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弱者の足掻き

作者:七織
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一話 「異世界の始まり」

 
前書き
ほぼ説明回 

 
目の前の光景が理解できなかった
いや、理解できないのではない。とうに理解などしているし、それは分かっている。だが、感情がそれを認めることを拒否する
長い間残しておくわけにはいかないからと、もはやすでに大半が埋まってしまった
それが今の時勢上仕方がないことなのは分かる。そして、その中身が空なのも
だが、現実に理解が追い付かない
そういうことがあるということは分かっていた。話としても何度か聞いたし、周囲から得た知識からも、そしてここではない場所で知っていた知識からも
だけど、それはまだ遠い未来だと、自分には関係がないとだと無意識に思っていた。前と同じなのだと誤解してしまっていた
そして、やっと理解する。この世界は違うのだと
少年———天白イツキは埋められていく両親の柩を見ながらそう悟った






気がついたらこの世界にいた

上手く動かない体に良く見えない視界、話せない言葉
記憶はある。平凡に生きた、漫画を読むことか趣味だった日々
覚えている限り最後の景色は、風の強い日に叫び声で見上げた空に映る、落ちてきた鉄骨
その後の記憶がない。なら、自分はもうすぐ死ぬのだろうか
痛みは無いが、自分が生きてきた時間が、何もかもが失われることへの漠然とした恐怖があり襲い来る猛烈な睡魔に抗う中、声が聞こえた
その声を聞く内に不思議と恐怖が薄まり、眠りに落ちていった

その後、目が覚め自分が生きていることが分かり、周囲のことを理解できるようになって理解した
あのときの声が両親のものであり、自分はイツキと名付けられ彼らの息子として生まれたこと。そしてここが自分が読んでいた漫画NARUTOの世界であり、両親が忍であること
初めは戸惑った。だが、体が思い通りにならないためひたすらに頭を動かし、時間をかけて割りきった
違う世界への憧れがあったのも間違いはない
この世界で生きようと思った

両親は霧隠れの里の忍であり、母親が中忍で父親が特別上忍
実力的には母の方が上だが、封印・暗号術の方に造形が父はあったらしい
子供が出来づらい体質だったらしく、自分でも分かるほど彼らは自分に構った
前の世界では既に両親がいなかったため、少し煩わしいと同時に嬉しかった。彼らの自分に向ける愛情を見て、不謹慎ながら自分が死んだことで悲しませずによかったと両親が死んでいたことを有り難く思いもした

ある程度育つと術をおしえてくれるようにせがんだ。両親は困ったような、嬉しいような顔をして了承してくれた
後で知ったが、原作とは時間が違いあちこちで争いがあったらしく、自分達と同じ道を選ぼうとしてくれたのは嬉しいが、自分にはあまり争いに関わらずにただ生きていてほしかったらしい
父親は特に熱を入れて教えてくれた
自分が知っている術を余さず巻物に書いて見せてくれた。無論、それが外に漏れるといけないからと全力を費やし、家族以外が触れられないように封印と罠を仕掛けて母と争っていた
アカデミーの話が上がったこともあったが、卒業試験を知っていたため(その時ははまだ変更になったことを知らなかった)乗り気ではなく、後回しになり基礎訓練をさせてもらった
任務で家を空けることも多々あったが、いない日は教えられたことを反復した
両親からしてみれば手のかからない子供という印象だったらしい

そんな日々が続き、チャクラが拙いながらも使え始める様になり、一つ二つ術が使えるようになった頃、両親二人に合同の任務が入り————

————そのまま二人は帰ってこなかった




どんな任務だったのかは知らない
只、知り合いの忍が来て死んだということを伝えられた
戦場でのことのため、遺体はなく、形だけの埋葬が急遽行われた
埋められるのは名を書いただけの小さな箱だった
慕っていたというのに、好きだったはずなのに理解が追い付かず涙が出ないまま式は進み————
———話は冒頭へと繋がる




明日、遺品の処分に行くからそれまでにどうしたいのか決めるようにと言われ、自分一人を残し他はこの場を去っていった
目の前の墓に近づく
光沢を放つ石に刻まれた両親の名前を指でなぞりながら、漸く事実を理解し流れてきた涙を感じながら考える
この後、どうすればいいのかを
何かあったら親戚を頼れと言われていた。あったことは無いが、話によると忍ではないらしい
そしてもう一つは、今日先程までいた人達についていき、アカデミーに入ること
答えならもう既に出ている
アカデミーに行く気はない。自分はもう、死にたくはない
二度目はあった。だが、三度目がある保証はない
それに、かつて味わったあの虚ろは二度と御免だ。両親の死を理解し、死への恐怖が実感を持って増した。それに——————

————お前には、只、生きてほしい

かつて言われた、両親の言葉を思い出す
こんな自分が出来る、ただ一つの親孝行なのかもしれない
それが彼らの息子への願いなのだとしたら

(ああ、生きてやるさ。例え何をしようとも、誰を犠牲にしても生きてみせる―――ッ!!)

誰もいない墓地の中、両親の墓の前で天白イツキは、そう、誓った 
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