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皇太子殿下はご機嫌ななめ

作者:maple
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第22話 「奴が来る(シ○アじゃないよ)」

 
前書き
とうとう妖怪がでてくるぅ~。
ある意味、皇太子殿下にとって最大の敵です。 

 
 第22話 「本日、未熟者」

 軍務尚書エーレンベルク元帥である。

 わたしと帝国軍統帥本部長シュタインホフ元帥そして、宇宙艦隊総司令長官ミュッケンベルガー元帥の三名は、顔を付き合わせていた。
 軍関係も忙しくなってきた。
 ざまぁ~みろと笑う宰相閣下の高笑いが聞こえてくるようだ。
 宰相閣下のご命令にて、地球討伐軍が派遣される事になった。
 その数、二個艦隊。
 内訳としては、攻撃用に一個艦隊。調査用に一個艦隊。
 憲兵から、装甲擲弾兵まで師団単位で派遣される。

「連中の策謀を徹底的に調べ上げよ」

 この落とし前は、兆倍にして叩き返すぞ。
 なんなら地球ごとふっとばしてもかまわん。閣下のお言葉だ。
 皇太子殿下は麻薬が大嫌いだそうだ。
 我らも嫌いではあるが、あそこまでの怒りを持っていない。
 いや、持てないと言った方が、より正確だろう。
 心のどこかで、他人事のような気がしている。
 それが余計、皇太子殿下の怒りに火をつけているのだ。

「フェザーンに対するなさりようも、サイオキシン麻薬が関わっていたからだろう」
「それさえなければ、もう少し緩やかなものになったのではないか?」

 オーディンの街中で、ルードヴィヒのあほーっと叫んでも、皇太子殿下なら、ぼけーっと言い返して終わらせるだろう。
 話はそこで終わりだ。
 捕まる事も無ければ、尾を引く事も無い。
 ご自分の事には寛容になられる。

「街中での噂もまことしやかに、囁かれているそうだ」
「宰相閣下に対するものだな。どんなものがあるのだ?」

 聞いたところによると、口調が悪い。というのが大半らしい。口喧嘩はしたくない。負けそうらしい。帝都の貧しい者達からすら、口調で負けそうと思われる宰相というのは、如何なものか?
 後は、ザ○は格好良いか、悪いかという話が二極化している。

「だいたい、ザ○ファイトというのはなんなのだっ!!」
「そうだ。あの話が発表されていらい、貴族どもが争って、購入したMSの改造に乗り出しているぞ」
「出場規則は決まっているのだ。金に飽かせて改造したとしても、試合そのものに出れないかもしれんのにな」
「どこぞのバカな貴族が我こそは、帝国の騎士と名乗っているらしいぞ」
「馬鹿が、帝国騎士(ライヒ・リッター)はすでにあるわ」

 いやいや、そんな事よりも。
 叛徒どもに対する今後の計画だ。

「また選挙とやらが、近いらしい」
「またかっ」
「あれがあると、出征してくるからな」
「皇太子殿下が、同盟の選挙予想を研究させておるらしい。あいつとあいつが当選したから、出征してくるだろうとかな」
「情報部に何をさせているんだ」
「だが、当たるところが怖いぞ。しかも噂を流して、選挙妨害までさせておるらしい」
「その上、こっち側から人を選んで、選挙に立候補させようとまで、仰っておられる」
「本気でやる気なのか」
「やるんじゃないかなぁ~」

 戦争をやるまでもなく。同盟を滅ぼそうとしておられるのだろうか?
 軍としては出るな。と言われれば、おとなしくしているしかない。

「出征時期はこちらで決める。勝手に動くな、だそうだ」
「ま、動くときは苛烈になられるだろうが」
「イゼルローン周辺での遭遇戦ぐらいらしい」
「小競り合いか……」
「捕虜交換もあるからな」
「あれが終わるまでは、奴らもおとなしくしておるだろう」
「そうか? 私は出てくるような気がしているのだが」
「ミュッケンベルガー元帥はそう考えているのか?」

 ミュッケンベルガー元帥が、深刻そうな表情を浮かべ頷いた。
 どういう事かと問うわたしに向かい、

「宰相閣下は戦争に消極的だと思われているのだ。曰く、臆病だとな」
「馬鹿か、そいつは。本気で臆病ならば、フェザーンにも地球にも手を出そうとはなさらぬ。いや、それ以前に、改革などなさらぬわ」
「下手に改革などすれば、帝国中の貴族を敵に回していたのだぞ。それだけの覚悟がおありになる皇太子殿下が臆病だとっ?」
「見たいものしか、見ておらぬのだ」

 ■自由惑星同盟 統帥作戦本部 ジョアン・レベロ■

 目の前にシトレが苦虫を噛み潰したような、表情を浮かべ腕を組んでいる。

「本気でイゼルローンを攻略するというのか?」

 ぼそりと呟く言葉には嫌悪が滲んでいた。

「なぜ今なのだ?」

 もう一度、囁くように問う。
 士官学校の校長から現場に復帰して初めての作戦行動だ。
 それがイゼルローン攻略。
 苛立つのも分かるというものだ。

「選挙と支持率。こう言えば分かるか?」
「仮初めの休戦状態が終わるな」
「ああ、あの皇太子殿下が作り出した休戦状態だ。一年、いやもうすぐ二年になるというのに、たったそれだけしか持たなかった」
「しかも同盟側からそれを破るのか? 帝国に戦争理由を与えるようなものだ」
「戦争をするより、捕虜交換と和平交渉をした方が支持率も上がるだろうに、な」
「まったく。どうしようもないな」
「あの馬鹿女め」

