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占術師速水丈太郎 五つの港で

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第四章


第四章

「移動はです」
「自費負担されるのですか?」
「術を使いますので」
 今度は口元も笑わせての言葉であった。
「それで移動しますので」
「術で、ですか」
「その方がいいでしょうしね」
 そしてこうも言うのであった。
「移動に時間がかかれば若し相手がいる場合は」
「対処の時間を与えてしまうからですか」
「そうです。ですから」
「術を使われるのですね」
「ですからそれは構いません」
 こう述べるのであった。
「ただ。宿泊施設はですが」
「あっ、それはもう御心配なく」
 官僚は今の問いにはすぐに答えを返した。もう全てが決まっているかの様にである。
「こちらで手配させて頂きますので」
「左様ですか」
「自衛隊のあのベッドと毛布、それにシーツが待っています」
 ここで官僚も彼に対して微笑んできたのであった。
「もう御存知ですね」
「懐かしいあのベッドが」
「ただし船の中のものではありません」
 それは前以って断るのだった。
「ちゃんとしたベッドのある部屋を用意させてもらいますので」
「左様ですか」
「ですからそれは御心配なく」
 そしてこう言ってみせたのであった。
「あと食事等はです」
「それはお気遣いなく」
 今度は速水が返した。カウンターの形になっていた。
「私は私の好きなものを食べさせてもらいますので」
「それでは海上自衛隊の食事は、ですか」
「今回は遠慮させて頂きます」
 そうするというのである。
「折角各地を回ることになりますので」
「成程、そういうこともできますね」
「まず横須賀といえば」
「もう御存知ですよね」
「自衛隊での最初のお仕事でしたので」
 知っていると。ここでも微笑んでみせた彼であった。
「勿論です」
「ではもう説明は不要ですね」
「はい、それでは早速」
「仕事をはじめられるのですか」
「お金は口座に振り込んでおいて下さい」
 その話もするのであった。仕事ならば金の話は当然であった。
「私の口座にまず前金を」
「スイス銀行ですか?」
「いえ、ゆうちょです」
 それだというのである。
「私の口座はです」
「あれっ、そうだったのですか」
「驚かれましたか?」
「ええ」
 それは確かだというのだった。
「意外と平凡ですね」
「まあ郵便貯金が一番使いやすいので」
「ああ、だからですか」
「日本全国にありますから、郵便局は」
 それが理由なのであった。
「何時でも何処でもお金を引き出せますからね」
「言われてみれば確かにそうですね」
「特別に預金額の上限をあげてもらっていますし」
 そういう処置もしてもらっているというのである。
「今何億あったでしょうか」
「また随分とおありなのですね」
「この手のお仕事の報酬は凄いので」
 だからだという。話しながら微笑んでもいた。
 
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