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弱者の足掻き

作者:七織
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六話 「波の国」

 
前書き
友人に言われた言葉。
「ボクっ娘はボクっ娘であり、僕っ娘ではない。それはいけない」
と。
一時は前回までの自分を悔いました。なんて愚かだったのかと。
しかし、それもまた違うのではないかと思い始めました。
犬僕SSのヒロインは見事なまでの”僕”っ娘です。それも、とても素晴らしい。
”僕””ぼく””ボク”
とても難しい問題です。答えがありません。しかし、違いは確かにあるはずなのです。
元気なだけでちゃんと女の子女の子していれば”ボク”なのか。ボーイッシュならば”ぼく”なのか。中性的ならば”僕”なのか。
私には、答えがわかりません。それでも、決めなくてはならんのです。
そんな考えを経て、”僕”という一人称を用いています。無論まだ迷いはあります。自責に駆られえ、変えるなんて愚行をするかもしれません。
それでも、間違いでもいい、どストライクでなくてもいい。間違えたなら、次からは自分の思うがまま、滾る心のままに書いていきます。探求し続けます。
正解など、ないのですから。

そんなアホな考えが詰まってます。
DTB二期の蘇芳ちゃんはボクっ子可愛い。 

 
———ちっちのち!
———■■ちゃんが欲しい、●●ちゃんは……

 金属の小さな塊がぶつかり合い、幼子は手をつなぎ輪を作る
 とても懐かしい記憶
 祖父母の家で見つけた玩具。近所の子供達と一緒にやった遊び
 細い糸を巻き付け、必死で引いた。回らないのが悔しくて夢中になった
 繋がれた手が温かかった。呼ばれる名前に一喜一憂してた
 使わなくなった後も、古い箱にしまって置いといた。偶に取り出して糸を巻いた
 響く金属音に懐かしくなる。聞こえてくる声につい目が行ってしまう
 どうしようもない郷愁の念が思い浮かぶ

———やりぃ、これもーらい

 相手の物を飛ばした子がそれを拾う
 その声が懐かしい。その光景が遠い
 そこに心は向かいそうになる。足は留まり続ける
 心が拒絶する。今が浮かぶ
 
 どうしようもない、“今”が刻まれる











「うぇぇ……あ、もう無理……」

 揺れる二度目の船の上、床に伏した


「フー、フー……はっ、はっ……フー……うっあ…ップ」

 長い三度目の船の上、言葉を無くし黙って顔を海の上に出した。


「おお、揺れない……揺れないぞ! ハハハ!」

 揺れ無い大地の上、地のありがたみを知った。


「慣れたけど……やっぱむ…り……」

 そして国に入るための最後の船の上、背中をさする手のありがたみを味わった。
 そして……


「やっと着いた、波の国に……!」

 長い船旅の全てが今、終わったのだ———ッ!

「ふふふふふ———」
「うっせぇ馬鹿」

 ドンッ!
 強い衝撃に、体が道の端へと押される。
 ここ波の国は、周囲を水辺に囲まれた国。水の上に足場が作られ、道や家が建っている国だ。
 それ故、周囲を見渡せばすぐそこに水面があるのが当然の立地な国。つまり、
 
(あ、やべ。酔ってて上手く動けん。ダイブする)

 押された先は当然、水中へのダイブを決める一本道なのだ。
 体がバランスを失い、斜めに傾いて浮遊する直前、手を掴まれ引き戻される。
 こちらの手を掴む小さくて柔らかい手。白だ。

「大丈夫ですか?」
「スマン、助かった。おっさん、何するんですか。そっち向かって吐きますよ」
「吐いたらもっかい叩き込むぞガキ。気持ち悪い笑い声上げてんじゃねぇ。……もうやらんから、そう睨むな白」

 その言葉にそちらを見れば、無言で白がおっさんを睨んでいた。
 うん、実にいい。実に素晴らしい成長具合だ。是非ともその調子で育ってほしい。
 
原作通り、やはり白は自身の価値をかなり低く見ている。
自主性が弱く、助けた俺を第一に考える傾向を表に出している。無論、そうする様にたびたび言っていたのだが。
痛んでいた髪も段々と元の艶を取り戻していき、今では肩を超える真っ直ぐなストレートに戻り、簡素な紐で纏めている。
血色の悪かった肌も色を取り戻し、ほんのり桜色の白い肌をほぼ取り戻している。
服も簡素ながら決して違和感なく着こなし、むしろそれによって中性的な美を醸し出すような印象さえ与える。
原作の白の雰囲気を感じさせ、俺は確かに白なのだと思わされる様になった。

(……にしても、白の無言の圧力には答えるんだなおっさん。この差は何だオイ)

原作では再不斬一点特化だったが、まだ日が浅いからか、それとも人物の違いからかそこまではいっていない。
保護者という事でか、おっさんにもある程度の理解を示すというか、ひどいほどの壁があるわけでもない。
普通にしてれば素直でいい子だ。だからとはいえ、態度が違い過ぎるぞこの保護者。

「気にするな白。別にいいから。で、この後はどうするんですか」

 歩き出しながら聞く。

「俺は適当に家を探す。で、そっちはどうする?」
「どうする……とは?」
「こっちに付いて来るか、それとも白と適当に街の中観光でもしてるか。好きな方選べ」

 言われ、悩む。
 こんな時は丸投げだ!

「白はどっちがいい?」
「僕は、イツキさんに付いて行きますので」

 白が微笑む。
 ……こんな時ぐらい、自主性出してもいいのよ?
 そんな事を思いながら、らちが明かないと良く考えてみる。
 このままついて行ったとして、何か得る物はあるのだろうか。せいぜいおっさんが交渉するところを見る程度だろう。
 どういう風に人を捜し、交渉するか。どこに店などがあるか分かると言った所だろう。
 いや、探すと言っても家を探す程度。そこまででもないだろう。適当にそこらで聞けば何とでもなるし、店なんて同様に幾らでもなる。普通に見まわるだけでもそれは把握できる。
 なら、適当に回るとするか。

「あー、白と町の方を見て回ります。というか、子供二人でいいんでしょうか」
「お前が子供とか、面白いこと言うなオイ。あいつらは結構ガキ臭いとこあったけどよ」

 ……

「お前らなら……特にお前なら問題ないだろ。………もいるなら……」
「はい?」
「何でもねぇ。それじゃ、遅いが飯食ったら二手に分かれるぞ」

 結構歩いたもので、近くには飯屋が。

「集合はここだ。時間は……大体四、五時間後。まあ、暗くなりきる前に集合だなぁ」
「分かりました」
「はい」

 天ざる食いたい。






 ただのざるでした。船の上で服汚した罰だそうです。
 白が天ぷらくれました。凄くいい子です。
 
「思ったよりこじんまりした感じだけど人いるな」
「結構賑やかですね」
「金が無いって聞いてたんだけどね……」

 中央の路を歩きながら思う。
 一本の道の左右に店が並び、一軒長屋のように見える。
 大通りのほか、来た道を思えば横道や細い道なんかもあった。
 持っていた知識が偏っていたのか、板の路などではなく普通に地面の上に町の中心はあるし、今歩いている道も土だ。
 水辺にあるのは一部の個人宅とかその辺なのだろう。多分。
 そういえば、ナルト達が修行してた辺りはもろに地面だったなそういえば。
 それに……

