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或る皇国将校の回想録 前日譚 監察課の月例報告書

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六月 野心なき謀略(二)

 
前書き
堂賀静成大佐  兵部省陸軍局人務部監察課の首席監察官 憲兵出身の情報将校

馬堂豊久大尉 同首席監察官附き副官兼監察課主査として課全般の庶務を監督する。五将家の雄、駒州公駒城家の重臣である馬堂家嫡流

三崎中佐    監察課企画官 課の総務一般と監察の企画運営を分掌している
        安東家の陪臣出身


平川利一中尉 陸軍局文書課広報室の主任 馬堂豊久の同期

大路少佐 皇州都護憲兵隊 長瀬門前分隊分隊長

岡田少尉 皇州都護憲兵隊 長瀬門前分隊の高等掛掛附き将校 分室の次席となる

平川利一中尉 陸軍局文書課広報室の主任 馬堂豊久の同期

大路少佐 皇州都護憲兵隊 長瀬門前分隊分隊長

岡田少尉 皇州都護憲兵隊 長瀬門前分隊の高等掛掛附き将校 分室の次席となる

 

 
六月野心なき謀略(二)

皇紀五百六十四年 六月十三日 午後第六刻 馬堂家上屋敷
馬堂家嫡男 馬堂豊久


 ――こればかりはどうしようもない事だ。 将家に産まれた以上、いやそうでなくてもいずれはこうした事が必要になるのは知識としては理解していた。
だがそれでも不意を突かれるのは嫌な事を忘れる人の心理故か。

「え?」
 そんな言葉の羅列を脳裏に過らせながら馬堂豊久はマヌケな声を上げた。
「どうだね?実にすばらしいと思わないか?」
 豊守が満面の笑みを浮かべて豊久が先月から急に見慣れた物になった人事書類に良く似たそれを差し出した。
「故州伯爵・弓月家――その次女だ。器量もお前にはもったいないくらいだ。
うむ、教養もあるし、家格も申し分ないどころか、本来ならば此方が頭を下げて頼みこむような相手だ」
 だが浮いた話からは擲射砲の射程よりも距離を取っていた砲兵大尉は人力で押される砲よりものろのろとした口調で相槌を打つだけだった。
「・・・・・・そうですね」

「・・・・・・それだけか?」

「え?・・・えぇ、そうですね。その、光栄・・・です?」

「です?ときたか!……なぁ豊久。お前はどうしたいんだ?
まさか既に心に決めた人が居るとか、どこかの店で入れこんだ女がいるとでも言い出すのか?」
豊守が呆れたように溜息をつくと豊久は顔を赤らめて否定した。
「いやいや!そんな事ないですよ!」

「だよな、お前の金遣いは趣味に全力投入しているのは知っている――なら何が不満だ?」
 豊守が怪訝そうに問う。
「いえ、別に不満と云うわけではないのですが――実感が持てないといいますか、今まで縁がないと思っていましたので」

「それはそれで問題だな、節度を保つ事と無関心でいる事は似ているようで全く違う。
無理に伊達男を気取れなどとは言わんが、お前も将家の跡取りであるのだ。それでなくてもお前自身にとっても重要な事だ、自覚していてくれ」
 呆れたように溜息をつく父に、豊久は決まり悪そうに頬を掻きながら尋ねた。
「そうですね、それで――弓月伯爵家でしたっけ?たしか皇家直参の名家でしたよね?」
 
「うむ、お前も駒州で初等教育を受けた頃にならった筈だな、諸将時代にも皇家の下で故府の支配を行っていた家だ。今代の当主である由房伯爵は警保局長の任についておられる」

「‥‥‥陪臣に嫁がせる家格じゃないですね。年が一回り違いますが、それこそ若殿様や分家筋の方――陪臣だとしても益満様を相手にするのが妥当ではないでしょうかね?」
 豊久の言葉に豊守は僅かに眉を顰めて答える。
「それなりに向こうにも事情があるのさ。だが―――真っ先にそうした話題にいかれるのも複雑なものだな」

