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豹頭王異伝

作者:fw187
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潮流
  指導者の帰還

 グインは黒竜騎士団、金犬騎士団、竜の歯部隊を束ね神聖パロ勢力圏を疾走。
 ゴーラ軍が立ち往生する間に秀逸な機動力を発揮、サラミス街道を駆け抜ける。
 ワルスタット選帝侯ディモス統率の部隊は機動力に劣る為、エルファに待機。
 マルガに総勢2万1千の精鋭、ケイロニア軍の勇者達が到達し盛大な歓迎を受けた。

(グラチウスが新生ゴーラ軍を操り、マルガで虐殺を引き起こさんと企んでいたがな。
 草原の鷹を手助けして来た、ゴーラ軍は導き手を見失い動きが取れぬ。
 マルガへ王が先に入り軍を展開すれば、パロの民を虐殺する事は出来ぬだろう)
 グインの脳裏に、イェライシャの遠隔心話が響く。
「礼を言うぞ、イェライシャ」
 イシュトヴァーンを出し抜き、マルガ北方の街道を抑えた豹頭王は簡潔な思考を閃かせた。

(リー・レン・レン達を護ってやれ、と王は言っておったが大丈夫か?
 グル・ヌーの星船に棲む《種子》の紡ぐ思考、強力な念波は北の賢者も理解不能であったそうだが。
 一千年の齢を数える見者ロカンドラスも遥かに及ばず、推し測る事も出来ぬ代物と驚嘆しておった。
 王も紅蓮の島にて《超越者の種子》を実見の際、力《パワー》の一端は感じ取ったと思うが。
 ノスフェラスの怨念を喰らい、糧として成長を遂げた魔王子とやらも《種子》の一族。
 グラチウスに足元を掬われるとは思わぬが、竜王の孵化させた《超越者の種子》は難物だぞ)
 大導師アグリッパの意を察し、ヴァレリウスを後援する事となった男が懸念を表明。

「それは分かっているが、何とかする心算だ。
 異世界の魔道は初見参だが魔界の剣、スナフキンの贈物に加え古代機械もある。
 闇の司祭に及ばぬとは言え、ヴァレリウス以下の魔道師達もいる。
 竜王が狙う標的《ターゲット》、リー・レン・レン達が心配だ。
 全土反乱に至る可能性の芽、キタイの明日を担うであろう若者達に万一の事があってはならぬ。
 独立運動を起こせ、と彼等に焚き付けたのは他ならぬ此の俺なのだからな」

(わかったよ、律義な王じゃな。
 ユー・メイが一緒に連れて行ってほしいと言っとるが、どうするかね)
「キタイへ戻るのは危険だと思うが、本人の希望であれば致し方あるまい」
(王の希望とあれば容れぬ訳には行かぬ、了解したよ。
 それじゃ、行って来るよ)
 ドールに追われる男、イェライシャは【笑】の感情記号を遺し閉じた空間の中に消えた。

 闇の司祭は己の操り人形として使う為、ゴーラ王に施された後催眠を入念に解析。
 竜王の催眠暗示命令は解除せず、己の意図に沿った形で利用を図る。
(ヤンダル・ゾックめが、余計な手出しをしおって!
 だが奴めも1~2年は中原へ手出しする余裕は無い、と踏んでおる様だな。
 マルガなど何時でも潰せる故、アモンとやらを先に片付ける方が得策だな。
 聖王宮を闇王国に君臨する魔都、ドールの暗黒神殿に造り変える絶好の機会。

 豹頭王は魔戦士の対応に暫く時を要する、中原の真珠を掌握するは児戯に等しい。
 チチアの子狼は捨てられる恐怖を煽り、逆恨み妃を操り狂女の如く責立てれば、豹は成す術も無い。
 キタイの竜めと強情な豹頭王を嚙み合わせ、キタイと中原の黒幕となる勝者は闇の司祭グラチウス也。
 早速クリスタルへ飛び、魔王子とやらを捻じ伏せるとするか。
 壮大な野望の成就する刻は案外に近いかも知れぬ、ヒョヒョヒョヒョヒョ)
 闇の司祭グラチウスも閉じた空間を開き、魔都に向け姿を消した。

 イシュトヴァーンは翌朝、何処からとも無く自軍の天幕に舞い戻った。
「堪忍袋の緒が切れた。
 神聖パロの奴等なんぞ、皆殺しにしてやる。
 スカールの野郎が神聖パロとつるんでる事は、わかってんだ。
 ナリス様が死んだって時に、後から出て来て竜頭の化けもんと戦ってたじゃねえか。

 マルガの弱虫共は、スカールに泣き付きやがったんだ。
 自分達は何も知りませんでしたってな顔で、しゃあしゃあと誤魔化す腹積もりでな。
 わざわざ援軍に出向いてやったってのに、やる事が汚ぇ。
 俺達ゴーラ軍を邪魔と見て、切捨てにかかりやがったんだぜ!

