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ソードアート・オンライン~漆黒の剣聖~

作者:字伏
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フェアリィ・ダンス編~妖精郷の剣聖~
  第六十二話 襲撃者と乱入者

「双方、剣を引け!!」

シルフとケットシー陣営とサラマンダー陣営の間に割って入ったキリトの馬鹿でかい声が蝶の谷に響き渡る。その声にリーファは下降しながら首を竦める。それと同時にこの状況下であれだけのことができるどきょに呆れていた。

「サクヤ」

緑衣の集団の近くに降り立つと、浴衣を着こなしている女性プレイヤーに声をかける。その声にサクヤと呼ばれたプレイヤーはいるはずのない人物を見て眼を丸くした。

「リーファ!?どうしてここに――!?い、いや、そもそもこれは一体――」

「簡単には説明できないのよ。一つ言えるのは、あたしたちの運命はあの人しだい、ってことだわ」

二転三転する状況に混乱しているサクヤ。その隣では呆然としながらもリーファ達の会話を聞いているケットシー領主アリシャ・ルーの姿もあった。

「・・・何がなにやら・・・ところで、リーファ・・・そちらにいるのは?」

「あ、えっと、彼は・・・」

サクヤの問いに言葉を詰まらせるリーファ。彼女たちの会話を聞いていたソレイユは言葉を詰まらせたリーファのために助け舟を出した。

「初めまして、おれの名はソレイユ。あの黒いのの知り合いだ」

キリトを指差しながら場違いな自己紹介をするソレイユにサクヤとアリシャ・ルーは困惑しながらもサクヤが代表して自己紹介を返した。

「・・・シルフ領主を務めているサクヤだ。こちらはケットシー領主のアリシャ・ルーだ。ソレイユ君と言ったかな――一つ聞きたいのだが、インプの君がどうしてここに?」

「ああ、それは――」

そこまで言いかけてソレイユはサラマンダー隊の指揮官らしき人物と対峙しているキリトの方へと視線を向けると、ほのお色の短髪を剣山のように逆立てた屈強そうな戦士が出てきた。それを見たソレイユは――

「やれやれ」

そういって翅を広げてキリトのいる方へ飛んでいくソレイユ。地上ではリーファが何か言っているが特に気にしない。サクヤとアリシャ・ルーは呆然とするしかなかった。



「指揮官に話がある!」

そのあまりにもふてぶてしい態度で言い放つキリトに圧倒されたのか、はたまた別の理由があるのかランスを構えていた陣営が半分に割れ、その間をほのお色の短髪を剣山のように逆立てた屈強そうな戦士――ユージーンが進み出てきた。

「――スプリガンとインプがこんなところで何をしている。どちらにせよ殺すには変わりないが、その度胸に免じて話ぐらいは聞いてやろう」

「俺の名はキリト。スプリガン=ウンディーネ同盟の大使だ。この場を襲うからには、我々四種族との全面戦争を望むと解釈していいんだな」

その言葉を聞いたリーファの背中に冷や汗が流れる。キリトの言葉を聞いたシルフ、ケットシー両陣営の領主も愕然とした表情でリーファに視線を向ける。その視線を向けられたリーファはというと、何やら必死にウインクしている。

「ウンディーネとスプリガンが同盟だと・・・?」

「ああ、そうだ」

はっきりと断言するキリト。それを横で聞いていたソレイユはシェイドとドロシーにこのことを報告しよう、などと考えていた。

「仮に貴様が同盟の大使だとしよう。だが、それならばなぜインプと一緒にいる?」

ユージーンの質問の意味が解らないキリト。それを小声でソレイユが補足した。

「インプとウンディーネって仲悪いのよ」

「・・・ま、まじ?」

「まじ。まぁ、ここは任せな」

そう言ってソレイユはキリトの前に進み出て口を開いた。

「おれはソレイユ。ちょっとした個人から運搬の依頼をされてな。今ここにいる」

「運搬の依頼だと?ならばなぜスプリガンと一緒にいる?」

「こいつとは現実の方で知り合いなんだ。アバターの方もプレイヤー名の方も現実で聞いていたからここに来る途中たまたま出くわして。目的地が一緒何でパーティーを組むことにしたんだ。ちなみに、同盟の大使だっていうのは今知った」