「へいそこのお父さん! これなんかどうです、うちの自慢の———」
「奥さん、今日の夕飯は何だい! 今日はサバが安いよ!! 三尾買うなら———」
≪夜九時より三番裏、赤のネオンが目印“乱れウマ”!! 綺麗所が———≫
(閑散としてるかと思ったが、普通の街並みだな。店にも品が普通にある)

廃れていない。
水の国での流通所に比べれば小さいが、店が普通に有り、品物も置かれ店員らしき人物が声を出している。
 色々妖しい看板もある。
 人が軒下に入り、どれを買おうかと悩む姿は普通の街並みにしか見えない。
 
「お、そこの兄妹! 饅頭食わないか、美味いぞ!! ほら嬢ちゃん、どうだ?」
「あ、僕は結構で——」
「済みません、二つ……いえ三つ下さい」

 遠慮する白の言葉を遮り、声を掛けてきたおっちゃんに近づき財布を開ける。

「お、兄ちゃんの奢りか。よっしゃ、いくらか負けといてやらぁ!」
「ありがとうございます」

 幾らかの紙幣を渡し、代わりに≪白露屋≫と書かれた袋を渡される。
 見た目が子供故か、そのままでなく持ち運べるように袋をくれる所に気づかいを感じる。
 袋を開け、二つ取り出し一つを白に渡す。

「あっ……ありがとうございます」

 言葉を遮った時から少し申し訳なさそうな顔をしていた白の顔がほころぶ。
 大方、俺が買ったのにその前にいらないと言いそうになったことを気にでもしていたのだろう。
 嬉しそうな顔をした白は、笑顔で手に持った白い塊を小さく頬張る。
 それに続き、こちらも自分の分に口をつける。

「美味しいです」
「家のがマズイわけねぇって! 冷める前に食っちまった方が良いぞ」
「分かりました。……それにしても、結構人がいますね」
「何だって?」
「いえ……ここの国はそんなに賑やかじゃない、みたいな話を聞いていたので」
「あー……もしかしてあれか、他の所から来たのかい」

 それに小さく頷き、今日着いたばかりです、と続ける。

「まあ、それなら仕方ないのかねぇ。確かに他の国に比べりゃ小さいし、金もねぇしな。火の国が近くにあるのもあれだよなぁ……。どこからだい?」
「水の国です」
「あー、あそこか。良く知らないけどそりゃ、また遠いとこからよく来たもんだな」
「保護者の都合で、来たかったらしいです。色々あったらしく」
「へー、幼い身空に大変だな。確かに五大国なんかと比べられりゃどうか知れんが、ここの国は良い場所だぞ。活気もあるし、十分賑やかだよ」

 (……にこやかに、言わないでくれ)

「ええ……そう思います。後、一つ良いですか?」
「何だ?」

 そして、一番気になっている言葉を口に出す。

「カイザ、ガトー。この名前を知っていますか」

 ある種、自分の命を握る言葉。
 この為の会話。これを聞くために近づいた。
 饅頭と格闘していた白に一瞬視線を飛ばす。

「?」

 白が小さく首を傾げるのを見てこりゃ駄目だとすぐさま視線を戻す。
 ……まあ、事前に何も言ってなけりゃ分かるわけないよね、うん。そもそもそういった教育とか全然してないし。会ってからの日数まだ一桁だし。
 相手の反応、その一つとして逃すまいと注視する。

「カイザ、ねぇ……うーん、聞いた事ないな。ガトーってのはあれか、あのなんかの会社だかの金持ちの。名前ぐらいしか知らんが。何かあるのかい?」
「いえ、来る途中でちょっと聞いたので気になっちゃって。ガトーさんて有名なんですか?」
「まあ、そうだろうな。でっかい会社の会長さんだとか。色々外では有名らしいからそれで聞いたんだろう」
「へー、そんな人なんですか」
(外、ね。まだ来てないな。時間列的に見ても当然か)

 カイザがいつ来たのか詳しくは知らんが、確かガトーが来たのは原作の一年前から二年前だったはず。
 イナリ……って何歳だっけ? 
まあ、原作の時ナルトより下だろうから十前後。カイザと会ったの五歳以降頃と考えれば、カイザが来たのは原作四年から三年前か。
白の年齢、火の国での事などから色々考えれば、多分今は原作八から十年前ぐらい。
なら、まだ両方とも来ていないのが当然だな。

(この様子ならガトーは手を出してない、か。じわじわ地盤からやってったかと思ったんだけどな)

 ガトーは一年二年で一気に掌握したのかね、これは。それとも、もう少ししたら来て気づかれないようにじわじわやって原作間際で表に出すのか。
 とりあえず、カイザが一つの目安ということだろう。気をつけんとな。
 ……九尾騒動の詳しい日程が知りたいです。色々調べんと。

 手に持っていた饅頭を一気に食べる。
 何気に結構でかいなこれ。俺がガキだからか。

「それじゃ、ありがとうございました」
「おう」
「じゃ、行くぞ白」
「ん、モキュ、ハフッ……ん…っんく。はい、わかりました」

 可愛いなオイ。
 自分の分を食べきった白と歩き出す。

「じゃな、また来てくれよー」

 手を振るオッチャンに小さく手を振り返し、背を向ける。


 数年後、この国はガトーに支配される事を俺は知っている。
 英雄(カイザ)は死に、自由な交易は閉ざされ希望は萎む。
 賑わいは無くなり、店からは品が消え子供が物乞いを始める。
 反逆には死が。勇には暴が。民には刃が向けられる。

 原作に追いついた時、あの店はどうなっているのだろう。







「話を聞く際、その店の品を買った方が話してくれる。だから、聞きたいことがとりあえず何か買って世間話でもいいから色々話して、適当に頃合い見計らって聞け」
「はい」
「子供の方が気軽に話してくれる場合もある。逆に、込み入った話だとある程度の歳行ってないと相手にされないこともある。そんな場合は変化でも使え。白は今、使える状態まで行ってたっけか?」
「変化ならもう少しで。術はそれを最初に覚えるよう、イツキさんに言われてますから」
「ならよし。まあ、あれだ。状況に合わせて使うか考えろ。話聞く以外で、物を買う交渉の際は子供の姿だと良くないから、そんな時も化けろ。全体的に何か質問あるか?」
「……目くばせされた際、どんなことに気を付けておけばいいんですか?」

