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我が剣は愛する者の為に

作者:wawa
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旅立ち

母さんが賊の討伐に向かっている間、俺達は村の一番大きい家に籠城していた。
戦える人は鍬や竹の槍など、武器になるものを持って入り口に固まっていた。
もちろん、俺もその中にいる。
愛紗や他の子ども、女性は中で待機する事になっている。

「関流さんに限って賊に殺られる、ってことはないと思うけど。」

「でも、関流さんも言っていただろう。
 何があるかは分からない、だからこそ自分達で身を守る準備をしておく必要があるって。」

村人達は各々武器を持ちながら話し合っている。
その母さんの言葉に俺も聞き覚えがあった。

「戦場では何が起こるかは分からない。
 だからこそ、何が起こるかもしれないって事を頭に入れて行動しておいた方が良い。」

車の教習所でよく言われる、かもしれない運転に近いものだろう。
俺達は周囲を警戒している時だった。

「何か焦げ臭くないか?」

不意に隣で鍬を持っている父さんが呟いた。
確かに何か焦げ臭い、臭いが辺りを漂っている。
その時だった。

「兄様!」

「愛紗?」

突然、後ろの家の入り口から愛紗が飛び出してくる。
俺は家に戻るように言おうとしたが、愛紗の言葉が先に出る。

「家が・・・家が燃えています!!」

愛紗の言葉にその場にいた全員が息を呑んだ。
そして気がついた。
家から黒い煙と燃え滾る炎が家を燃やしていた。

「まずい!
 早く、中の人を外へ!!」

父さんはそう言って中に入る。
それに続いて、他の村人も家の中に入る。
早めに気がついたのが幸いしたのか、完全に燃え尽きる前に家を出る事ができた。

「一体、どうして・・・・」

村人の一人がそう呟いた時だった。

「そりゃあ、俺達が家に火を放ったからだ。」

燃えさかる家の後ろから剣を構えた男がやってきた。
それも一人ではない。
何十人もの賊と一緒にだ。
服装などを見た限り、賊で間違いないだろう。

「何で賊がここにいる!?
 関流さんが討伐しに行ったはずだ!!」

「関流?・・・ああ、あの女の事か。
 あいつなら囮部隊の方に行っている筈だ。
 まさか、賊が部隊を二つに分けるなんて思いもしなかっただろうな。」

つまり、俺達全員がこの賊達の作戦に見事に引っ掛かったという事だろう。
俺は愛紗を庇いながら木刀を構える。

「兄様。」

震えた声で愛紗は俺の服を掴む。

「大丈夫だ、愛紗。
 絶対にお前は俺が守る。」

あの時の悲劇を思い出す。
赤ん坊だったとはいえ、目の前でもう一人の父さんと母さんを失った。
もう二度とあの悲劇を繰り返さないために。
そう思うとより一層木刀に込める力が強くなる。

「さて、お前達を人質にとってあの女を殺す。
 あいつさえどうにかなれば、後は簡単だからな。 
 お前ら、やれ!!」

賊の頭のような男がそう命令すると、賊達は一斉に襲い掛かってくる。
賊達は容赦なく剣を振り下ろしてくる。
村人達も母さんの稽古を少しだけ受けていた。
こういった事態に備えての事だ。
賊達も人質が一人でも必要なのか、殺さないように急所を避けて攻撃してくる。
母さんの稽古を受けた村人は賊達の攻撃を防いでいた。

「ちっ、少しは訓練してあるみたいだな。
 変更だ、容赦なく殺れ!
 餓鬼と女が居れば充分だ!」

その言葉が合図だった。
それを待っていました、と言わんばかりに剣を振り下ろす。
剣と木で出来た鍬や竹の槍がぶつかり合えばどちらが勝つのか、言う必要はない。
だから、村人達は避けに徹底していたが、賊達の容赦ない攻撃にかわす事ができないでいた。

「餓鬼が。
 大人しく寝てろ!」

「ッ!?」

そんな中、賊の一人が俺達の所にやってくる。
俺は賊の蹴りをかわすと、そのまま木刀を振り男の頭に面を打つ。
それが効いたのか、一撃で地面に倒れる。

「餓鬼一人にやられやがって情けねぇ。」

その光景を見た他の賊が俺の所にやってくる。
正直、さっきの賊は油断していたから何とかなったが、次はこうはいかない。
何より相手は真剣。
こっちは木刀。
打ち合えば、勝敗は目に見えている。
俺はジリジリ、と後ろに下がって行く。