「?」
 豊久は無自覚に首を傾げた。
「おかしいですか?」

「少なくとも健全だとは思わんよ。教え込んだ私が言うのもなんだがね」
そう云うと豊守は寂しそうに笑った。
「――まぁいいさ。とにかく、そう遠くない内に父上――大殿に同行して弓月家に行くことになる。正式に婚約を交わす前に顔見せだ。
そのあと、駒城の方々に許可を頂けばそれで当面は良い。後は一、二年したら機会を見て正式に結婚だ」
 楽しそうに――ある意味では将家の父親が行う最重要業務が片付くのだから当然だが――豊守が自身の一粒胤の肩を叩く。
豊久は無言で、だらりと汗を流しながら頷いた。
「え、あ、はい」



或る皇国将校の回想録 前日譚 監察課の月例報告 六月 野望なき謀略(二)



六月十四日 午前第十一刻 陸軍局庁舎人務部監察課執務室
監察課主査 馬堂豊久大尉


 日常の事務仕事を片付けながら、馬堂大尉は半ば呆けたように父から申しつけられた婚約の事を考えていた。
 ――うぅん、あの時は勢いで頷いたけど、どうしたものかなぁ。御祖父様に父上が組んだ企みだ、向こうに問題ありなんてことはないだろうからまずポシゃらないだろうし……

 本来なら仕事をすべき手を止めて目を覆いながら唸っている若造を見かねたのか、首席監察官の決済を必要とする書類を抱えた三崎企画官が話しかけてきた。
「おい、首席監察官殿はどこだ?」

「……え?あ、はい。首席監察官殿は兵務部の所に課長殿と一緒に打ち合わせに御行になっています。もうまもなくお戻りになるかと」

「あぁ、民友会の件か。どうしたんだ?貴様が上の空なんてのも珍しいじゃないか」
 
「……そうでしょうか?」

「おいおい、重症じゃないか。何かあったのか?」

「あぁ――はい、まぁその、色々と」

「女絡みか?」三崎がニヤリと笑うと豊久は目を逸らしながらもごもごと茶を二号層とする。
「――えぇと、まぁ、似たようなものでしょうかね?」

「あぁ俺も今はこんな腹だが、若いころは皇都で浮名を――」
と厚みのある顎を撫でながらとっくりと思い出に浸りだした三崎により分けた書類の束を押し付けてながら豊久は笑った。
「また今度拝聴させていただきますから、今はこっちをお願いしますよ、企画官殿」

 駄弁りに来たのか仕事に来たのか分からない三崎を追い払った矢先に今度は悪巧みの師にして上官である堂賀大佐が客人を連れて帰ってきた。

「副官、ちょっと来い」
「はい、首席監察官殿」
 堂賀大佐は彼の執務机の前に立った若い副官に二、三枚の報告書を渡し、言った。
「主査としての仕事だ。貴様も同期の友人から聞いているだろう?これをお前に任せたい」
 そこに記されていたのは、つい先日、平川中尉から聞いた件についてであった。
 ――おいおい、まさか俺が担当する事になるとはな。

「憲兵隊の高等係が記者連中を洗っていたのだが、省内にまで食い込んでいる事で、監察課と共同戦線を張る事になった。
すまないが一時的に副官を解任して改めて監察指導主査として任命する。この漏洩問題に対する特別監察を担当してもらう。これは決定事項だ」

「解任――ですか」
 不安の色をその声から聞き取ったのだろう。堂賀は口元の笑みを消し、豊久に真っ直ぐと猛禽の視線を送る
「あくまで一時的な措置だ。今、皇都に居る監察課員で外勤を経験しているのは私と貴様だけだ。私が動いては目立ちすぎる、記者連中を刺激するのは面倒に過ぎるからな。貴様なら漏洩の心配もないだろう」

「その点、私は若輩ですからね。注目もされてませんからね」

「拗ねるな、この馬鹿者」
 初老の首席監察官は丸めた書類で副官の肩を叩き、笑った。
「はい、御信頼にはしかとお応えします」

「取り敢えず元々の下準備は整っている。
下手を打たなければそう時間を置かずに対象者は割れるだろう。だが何かしら此方が立て込むようだったら適当な連中に引き継がせて副官業務に戻ってもらうぞ」