 少し悩み、答える。

「基本は相手が嘘言ってないかだな。場合によっては前もって言う事もあるが、それ以外なら……何か隠してるようならそれがなんなのか探ったりとか、その辺かなぁ。嘘かどうかは視線の動きとか口調とか、まあその……慣れだ」
「分かりました」

 ……頭良いなこいつ。ホントに全部わかってるのか?
 店を離れた後、適当にそこらを歩きながら俺は白に色々教えていた。
 店での話から、適当な雑学まで必要だと思ったことをこまごまと言う。
 大丈夫かと心配しながら話すが、その心配とは裏腹に白は理解を示し話を聞いて行く。
 明らかにガキじゃないだろと思い知らされる。全体的にスペックが高いなホント。

 知識は知恵となり、己を助ける物となる。
 再不斬と違い、俺は戦闘面で原作程にこいつを育てられない。
 ならばたとえどんな事であろうとこいつに覚えさせ、違う事で補うしかない。
 いずれは真っ当な戦い方などでなく、糞下らない卑怯な事まで教え込むことになるだろう。
 原作補正という力が無い弱者である俺は、どんなことでもせにゃならん。非才の悲しいことだ。
 ……原作知識も、いつ頃教えるべきなんだろうねぇ。
 
 一通り今言う事を終え小さく息を吐く。
 さて……
 調べること終えた後は、観光タイムだろ。

「まあ、言う事はこの位か。じゃ、後は適当に回ろうぜ」
「はい。どこに行きますか?」
「さっきの饅頭の甘さが取れん。お茶飲もうお茶」

 美味い事には美味いが、餡子の甘さが口の中に残ってしょうがない。
 子供の体で丸々一個は多かったかね。
 適当にそこらを探すが、あいにくこの世界に自販機などない。適当な店にでも入るしかないか。

「なんか店あるか?」
「……あ。あそこにお店があります」

 指差された先には小さな幟をつけた店が。
 近づいてみると、掠れてはいるが確かに“茶”と書かれている。
 どうやら茶葉を始め、色々小物を扱う店らしい。
 試飲でも出来ると嬉しいのだが、どうだろうか。
 団子屋にでも入って茶の頼めば、団子も頼まねばならん。正直、さっきの饅頭で結構腹が膨れているのでそれは勘弁したい。
 中を見ればいくつかの茶葉が詰められた筒に、髪に挿す櫛や纏めるゴムや紐なんかもあるみたいだ。
 
(お、珠葉澄がおいてある)

 来る途中の島で飲んだお茶の名前を見つけ、是非買おうと思う。
 舌に残らないさっぱりとした渋さが美味く、確かおっさんも結構飲んでたやつだ。

(だからといって、おかわりの為だけに何分も残んないでほしかった……)

 苦い思いを思い出しながら、中の初老のおじさんに声を掛ける。

「あの、すみません。そこのお茶の試飲は出来ますか? 買いますので」
「ああ、なんじゃい。お前の様な小僧が茶の味分かるわけなかろう。背伸びしたい年頃か? ん?ん? ガハハハハハ!」

 ……そうくるか白髪ジジイ。
 頭に手を置かれ、乱暴に髪を触られる。
 完全に見た目からして舐められているようだ。まあ、確かに子供がお茶を買うのは珍しいかもしれないが。
 だが、それでも引くかバカジジイ。

「それ、珠葉澄ですよね。渋めの」
「……ほう、知っとるか小僧。どこで聞いた? だがな、小僧にはちと高いぞ。ママからのおこずかいじゃ買えんなぁ」

 置いてある値札を見る。確かに高い。
 否、かなり高い。
 確かに運送費などがかかる。それも水の国という他国。高くなるのは分かる。
 ……安く買ってやる。
 そう思うが、どうしたものか。
 先に白に言った事を考えればある程度の歳に化けるのが道理。だが、このままでは負けたように思えてしまう。
 
(買う力があるのを見せてから、一端出て化けるか)

 懐から財布を出し、軽く開く。
 そこには幾枚もの札が並んでいる。伊達に親の金を持って来てはいない。
 これだけでなく、カバンの方にはまだ貴金属の類もある。へっ、分かったかクソジジイ!
 ジジイがこっちを見ているのを確認してから店を出る。
 そう言えば、白はどこだろう? と思っていたら店の外にいた。
 そうやら、外に並べてある品を見ていたらしい。

(ふーん……)

 一通りそれを見てから白に声を掛け、路地に入る。
 白に路地の入口に立たせ、人の眼に注意させておいて化ける。
 これからここで動く際に使うかもしれない姿だ。前の世界の姿でなく、今の姿から育ったらどうなるかという感じをイメージした十代後半辺りの姿に化ける。まあ、実際はどうなるか分からんが。
 うん、よし。

「じゃ、言った通り頼むぞ白」
「まかせて下さい」

 その言葉に頷き、再度店の中に入る。

「らっしゃい」

 ジジイの声を聴きながら、お茶の所に近づく。

「色々ありますね」
「おっ。茶に興味がありますかい。それならこの二つはお勧めですよ。珠葉澄と紫玉。気にならない、飲んで流せる渋さが良い」
「迷いますね。……味を見ることは出来ますか?」
「おお、良いぞ。ちょっと待ちなさい」

 良いのかよ。対応違いすぎるぞジジイ。
 ジジイは茶葉を小さめの急須に少し入れ、後ろから取ったヤカンのお湯を注ぐ。
 そのまま伏せてあった湯呑を手に取り、ヤカンのお湯で一度湯呑をすすいでからお茶を入れる。

「珠葉澄だ。美味いぞぉ」
「いただきます」

 口をつける。子供の身には熱いが、やはり美味い。
 口の中にあるときはやや渋さを感じるのに、飲んだ後はそれが残らない。味も変な雑味が無くていい。
 味わいながら飲みきると、ジジイが急須を掲げる。
 鼻に届く匂いが先ほどとは少し違う。今の間に次を用意したのか。

「次は紫玉だ。飲みやすさは負けるが、深みがある」

 渡した湯呑に茶が注がれ返される。さっきよりも茶の色が少し濃い。
 小さくずっ、とまず一口飲む。深み、というより濃いと言えばいいのか。
 渋さ自体は感じるが、それを味が塗り潰している結果感じない。が、飲んだ後に少し渋みが残る。味も雑味の様なモノを感じる。
 単純に味覚が子供だからだろうか。深さという感想は抱けない。
 まあ、美味いは美味いんだろうなぁ……多分。