嘘と事実を混ぜながら話すソレイユ。ソレイユの口から吐き出された言葉に呆気にとられるキリトだったが何とかポーカーフェイスを保っていた。

「・・・では、貴様が受けた依頼というのはなんだ?」

ユージーンの質問にソレイユはアイテムウインドウをいじってある麻袋を実体化させた。

「ここには五百万ユルドが入ってる。これをこの同盟に役立てたいと言ってきた人物がいてな。色々あって腕を見込まれてこれを運ぶことになった」

「ほう。では――」

「では、貴方を倒せば五百万ユルドが手に入るという訳ですか」

ユージーンの言葉を遮り声を上げたのはユージーンよりも小柄だが、全身を覆う鎧と手に持つ武器から相当な熟練者だということが伺えた。

「ブレイズか・・・今は話の途中だ」

「ええ、承知しています。そちらのスプリガンの方の言うことの真偽を図ることは今はかないません。もし、彼の言うことが本当のことだったら我々は色々と劣勢に立たされてしまう」

そこで一拍置き、ブレイズと呼ばれたプレイヤーはソレイユを見据えながら口を開く。

「ですが、インプの方は別です。彼は個人からの依頼だと言っていました。ならば、彼を倒してしまえば我々の立ち位置は変わらず、しかも五百万ユルドも稼げるわけです。くっくっくっ馬鹿ですねぇ、そんなこと喋らなければいいのもを」

ソレイユのことを嘲笑するブレイズ。だが、その対象となっているソレイユ自身は怒るわけでもなく、呆れるだけでもなく、ブレイズのことを見据えていた。そのことがブレイズの癪に触ってしまった。

「ちっ・・・構えなさい。目標はあのインプです」

舌打ちをして自らの後ろに控えていたサラマンダーたちに合図を送り、その命令に即座に五人のプレイヤーがランスを構えた。ユージーンが何かを言う気配はない。
だが、それを見てもソレイユは特に気にする様子はなかった。五百ユルドが入った麻袋をアイテムウインドウに仕舞い、悠然とした態度でブレイズ達のことを見据えている。その態度がますます気に入らないブレイズ。

「「「「・・・・・・」」」」

誰もしゃべらず緊張を含んだ静寂が辺り一帯を支配した。ブレイズはゆっくりとした動作で腕を上げ――

「いきなさい!!」

一呼吸おいて腕を振り下した。下された合図とともに重厚な鎧を着た五人のサラマンダーがソレイユに向かって突進していく。それを見たキリトが剣の柄に手を伸ばしたが、それをソレイユは静止させ下がるようにジェスチャーする。何か策があるのかと思いキリトはおとなしくソレイユに従って下がった。
シルフには劣るものの猛スピードで突っ込んでくるサラマンダーたち。迎え撃つソレイユはゆっくりとした動作で鞘から刀を抜いた。そしてサラマンダーたちとソレイユが交差した瞬間――

ヒュイン

という音が五回鳴った。すれ違ったサラマンダーたちは動かず、ソレイユは刀を鞘に納めていた。一瞬の動作で何があったのかわからない者がほとんどの中、止まっていた時間が動き出すようにサラマンダーたち五人は何かが砕ける音と共にポリゴン片となっていった。

「「「「「―――なっ!!!??」」」」」

驚きの声が辺り一帯に響く。そこには当然ブレイズの声も含まれていた。

「な、なにをした!?」

動揺しながらもソレイユにブレイズは問い詰める。

「五回剣を振るっただけなんだけど・・・」

ソレイユはだけ、と言っているがその振るわれた剣の速度が尋常ではなかった。何気なく言うソレイユだが、ブレイズからしてみれば実力差を知らしめられた気がしてならない。

「さて、次はお前か。いきなり斬りかかってきたんだし、当然斬られる覚悟ぐらいあるんだよな?」

眼をとがらせてブレイズを一瞥しながらそう言うソレイユ。その視線を受けたブレイズはひぃ、と悲鳴を上げてしまう。先ほどの戦闘で決着がつくものだと考えていたブレイズ。そんなブレイズがソレイユのいうような覚悟など当然持っているわけがない。見下した態度が一変し、逃げ腰になってしまっている。だが、そんなことをかまうソレイユではない。ブレイズのことを斬ろうと翅を羽ばたかせた。

