占術師速水丈太郎　　ローマの少女

第十二章

「まずはこの被害者の身元を調べてみましょう。それが何かのヒントになると思います」
「では」
「はい」
　警察を呼んだ。そして被害者の遺体を回収してもらいすぐに身元を調べてもらった。身元がわかったのは翌朝のことであった。二人はほんの僅かな仮眠の後でその話を受け取った。丁度朝食を終えたばかりであった。トーストとコーヒー、それにスクランブルエッグの軽い食事であった。
「いいタイミングですね」
「全くですね」
　二人が捜査の為に提供されているあの部屋に入ったところで警官が資料を持って来た。そこには昨日の被害者に関する様々なデータが書かれていた。
「名前はジュゼッペ＝ガルトーニ」
「工場の従業員ですか」
「それが何故深夜に駅にいるかと思えば」
「そういうわけだったのですね」
　二人は資料のある部分を見て納得した。そこには彼の過去の経歴が細かく書かれていたのである。無論イタリア語であるが速水には何の問題もなかった。
「前科三犯ですか」
「しかも全てが婦女暴行。少女を狙った」
「今回もまた同じだったのでしょうね」
　速水は資料を見ながら冷淡な声で述べた。変質者に対する嫌悪がその冷淡な声に垣間見られた。
「その相手を探しているうちに」
「彼女に命を刈られたと」
「自業自得と言えば自業自得です」
　速水はまた冷淡な言葉を出した。
「どのみちいずれは自身の罪が重なり破滅していたでしょう」
「それが昨日だったというわけですか」
「そういうことです。ですが」
　彼はここで言った。
「彼女が異形の存在であり、そしてよからぬ者であることは変わりません。あの妖気はまさしく」
　モンタージュからも感じられたあの妖気を思い出す。それは速水でさえも身震いせずにはいられないものであったのだ。
「やはりこのまま放っておくことは出来ません」
「では」
「はい、今日も捜査の続きです。ですが」
「どうして尻尾を掴むか、ですね」
「今のところ手懸かりと言えるものはないと言っていい状況です」
　速水はそう言ってその首を傾げさせた。
「参りましたね」
「その場合はいつもどうされますか？」
　アンジェレッタは首を傾げさせた彼にそう問うた。
「貴方の占いでは」
「私の占いは一つしかありません」
　それに対する速水の返事はこうであった。
「カードですよ」
「では今もそのカードを」
「はい。占ってみましょう」
　懐から二十二枚のカードが自然に出て来た。その中の四枚がへの字を描く様に並んだ。タロットカードの占い方の一つである。
「大三角です」
「それで占うのですか」
「ええ、今回はね」
　速水は答えた。
「これが占うのは過去、現在、未来、そして最後の予想です」
「その四つですか」
「はい。まず過去は」
　への字の三角の右を取る。そこにあったのは悪魔であった。
「やはり相手は魔性ということですか」
「そうですね」
「そして二枚目は」
　二枚目は左のカードであった。そこにあったのは死神の逆であった。
「また死神ですね」
「これはいい意味と思います」
「そうなりますか」
「はい。カードは転換を表わしています」
「転換というと」
「おそらくは今のこの占いのことなのでしょう」
　速水は考えながらこう述べた。
「つまり今こうして占っているというのはかなりいいことだったということです」
「成程」
「おかげで道が見えようとしているのですから。それで」
　三枚目のカードは中央であった。三角の頂点である。
「未来です」
「未来は」
「・・・・・・ふむ」
　三枚目のカードを見てまた考える顔になった。