「はい、首席監察官殿」
 豊久はざっと渡された書類に目を通す。――先日、平川中尉から聞いたことがより詳しく書いてある。
「記者連中の方は元々あたっている高等係の方に任せるとしても
文書課は面倒ですね――短期間であたるとなると頭数が欲しいです。課内から何名か附けていただけますか?」
 
「いや、だが都護憲兵隊の長瀬門前憲兵分隊本部に分室を置き、分隊から数名を分室附きとして貴様の指揮下に置かせるつもりだ。人員配置は貴様の自由だから融通を聞かせる事だ。まぁどうしても必要だと思ったら憲兵本部に増援を要請するのも手だ。その前に私に話を通してからだがね。まぁ詳しくは明日、分隊本部に直接向かって聞いてくれ」
 長瀬門前は兵部省などの官庁街が多くあり、さらに陸軍軍監本部や桜契社本部がおかれている、そして長瀬門前分隊は大馬場町も管区に入っている。軍の要人達が行き来する政権中枢を管轄するだけあり、憲兵の警察署といえる分隊本部の中では最大級の規模を誇っている。
 その為、通常は憲兵分隊長には大尉が任じられることが多いが、慣例的に昇任――或いは退役を間近に控えた古参の少佐が分隊長を任じられている。
 だからこそ、本来は余程の事がない限り置かれない“分室”の設置ができるのだろう。
「はい、首席監察官殿。えぇと此方の業務の方はいかがなさいますか?」

「数日の間なら三崎企画官に多少手を貸してもらえば十分に回せる。私も内勤に専念する予定だから問題ないさ。現状だと現場の担当がごっそりと他州に出向いているから何人か戻ってくるまでは仕方ない。今のところは五将家連中の厄介事ではない分マシだろう、しっかりこなせよ」
 豊久は緊張した面持ちで頷いた。
「はい、それでは明日は直接、分隊本部に向かわせていただきます」


六月十五日 午前第八刻半 皇都憲兵隊 長瀬門前分隊本部庁舎
兵部省 陸軍局 人務部 監察課 主査 馬堂豊久大尉


「初めまして、分隊長殿。
兵部省陸軍局人務部監察課の馬堂です」
 二回り近く年の違う非主流派である中道派に属する弱小将家の出身者である大路少佐に馬堂大尉は敬意を込めて敬礼を奉げた。
 馬堂主査は旅団副官時代から三年近く習慣の様につけていた副官飾緒を外している。
「皇州都護憲兵隊長瀬門前分隊長の大路だ。貴官にこの案件を引き継ぐということで問題ないな?」
 非主流派といっても憲兵将校にとっては一国一城の主である憲兵分隊長――わかりやすく言えば警察署長である――の筆頭である長瀬門前分隊長を務めている事から分かるように、実際は堂賀静成大佐の腹心ともいえる男である。
だからこそ、まだ経験不足の自分を送り込んだのだろう、と豊久はあたりをつけていた。
「はい、分隊長殿。こちらに監察課分室を設置させていただけると、首席監察官殿から聞いておりますが」

「あぁ、高等係から数名、貴様の指揮下――分室附きにつけることになっている。経費は全て監察課持ちでな」
 にたりと笑った大路少佐に若い主査も苦笑して頷いた。とはいっても分隊以下の高等掛は基本的に特設高等憲兵隊の指導下にあり、ある意味では陸軍で最も中央集権化が進んだ組織である。
「ありがとうございます。これからしばらくはお世話になりますが、よろしくお願いします」

