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東方虚空伝

作者:TAKAYA
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第二章   [ 神 鳴 ]
  十四話 世界が色を変えても…

 永き時が流れた。
 生命が生まれ繁栄し衰退し滅亡する。記録には残らない様々な生命の歴史が刻まれていった。時には巨大なトカゲ達が我が物顔で歩き、時には不定形の知的生命体が支配者となり、時には人の様な者が跋扈した。
 そんな生命のサイクルも落ち着きを見せ始めこの星に新たな生態系が構築されていく。木々が虫が動物が鳥が魚が人がそれぞれの王国を築いていった。
 それぞれの存在がこの星の支配者を気取り混沌とした秩序ある世界を創っていた。また一つこの星に命の記録が刻まれていく。




□   ■   □   ■   □   ■   □   ■   □   ■




 深緑の森の中そこに住まう生物達が穏やかな時間を過ごしていた。清流のそばには水を求め獣達が集まり、木々には数種類の鳥達が集まり泣き声でコーラスを奏でている。森の木々をそよ風が優しく撫で葉の擦れる音が爽やかなメロディーとなって流れていく。
 そんな風に穏やかに過ごしていた動物達が一斉に何かに気付き全速力でその場から去っていく。野生動物の危機察知能力は極めて高い。自身の命の危機には敏感に反応する。迫る脅威から全力で逃げる。獣達は地を駆け、鳥達は空を目指す。
 直後、木々を薙ぎ倒しながら森を駆けてくる者が現れる。一言で表せばただ異形。全長はおそらく10メートルを超えている。虎の様な顔を持ち、蛇の様な体、そして百足の様な足を持つ怪物が森を破壊しながら駆けていく。
 こんな者が迫ってくればどんな生物も死を覚悟するであろう。逃げる以外の選択はありえない。動物達の行動は実に正しかった。
 しかしこの異形は動物達など気にもしていなかった。いやする余裕などなかった。この異形もまた自身に迫る脅威から逃げていたのである。他の生物からすればそんな事はありえないと思うだろう。この存在が一体何から逃げるというのか?
 それは空を飛び異形を追っていた。2メートルにも満たない小さな存在。姿形は人である。黒い和風スーツの上に紺青色の陣羽織風ロングベストを羽織り黒いスラックス風の物を穿いている。
異形からすれば矮小な存在だ。
 しかし動物達が異形から本能的に逃げたのと同じで異形もまた本能的に逃げていた。あれは自分を害する脅威だと。逃げ続ける異形に追う者が言葉を吐く。

傲慢(ルシファー)

 するとその手に剣が現れる。それと同時に異形が何かに拘束された。異形の胴体を突如現れた3メートル近い断頭台が拘束していたのだ。そして断頭台の刃が無慈悲に落とされ異形は真っ二つに裂かれた。

「Ggyyeeeee!!!!!!!」

 裂かれた痛みに異形は絶叫を上げのたうち回り森に体液と血を撒き散らす。死の脅威に晒され生きる執念に駆られた異形はその口から追っ手に向け炎を吐き出した。並みの生物なら一瞬にして消し炭にするであろう豪火は中空に現れた巨大な盾によって防がれた。それでも異形は敵を殺す為に炎を吐き続ける。
 しかし異形は気付いていなかった。追っ手がすでに自身の後ろに回り込んでいた事を。

強欲(マンモン)

 傲慢(ルシファー)が砕け代わりに手に現れたのは刃渡り九十センチ程刃幅三センチで二センチ位の反りが入った太刀だった。その刀身は黒く文字の様な物が浮かんでいる。
 その刃を躊躇無く異形の頭に突き立てた。

「!?!?!?!?」

 雄叫びを上げようとした異形が不意に硬直する。少し痙攣するような動きをした後、塵となって消えていった。
 散っていく異形を眺めていた追っ手は踵を返し空へと飛び立つ。目的を果たし七枷虚空は帰路に着いた。




□   ■   □   ■   □   ■   □   ■   □   ■




 紅髪との戦いの後、独り地上に残された虚空だったが少しして自身の体の異常に気付いた。そもそもにおいて紅髪に吹き飛ばされた足が元の戻っている時点で気付くべきなのだが、まぁあの時は余裕が無かったのだろう。
 体の異常、それは高い生命力と再生力を持った事。再生と言っても紅髪の能力みたいに強力な物ではなく失った手足が少しすれば元に戻ったり傷の治りが早かったりする程度である。
 それでも人じゃなく妖怪に近い体質になったのは虚空自信も疑問だったがその疑問も少しして解決した。新しく使えるようになっていた剣、強欲(マンモン)の能力だったのだ。
 生命力など活力を奪う。それが強欲(マンモン)の能力。虚空は紅髪に止めをさした時これを使ったような気がするのでつまりは紅髪の生命力を奪ったのだろうと結論した。
 実は憶えていないだけで倒れた後に巻き込まれたメギドのエネルギーも取り込んでいたりする。ちなみにこの剣、生命力がありそうな物ならどんな物からでも略奪できる。生物だろうと植物だろうと鉱物だろうと。
 それから虚空は自分が生き続ける為にあらゆる物から命を略奪して生きてきた。本当に永い時を。他者の命を啜る化け物の様になり虚空の心も体のように変化してしまったのだろうか?
 帰路に着く虚空の眼は力なく物憂げだった。そしてその口から漏れた声は疲れ切っていた。

「………お腹空いたな。帰ったら何作ろうかな?」

 どうやら永き時も虚空の性格を変える力は無かったようだ。幾星霜を過ごし今に至った虚空はあの時と変わらぬ姿と心で新しき世界を過ごしていた。

 
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