「兄様。」

後ろで愛紗が俺の名前を呼ぶ。
此処で俺がやられれば、次は愛紗に目標を変えるだろう。
あの関羽とはいえ、今は小さい少女。
俺が何としてでも守らないと。
賊の一人が一気に距離を詰めてくる。
そのまま真っ直ぐに剣を振り下ろしてくるが、俺はそれを横に避ける。
母さんとの修行のおかげなのか、何とかかわす事ができた。
俺はカウンターとばかりに木刀を振るおうとしたが。

「調子に乗るんじゃねぇ!!」

横からその言葉と同時に蹴りが俺の顔面を襲い掛かる。
全く防御する事ができずに、俺は横に転がる。
その衝撃で、木刀が地面に転がり離れていく。

「餓鬼が、図に乗りやがって。」

賊は最初から二人で俺を仕留めるつもりだったのだろう。
俺は立ち上がって木刀を拾いに行くが、賊がそれを許さない。

「させるかよ!」

賊の蹴りが今度は俺の脇腹に襲い掛かる。
俺は木刀のある所とは反対の所に転がる。

「兄様!!」

愛紗の叫び声が聞こえる。
俺は立ち上がろうとするが、蹴りを二回喰らったせいなのか上手く立ち上がる事ができない。

「縁!!」

父さんは俺を助けようとするが、賊の相手をして俺の所に駆け付ける事ができないようだ。

「てめぇを見せしめに殺せば、他の村人も大人しくなるだろ。」

賊はそう言うと剣を振り上げて、俺に躊躇なく振り下ろす。
俺は目を瞑った時、横から誰かに突き飛ばされる。
目を開けると、そこには母さんがいた。

「母さん!?」

母さんは俺を抱きしめるように地面に転がっていた。
俺は背中に手を回すが、その時手には妙な感触を覚えた。
ゆっくりと背中に回した手を戻す。
そこには血が手に付着していた。
背中を確認すると、母さんの背中には大きな切り傷がができていた。

「母さん!!
 ねぇ、母さんってば!!」

俺は母さんの肩を大きく揺さぶる。
すると、母さんは額に汗を一杯流しながらも声に応えてくれた。

「なに・・よ。」

「母さん・・・」

返事をしてくれたことで俺は胸の撫で下ろす。
俺は母さんを肩で抱えながらゆっくりと立ち上がる。

「こっちから来てくれるとは手が省けた。
 それも自分から怪我してくれるとはな。」

賊の頭が俺達に近づきながら言ってきた。
母さんは苦しそうな顔を浮かべながら言う。

「縁・・・・」

「まさか、逃げなさい、とか言うなよ。」

同じことを言おうとしたのか母さんは驚いた顔をしている。

「あの時、誓ったんだ。
 絶対に守ってみせるって。
 だから、このまま逃げ出す事なんてできない。」

俺は母さんが持っている青竜偃月刀を片手に持って、その先端を賊に向ける。

「本当に・・この子は。
 誰に似たんでしょうね。」

「きっと、母さんだよ。」

危機的状況にも係わらず、俺達は軽く笑みを浮かべる。
それが気に喰わないのか、賊は苛立った表情を浮かべる。

「お前達、今の状態を理解しているのか?
 これからお前達は俺に殺さ」

賊の言葉は最後まで続かなかった。
俺と母さんの顔の間に何かが通り過ぎた。
その後、賊の頭は首から斬り裂かれ、そのまま地面に落ちたからだ。
俺は後ろに振り返ると、そこには男性が立っていた。
右手には2メートル程の戟を片手に持っていた。
整った髭につむじ辺りから髪を束ねた茶髪。
その男性はゆっくりとこちらに近づいて行った。

「賊に襲われているみたいなのでな。
 勝手だが討伐に協力させてもらうぞ。」

こちらの返事を聞かず、男性は戟を握り締め、村人が戦っている賊達に向かって走る。
そこからは圧巻の一言だった。
賊に攻撃などさせるよりも早く、巨大な戟を振り回し、一撃で絶命していく。
気がつけば、賊のほとんどは討伐され、残りはどこかへ逃げ去って行った。

