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ハーブ

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第十五章


第十五章

「イギリスでその鱈や鮭だけなのを見てびっくりしましたから。味も殆どなかったですし」
「イギリス人は味付けを知りません」
「醤油とかないんですね」
「イギリスですよ」
 今の警部の返答はかなり無茶なものである。
「そんなものがあるとでも」
「そういうことですか」
「はい、そういうことです」
「ではやはり」
「わざわざ輸入しないといけないのでかなり高いのです」
 そうした事情からだったのだ。
「ですから」
「食べられませんか」
「はい、そうした面でも」
「そうですか。そういうことですか」
「そしてアンジェレッタさんは」
 警部は今度はアンジェレッタに対して問うた。
「何を」
「特に考えていませんが」
 彼女はこう答えたのだった。
「ですがそれは」
「それは?」
「イタリア料理を考えています」
 それをだというのだ。
「いいレストランがあると聞いていますので」
「ではそちらにですか」
「いけませんか?」
「正直残念なところです」
 表情は変えないがこれが警部の本音だった。
「アイルランド料理を召し上がって頂けないとは」
「左様ですか」
「あのですね。アイルランド料理は決して派手ではありません」
 それは前置きするのだった。
「ですが家庭の味です」
「家庭の味ですか」
「ではそれを」
「召し上がって下さい。決して後悔はさせません」
 その言葉はかなり強いものだった。
「ですから」
「わかりました」
 それに頷いたのは役だった。
「では。そのアイルランド料理をです」
「召し上がって頂けますね」
「そうさせてもらいます」
 こう答えた彼だった。
「お言葉に甘えまして」
「それでは俺も」
 そして本郷も頷くのだった。
「そうさせてもらいます」
「ではアンジェレッタさんは」
「そうですね。私も」
「貴女もなのですね」
「正直なところ楽しそうに思えてきました」
 その美貌の顔に微笑を浮かべての言葉である。
「ですから。御願いします」
「はい、それでは」
「ではそういうことで」
 こうしてだった。三人は警部にある店に案内された。そこはダブリンの片隅にあるこじんまりとした店だった。その内装もシンプルであり店の客もまばらではある。家族でやっているようなそんな店だった。
 その店に入ってである。警部はまず三人に対して声をかけてきた。
「ここです」
「このお店ですか」
「ここが」
「はい、アイルランド料理のお店です」
 こう三人に話すのだった。
「ここで宜しいですね」
「ここまで来て断る選択肢はありませんからね」
 本郷は楽しげに笑ってこう述べたのだった。
 
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