「ひ、ひぃぃぃ!!?!?」

なさけなく悲鳴を上げながら背を向けて逃げようとするブレイズ。その姿を距離を詰めながら見ていたソレイユは静かに溜息を吐いた。

「・・・おいおい」

実力あるプレイヤーだと思ったのだが、どうやらそれはソレイユの見当違いだったみたいであった。やはり、人というのは外見だけでは判別できないらしい。装備がいい=熟練者の方式は成り立たないのである。
そして、ブレイズが逃げるよりも早くソレイユが間合いにブレイズを捉え、首に向かってエクリシスを一閃させた。当然、集中できる時間があったため刃身一体を発動することも忘れない。

――パリィン

綺麗に跳ね飛ばされた首と顔がない胴体がポリゴン片となってリメインライトと化した。それを見たソレイユはひとつ疑問に思ったことを口にした。

「つか、誰も助けようとは思わねぇのな」

「ああいう奴は鬱陶しいだ。本来ならこの部隊に編成されたわけではない。逆に足手まといがいなくなって清々している」

「・・・ああ、そう」

何とも言えない反応をするソレイユ。仲間からも見捨てられていたブレイズのことを哀れに思いながらキリトがいるところまで戻っていく。そして、キリトに目配せし本題へと戻る。

「それで、どうするんだ?全面戦争を望むのか?」

「・・・たいした装備も持たず護衛もいない貴様の言葉に説得力と言うものが欠けているぞ」

そう言うとユージーンは背中の巨大な両刃直剣を抜き放って、再び口を開いた。

「オレの攻撃を三十秒耐えたら、貴様を大使と信じてやろう」

「ずいぶん気前がいいね」

そう言ってキリトも背中の剣を抜き放つ。ソレイユは静かにキリトから離れ地面に降りたつ。と、そこへケットシー領主アリシャ・ルーが近寄ってきた。

「キミ、なかなか強いネ。しかも、メイジが多いインプなのに剣士なんて・・・もしかして、インプの秘密兵器だったりするのかナ?」

「いんや、しがない一プレイヤーさ。それより、はじまるみたいだぞ」

上を見上げると、ユージーンがキリトに斬りかかりに行っていた。迷いのない踏込を見たソレイユは隣で闘いを傍観しているアリシャに聞いてみた。

「あのユージーンってやつは強いのか?」

「強いってものじゃないヨ!種族九王がいなくなってからは最強の一角に名前が挙げられるほどだヨ!」

「ふぅーん」

アリシャの言葉に隠された意味は、≪種族九王≫は少なく見積もっても彼以上の実力であるということだろう。だが、決してユージーンが弱いという訳ではない。ただ単に種族九王が強すぎるだけなのだ。
それを理解したソレイユはそっと視線を上にあげる。そこでは苦戦を強いられているキリトの姿があった。

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

結果から言うとキリトが辛くも勝利を収めた。ユージーンの持つ≪魔剣グラム≫のエクストラ効果を見事破り勝利を手にしたのだが、なかなか見ごたえのある試合だった。ユージーンが負けたことにより、あたり一帯を静寂が支配する。そして――

「見事、見事!!」

「すごーい!ナイスファイトだヨ!」

というシルフとケットシーの領主の賞賛が響き渡ると、その後ろに控えていた両陣営のプレイヤーだけでなくサラマンダーたちも歓声を上げた。

「や、どーもどーも!誰か蘇生魔法を頼む!」

「解った」

キリトの声に反応したのはシルフ領領主サクヤだった。サクヤはキリトの言葉に頷いた後、ユージーンを蘇生させるために翅を羽ばたかそうとした時――

「おいおい、聞いてた話とずいぶん違うじゃねぇか」

上空からソレイユとユージーンの聞き覚えのある声が響いた。
 
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