「ごちそうさまです。珠葉澄の方が自分としては良いですね」
「おお、そうかいそうかい」

 湯呑を渡しながら値札を見る。
 うん、三割は値切ってやる。おっさんならもっと行くだろうけど。

「でも、高いですよねこれ。四割くらいにまかりませんか」
「いやいや兄ちゃん、馬鹿言っちゃあいかんよ。これは外から仕入れてる一品。この位の値段はするさ」
「水の国の近く、ちいさな島からですもんね。確かに大変かもしれませんよねこれ」
「……へぇ。知りもんか兄ちゃん」

 只のカモじゃない事を理解したのか、ジジイの眼が変わる。
 好色ジジイの様な目から、面白そうな目へ。
 
「でも、これは少し高いと思いますよ。現地での店の大体三倍程。ちょっと多すぎるんじゃあないですか?」
「それも知ってんのかい。だがな、それでも半額はまからねぇよ。八割五分ってとこだ」

 ふむ、やはりこの位は容易く下げるか
 あえて最初かなり高く見せといて、売るときには容易く値下げして安く思わせる。
 相場を知らん客には、普通に売るよりも買う気が起きるとおっさんに言われたことがあるが、そのタイプかね。
 
「ここからその島までは、大体二日ですよね。無理をして動けば一日でも行ける。五割」

 だが、それは此方も同じ。最初はありえないくらい安くふっかけ、そっから段々妥協していく。
 現地での三倍、といったがそれは仕入れ値に利益などをプラスした値。
仕入れ元から余り間を介さず、安く仕入れているとしたらまぁ……二倍ぐらいはするかねぇ。
それの値段にもよるし、相場よく知らんが。ほどほどの値段の物だから、そんくらいだろ多分。

「歩きならそうかもしれんが、水路使ってんだ。その分割高になるに決まってる。七割七分」
「いえいえ、それはこの国なら大抵そうなるんじゃないですか? 六割」
「だから全部その位になってらぁ。それが相場だ。七割五分」
(まあ、この辺りでいいか)

 そう思い、右手で頭を掻く。

「もう少し行きませんか? 六割五分」
「いや、これ以上は無理だって。こっちも利益出さなきゃならんからなぁ」
「そうですか……なら仕方がない」
「そうそう、そこらで折れなきゃ。それと兄ちゃん、交渉するならもっと上手く———」
「わぁ、この間の店よりたかーい!」

 ジジイの声を遮り、子供の声が響く。
 白の声だ。俺たちの直ぐ近くで、ジジイの声を遮った。
 ジジイが口を開く。

「嬢ちゃん、何を言ってるんだい?」
「これに書いてあるのと同じ字の筒見ましたけど、それよりもずっと高いなーって」
「いやいや、これはそれとちょっと違うんだよ。それよりも黙っててくれるかい? 今はねおじさんたち———」
「奇遇だね。お嬢ちゃん、君はこれが高いと思う?」

 ジジイの言葉を無視し、他人のふりをして白に話しかける。
 そういや今更だが、周りには白って女性に思われてんだな。
 こちらの質問に白は笑顔で頷く。

「うん!」
「だ、そうですが。もうちょっとまかりませんかねぇ〜」

 そのまま俺は無言で、白はニコニコとジジイの方を向く。
 
「……ちっ。七割。これでどうだ」
「ありがとうございます」

 目標金額なので特に不満もなく金額を支払い、茶筒を貰う。
 そしてニコニコとしたままの白に視線を向ける。

「ありがとうお嬢ちゃん。良ければお礼に髪留めの飾りを買ってあげる」
「え? い、いえ。そんな……」

 白が困ったように言う。
 それはそうだ、これは言ってなかったこと、いわばアドリブなのだから。
 まあまあ、と頭に手を置く。

「さっき外で見ていただろう。安く変えたのも君の御蔭だからね。それ位気にしないでくれ。おじさん、外のやつ一つもらうよ」
「その、本当にそんな……」
「好きにしな。一つ十だ」

 それ位ならおつりがくるぐらいだ。最後の五分下げたのは白の御蔭だ、まあいいだろう。
 白の髪を纏めている今の紐は業務用的な感じの紐なので、そのままというのも忍びない。
 それに後々の為に、好感触を得ておくのも必要な事だ。
 ジジイに近づいて幾つか分払う。

「確かに。……兄ちゃん。あの子、お前さんの連れだろ」
「え? い、いや、そんな……」
「気にしちゃいねーよ。むしろよくそこまでするって清々しく思うくらいだ。面白れぇ、また来な。次の時はもっと上手くしろよ。ガハハハ!」

 あれだな、意外と気さくなジジイなのかこのジジイ。まあ偏屈ジジイだが。
 白を連れて外に出、先ほど白が見ていた髪留めを取る。一つだけではさびしいので、もういくらか適当にシンプルなものも。
 それを手に、白に近寄る。

「業務の紐じゃあれだ。ちょっと動くな」
「え、あのイツキさん?」

 白を無視し、そのまま後ろに回り込んで紐を外す。うん、髪さらっさらやな。何この感触。何この差。
 そう思いつつ、適当に髪を纏める。

「うし、これでいい。さっき白が見てたやつだ。安いから気にするな。浮いた分の方が多いから」

 少し離れてみるが、特に問題はない……と思う。髪とか結んだことないし。
 白は少し困ったような、それでも嬉しそうな笑顔を浮かべる。

「その……ありがとうございます」

 うん、どこから見ても女の子だよねこれ。色々間違ってる。
 これで好印象なら、安い物ですよ。ないだろうけど、愛想つかされちゃ困りますし。

「じゃ、適当に回るかー」





 段々と辺りが暗くなっていく中、俺と白は集合場所に戻っておっさんと合流した。

「戻りました」
「おぅ。何か買ったみたいだな」
「饅頭とお茶買いました」

 袋を渡す。

「僕たちはもう食べたのでどうぞ」
「ありがとよ。饅頭貰うぞ」
「はい。僕たちは温かいの食べたので」
「……珠葉澄の件でチャラにしてやる」

 微妙な表情で一気におっさんが饅頭を食う。

「ふん、美味いな。……それと、髪留めも買ったのか」
「はい。イツキさんに買ってもらいました」

 笑顔で白が報告する。買ったかいがあるという物だ。
 そうか、とおっさんが頷く。

「そっちの方はどうだったんですか?」
「とりあえず適当な空き家があったからそこを借りた。良さそうならそのまま買うつもりだ。かなり安かったしな。歩くぞ」

そういい、歩き始めたおっさんに付いて歩き始める。

「どんな家なんですか」
「そこそこの広さで、元々は誰か住んでたらしい。どっか移ったんだとよ。それで最低限の物は残ってるっつうから、なさそうなもんだけ頼んだ。今日中に届くはずだ。登録とか色々も済ましといたから、まあ、特に問題はないな」

 なんとも手の早い事で。正直見直した。
 手続きとかのことは未来必要になるし、後で調べておくか。
 歩きながら、白が聞く。

「イオリさん、それはどの辺りなんでしょうか」
「町の外れだ。中心街から見たら、北西の辺りだな。南よりは北の方が仕事がしやすいから有り難い。それと、前から結構時間が経ってるそうだから、ついたらまず掃除するぞお前ら」
「分かりました」
「……はーい」

 まず掃除と聞き、仕方がないかと返事を返す。その点白は素直だなホント。
 そう思っていると、何かの音が耳に届いた。

———キン、ガキンガキン

 小さく響く金属音に何かと辺りを見渡し———足が止まった。

「あ、どうした?」
「どうしましたイツキさん?」

 何か声が聞こえた気がする。
 だが、視線が動かない。

「ん〜……あれはベーゴマか。懐かしいもん売ってんな」
「僕ぐらいの子が多いですけど、どんな物なんですか?」
「金属でできたコマだよ。細い紐捲いて回すんだ。ジジイから教えられたな昔。で、どうしたんだ欲しいのかガキ」
「いえ……」

———ちっちのち!
 
