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とある星の力を使いし者

作者:wawa
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第89話

地下室を出た麻生は海原達がいるホテルに戻った。
部屋に入ると結標と海原は呑気に紅茶を飲んでいる所を見て呆れたが、とりあえず報告する。

「あの武器商人は電話で言った通り当たりだ。
 最近になって対能力者用の装備が一式、四〇個程度売る所を見た。」

「見たってどういう事よ?」

「その武器商人の脳に干渉して記憶を見たって意味だ。」

「あなたって精神系能力者だったの?」

「さぁ、どうだろうな。」

やっぱり麻生はまともに答える気はないと理解した結標は興味が無くなったのか紅茶を飲む。
そのまま報告を続ける。

「量が多いからその装備一式を研究所に送る事になっている。
 場所は第二二学区だ。
 詳しい場所を教えるから地図を見せてくれ。」

海原は第二二学区の地図を取り出し、開ける。
それを見た麻生は記憶で見た研究施設の場所に二つ印をつける。

「この印は二つありますが、何故ですか?」

「何でも四〇個の内の半分を別の研究施設に送るように手配したらしい。
 理由まではさすがに分からなかった。」

「それで充分ですよ。
 では、もう一つの暗部の組織に連絡して、片方の研究施設を攻略してもらいましょう。
 自分達も行動を開始しましょう。
 早くしないとその研究施設から移動されてしまう可能性もあります。」

海原は紅茶を飲み終えると、カップを近くのテーブルの上に置いて立ち上がる。
結標も同じように飲み終え、立ち上がる。

「移動はさっきと同じ様にバスと電車を使います。」

そう言って、三人はホテルを後にする。
数十分かけて、ようやく第二二学区に到着した。
麻生が印をつけた研究施設はそれほど重要な施設でもないので警備員(アンチスキル)による警備はなかった。
これなら「外」からきた人を匿うのにはうってつけと言える。
目的の研究施設が目の前まで近づいた所で麻生は言った。

「妙だな。
 敵さんのアジトまでもうすぐだっていうのに見張りが一人もいない。」

「自分もそう思っていました。」

「もしかしたら、もう移動した後かもしれないわよ。」

「その可能性は充分にありますね。
 とにかく、周囲を警戒しながら中に入りましょう。」

三人は頷き合うと、研究施設に近づいていく。
海原は近くのドアを入念に調べ、罠が仕掛けられてないか調べる。
何も仕掛けられていないと判断すると、ドアを開ける。
中に入ると海原は胸の内ポケットから黒曜石のナイフを取り出し、結標は懐中電灯を手に持つ。
開けた部屋は実験用の部屋なのか、とても広かった。
床や周りもコンクリートではなく特殊な素材で作られているようだ。
部屋は真っ暗で何も見えない。
その時だった。
突然、部屋の電気がつき部屋を照らす。
麻生達が入ってきた扉の真正面には同じ鉄の扉があり、その五メートル上にはガラスが張られていてそこには警備員(アンチスキル)と似たような黒を基調にした正規装備で身を固めた男が一人立っていた。
その横には白衣を羽織り下にはカッターシャツを着て、下には黒のズボンを着た研究者らしき人物が一人立っていた。

「ようこそ、暗部の組織の人間よ。」

警備員(アンチスキル)のような装備をしている男がマイク放送で話しているのか、部屋中に響き渡る。

「君達が此処に来ることは分かっていた。
 もちろん、君達の他にもう一つの暗部が別の施設に向かっている事もね。」

「余裕ですね。
 こうして自分達の前に姿を現していいのですか?」

海原は結標に視線を送る。
その意図が分かったのか、小さく頷くと結標は持っている懐中電灯を男の方に向ける。

「知っているさ、結標淡希。
 能力名は「座標移動(ムーブポイント)」。
 自身から離れた二地点間を直接移動させることすらできるから、その場にいる二人をこちらに空間移動でき、さらには他の物質を私達の身体に空間移動させて即死させる事もできる。」

おそらく結標の能力を詳しく知っているのは研究者から貰った情報のおかげだろう。
その言葉を聞いて海原は疑問に思った。
そこまで分かっていてなぜ、自分達の姿をさらけ出したのかを。
すると、男の方はニヤリと笑みを浮かべて言った。