「貴様の監察は局内での活動が主になるのだろうが、情報を集約する場所を此処にしたのは正解だろう」と大路は不愉快そうに言った。

「課内はまだ安全だと思うのですがね――万一という事もあるでしょうから」
馬堂主査も生真面目な態度を崩さずに頷いた。

「あぁ、こちらの情報保全は私が責任をもって保障しよう。あぁこんなことを監察課の者に言っては危険極まりないな」
と大路分隊長は気さくそうに笑った。
「えぇそうですね、分隊長殿。自分も分室の長として連帯責任ですから。くれぐれもよろしくお願いします」
と豊久も声を上げて(笑)。
中年の分隊長と若年の監察課主査は視線を交わし、笑みを交わす。
「――念のために言っておくが高等係が分隊内の行動確認を済ませている。
堂賀首席監察官殿もそれを信用しているからここに分室を置く判断を下したのだろう。
これでだ、万が一ここで漏洩が起きたら隊本部と監察課直々に大掃除に出てくるだろう。
私も君も間違いなく冷や飯食いになるだろうな。安心しろとは言わん、私は部下を信頼しているが、記者連中も存外に手が長いようだからな。注意してくれ」

「はい、分隊長殿」

「宜しい、それでは後は高等係の担当者と仕事を始めてくれ、分室長」



同日 午前第九刻 皇州都護憲兵隊 長瀬門前分隊本部庁舎内監察課分室
分室長 馬堂豊久大尉


「午前第九刻をもって皇州都護憲兵隊長瀬門前分隊本部高等掛より岡田少尉以下六名。監察課 長瀬門前分室へ派遣となりました。分室長殿に敬礼!」
 大路分隊長の発令書を分室長の執務机の上に置き、高等掛の掛附の岡田少尉――それでも馬堂大尉と同年代であるが――が部下たちと共に敬礼を奉げる。分室長となった豊久が答礼を返す。

「お疲れ様です。現時点で分室に送付された記録類には目を通しています。漏洩先の調査に関しては、現状のまま岡田少尉に一任したいと思います。必要な予算はこちらで用意しますので早急な絞り込みをお願いします」

「はい、分室長殿」

「私は省内――文書課側から情報を収集します。課内の実態を可能な限り把握するつもりです。明日の朝第八刻に一度会議を行い、情報のすり合わせを行いましょう」
 衆民出身者で占められた高等掛では難しいだろう、と豊久は考えていた。

 ――根を張る前の外国の間諜相手や末端の軽挙妄動なら彼らでも十分なのだが、一端将家が絡むと彼らでは荷が重い。実務能力ではなく産まれや縁故の問題であるのだから性質が悪いな。



「――さて、どうしたものかな」
 高等掛の面々は既に皇都の街道を歩きながら監視先の事や、今日の新たな上官についての評価を行っているのだろう。

 パタリ――と捜査記録の帳面を閉じると、馬堂豊久はため息をついた。
「平川にあまり負担をかけたくないんだがな―――長引かせる方が辛いと割り切るか」
鞄にそれを終い込むと本部庁舎を出る。
 ――さてさて出戻りだ。少なくとも課内の事情を洗うには三崎企画官や堂賀首席監察官の協力が必要になるだろう。 省内勤務の経験がないのだからしかたないのだが。


同日 午前第九刻半前 兵部省陸軍局庁舎前
兵部省人務部監察課 監察指導主査 馬堂豊久大尉


「ん?あれは――」
 鉄路馬車――いわゆる乗合馬車から下りた豊久の目に大陸風の洋装をした初老の男とそれに付き従う官僚的な風貌の男達が飛び込んできた。
「誰だっけか……確かどっかで見たような――」
眉を顰めるが記憶の底から該当人物が浮かび上がる事はなかった。
「官僚か議員だろうが――この時期に陸軍局ってことは多分内務省のお偉方かな?
――広報で聞けばわかるか」
 これまた高級な馬車に乗り込んで去って行ったのを見送り、肩を竦めた。
内務省の中でも警保局は特に陸軍との結びつきが強い。とはいっても主に衆民将校の転職先、特に憲兵将校・下士官の受け入れ先として最大の部署であるからであった。
 そして、六芒郭に関係する一連の騒動で陸軍の代わりに暴動鎮圧にあたった事で警備部門において防具を身に着けた他はいたって軽装備(警杖やさすまたといった道具に鋭剣、そして威嚇用の短銃)の実働警備組織がつくられることになった。
陸軍から見れば一個大隊にもみたないものであったが、五将家にとっては内務省に軍縮であぶれた衆民将校を押し付けるようなものであったらしく、陸軍内でも珍しく一体となって熱心に斡旋を行っていた。
 おそらくはその関係なのだろう、と豊久は目星をつけていた。



