

「銀河帝国軍は敗北したようだな」

いい気味だ、と男は笑う。

「だが、彼らは直ぐに次の矢を送り込んでくるだろう。今回の戦いにしても、36000もの艦艇を投入してきている。戦力の補充が容易でないオリアス軍の敗北は必至だ」

そう、もはや一度の敗北も許されないオリアス軍に対し、銀河帝国は艦隊が壊滅してもすぐさま次の矢を投入できる。

「敗北するのは構わんのだが、それで銀河帝国の力が増大するのは面白くありませんな。ロアキア最後の砦が潰れたとなれば、旧ロアキア領の反銀河帝国勢力も勢いを大幅に減じざるを得ないでしょう」

「それに、我々にもまだ時間が必要だ。彼らに多少の梃入れもやむを得んか……」

「だが、どうするのだ? 国民感情を考えるとそれは不可能だろう」

「……エルダテミアに1個艦隊を派遣してはどうかな?」

「どういうことだ?」

「我らルフェールがエルダテミア共和国の防衛を受け持つ。代わりにティオジアの連中がオリアス軍へ加勢する」

「なるほど、それは良策ですな」

「ティオジアにはレオーネ・バドエルやアイル・ジャラールという名将がいる。彼らには是非その手腕を発揮してもらいたいものです。銀河帝国に(・・・・・)

かつてルフェールに手痛い損害を与えた彼らが、現在の自分たちの敵である銀河帝国にも手痛い損害を与える。
それは何処か皮肉めいていた。

「と……なるとエルダテミアへ派遣するのはどの艦隊になりますかな。最悪失うことも覚悟せねばなりますまい」

「失っても構わないとなると精鋭部隊である第一、第二、第四、第八艦隊は除外ですな。後は……おお、丁度良いのが一つあるじゃありませんか」

「それは?」

「第七艦隊です。司令官はエリザ・ウィッカム中将」

ニヤリと男の口元が歪む。

「ああ、前に我がルフェール軍の栄光を泥で汚してくれたあの女か。確かに適材だな」

エリザ・ウィッカム中将は数年前のウェスタディア侵攻においてまんまと敵の罠にかけられた挙句、特に戦果も挙げられずに2000隻の艦艇を失って帰ってきたという実績(悪い意味での)を持つ。

本来なら更迭もあり得たのだが、この時は第三艦隊、第五艦隊が立て続けに壊滅したばかりであり、半壊した第三艦隊司令官のロバート・エイゼンタール中将は責任を追及され退役、全滅した第五艦隊司令官ラルフ・アーウィング中将は戦死。
彼らと比べれば損害を2000隻に抑えたという見方も出来なくは無く、軍は自分たちの責任を最小にするためにもウィッカム中将を積極的に弁護した。

結果、相手(ウェスタディア + シャムラバート、トラベスタ)が手強かったという結論に成り、ウィッカム中将はお咎め無しとなった。

故に、ルフェール財界の重鎮たちにとってエリザ・ウィッカム中将は信頼できる指揮官ではなく、失っても痛くない人材だったのである。


* * *


――ウェスタディア王国 首都星ウェリン――

王宮ではルフェールからの提案について会議が設けられていた。
おそらく、今頃は共同体に参加している各国でも同様に会議が為されているだろう。

「先日、ルフェールがエルダテミア共和国への艦隊派遣を打診してきました」

「結構なことのように思えるが……君がわざわざ議題に上げるからには何らかの思惑があるのだろう?」

外務卿から報告を受け取った宰相のアルファーニがルフェールの提案を伝えると、先ず内務卿のブラマンテが思うところを述べた。

「はい、要するにルフェールの言いたいことは『エルダテミアの防衛はルフェールが受け持つからロアキアの援軍に赴いてくれ』ということです」

「冗談ではないぞ! オリアス軍とエルダテミア、銀河帝国にとってどちらの優先順位が高いかは一目瞭然だ。とどのつまり我々に矢面に立てということだろう!」

軍務卿のロンギが怒りを露わに発言する。
彼の怒りは至極当然で、この場に居る誰もが抱いた気持ちであった。

「してアルファーニ、君はどのように動くべきだと思うかね?」

「ボクはこの話を受けても良いのではないかと思います」

この言葉に一同は驚愕するが、それに構わずアルファーニは話を続ける。

「ルフェールの世論からすれば、ロアキアへの援軍は最初から不可能です。それなら、エルダテミアの防衛を担ってもらえる分こちらが楽になります」

アルファーニの説明に唸る一同。

「それに、ロムウェが落ちればイグディアスやオルデランは銀河帝国と直に国境を接してしまうことなります。このまま座して手を拱いているわけにはいきません」

「だが……ルフェールの提案を全て丸飲みにするわけにはいかんぞ」

「もちろんです。なので、ここはボクたちからも1つ条件を付けちゃいましょう」

アルファーニは悪戯に誘い込むような口調でそう言うと、続いてルフェールに提示する条件を口にした。

「……ふむ、それならば」

「だが、ルフェールが承諾したとして、それを本当に守るかね」

「それに関しては大丈夫でしょう。僕たちとの関係悪化は時間を稼ぎたいルフェールにとっては悪手です」

「……いずれにせよ、すべては連星会議にかけてからだな」

その言葉を最後に、会議は締め括られた。


* * *


宇宙暦808年/帝国暦499年 3月2日。
惑星ティオジアで行われた連星会議にて、ルフェール第七艦隊のエルダテミア共和国派遣の受け入れと、正規艦隊のイグディアス駐留を要請する案件が賛成多数で可決された。
同時にロアキアへ援軍派遣の要請が為され、後が無いオリアスは即決でこれを受け入れる。

こうして、各々の思惑は違えどルフェール、ティオジア、ロアキアの対銀河帝国の準備は着実に整いつつあった。
だが銀河帝国も惑星ロアキアに4個艦隊60000隻が到着し、補給と休息をとっている。

戦いの時は近い。





==???==

「そうか、遂に完成したか!」

「装置自体は既に完成しておりますので、後は皇帝陛下の御召艦フリードリヒ・デア・グロッセに搭載するだけとなっています」

「ほう、詳しい説明を頼んで良いかな?」

「はっ、敵艦のスクリーンにエロゲの回想シーンを強制的に流し、そちらに注意を惹かせることで敵の動作を鈍らせるというのがコンセプトとなっており、試算では敵の艦隊運動効率を約3%~5%減らすことが可能となっています」

「素晴らしいではないか!」

「ですが、『敵だけ見れるのは不公平だ』と味方の将兵の士気を大幅に下げてしまう可能性も指摘されています」

「何!? それでは実戦で使用できんぞ!」

「はっ、この解決策として、戦闘開始前にエロアニメの上映会などを行うことで味方の士気の下降率を抑えられるのではないか……と議論中であります」

「うむ、期待している」

そう、満足気に答えたアドルフの後ろにメイドの影。

アドルフが『アドルフだったもの』になるまで後10秒。
試作装置が粉々に壊されるまで後3時間。
 
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