「私達が何の対策もなしで君達の前に姿を現したと思っているのか?」

その瞬間だった。
突然、結標のこめかみに鋭い痛みを感じ、思わず片手をこめかみに押えてしまう。
その結標の突然の行動に海原は眉をひそめる。

「この研究者と手を組んだのはこの為だよ。」

海原は自分や麻生には全く異変はないのに、結標だけ苦しんでいるのを見て何が起こっているのか理解した。

「AIMジャマーですか。
 ですが、あれには相当な設備が必要なはず。」

「確かにそうだな。」

隣にいる研究者が海原の疑問に答える。

「私達の研究はそこだよ。
 如何にしてAIMジャマーを最小限小さくしつつかつ能力は劣化させない。
 これを目標に我々は日々研究してきた。
 そして、結果がこれだよ。」

その言葉と同時に目の前の鉄の扉が開かれる。
そこには防具服など装備とマシンガンのような拳銃で固めた十五と、その後ろには登山リュックを背負った五人がやってきた。
その登山リュックからは二本のアンテナが伸びている。

「これが私達の長年の成果だ。
 あれだけ最小限に留め、かつ能力は第一〇学区で設備されているAIMジャマーをはるかに凌駕する。
 これさえあれば如何に超能力者(レベル5)と言えどまともに能力は使えない。」

研究者の言う通りなのか依然と結標はこめかみを押えている。
海原は少し険しい表情を浮かべながら言った。

「あなた達の目的は何ですか?
 もしや、これを使って学園都市の生徒達を虐殺するつもりですか?」

「そんな事をするつもりはない。
 能力者と言ってもまだ子供だ。
 そんな非道な事はしないよ。」

装備を固めた男が答える。

「今は大覇星祭だ。
 これを利用しない手はない。
 この学園都市には多くの父兄、それにマスコミやテレビ局が来ている。
 そんな時にテロ行為が起こればどうなると思う?」

男の言葉を聞いた麻生はなるほど、と呟いた。

「つまり、お前はテロを起こす事で父兄やテレビを見ている人間に学園都市は危険な所だという印象を与えるつもりだな。
 この大覇星祭は学園都市のイメージアップが基本になっている。
 そんな最中にテロでも起これば、イメージアップどころかイメージダウン。
 最悪、今残っている生徒は呼び戻され、これから入ってくる子供も入ってこない可能性が高い。
 そんな事になれば、学園都市は崩壊する。」

「その通りだ。
 君は暗部の組織データにはなかった顔だね。
 新人さんかな?
 何にせよ、不幸だったね。
 後、一日入ってくるのが遅かったらこんな事に巻き込まれなかったのに。」

男がそう言うと目の前にいる拳銃を構えた男達の銃口が一斉にこちらに向く。

「先ほど虐殺はしないと言ったが君達は別だ。
 我々の目的を知られてしまったのでね。
 もしかしたら外に情報が洩れる可能性がある。
 悪いが、口封じさせてもらうよ。」

「どう・・す・・るのよ。」

頭痛が酷いのか顔には大量の汗が流れている。
立っているのもきついのか片膝をついて言う。

「この・・まま・・じゃあ、私達の・・・負け・よ。
 頭痛が酷くて・・・演算式を組み・・立てることすら・・・できないわよ。」

言葉が途切れ途切れになりながら結標は辛そうな表情を浮かべる。
対する海原も苦笑いを浮かべていた。

「自分も手詰まりですね。
 ここは完全な館内。
 金星の光は入ってこないでしょう。」

海原の魔術は黒曜石のナイフを「鏡」として、空から降ってくる金星の光を反射させ、その光を浴びせることで攻撃する。
これは金星の光がなければ発動できない事を意味している。
例え、この魔術が発動しても狙える対象は一人のみ。
海原が一人を狙っている間に他の十四人が海原を一斉射撃すればそれで海原は簡単に死んでしまう。

「最後の別れは済んだかね?
 それではさようならだね。」

男がそう言うと十五個のマシンガンが一斉に火を噴く。
一秒間に何十発の弾が発射され、それらが麻生達の襲い掛かる。
だが、放たれた弾丸は目に見えて速度が落ちていき、最後には麻生達の一歩手前で完全に空中で静止する。
マシンガンを持っている男達は驚きながらも引き金を引き続ける。
しかし、結果は変わらなかった。
最後には十五人全員の玉が尽きる。