「あの人は一体。」

「さぁね。
 でも、あの人のおかげで何とか・・・・」

そう言って母さんは意識を失う。
俺は村人の人を呼んで、母さんの怪我を見て貰う。
すると、戟を持った男性が母さんを診てくれた。
傷自体は深いが、命に別状ないようだ。
近くにいた自分の馬から包帯などの医療道具を貸してくれて、何とか母さんの傷を手当てする事ができた。
愛紗は母さんが気を失った事を聞いて泣きそうな顔になったが、無事なのを聞いて泣き顔だが安心したような顔をした。
今は俺達の家で寝ている母さんの傍でずっと看病している。
父さんも一緒だから大丈夫なはずだ。
他の村人は燃えた家の撤去と怪我した人の治療に当たっている。
幸いにも死者はでなかった。
そんな中、俺は自分の木刀を拾っていた。

(俺にもっと力があったら。)

今回は誰も死ななかった。
だが、次も犠牲者が出る可能性の方が高い。
結局、今回の俺は何も役に立たなかった。
たった二回の蹴りを喰らって、立つ事も困難な状態まで追い込まれた。
自分の軟弱さに苛立ち、強く木刀を地面に叩きつける。

「力が欲しい。
 俺の守る人を守る力が。」

俺は独り言を呟く。

「力が欲しいか?」

その独り言に返す言葉が聞こえた。
俺は後ろを振り向くと、そこにはさっき村に助けてくれた男性が立っていた。

「もう一度聞く。
 力が欲しいか?」

男性は真剣な眼差しで俺に問い掛ける。
俺は真っ直ぐ見つめ返して、言った。

「欲しい。
 力が欲しい。」

嘘偽りない言葉を聞いた男性は笑みを浮かべて、その大きな手をこちらに差し出す。

「なら、私と共に来ないか?」









「えっ!?
 旅に出るですって!?」

その夜、母さんは布団に上半身だけ起き上がった状態で、俺の言葉が信じられないのかそう言った。。
夕方頃に母さんは意識を取り戻した。
その事を聞いて俺達や村の人達は大いに喜んだ。
その夜、俺は母さんと父さんの前である決意を告白した。

「うん。
 あの人、丁原って人と一緒に旅に出る。」

その決意を聞いた父さんと母さんは驚いている。
ちなみに愛紗は昼間の事で疲れたのか既に、自分の布団で寝ている。

「急な話だな。
 何があった?」

父さんが俺の決意を聞いてそう聞き返してきた。

「今回の一件で俺はもっと力が欲しいと思った。
 あの丁原って人は何人の武将を鍛えた事のある人らしい。
 その人に一緒に旅をしながら強く。」

「そんなの絶対駄目!!」

俺の言葉を遮ってまで母さんは強く言い放つ。
その言葉を聞いた俺と父さんは驚きを隠せないでいた。

「でも、母さん。」

「絶対に駄目。
 縁はこの村で愛紗と平和に暮らせばいい。
 それでいいじゃない。」

「でも、それじゃあ今回の事が起こった時、また誰も守れない。
 あんな後悔、もうしたくないんだ。」

「だとしても駄目よ!」

俺の言葉を聞いても母さんは頑なに拒否する。
俺はどうすればいい?、と思った時、父さんが言う。

「縁、とりあえず寝なさい。
 母さんからは私から言っておくから。」

「栄進。」

「いいから。
 さぁ、縁も寝なさい。」

「・・・・・分かった。」

俺はまだ納得のいかない表情を浮かべながら、布団に寝転がり無理矢理寝るのだった。




~interview in~

「栄進。
 貴方は縁を旅に行かせるのは反対じゃないの?」

「確かに心配ではある。
 だが、あの子が決めた事だ。
 私はそれを尊重しようと思う。」

栄進の言葉に唯は目を見開く。
栄進の言葉が信じられないようだ。

「もし、あの子が旅先で死んでしまったらどうするの!?
 それに旅をするという事は今の世界を見て回るという事。
 そうなったら、あの子が何て言うか分かっているでしょう!!」

「この世界を変えたい。
 人々が苦しんでいるのなら、それを救いたい。
 縁はきっとそう言うだろうな。」

懐かしむような表情をしながら栄進は言った。

「本当に私達によく似ている。
 お前も私もそう胸に決意して、軍に入ったんだったな。」

「そうよ。
 でも、あの子はあの夫婦から授かった大事な息子なのよ!
 だから、私は絶対に認めないわよ!」

唯はそう言って、立ち上がると家を出て行った。
栄進はそれを黙って見送った。
背中の傷が痛み出すがそれを気にも留めずに、唯はある場所に向かっていた。
そこは縁の両親の眠っている墓に向かっていた。
唯はそこに着くと、墓に語りかける。