 ナリス様は、何も知らねえんだろうがな。
 他の奴等は一人残らず、ぶった斬ってやる。
 俺のやっちまった事をあげつらって、血に飢えた化け物扱いしやがって!
 ゴーラを舐めたマネする奴がどうなるか、教えてやる!!」

 驚く副官マルコの制止を振り切り、マルガ襲撃を命令。
 炎の破壊王は紅都アルセイス、トーラスに続き流血の惨事を実現する為に進軍を再開。
 ケイロニア王の新設した旗本隊、竜の歯部隊は黒竜騎士団・金犬騎士団と合流。
 マルガ北方《星の森》に総勢2万1千が展開、ゴーラ軍を阻止する構えを見せる。

 イシュトヴァーンは嘗ての盟友グインに使者を派遣、懐柔を試みた。
 新生ゴーラ王国は神聖パロ帝国の盟友、レムス軍を撃退する為に馳せ参じた援軍と釈明するが。
 一枚上手の老獪な交渉人《グラディエイター》、グインは懐柔に応じると見せ翌日の入城を勧告。
 イシュトヴァーンと直接対談、人払いの上で腹を割った上での密談を提案。

 紆余曲折の末に実現した会見の場で想定内の事態が突発、ヤンダル・ゾックの後催眠が発動。
 イシュトヴァーンは表情を不自然に硬直させ、グインの提案を蹴り戦端を開く。
 ゴーラ王が魔の胞子に犯されいるか否か、ギールに確認させた後で豹頭王は戦闘を開始。
 ナリスが帰還すると予知姫の告げた運命の日、パロの救世主アルド・ナリス帰還の前日。
 ゴーラ軍3万、ケイロニア軍2万1千が星の森で激突。

「早い者勝ち、とは承知していた心算だが失敗ったかな。
 奴め、逃げ切る事は出来るか?」
 グル族は約2千、ゴーラ軍3万に真正面から仕掛けては勝算が立たぬ。
 戦況を望見する黒太子スカールは呟き、顔を顰めた。

 ケイロニア軍に野盗の群れは歯が立たず、蹂躙され敗走するは確実。
 イシュトヴァーンは鼻が利く故、ケイロニア軍からも要領良く逃れる筈。
 仇敵を待ち伏せ、自由国境地帯で捕捉するしかあるまい。
「已むを得ん、北上するぞ」
 良く通る声に従い草原の民、グル族の精鋭達が一斉に騎乗。

 ノスフェラスより草原へ帰還した頃に感じた、一時の病。
 異様な脱力感とは異なるが最近、妙な悪寒を感じる。
「グラチウスから貰った薬のせいかも知れぬ、暫く控えてみるか」
 草原の鷹は数日後、闇の司祭に仕掛けられた罠に気付く事となる。

 マルガ北方、星の森付近で激突する2大勢力。
 ケイロニア軍の猛攻に、ゴーラ軍は押しまくられた。
 1ザン後に抜群の練度を誇り豹頭王に直属の旗本隊、竜の歯部隊は後方に下がった。
 ゼノンに経験を積ませる意図を秘めた采配、グインの思惑であるが。
 魔戦士は踊らされているとは夢にも思わず、反撃の好機が訪れたと錯覚し勇躍。
 逆襲に転じるが勇将ゼノン以下、金犬騎士団1万の邀撃で忽ち高揚した戦意が萎む。

 ゴーラ軍は最初の1ザンで植え付けられた恐怖が再発、勢いに陰りが生じ矛先が鈍る。
 金犬騎士団が危うくなれば、竜の歯部隊が出て来る。
 敵兵の後方に控える水竜の旗印を見て、自然に及び腰となる新生ゴーラ軍。
 戦意喪失とは言わぬが完全に委縮、攻撃も気迫に欠け容易く退けられた。
 ゼノンは命令に忠実に従い、攻撃に転じて前進する事は控える。

 トール率いる黒竜騎士団1万は逆に、圧倒的な集団戦闘の技量を披露。
 グインの意図に沿い多彩な攻撃を仕掛け、ゴーラ軍の対応能力を試す。
 迂回し想定外の方向から奇襲、或いは敗走と見せかけ誘い込んで待伏せ攻撃。
 左右両翼が見事な連係動作《コンビネーション》、時間差攻撃を実演。
 続いて中央突破と見せ掛け、密かに背後へ廻り込み包囲攻撃。
 イシュトヴァーンも挽回を図るが、ゴーラ軍は翻弄され悉く先手を取られた。

(豹の畜生め、勝てる気が全然しねぇ!
 くそったれめ、一体どうすりゃ良いんだ!?)
 日没まで突破口を見出せぬ儘、ゴーラ軍は後退。
 グインは金犬騎士団を下げ、黒竜騎士団と竜の歯部隊が夜襲に備える。
 戦の匂いを嗅ぐ予知能力者イシュトヴァーンと云えども、パロの地理は弁えぬ。
 次元の異なる戦闘能力を誇るケイロニア軍を相手に、夜襲を仕掛ける度胸は無かった。

 マルガに暁の光が訪れ、湖の小島に佇む瀟洒な館の庭を照らす。
 光の船の展開する超科学の防御力場、不可視の障壁が解除された。
 不休不眠で結界を張り続け、聖者の帰還を念じる魂の従者。
 ヴァレリウスは柄にもなく運命神ヤーンに真摯敬虔な祈りを捧げ、不安に震える心話を送信。
(ナリス様、御無事で…)
 感情の激浪に念波が乱れ、心話を形造る事も言葉にする事も出来ない。
 灰色の瞳を慄かせる魔道師の裡に、懐かしい心話が響いた。

(様々な夢を見たよ、ヴァレリウス。
 3日前には世界を護る運命の戦士、グインに会えたら死んでも良いと思っていたけれど。
 アグリッパに会った君を嘗ては死ぬ程、羨んでいたけれどもね。
 もう、そんな事はないから安心し給え。

 古代機械を使えば治療が可能、とは想像も出来なかった。
 グインに、感謝しないといけないね。
 今の私は生まれたての、赤ん坊の様なものだな。
 何もかもが、とても新鮮だよ。

 リンダとヨナに、伝えておくれ。
 私は産まれたての赤ん坊の様に、元気だとね。
 ああ、床が上昇を始めた。
 私の傍に来て、身体を支えてくれないか。
 奇蹟の帰還を果たした神聖パロの聖王が無様にも、皆の前で転倒する訳には行かないからね!) 
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