 聞こえてきた声に止まっていた足を動かす。

「済みません、行きましょう」
「良いのか? あれくらい買ってやろうか」
「いえ、別に興味はありませんので。音が気になっただけです」

 気になっただけ。別段興味など持っているはずがない。

「……そうか。じゃ、さっさと行くぞ」
「はい」

 後ろから高く、それでいて鈍い音が響き続けていた。







着いた場所は街の外れから少しの場所。辺りにも人家らしき家がポツポツとあるがそれほどに多くはない。
実際に歩いた時間からして、町から遠くもなく近くもない、といった位の距離だろう。
もっとも、子供の足だから微妙だが。

(あの橋大工の爺さん……名前忘れてたけど、あの家に立地とか似てるな。多分。恐らく、きっと)

 自信はないが何か見たことがある様な家の様子だ。二階もあるようだ。
 辺りは水辺で、大きく取られた木材の土台の上に家がある。
 そう言えば、あの爺さん一家は既にいるんだよな……後で調べとくか。

(投擲練習とかその辺の事するための場所は明日以降に探すか)

 来る途中のパッと見で森っぽい所があったがいろいろ探さなければならん。
 近くにもあったけど、広さが分からん。
 原作時に主人公たちが修行してた森がどこかが分かれば一番なんだが……頑張るか。
 
(近くが水辺ってのもありがたいな。水の上に立つ練習できるし。使う術考えれば、水が多いのは有り難い)

 親直伝の巻物は色々書いてあったし例外もあるが、水の国な関係上基本は水遁が多い。
 術者のレベルが高いなら水が無くとも高レベルでできるが、才能が微妙な身としては近くに水があった方が練習になる。
 
(そう考えれば、波の国っていいな。隠れ里無いから忍者居ないし、少し気を付ければ普通に鍛錬できる)

 これが他の国だったらどこにいるか分からない忍者共から身を隠してやらねばならんかった。
 子供の身でそんなこと出来るわけないし。その状態までレベル上げられるのって結構条件厳しいぞオイ。
 この国である程度まで技術上げられれば、その後隠れて鍛錬するのも楽になる。
 そんな事を考えながらおっさんに続いて空き家に入る。

 うん————凄い暗い。

「電気は……っと、これか」

 明かりがつき、一瞬目を細める。
 電気あるけど車ないし、パソコンもないんだよなこの世界。どんな文明なんだろホント。
 ないと思ってたけど船のエンジンあったし。無いの最初の船位だったし。

 明かりがついた中を見渡す。
 言われていたように確かに埃がある……というか全体的に薄汚れてる。
 これを掃除することになると、色々大変だぞ。時間も遅いのに。

「ほれ」
「はい?」

 瞬間、おっさんから何かが飛ばされる。
 一直線に自分に向かってくるそれを掴もうとする。

「うぷっ!?」

 が、上手くつかめず顔に当たる。
 あ、これ雑巾だ。なぜに広げて飛ばしたよ。取りずれぇ。
 視界右半分見えんし冷た。

「ほい」
「おぅふ」

 投げられた何かがコツンと当たる。
 見てみれば今度は丸められた雑巾。右から投げんなおっさん。狙ったろ。

「これもだ、ほれ」

 今度は何か細長い物が投げられる。
 が、こっちに向かってきたのを今度は白がキャッチする。
 どうやら箒の様だ。これで掃除しろってか。

「ゴミは一か所に纏めとけ。届かない所は化けてやれ。上と下、どっちがいい」
「あー……じゃあ上で」

 二階の方が範囲狭そうだし。
 
「じゃ、適当に綺麗にしとけ。お前らの部屋になるかもしれんしな」
「分かりました。行くぞ白」
「はい」

 バケツを持ち、白を連れて二階に上がる。
 上がりきった先には右側に二つの部屋。どうやら二階はこの二部屋だけらしい。
 手前の部屋を開ける。
 ふむ、少し狭めだが畳敷きの一般的な部屋だな。
 入り、電気をつける。うん、ちょっとけむい。

「白、窓開けてくれ」
「分かりました」

 白が窓を開ける間に変化で化ける。上の方やるには背丈が無いと。

「で、畳を箒で掃いて……掃けるか?」
「大丈夫です。上の方は出来ないので、それ位は頑張ります」

 ええ子や。
 そう言う白に床は任せ、自分は窓の縁に足をかけ壁や天井を拭く。
 埃は下に落ちてるはずだし、上は雑巾で拭くだけで大丈夫だろ。
 四つ折りにしてキュキュキュッ、ささっとな。

「黒!?」

 一面拭いただけで思ったより汚れてる。雑巾もう結構黒いな。ま、いいか。
 四つ折りしたわけだから一枚で面は八つ。まあ、大丈夫だろ。
 そんな事を思いながら壁やら押入れやらを拭いて行く。
 うん、こんなもんか。
 白の方を見れば小さい体で頑張って畳を掃いている。健気だねぇ。
 本当はお茶のカスがあればいいんだが、それは次の時だな。
 きつく絞った雑巾で白が掃いたところを軽く拭いて行く。これもほんとは乾拭きがいいんだけどな。
一通り掃き終ったのを見て、声を掛ける。

「じゃ、となりいくぞ」
「はい」

 隣の部屋に移って同じことをする。
 うん、埃からか取っ手がジャリってする。

「ん? あの、イツキさん。窓が開きません」
「ちょっと見せろ。……何だこれ、鍵の所壊れてんじゃねぇか」

 何か強い力でもかかったのか、変に曲がってる。これじゃ開かねーよ。

「仕方ないから開けなくていい。下掃いてくれ」
「分かりました」

 そう言い、掃除を続ける。

(……ん? 何だこれ)