 今の状況がまったく分かっていない。
 もし仮にあの皇太子殿下が本気になったら、フェザーンからも攻めてくるんだ。
 帝国は着実に改革を進めて、有利な状況を作り出しているというのにっ。
 同盟は何も変わっていない。
 変える事すら決められない。後手後手に回りすぎている。

「軍人である以上、行けと言われればどこへでも行くが」

 諦めが漂うような口調だな。
 イゼルローンを取れたとしても、それでどうするのか?
 フェザーン回廊から帝国は攻めてくるだろう。
 そしてこちらは帝国辺境を攻めることはできない。いま帝国辺境は改革の真っ只中だ。それを潰されでもしたら、辺境の人間の憎悪は同盟に向かってくるぞ。
 占領したとしても、レジスタンスになるのは目に見えている。

「考えてみれば、うまい手を使うな」
「辺境開発と同時に、同盟に対する盾にしようというのだろう」
「例えば、地味だった女性が綺麗になってきても、手は出せないというところか」
「手を出せば、怖い男が出てくるし、女性自身もこちらを嫌うだろう」

 いちゃいちゃしているところを見せ付けられるだけだ。
 それならいっそ、見ない方がいい。

「ところで話は変わるが、あのヨブ・トリューニヒトが、フェザーンの弁務官として向かうという噂は本当なのか」
「ああ、本人が希望したらしい。主戦派のくせに何を考えているんだか」
「分からないという事は怖いな」
「ああ」

 ■宰相府 ルードヴィヒ・フォン・ゴールデンバウム■

「くそっ、やられた」

 思わず頭を抱えちまったぜ。
 まさか奴が、フェザーンに来るとは予想もしてなかった。
 いや、そうか……国内問題から逃げやがったな。
 一年か二年、身を隠すつもりだろう。フェザーンに。
 レムシャイドとシルヴァーベルヒのコンビで、あのヨブ・トリューニヒトの相手はちょっときついか? 手玉に取れると思われたのだろうな。しかもある意味、フェザーンは安全だ。捕虜交換もある。手柄も立てやすい。条件が揃ってやがる。

 俺もまだまだ、未熟だ。あ~情けねえ。
 くっそぉ~誰を助っ人に向かわせるか、誰だ。誰がいる。
 申し訳ないが、オーベルシュタインぐらいしか、思いつかねえ。あいつもいま、内務省で嬉々として働いてるというのに、陰謀家としての能力が必要になってきた。
 ヨブ・トリューニヒトの為に、舞台を整えてやったようなもんだ。
 むかつくー。
 あの妖怪が……とうとう出てきやがった。
 同盟で権力争いしてりゃ~いいものを。それだったらやり様はいくらでもあるんだ。

「俺がフェザーンに行く訳にはいかんよな」
「皇太子殿下? 何をそんなに心配しておられるのですか?」

 アンネローゼが首を傾げる。その隣でアレクシアも同じように首を傾げていた。

「化物級に性質の悪い奴が、同盟側の弁務官になりやがった」
「化物級ですか?」
「本気で対抗しようとしたら、リヒテンラーデのじじいを持っていくしかない。それぐらいの奴だ」

 はっきり言って、あれと比べたらラインハルトなんぞ目じゃねえ。
 原作でもあいつに勝てた奴はいないんじゃないのか?
 ロイエンタールが銃で撃ってお終いにしたが、直接手が出せない以上、厄介すぎる相手だ。選挙妨害して、落選させたのが、ここに来てやばい問題となって返ってきた。

「とにかく、内務省に出向しているオーベルシュタイン“少将”を呼べ」
「少将ですか?」
「ああ、フェザーンに向かわせる以上、それぐらいの権限は持たせてやらんと、どうしようもなくなるだろう。これでも低いと思っているぐらいだ。本当なら元帥ぐらい与えてやりたい」

 三対一になってくれよ。
 仲違いすんなよ。
 三人寄れば文殊の知恵とも言う。それだったらなんとかなるか……。
 第五次イゼルローン攻略戦が始まるというのに、厄介な話だ。
 これでヤンまで出てきやがったら、今までのようには行かなくなるな。やつも士官学校出たてだろうからまだ、大丈夫だろうが……。

「ちっ、くっそぉ~。どうしてくれようか」

 本気で俺が直接、相手できりゃぁ~な。
 帝国には指揮官と司令官は豊富にいても……いや、そうか、発想を変えりゃいいんだ。

「ブラウンシュヴァイクとリッテンハイムを呼ぶんだ。大至急な」

 そうだ。宮廷で陰謀を繰り広げているような連中に潰しあいさせよう。
 まともに相手をしようとするから、おかしくなる。
 足の引っ張り合いや、嫌がらせは得意だろう。
 ヨブ・トリューニヒトもバカな貴族の相手は、いささか辛かろう。
 バカな貴族は予想の斜め上を行くからな。
 利用するつもりが、かえって足を引っ張られる。
 せいぜい馬鹿の相手を務めてくれ。
 頼むぞ、ヨブ・トリューニヒト。 
 

 
後書き
皇太子殿下は“利口”な人じゃありません。どっちかというと“馬鹿”それも大馬鹿です。
皇太子殿下を主役にしようと考えたさい、どういう性格にしようかと、悩みました。
わたしは適当な曲から、主役のイメージを作るんですよね。
皇太子殿下の元になった曲は、中島みゆきの「本日、未熟者」です。
もっとも、こういう性格でもない限り、自ら立とうとはしなかったでしょうね。
酒池肉林だってやろうと思えば、できたんですから。父親みたいに。
 
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