「あの連中は予算委員会委員長とその取り巻き連中だよ」
 広報室に顔を出した馬堂大尉に平川中尉が茶をだしながら言った。
「予算委員長?随分と大物じゃないか。ってことは次期民友会幹事長だろ?」
 衆民院は立法機関でもあるが、事実上は各省に経済主体の衆民富裕層の代表者が陳情を行い、それに応えた官僚達が提出した法案の審議を行っている状況である。
むしろその権威の拠り所や発言権の強さの源泉は税制、予算編成の審議権にあるといっても過言ではない。
 予算委員会は各常任委員会の中でも一番序列が高く、このポストを経たら衆民院議長か、党幹事長、上手くすれば政党総裁のポストすら見える重役であった。

「その辺りで何やら考えているようだ。名前は舞潟章一郎。これなら思い出せるだろう?」

「舞潟――舞潟――あぁ!安東と組んで東州の投機で大もうけした奴か!
家の資産運用を任せている三倉屋も一枚噛んでいたな。何の用で来たんだ?」

「さぁな。それこそ豊長閣下に聞いた方が良いだろう。
俺の個人的な見解だと軍部――というより五将家と和解したいんじゃないか?
委員長はあの政党の中でも穏健派であり、かつ最大出資者だ。党を割る覚悟を見せてでも軍との対立を避けたいのだろうよ」

「そうか……まあ今は関係ない事だ。取り敢えずは仕事だな、手伝ってくれるのだろう?」
 ――この件は御祖父様へ一応報告するだけでいいか。
そう思い直し、豊久は目先の大仕事にとりかかる。

「あぁそうだな。こちらから今すぐに提供できるのはこのくらいだ。
大した情報ではないが、そちらのものとすり合わせれば存外に使えるかもしれん」

「これは――広報室の予定表か」

「あぁ、直前の予定変更や、どれを伏せるつもりだったのかも書いてある。
広報室の関係部署だけしか閲覧できない機密文書だ――いや、だった。かな?
幸い致命的な情報はまだ無事だが、一度腐ったら崩壊は早いものだ。このままじゃ怪しいものだよ」
 常の快活さを感じさせない倦み疲れた口調で語った
「その為の監察課だよ。官房の監察官室まで出張ってきたら面倒になる。そうなる前に処置するんだ」
 そう云いながらも豊久は渡された書類に素早く目を通す。

官房の監察官は陸水の両軍の士官ではなく、法務局出身の法務官僚が筆頭となる。
法務関係は必然的に弓月家のような五将家からは中立的な立場にあるものが一定の勢力を保っている。
また、衆民階級の者も技能さえあれば入り込めることもあり――再就職先も充実しているので人気が高い――五将家の影響力は高くはない

「――成程、やはり今のところ、記者連中に抜かれているのは発表予定だったものだけか」
 パサリ、と綴じられた書類の束を戻し、豊久は思案しながら言った。

「あぁ、だから機密に触れていない、記者対策や広報企画を担当している下位の衆民将校達が疑われている」
 
「だろうな――」
口には出さないが豊久も高等掛が彼らを徹底的に調べているのを黙認している。
なにしろ、言い方は悪いが将家の将校なら余程の事がなければ順調に潤う事ができた。
特に中央に入り込めれば、五将家の懐が痛まないこともあり、給与や手当だけでも相応のものになるのであった。
 ――無論、それでも欲を出す馬鹿は居るのだろうが
「とりあえず今日はこれを分室に持ち帰って精査する。向こうの分室員達と情報をすり合わせるよ。本格的な監察は明日からだな。
――協力してもらうぞ、平川主任」

「あぁ、分かっているさ。よろしく頼むよ。分室長殿」
馬堂大尉は同期の中尉と視線を交わし、頷きあった。
 
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