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(仮称)Fate/Magician

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兎追いし第1話

 
 
 サーヴァントの召喚。その儀式をまさしく身を削って成そうとしている青年、名を間桐雁夜。彼はは冷たい蟲蔵の床に這い蹲りながらも、狂気じみた笑みを浮かべていた。
 視線の先には魔法陣。召喚の為の呪文は完全に頭に叩き込んだ。後は魔力を体内の蟲に肉体を喰わせて精製し、その魔力を魔法陣に流し込んでサーヴァントを召喚するだけだ。

 そして、その雁夜を見つめる、闇に浮かぶ目が二つ。
 その持ち主の名は間桐臓硯。雁夜の書類上の父親である。

 書類上の父親と言っても、実際には雁夜とその兄の間桐鶴野の代から数えて五代前の人物であり、かれこれ臓硯は五百有余年の時を魔術的措置と、肉体を蟲の集合体にする事で永らえてきた吸血鬼擬きの化け物妖怪である。


 そんな臓硯が、雁夜に対して口を開き、制裁と遊び心が混ざり合った、助言とも取れない事を口にする。

 曰く、貴様の魔力は一年調整しても少な過ぎるから、詠唱の間に一節付け加えてサーヴァントを強化しろ。と。


 知る人ぞ知る、バーサーカー召喚の詠唱である。無論、魔術に関しては兄以上に何も知らない雁夜が知る由もないが、過去に3回あった聖杯戦争にバーサーカーのマスターとして参加した者の末路は、魔力負担の増加から来る魔力切れの自滅である。
 臓硯は、其れを知っていて尚、雁夜にバーサーカー召喚の詠唱を唱えさせる。一重に雁夜に対する制裁と、雁夜が何処まで持つか、苦しむ様を眺めながら楽しむ為に。


 そんな臓硯の思惑を知ってか知らずか、雁夜はサーヴァント召喚の詠唱を唱え始める。









「素に銀と鉄。
 礎に石と契約の大公。
 祖には我が大老ゾォルケン。」



「降り立つ風には壁を。
 四方の門は閉じ、
 王冠より出で、
 王国に至る三叉路は循環せよ 」



閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)。」



「繰り返すつどに五度。
 ただ、満たされる刻を破却する」



「――――告げる」



「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。」



「聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。」



「誓いを此処に。
 我は常世総ての善と成る者、
 我は常世総ての悪を敷く者。」



「されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。
 汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者――。」



「汝三大の言霊を纏う七天、
 抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」










 暗い地下にはあまりにも不似合いなほどの光が溢れ、雁夜は心臓が位置する胸の辺りを抑えながら膝を着いた。

 ――やった……。
 と、異形となった顔の口元に小さな笑みを浮かべて雁夜は己が呼び出したサーヴァントを姿を捉えた。


 そして瞬時に、その表情は喜びから驚きへと変わる。


 魔法陣の中心にいる影は三つ(・・)。霞む視界ではぼやけた輪郭しか捕らえられないが、肌に感じる尋常ならざる魔力の圧力はそれが人智を超えた英霊に他ならないと告げている。

 だが、驚くべきはそこでは無い。
 雁夜は無事、サーヴァントを召喚して見せた。それだけならまだ良いだろう。だが、魔法陣内に居る影は三つ。五流魔術師の雁夜でもわかる異変。

 サーヴァントの数が可笑しい。
 原則として、サーヴァントは一人のマスターにつき、喚ぶ事が出来るのは一体まで。戦中に敵サーヴァントを自身のサーヴァントとする事例を除き、一人で複数のサーヴァントを運用するなど有り得ない。


 しかし、雁夜の中では然したる問題に成らなかった。

 自らの願い。自身の代わりに蟲に捧げられた哀れな少女を救い出すというそれに一歩近づいた所か一気に折返し地点まで前進したかも知れない。その思いは雁夜の心を奮い立たせるものの、身体は刻印蟲に食い荒らされており限界に近い。
 それでも薄れる意識にあらがうように雁夜は右手を自身のサーヴァントへと延ばす。叶うことなら、自分と桜を連れてどこかに逃げてくれと願いながら。


 しかし、限界だった肉体は言葉を発する前にあっさりと緊張の糸から離れ、今度こそ意識は深淵へと落ちる。……その最中、雁夜にはは誰かに抱き留められた。様な感覚があった。





―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





 数分後、三つの影が夜の街を駆けていた。その内二つの肩に白髪の青年、紫色の髪を持つ少女が担がれ、人間離れした速度でもって屋根から屋根へと移動しているのはこの冬木の街で行われる「戦争」に参加するべく召喚に応じた一人の英霊と二人の反英霊(・・・・・・・・・・・・)


 気絶間際の主からの言葉にならない願い。それは、雁夜が呼び出した英霊達の下に間違いなく届いていた。
 故に、喚び出された英霊の1人は近くにいた老魔術師の魂を喰って現界分の魔力を捻出。他2人はサーヴァントであってサーヴァントでは無いよく分からない存在だった為、マスターと彼の姪を担いで屋敷を出るなり屋敷の門に『内装工事中』の看板を置いて住宅街を駆け、商店街を飛び越し、川にかかる橋を通って新都へと到達した。彼らを追う者は居ないが、万全を期し、裏道からマンホールに入って下水道に身を隠す。


 そこまでして漸くマスターの命を果たしたと判断した英霊達はその場に座る。


 彼の腕の中にははは今にも死にそうなマスターと、幼い少女。彼等は二人をコンクリートの通路に寝かせると、魔力を使って現界している1人は現界に使用する魔力を自身の気で代用し、自身の力を行使する。

 そして、三つの内一つの影が自らのマスターである雁夜を中心に、数多の魔法陣を展開した。


 
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