 押入れの中に変な染みあるなこれ。擦っても落ちね。後にしよ。
 そのまま暫く掃除を続ける。前の部屋と同じで、大体三、四十分ほどで一通りの掃除を終える。
 まだ色々気になる所はあるが、最初から比べりゃ十分だな。埃臭くもなくなったし。

「結構きれいになりましたね」
「ああ、そうだな。ご苦労さん」
「ご苦労さまです。僕はイツキさんをお手伝いをしただけです」

 ほんといい子だな白。
 掃除が終わったので一通りの道具を持ち、下に戻る。
 バケツとか変化した方が持つの楽だな。最初からすりゃよかった。



「じゃ、私達はこれで。何か要り物があればいつでも家まで。後、何かあったらぜひ教えてくださいよ。ハハハ」
「おう、ご苦労さん。そんな事あればいい話のタネになるから教えてやらぁ」
「是非。ではまた」

 下に行くと何かおっさんたちがたくさん出ていくのが見えた。

「今の人達は何ですか?」
「言ってたろ、足りないもん頼んだって。それが来た。運ぶから手伝え」
「了解です」

 ふむ。布団に食器とかその辺りか。そういやガスとかも無いとあれだよな。
 見てみれば確かに、色々と細々したものから大きめな物まで置いてある。
 おっさんの指示に従い、白も含め食器やらなんやらを置いて行く。
 前の家族が持って行けなかったのだろうか、元々残されていた棚に小物も入れていく。
そういや上にはこんな棚なかったな。
 
「大体仕舞い終ったか。後はお前ら次第だな」
「はい?」

 見てみればまだ大きめな袋と何かが残っている。
 近くにいた白が袋を除く。

「イオリさん、これはなんですか?」
「布団だよ、布団。でだ、二人とも。上と下、どっちで寝たい。そういや上はどんな部屋だったんだ?」
「ちょっと小さめで畳敷きな、普通の部屋が二つでした。そう言えば奥の部屋、窓が開きませんでした」
「……まあ、そうだろうな」

 おっさんが小さく溢す。何だ、知ってたなら前もって教えてくれればいいものを。

「ここ除いて下も二つだが、畳じゃない。なら上はそこの袋にある布団敷いて、下ならそこの組み立ててベッドだ。もっとも、ベッドの方でも今日はその布団使ってもらうがな」

 なるほど、良く分からない物は組み立て式のベッドだったか。言われてみれば何かそんな感じに見えるな。
 だが、と考える。どっちにすべきか。
 見た限りベッドらしきものは二つ。おっさんと一緒などと考えたくもないしおっさんも考えてないだろうからおっさんで一つ、白と俺で一つといった感じか。
 出来るなら上の方がありがたいな。寝る前など、巻物読んだり螺旋丸の練習したりで白以外の眼はない方が良い。
 だが、おっさんはどっちに眠るつもりなんだ?
 そう考え込んでいると、おっさんが口を開く。

「先に言っとくが、俺は下で寝るぞ」
「? なんでですか?」
「お前らが下になったとしたら、俺が上に行くってのも安全面的に駄目だろ。一応二人とも子供なんだからよぉ。お前らが上になったとしても、同じ部屋ってわけにもいかん。かといってもう一つの部屋は嫌だし、そもそもその場合は下に色々仕事道具とか置くから、近くにしときたい」

 ふむ。なるほどね。
 もう一つの方が嫌な理由は良く分からんが、下に来てくれるのは有り難い。窓が開かないの嫌だとかその辺の理由だろうし。
 一応白にも聞いておくか。聞く前からわかってるけど。形だけは聞かないと。

「白はどっちがいい?」
「僕はどちらでもいいです」
「……なら、上の部屋でお願いします。手前の方で」
「分かった。なら、そっちの袋持ってけ。布団は一つしか買ってないが、体ちっこいんだからいいだろ。要るなら明日もう一つ買う」

 おっさんは白と二人一部屋を前提に喋る。まあ、年齢考えれば一人一人より普通だが。
 布団一つと言うが、今日くらい別にいいか。要るなら買ってくれるって言うし。
 白の方を向き、確認する。

「白はそれでいいか?」
「はい」

 白は特に異議なく了承する。
 
「そうか。なら飯食った後布団運ぶか。飯はめんどくさいから今日はカップ麺な。異議あるやつ手—上げろ」
「はーい」
「そいつは何も食わせん」
「嘘です。異議なんてありません」

 キリッ!



 手抜き飯を食べた後、ゴロゴロと食後の休憩を過ごしていた。まだ布団の袋は置いてある。
 布団を運ぼうと思ったのだが、汚れている状態で運ぶよりは風呂入ってからにしろと後回しになった。
 そこに、風呂から出たばかりのおっさんが向かってくる。
 ボイラーなどがちゃんと動くのかの検分も兼ね、一番に入ったのだ。

「特に問題はないな。掃除して汚れてんだからお前らも入れ」
「はーい。荷物整理あるから、白先入れ」
「分かりまし——」
「汚れてんだからお前も一緒に入れガキ」

 白を先に入れようとしたらおっさんに軽く小突かれる。

「汚れてんだから弄るんなら入った後にしろ。何なら俺が運んどいてやる」
「いえ、それは止めて下さい。壊れやすい物とか色々入ってますので。お願いします」

 実際は入ってないが、見られると困るものが奥に入ってるので断る。
 普通の巻物に扮してある上に最初は何も書かず、少ししてから書き始めたりしてるから大丈夫だと思うが、それでも出来ればあまり触れないでもらいたい。
 
「それならそれでいい。触れないでやるからさっさと入れ」
「……分かりました」

 しょうがない。
 息を吐く。余りに我儘を言って漁られては困る。
 白ならばまだしも、おっさんに見られるのは色々と問題だ。
 変えの下着などを用意しよう、と思うと同時、白がそれを渡して来る。
どうやら、今の会話を聞いて用意したらしい。

「はい、イツキさん」
「ありがと」

 受け取り、風呂の方に向かう。
 
「入ってる間に布団運んどくぞ。場所取って邪魔だ」
「お願いします」

 おっさんに返事をし、脱衣所の扉を開けた。



 脱衣所の籠に着替えを入れ、服に手を掛ける。
 そんな中、白が口を開く。

「一緒に入るの、初めてですね」
「そうだな」
(そういや、白と入るの初めてだな)

 何の気なしに思う。
 自分が精神的に子供でない為か、基本風呂には一人で入る。そのため白も一人で入る様になっていたのだ。
 今更ながらに思うが、白の年齢を思うと前の世界の基準から見れば問題なのだろうか?
 もっとも、原作でもナルトやサスケが一人暮らしをしていた所から見れば可笑しい物ではない可能性が高い。
 白の精神的な落ち着きも考えれば、この世界的には特に心配はいらないだろう。