「あの子、旅に出るですって。
 貴方達の息子なのに、変な所は私に似ているわ。」

唯も苦しんでいる人がいる事を知り、親の反対を押し切って村を出て国に、王に仕えた。
しかし、自分のしている事が苦しんでいる人々を救えていない事に絶望した。
そこに栄進と出会い、彼と二人で国を出て此処に来た。
この村は賊の被害にあっていた。
それなのに近くの街はそれを助けようとしない。
唯はその村にいた賊を殺し、村を守った。
そのまま二人でこの村に住む事になった。

「貴方達なら何て言う?
 あの子を笑顔で送り出す?
 それとも反対する?
 私は縁には、戦いとは無縁の世界で生きて欲しかった。
 でも、あの子は誰言われた訳でもなく、自分から私に修行を申し出た。
 あの子はとてつもない才能を秘めた子よ。
 人を教えた事のない私でも分かった。
 丁原って人もそれが分かったんでしょうね。
 これも生まれた時に決まった天命なのかしら?」

答えを期待する訳でもなく唯はただ、自分の思いを墓に向かって吐き出す。
自分の言いたい事を言い終えると、唯は少しだけ落ち着いたのか軽く笑みを浮かべる。

「駄目ね、ほんと。
 貴方達から授かった子供について、こんな弱気になっちゃ。」

そう言って、唯は縁の両親が眠る墓に背を向ける。
その時だった。
強い風が突然、吹き荒れる。
思わず唯は、軽く身構えてしまう。
そして、ゆっくりと墓の方に視線を向ける。
まるで、唯を元気づけているように感じた。
錯覚かも知れないし、唯の勘違いかも知れない。
それでも、唯は縁の両親が元気づけているのだとそう思ってしまう。

「ほんと、駄目だわ、私。
 死んだ人に元気づけられるなんてね。」

唯は笑顔を浮かべてそう言った。
次は優しい風が唯を包み込む。

「ありがとう。」

唯はそう一言だけ言って、自分の家に戻って依然と座っている栄進に言った。

「決まったか?」

栄進には聞こえていないのに、唯の顔を見た栄進はそう聞いた。
長年、夫婦として過ごしてきた彼には分かったのだろう。
先程と違い、唯の表情は何かを決意した表情になっていた。

「あの子を・・・・・縁を見送る事にしたわ。」




次の日の朝。
縁は必要な物を纏め、早朝に家を出る。
村の入り口前では丁原が馬と一緒に待っていた。

「親には別れを言わないのか?」

見送りが居ない事に気がついた丁原はそう言った。

「はい。
 母さんは最後まで反対でしたから。」

「そうか。」

これ以上は自分が足を踏み入れてよい領域ではない事に気づいた丁原は、一言だけ告げる。
そのまま縁に背を向けて馬を連れて歩き出す。
縁もそれに続いて行こうとした時だった。

「縁!!」

その声を聞いて、縁はゆっくり振り返る。
そこには唯や栄進、村の人達が立っていた。

「必ず帰ってくるのよ!!
 あんたの家はここなんだからね!!」

唯は声を張ってそう言った。
他にも村の人達は思い思いを口にする。
それを聞いた縁は涙が浮かぶ。
しかし、今から旅立つのだ。
そんな泣き顔を見せるわけにはいかない。
腕で涙を拭いた、縁は大きく手を振って言う。

「ありがとう、みんな!!
 行ってくるよ!!!」

そう言って何度も手を振りながら、村を出て行く。
縁は皆が見えなくなるまで手を振り続けた。

「良い村と家族だな。」

ふと、丁原はそう言った。

「はい、最高の家族です。」

その言葉に縁は、はっきりと答えを返すのだった。







「母様、父様。
 兄様はどこに行ったのですか?」

愛紗は泣きそうな顔をして、近くにいる唯と栄進に話しかける。
唯は愛紗の視線に合わせるようにしゃがむ。

「縁は貴女を守る強さを手に入れる為に、旅に出たの。」

「また会えますか?」

「会えるよ、きっと。」

唯の言葉を聞いた愛紗は何かを決意したのか、唯にこう言った。

「母様。」

「なに?」

「私も強くなります。
 兄様に負けないくらい強くなりたいです。」

その言葉を聞いて一瞬驚くがすぐに笑顔になって、唯は言った。

「それじゃあ、私が鍛えてあげる。
 厳しくしていくからね。」

「はい、頑張ります!!」 
 

 
後書き
本当なら唯は死んでいます(笑)
でもそれじゃあ駄目だな、と思い書き直しました。
てか、本当に全部書き直しました(笑)

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