「はぁ~、確かに運がなかったな。」

麻生は大きくため息を吐きながら言った。

「もし俺が此処にいなければこれでチェックメイトだったのにな。」

その瞬間、空中に静止していた弾丸が一斉に床に落ちていく。
それを見た海原はふぅ~、と息を吐く。

「少しひやひやしましたよ。
 もしかしたら防げないのかと焦りました。」

「本当にそう思っていたのなら今一度俺に対する認識を改めた方が良いぞ。」

いつもの様に会話する二人を見て、ガラス越しから見ていた二人は焦りの声を出す。

「何をしている!?
 ちゃんとAIMジャマーは発動しているのか!?」

「は、はい!!
 現在出力最大で作動しています!!」

「なぜだ・・・なぜあの男は超能力を使えるんだ!!
 ありえない、あの電波の中で演算式など立てる余裕もない筈だ!!」

現に結標は今もこめかみを押えている。
ちゃんと作動しているからこそ、麻生に効かない理由が分からないのだ。

「簡単な事だ。」

そんな男達の疑問に答えるように麻生は言った。

「俺の能力は超能力じゃないという事だ。」

麻生はそのまま真っ直ぐに走る。
だが、速度は常人の眼では捉える事のできない速度だ。
麻生の目の前にいる男の顔面を右手で捉えるとそのまま壁に叩きつける。
麻生が手を離すと男は気を失ったのかずるずると、壁に持たれながら地面に倒れる。
周りの男達は麻生が壁に叩きつけた音を聞いてようやく麻生が目にも止まらない速さで移動した事に気づいた。
次に麻生は一番近くにいる、男の目の前に空間移動すると男の額に軽くデコピンをする。
しかし、バン!!とデコピンをした音には聞こえない音が響き渡る。
デコピンされた男は少しだけ空中に跳ぶと、そのまま仰向けに倒れて気絶する。
他の十三人はマガジンを入れ替え、麻生に銃口を向ける。

「面倒だな、一斉に倒すか。」

一斉に引き金が引かれるが、突然何もない空間から数本の鎖が麻生の周り出現して全ての銃弾を弾く。
麻生が左手を前に突き出すと、周りに出現していた鎖が消え、海原達やガラス越しにいる男達以外の人間の周りから突然鎖が出現して絡め捕る。
そして、その左手を握り締めると鎖が内部から爆発して男達を吹き飛ばし、意識を刈り取った。
その衝撃でAIMジャマーも破壊されたのか、結標の汗も止まり、少しずつ頭痛も無くなりつつあった。
ガラス越しにいた二人は隠れて逃げようとした。
だが、それを見通していた麻生は空間移動して二人の前に現れる。
二人は麻生が突然やってきたのを見てひぃ!!、と声をあげる。

「さて、お前達には色々聞きたい事がある。」

「お、俺は何も知らない!!
 この計画を考えた首謀者はもう一つの施設に向かっている!!」

「それはなぜだ?」

「何でもそっちの方の暗部の組織には一人だけ超能力者(レベル5)がいるって情報を聞いたからだ!!
 AIMジャマーの数も人数もさっきよりも多い数が送られている!!
 なぁ、情報は教えたんだから見逃してくれよ、頼む!!」

「お前達は俺達を殺そうとした。
 それは俺達に殺される覚悟があってやったんだろう?
 だったら、それ相応の仕返しはしないとな。」

麻生は両手を握り締めると、右手で研究者を左手で装備を固めた男の顔面を殴りつける。

「よかったな、俺が愛穂との約束がなかったらお前ら死んでたぜ。」

麻生は顔の形が歪み気絶している男達に向かって言うのだった。
そこから麻生は海原達がいる所に空間移動する。

「あなたって実はとんでもない能力者だったのね。」

AIMジャマーの影響が無くなったのかまだ軽く痛むのか少し頭を押さえているが話せるまで回復した結標が麻生に話しかける。

「俺はただの一般人Aだ。」

「それより、あの男達は何か言っていましたか?」

結構重要な事なんだけどな、と軽く呟きながら麻生はさっき聞いた情報を海原に伝えた。

「なるほど、これよりも多い人数がもう一つの施設にいるという訳ですか。
 それも首謀者もそちらにいるみたいですね。」

「どうする?俺みたいな能力者があっちに居れば問題ないと思うが。」

「あなたみたいな能力の持ち主が、そこら辺にごろごろいたらそれはそれで面白そうですけどね。
 冗談はさておき、下部組織に連絡したのでもうすぐ彼らを回収しに来るでしょう。
 問題は首謀者はあちらの施設にいる事です。
 此処から車を走らせても二〇分はかかります。」

「それじゃあどうするのよ。
 もしかして私の能力で移動するとか言わないわよね?」

「そんな危険な事はしませんよ。
 簡単な事です。
 車よりも(・・・・)速く移動すればいいだけですよ。」

その言葉を言ってから海原は麻生の方を見てにっこりと笑った。
その笑顔を見た麻生はとてつもなく嫌な予感がしたのだった。 
 

 
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