 白の方に視線を向ける。
 相変わらずだが、肌は白い。
 初めて会った時はやや細く思えた体も、子供特有の丸みを持ち健康的に戻っている。
 
(過度な鍛錬は成長を妨げるって言うけど、どのくらいまでならいいんだろうな)

 筋肉をつけすぎるのも良くないというが、付けなさすぎるのも良くないと。
 肉体的な鍛錬は体がある程度まで成長しきるまで程々にするべきだろうと再度思う。
 やっぱり、まずはチャクラ的なやつだったり術的なやつ。技術方面だなこりゃ。
 自分の体も見ながらそう結論づけ、気づく。
 まだ変化解いてねぇじゃん。
まあいいかと下着を脱ぎ去る。そしてふと思い、変化を解く。
変化が解け元に戻るが、服は着ていない。見れば脱いだ服も縮んでいる。マジどんな原理だこれ。
 白の方を見れば、白はまだ服を脱ぎ切れていない。

「んじゃ、お先」

 待つ理由もないので戸を開け先に入る。
 さっきまでおっさんが入っていたからか、空気がやや暖かさを残している。
 風呂自体もまあ、普通の大きさだ。
 軽く桶で湯を取り、足にかける。うん、温かい。
 そのまま湯を体にかけ、石鹸で体を洗い、流さないまま頭を洗う。

———ガラガラガラガラ

 戸を開ける音とともに聞こえる小さな足音が聞こえ、白が入ってきたことを感知する。
 このままでは目が開けられず動けないのでさっさと頭を泡立て、さっさと流す。
 子供の体だからかもしれんが、泡が眼に入ると妙に痛くて開けられないんだよねこれが。
 流し終わり、顔を手で拭いながらシャワーを後ろ手に白へ渡す。

「ふう。はい」
「ありがとうございます」

 受け取ったのを感じてからそのまま湯船に入る。
 少し泡が目にでも入ったのか、チクチクと痛むので何度か湯を掬って洗う。
 うん、治った。でも視界が涙で滲んだままだこりゃ。
 ほっときゃ治るとそのまま力を抜いて湯につかる。

(あー、あったけぇ……)

 子供には少し熱めだが、疲れた体には心地いい。
 シャワーが止まり、椅子に座っていた白が立ち上がる。
 それを横目で確認し、少し端に寄る。子供の体なら、こうすりゃ二人は入れるだろ。
 その意図を読み取ったのか、

「すみません」

 といいつつ白が俺とは反対側から湯に入……ン?
 今見たありえない光景に、まだ目がおかしいようだと思い軽く目をこすり何度か眼をパチパチさせる。
 うん、もう問題ない。
 そしてもう一度、既に湯につかっている白の体の、湯の中の部分を再度見る。
 え?……え、あれ?え、ちょ、え……え?
 どう見てもあるべきものが見当たらず、混乱する。
 そんなこっちを見てか、白が不思議そうにこっちを見る。

「どうかしましたか?」
「いや、その……白ってさ、ないの?」
「?何がですか?」

 うん、何がだろうね。こっちも混乱してるんだよ。

「その、なんていうかさ……刀だよ」
「刀ですか?」
「そう。こう、本来なら生まれた時から持ってるさ、いざという戦いのときに抜いて生身で使う力強い刀で、鞘に納まる奴」

 白が不思議そうな顔をするが、正直自分でも何を言っているのか分からない。
 というか、今の半セクハラじゃねぇか。
 自分が今どうしようもないほどに焦っているのが分かる。
 意味もない思考を繰り返し、言葉が上手く出てこない。

「その、僕は刀なんて持っていませんけど」
「ああ、うん。見ればわかる」

 そう、見て分かるから分からないのだ。
 きっと白は、本物の刀の事を想像しているのだろう。それで持っていないから持っていないと答えたのだろう。
 当たり前だと内心思う。先の質問は混乱して言ったわけの分からない例え。分かるはずがない。
 そんなこと、言う前に理解する事さえ理解出来ていないのだ今の自分は。
 そもそも、理解することを拒んでいるのだ自分は。その程度、理解できる。
 だが、先延ばしにしても何にもならない。
 そう思い、事実を問いただす言葉を、つい震えてしまう言葉をなんとか口にする。

「その……白ってさ、女の子?」
「はい、そうですよ」

 小さく微笑みながら白が頷く。

(ええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!)

そんな白から目が離せないまま、心の中でひたすらに驚愕の声が響き続けた。



「上がり……ました……」
「大丈夫ですか?」

 脱衣所の扉を開け、出ていく。
 のぼせた体があつい。
 意識が飛び、気づいた時には結構長い事湯船につかっていたようだ。
 ようだ、というのもそもそもどのくらい浸かっていたのか覚えていない。
 そんなこっちを心配してか、白がこっちを覗き込んでくるがよく頭が回らない。そもそも、今白を見ていると混乱が増長しそうで困る。
 
「大丈夫だから……水、持って来てくれ」
「はい。直ぐに」

 白が台所の方に走って行くのを見ながら、息を吐いてその場に座る。
 白が近くにいない間に少しでも落ち着かないといけない。

 視界が揺れる。地面が揺れる。世界が揺れる。
 一歩踏み出せばどこまででも落ちていきそうな浮遊感が体にまとわりつく。
 頭が重い。思考が揺れ続けている。一体どうしろというのか。
 考えれば考えるほど思考の泥沼に嵌って行っているのが分かる。けれど止める者がいない中、止まれない。
 頭痛が一定のリズムを刻み少しずつ自分の中の境界線に波紋が広がっていくのが分かる。
 空気に自分の体が溶けていく、そんな妙な感覚が茹だったカラダは感じていく。
 
 そんな中聞こえてきた声に顔を上げる。
 
「おう、どうした。顔が赤いぞ」
「少し長湯しすぎました……はぁ」

 おっさんが近づいてくる。
 こっちが辛そうなのが分かったのか鍋敷きで軽く扇いで来てくれる。
 なんか変な臭いもするが風が顏に当たるだけで涼しくてありがたい。

(考えるだけ、無駄か……)

 臭いのする風を受けながら、そう思う。無理矢理に思考を止める。
 白が女性。この事は変えようがない。
 記憶にある原作知識では、白は男だったはず。だが、この世界の白は違う。無いはず無いはずのモノが無かった。
 寧ろ今思うと、そもそも原作の白は男だったのだろうかとさえ思えてくる。
 どうして男だと言われたのかよく覚えていないが、確か外見は完璧に女性だったはず。
 なら、そもそも外野が男だと思っただけで本当は女だったと考えればいいのではないのだろうか?
 そうすれば、何も疑問は無い。せいぜい原作再不斬への印象が色々とアレになるだけだ。うん、問題はない。多分……
 そう思っていると、白がコップ片手に戻ってくる。

