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ソードアート・オンライン~黒の剣士と紅き死神~

作者:ULLR
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マザーズ・ロザリオ編
終章・全ては大切な者たちのために
  統一デュエル大会


2月中旬。午前5時。日は昇りつつあるが、まだ薄暗い板張りの道場に木刀が激しくぶつかり合う剣戟が響いていた。

「ふっ!」
「シッ!」

胴を狙った一撃を蓮は手刀で叩き落とす。螢の姿勢が崩れた所を木刀で打ち据えようと首の辺りを狙って斬撃を放つが、螢はそれを身を引く事でかわした。だけでなく、滑るように蓮の側面に移動し、そのまま距離を詰める。

(……んにゃろう)

素早く向かい合い、その影のごとく蓮も近づかれた分だけ引き下がるが、蓮はこの後の展開が既に読めていた。螢も自分が思い描いたように打ち合いが進んでニヤリと人の悪い笑みを浮かべている。

蓮が打ちかかる。

そうせざるを得ない状況に持ち込まれた自覚はあるが、その思考が肉体を動かす前に体に刻まれた動きをしてしまう。

螢の思惑通りに―――

木刀は螢を()()し、空振りに終わる。


―パシッ……


螢の木刀が軽く蓮の肩を打ち据え、勝敗は決した。

「……まったく、チートもいいとこだな、《華宛院流》は」
「いやー、コレってただ《火ノ型》と《風ノ型》に相性がいいだけだからさ。それだって『裏式』使えば対処は難しいぜ」

最近、毎朝続いている朝修行。
付き合ってもらっている蓮と最後に手合わせするのがここ数日の恒例となっていた。昔、2人揃って『水城流の双璧』と言われていたが、螢の長いブランクも有ってその名を直接耳にして覚えているのは相当古参の『師範代』クラスかそれに次ぐ上級門下のみのはずだが、手合わせしていた2人を息を潜めて見ていたのはむしろ新参者か中堅どころの方が多い。

見て動きを盗もうと目をギラつかせて居る者、今の打ち合いを脳内で反芻する者、隣の者と議論する者。程度の差はあれ、自らの糧にしようとするその意気は武人として好ましい事だ。

が、逆に言えばまだまだ甘いと言わざるを得ない。
確かに次期当主候補筆頭とそれに次ぐ者の打ち合いは派手で見ていて興奮を誘うものだ。目で動きを追っていれば1分ももたないだろうその動きは誰にでも真似る事は出来るものではない。一握りの天才か、何の間違いか努力によって平凡さを反転させてしまったバグな存在だけがそれを手に入れることができる。

その辺り、奥で淡々と自信の修行に打ち込んでいる上級門下達は道理が分かっていると言えるだろう。

「―――ま、何にせよ『準備運動』にはなったか?」
「……むしろこっちが本チャンな勢いだけどな。向こうで本気で()るのはご法度だ」

今日の午後1時からALO行われる《アルヴヘイム統一デュエル大会》は何度か行われている大規模なデュエル大会だが、俺は初めて出場する。

他に知った顔ではキリト、アスナ、リーファ、ユージーンそして今大会の水面下で優勝候補筆頭と噂されているユウキ。

「『これは、ゲームであっても遊びではない』……そんな世界はもう終わったし、あの世界でも滅多な事では本気にはならなかった。今さら出すのも不公平というものだ」
「……ま、悪いとは言わんがな。何にせよ、負けるなよ?遊びであっても『勝負』なんだから」
「分かってるよ」








______________________________________



午後12時。アルン中央闘技場。

アルヴヘイム首都のアルンには計3つの闘技場がある。
中央エリア、東エリア、西エリアの3つは今まで大小様々なデュエル大会で使用され、高いユルドを払えばプレイヤーが貸し切ってデュエル大会を催す事も可能だ。

例としてはギルド間問題の簡潔な解決策として、逆に親善試合としても使われた。

予選、ブロック決勝トーナメントは東西エリアに別れて行われる。決勝戦は中央エリアの闘技場にて行われ、それはMMOストリームで生中継という熱の入り方だ。
ザ・シード連結体に於いて人気MMO上位常連たるALOの最強プレイヤーが決定するその放送には比喩でも何でもなく『VR全世界』が注目していると言っても過言ではない。


