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占術師速水丈太郎  ローマの少女

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第一章


第一章

              占術師速水丈太郎  ローマの少女
 夜のローマ。長い歴史を持つこの街の夜は深く、その中に様々なものを含んでいる。
 そこにいるのは魔物か悪霊か。はたまた別の存在か。闇の中で蠢く者達が確かに存在している。
「ふう」
 その夜のローマを一人の男が歩いていた。ごく普通の初老の男である。
「何か今日は冷えるな。まだそんな季節じゃねえってのに」
 肩を震わせながら赤ら顔で言う。彼は今明らかに酔っていた。
「さてと、今日は帰って」
 あれこれと帰宅した後のことを考えていた。
「シャワー浴びて、それから」
 何かと考えている時だった。不意に声がした。
「ねえおじさん」
「あん!?」
 声がした方に顔を向ける。するとそこには一人の着飾った少女が立っていた。
「何だ、お嬢ちゃん」
「一緒に遊んでくれない?」
 見ればその少女は茶色の長い巻き毛に黒い瞳、そして豪奢な絹の白いドレスと靴下、赤い靴を履いていた。白い、あどけないが美しい顔でそこに立っていた。
「今寂しいの」
「あのな、お嬢ちゃん」
 初老の男はその少女に対して言った。
「今何時だと思ってるんだい?」
 優しく諭すように。彼はそちらの趣味はなかった。そうした意味で彼はまともであった。
「今真夜中なんだよ。それで外を出歩くのはね」
「けれど寂しいの。暇だし」
 彼女はそれでも言う。
「だから。遊んで」
「あのね。だからね」
 男はそれでも教え諭す。
「こんな夜の時間に子供が出歩いちゃいけない。変なおじさんに連れ去られてしまうよ」
「変なおじさんって?」
「街には一杯いるんだよ」
 彼は言う。あくまで親切心からである。
「お嬢ちゃんみたいな可愛い女の子に乱暴したいっていう悪い奴がね。だからね」
「そうなの。それって」
「何だい?」
 男は話が変な方向に流れていっているのを感じていた。
「この人達のこと?」
「ん・・・・・・うわあっ!」
 少女が指差した方を見て声をあげた。そこには数人の柄の悪い男達が転がっていたのだ。
「遊んでくれるっていうから遊んだの。それでね」
 少女はにこりと微笑んで言う。その笑みには無邪気なあどけなさと共にえも言われぬ底知れぬ邪悪な闇の深みが存在していた。
「あっという間にこうなっちゃって」
「あ、あわわ・・・・・・」
 男は酔いが醒めていくのを感じていた。それと共に急に湧き上がってきた恐怖と狼狽に心を支配されその場を立ち去ろうとする。
「それでね。寂しくなったから」
 少女は男に顔を向けてきてまた言った。
「今度はおじさんと遊びたいの」
「う、うわあっ!」
 男は慌ててその場を逃げ出した。そして近くにあった署に駆け込む。署で応対した警官達は最初彼の話をまもとに聞くことができなかった。
「とにかく落ち着いて下さい」
「まあ水でも」
「あ、ああ」
 警官達に勧められた水を一杯飲む。そしてようやく落ち着いたところで話しはじめた。
「さっきな、女の子に会ってな」
「はい、それは聞きました」
 警官達は真夜中の署内で彼の話を聞いていた。部屋は明るく窓の外では蚊や小さな虫が飛び回っている。ローマは湿地帯の中にあり蚊やそうした小虫が多いのである。これは以外なことであるが実際のローマは案外蒸し暑い街なのである。だからこそ疫病も多かったのだ。
「それでその女の子が柄の悪い連中を殺したんですね」
「そこまではわからないがな」
 男は青い顔でそう述べた。まだ身体が震えている。
「とにかくな。人が死んでいるんだ。それで得体の知れない奴がいる」
 そのうえでまた言った。
「それを何とかしてくれ。だから」
「ええ、わかっていますよ」
 それはわかっている。警官達はそれに頷いた。
「では事件現場に案内して下さい」
「人が死んでいるのなら一大事です。ですから」
「ああ、わかった」
 男はそれに頷いた。そして警官達の案内をしてさっき少女と出会った場所にやって来た。そこはごく普通のローマの街中であった。かって城壁に包まれていた旧市街である。

 
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