「お水持ってきました」
「助かる……」

 受け取り、一気に飲み干す。
 冷たい水が喉を過ぎていくのを感じると同時、顔の温度が下がって行のを感じる。幾分楽になった。
 そんな頭で思い出す。そういえば、白が自分で男発言してたんだよな確か……間違えるはず無いよなー。
 ………後回しにしよう……考えたら負けだ。
 そう念じる。考え始めたら、どうしようもなくなってしまいそうな気がしてくる。
 だからこそ、しがみつく様にある思いを無理矢理押し込み、無視する。
 そうでなきゃ、やってられん。

「あー、楽になった」
「じゃ、止めていいか。めんどくさくなってきた。このままだとお前の顔にコレがダイブする」
「あ、はい。ありがとうございました」
「お、おう……」

 送られていた風が止まる。
 まだ違和感が色々あるが、随分楽になったので立ち上がる。
 
「布団は運んどいた。大丈夫なら荷物持って上行って早く寝とけ」
「はいはい。白、上行くぞ」
「もう、大丈夫ですか?」
「問題はない。ただのぼせただけだよ」
「よかったです。分かりました」

 それぞれの荷物を持ち、上へ上がる。
 何でかおっさんも付いて来る。もう大丈夫だっての。
 何故だかおっさんが奥の部屋を開け、覗き込む。
 
「?そっちは違いますよ」
「ああ、分かってるがちょっとな……」

 ちょっと何なんだよ。そう思いながら手前の部屋へ入る。
 確かに丸まった布団が既に運ばれている。
 それを広げて敷いてみる。
 うん、子供二人なら寝れるな。
 枕二つ無いけど、子供だし。

「んじゃ、早く寝ろよ、とは言わんが夜更かしするなよ」
「へーい」
「あ、後あれだあれ」

 ちょいちょいと手招きされたので近寄る。
 小声で話される。

「夜中何かあったら教えろよ。特に隣からとか……」
「……そういえば、隣の部屋色々気にしてましたよね。何なんですか一体」

 隣に何かあったかと思い出す。窓が開かないことか? そういえば押入れが汚れてたりもしたけど……
 おっさんの様子に、そういえば、と二三時間前の事を思い出す。

「そういえば、あの家具とか運んできてた人達とも話のネタになるとか色々話してましたけど……」
「あー、聞いてたのか……。まあ、ならいいか」

 そういい、白に聞こえない様に更に声を抑えておっさんが話す。

「(ここってさ、かなり安いんだよ。その理由を教えてもらった)」
「(はぁ……)」
「(前住んでた家族は他に移ったとか言われてたが、それ違うらしいんだよ。いや、家族は住んでたんだよ。それも結構仲良かったらしいけど)」
(へー。……ってあれ?)

 何か嫌な予感がしてきたぞオイ。安い理由……なんだよな?
 安くなる理由で、家が空いてて、移ったんじゃない……だと。

「(でな、仲良かったんだよ。だけどある日、その……母親がアレだ。子供とか父親とかにちょっと刃物でお茶目しちゃったらしいんだよ)」
(ドンピシャー!? 理由って人死にじゃねーか!!)
「(で、父親は先に渡っちゃったらしいんだよ)」

 綺麗な川をですね。分かります。

「(残った子供を奥の部屋に閉じ込めたらしいんだよ。開けられない様に窓曲げて。ドアには外から木挟んで。その後の詳しいことは分からんが、見つかった時子供は押入れの中にいたらしいんだよ)」

 ちょ、押入れの汚れ……

「(母親の方は見つからんけど、近所の話だと水に何か落とすような音が聞こえたらしいし。で、誰もいなくなって凄まじく安くなって今に至る。で、だ。要は……何かあったら教えろ)」
「(何かってなんだー!)」

 あれか!ポルタ—なガイストか!! 声でも聞こえんのか!!!
 
「(ほんと安いんだよ。だからさ……)」

 おっさんがこっちの肩を掴み———クルリ。

「早く寝ろよお前ら!」
 
 バタン!
 ドアが勢いよく閉まる。そしてすぐさま階段を下りていく音が聞こえる。
 あのおっさん、だから下選んだのかこの野郎!!
 
「どうかしたんですかイツキさん? イオリさんと何か話してましたが……」

 白が話しかけてくる。だが、何を言うべきか……

「ああ、うん。特に何もない。あんまり夜更かしするなよってさ」
「そうですか。イツキさん、この後はどうします?」

 言う必要ないよね。うん。
 この事は後回しにしよう。そもそも何しろってんだ。
 よくよく考えてみれば、俺もある意味仲間……なのかね。
 そう思い、白の言う事について考える。
 おっさんは下にさっさと行きやがった。個人宅だし、眼を気にする必要はない。
 色々やるとしよう。

「寝るのなんかまだ後でいい。目もない事だ、水風船とかと違い人前で出来ないこと進める。巻物読んで知識叩き込むぞ。技術的に出来なくても、少しでも早く覚えといたほうが得だ」
「じゃあ、知識だけで螺旋丸……でしたか? そっちはやらないんですか?」
「それも一応やる。知識って言っても、いっぺんに入る量は限界あるからな」

 言いながら自分の荷物の中から必要な物を取り出す。
 親からの巻物、教科書、風船等を出す。
 今まではおっさんと同じ部屋だった。ある意味、今日が白への教えの始まりといって言いだろう。
 そして、自分の基礎以上の事を始める事も。
 そうだな、まず最初は、

「来い、白」
「はい、イツキさん」


 巻物を開くための登録からにしようか————






 
 

 
後書き
———ガタ、ガタガタガタガタ
———アハハハハハハハ
———タン、タン、タタタタタタタタタ

「風が強いですね」
「……白、早く寝とけ」

出てきたお茶とかの名前は適当です。それらしいの適当に付けました。意味はありません。
家のネタも思いついたから入れました。言及するかしないかは多分気分しだい。多分なんも書かない気がする。

白が女性です。まあ、今さらですが。
本当はもっと後、具体的には四年後ぐらいに知るって感じにしたかったんですが、一緒に住んでてそこまで知らないのはあり得ないということで入れました。

後、自己評価が低い相手には少しキツいこと言った方が良いし、自分より上だと認識させられるらしいですがどうしようか悩み中。もうちょい所々で少し辛辣な言葉入れた方が良いかなぁ…

レギオスの方書いてたら、なんか一万字超すのがデフォになってしまいました。書いててビビった。
もう少し途中を書かなければいいのだろうけど、なぁ……
レギオスの方は地の文での情景描写を。こっちでは地の文での思考描写が多い気がしますが、抜いたら抜いたでなんか違和感あるし。
力量を上げたい……

次回っから色々やります。巻物の罠がどんなのとか、登録の仕方とか足だけ木登りとか多分その辺。

誤字、脱字。並びに僕っ娘の呼び方などについて何かあれば感想にてお願いします。
 
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