―閑話休題―


大会エントリーを済ませると、暇を持て余した俺は大会前にいつものメンバーで落ち合う事になっているNPC経営のオープンカフェに一足早く向かう事にした。

「……ん?」

そのオープンカフェの前で人だかりが出来ているのを見つけ、何事だろうと覗き込む。
そこには――――

「んー、弱っちいな」

赤銅色の巨剣を背に背負い、濁酒を煽りながら足下の色とりどりのエンドフレムを見下ろしている、レプラコーン。いつもの解れ気味な半纏(はんてん)ではなく一目で古代級(エンシェント)クラスだと分かる漆黒に金色が散りばめられた和装。

「……ハンニャ」
「うん……?おぉ、旦那!どうしたんでぇ?」
「余興のデュエルか?」

ハンニャは首を振った。

「んにゃ、旦那にゃまだ言ってなかったな」

そして、戦いたいやつが2人もいる俺にとって、あまり有り難くない言葉が放たれた。

「この大会、俺も出ることにしたんでぇ。コイツはただの準備運動さ。……あんまし役に立たなかったが」
「……みたいだな」



いつしか、人垣は俺とハンニャを囲うように陣形を変えていた。プレイヤー達の視線は中心の2人に注がれ、やがて周りに静寂が訪れた。

双方とも表情に笑みを湛え、その意味を自ずと悟る。

チリッ、とうなじに緊張が走った途端、ハンニャと俺は得物を互いの首筋に添えていた。数瞬前までの互いの距離は5メートル強、双方とも長物武器とはいえ、僅かな間で互いの急所を一撃で刈り取る事が出来る間合いに入る事になった。

「……本番にしないか?」
「……そうすっか」

互いに剣を引き、背を向けて去って行く。


とは言っても俺はちょっと脇に行くだけなのだが。


人垣の外ではもう見知った顔が何人か揃っていた。一連の出来事は見られていたらしく、一様に微妙な表情になっている。

「ハンニャは底知れないからなぁー……」

苦笑しながら紅茶を煽るのはセイン。今回は出場しないが、応援にわざわざ来てくれた。

「レイ、何か分かったか?」
「おいおい、得物を向け合っただけで一合も打ち合って無いんだぜ?分かるかよ」

続けたキリトのセリフに呆れながらも心の中で冷や汗を流す。実を言えば向かい合っただけで分かった事は幾つかある。
……しかし、それも定かではないが。

「……確信、というか推測の域を出ないが……剣速も寸止めの精度もハンニャの方が上、だったと思う。……多分、ユウキと同じぐらい速いだろうな」
「え!?……じゃあ、ハンニャさんって……」
「いや、違うだろう」

アスナが目を見開いてこっちを見るが、即座に否定を返す。SAO生還者でもなく、メディキュボイド治験者でも無い。にも関わらずユウキレベルの反応速度を持っている。考えられる可能性はただ1つだ。



「……ハンニャはフルダイブマシーンの作り出す電気信号、マイクロウェーブに対して脳が天性の親和性を持つプレイヤーだ」



アミュスフィアの入力レベルやレスポンスは脳との親和性が高いほどVRワールドにおいてメリットが大きい。
大抵の場合、それらは累計ダイブ時間が長ければ長いほど良好となるが、やはり生まれつきの差は発生する。元SAOプレイヤーは総じて高い傾向にあり、特に攻略組だったものはあのチートステータスの事を除いても反応速度で『一般の』純ALOプレイヤーを凌駕する。

ユウキの超反応速度は天性のものに加え、全人類最長のフルダイブ時間から成るものだが……ハンニャは天性のもののみでそれに匹敵する。加えてあの戦闘センスと経験を持つプレイヤーだ。

「―――《戦神》、ハンニャ。名はその者を表すと言うが……あながち妄言でも無いか」

俺のその呟きに誰も応える事は無かった。





_______________________________





予選。決勝トーナメントに進む方法は簡単だ。
所狭しと詰め込まれた闘技場内でバトルロワイヤル方式で残り8人になるまで斬り合い、撃ち合い、殴り合うのだ。

結果、東ブロック予選突破者(の内知り合いは)以下の通り。

キリト、ハンニャ、アード、ユージーンそして俺後の3人も大会上位常連の猛者。ちなみに西ブロック予選通過者はユウキ、アスナ。

風の噂に聞くとユウキさんはカイト、リオ、セラ、リーファ等名だたる猛者共を片っ端から斬ってのけたらしい。

(……カイトやリオが対応出来なかったって事は……厄介だな)


