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ハーブ

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第六章


第六章

「だが。待ち伏せされている」
「待ち伏せですか」
「そうだ。すぐに向かいそれを防ぐ」
 これ以上の被害者が出るということもだった。防ぐというのである。
「わかったな」
「ええ、それじゃあ」
「行くぞ」
 こうしてであった。二人はその『耳』が聞いた場所に向かうのだった。そうして向かうとであった。そこはダブリンの住宅街にある五階建てのアパートだった。その四階であった。
 階段を登りそうしてだった。一気に進む。その鉄の扉はだ。
「この中だ」
「はい、この中ですね」
「そうだ。妖気を感じるな」
「俺でもね」
 本郷もそれをはっきりと感じ取ってきていた。それはかなりのものだった。
 それを感じながらだ。彼は刀を出してきた。そうしてである。
「じゃあ」
「斬るか」
「鍵だけを。後始末は警察に御願いしますか」
「そうするか」
「いえ、それには及ばないわ」
 しかしであった。ここで後ろから声がしたのだった。
「斬るということはね」
「斬るということは!?」
「そうよ、それはね」
 こう二人の後ろから言ってきたのである。
「そこまでしなくてもね」
「そうか、あんたが」
「もう一人の担当者か」
「遅れて御免なさい」
 イタリア訛りのゲール語での言葉だった。その言葉は微笑んでいる。波がかった黒髪に猫のそれを思わせる黒い瞳の細面の美女である。赤いシャツに黄色いコートはまさにイタリアを思わせる派手な服装であった。下は青いズボンである。
「名前はダブリン市警の方から聞いているわね」
「ああ。アンジェレッタさんだよな」
「そうよ、アンジェレッタ=ダラゴーナ」
 美女は微笑んで名乗ってきたのだった。
「やっとここに来たわ」
「そうか、間に合ってくれてよかったぜ」
「それではだ」
「それでだけれど」
 また言ってきたアンジェレッタだった。
「鍵のことは私に任せてくれるかしら」
「あんたがか」
「ええ、それでいいかしら」
 こう彼等に言ってきたのである。
「それで」
「ああ、いいぜ」
「私もだ」
 本郷も役も彼女のその提案に頷いたのだった。
「どうやってそうしてくれるのかはわからないがな」
「荒事よりも穏便に済ませられるのならそれに越したことはない」 
 それならばというのである。役はこう述べるのだった。
「それではだ」
「わかったわ。それじゃあね」
「頼んだぜ」
「見せてあげるわ。それじゃあ」
 それに従いであった。アンジェレッタは扉の前に来た。そうしてコートの懐から一個の水晶球を出してであった。そこから光を出したのだ。
 その光がドアのところにかかるとだった。鍵が開く音がしたのだった。
「これでいいわ」
「これでか」
「いいのだな」
「ええ、これでいいわ」
 二人のその整った顔での微笑みを見せての言葉だった。
「中に入られるわよ」
「じゃあ今からな」
「中に入るとしよう」
「幸いまだ狙われている人は来ていないけれど」
 アンジェレッタも険しい顔になってきていた。明らかに警戒する顔であった。
「けれどこれはね」
「あんたも感じるんだな」
「若しこれで感じないというのなら」
 アンジェレッタはその顔で語り続ける。
 
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