先日、ユウキと共にとあるクエストを進行中にアイツは俺が少しだけ見せた動きを真似て一段階上のレベルに進化した。
その時はまだ拙かったものの、あの2人を下したとすればソレを身に付けたのかもしれない。

(……見てみたい、ユウキの全力を。だから……)

トーナメント表が発表される。





一回戦―――VS《猴王》アード








_________________________________








闘技場地下控え室。発表された通知を見ながら予測を立てる。キリト、ハンニャ、ユージーンは一回戦ではかち合わない。順当に勝ち進めたとして二回戦でキリトVSユージーン、俺VSハンニャ。そして準決勝でキリトかユージーンと当たる事になる。

(……アードに勝てる保証はどこにも無いけどな)

午後1時、試合開始の合図が鳴る。
第一試合はユージーンの試合だ。数分間の剣撃音の後、アナウンスでユージーンの勝利が告げられる。第二試合はキリト、こちらもほぼ同タイムで二回戦進出。

「さて、行くか」

第三試合は俺の出番だ。



試合も3つ目とあって観衆も大いに盛り上がっている。大歓声の中でデュエルをする経験が無いわけではないが、今日は一味違うような印象を受けた。

「アード」
「うん。手加減、しない」
「おう」

10メートルの間隔を開け、60秒のカウントが減っていく様を見る。
シルフのアードは革防具を中心とした軽装で金属装備は一切無い。武器は丁度彼の身長と同じ位の棒、カテゴリ的には短棒に属する。SAO、ALO初期の頃の主武装は棍を使っていたが取り回し易さを考えて短棒にしたとか。

カウントが10秒を切る。アードは隠そうともせずに突撃体勢、対する俺は大太刀を抜かずに小太刀を下に垂らした受けの姿勢。
図らずもアードの得意な近接戦になるのは目に見えているが、俺は戦術を変えるつもりは微塵も無かった。


カウントがゼロになる。

「ハァァァッ!!」
「はっ!!」

狙い違わず鳩尾に突っ込んできた短棒を跳ね上げた小太刀でずらし、カウンターの掌打を打ち込む。が、さっきの攻撃は元々挨拶代わりなのか、突き出した手は上方にフワリと浮かんだアードに軽々と避けられてしまった。

アードは元々超近接戦を得意とするプレイヤーで、平地はもちろん周りの地形を使って縦横無尽に駆け回り、常に相手の死角を奪うというスタイルだ。ALOではさらに『翅』という要素ができた為に空中への機動力が向上し、やつの戦術はさらに複雑化した。

例えば今のように、『回り込んで』死角を奪うのではなく、『飛び越えて』死角を奪う等だ。

「く……!!」
「遅いよ」

小太刀の受けが間に合わず、脇腹に痛烈なクリーンヒットを貰い、その一撃でHPの3割を一気に持っていかれる。アードの恐ろしい所はクリティカルポイントを的確に狙う集中力、そしてシステムによるものでは無いその攻撃の威力。

「……ったく」

地面を転がり、距離を取りながら起き上がる。その時は既に額に向かって伸びている短棒をさらに体を半回転させながらかわし、小太刀で反撃する。
しかし、リーチが短い小太刀ではアードの肩口を浅く斬り付ける事しか出来ず、それも防具に阻まれてダメージ判定には至らない。

互いに不安定な姿勢をしているために流れに一瞬の停滞が生じる―――はずだった。アードが背中の翅を震わせ、空中に飛び上がる。

「な……!?」

その手があったか!と思考は出来ても体はそれに反応する事は出来ない。


天上より放たれる致死の突きがレイの脳天に炸裂する瞬間―――それは紅蓮の防壁に阻まれた。

「え……!?」
「悪いなアード。お前、強すぎだ」

空中で硬直するアードに小太刀がライトエフェクトをまといながら迫る。


カタナ専用スキルコンボ・ソードスキル《浮舟》、3連撃《緋扇》


地面に叩きつけたアードは即座に立ち上がって硬直中の俺にカウンターを入れようとするが、叩きつけられた反動で僅かにふらつく。
小太刀を体に引き寄せるように移動させ、柄に右手を沿える。


カタナ専用ソードスキル《焔扇》2連撃


踏み込みながらアードを斬り付け反転、返す刀の袈裟斬りが残りのHPを刈り取った。








―レイ、一回戦突破―

 
 

 
後書き
ユウキと行った『とあるクエスト』はMR編終了後にUPします。 
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