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魔法少女リリカルなのはA's The Awakening

作者:迅ーJINー
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第十五話

 
前書き
 最近ますます文字数減ってる…… 

 
「ほうほう、流石あの男が自ら名指しで戦いたいと言い出すだけはあるな……」

 シグナムが単騎で道を拓かんと奮戦する姿を見て、指揮官の男が呟いた。その男の隣の空間がゆがむと、そこから一人の青年が現れる。

「やっとおでましか」
「彼女は本当に来ているのだろうな?」
「ああ。正面を見てみなよ。お前ら、お客様のご到着だ!」

 さっきまで敵に包まれていたシグナムの視界が突然開けた。すると、目前に突然現れた青年の姿を見て彼女は驚く。気づけなかったこともそうだが、その姿に見覚えがあるようにも見える。

「……貴公は、いつかの長命種ではないか。いや、不死者(ノスフェラトゥ)と呼ぶべきか?」
「覚えていてくれたか、烈火の将。しかし私は以前、貴殿に名乗り上げたはずだ。できればそちらの通り名ではなく、名前で呼んでもらいたいのだがな」

 まるでこの風景に溶け込んでいたとでも言わんばかりに突然現れた長身痩躯の彼。青のロングコートに何か模様が描かれた白のVネックTシャツ、黒のデニムのようなパンツに青いスニーカー。端正な顔立ちを軽く歪めた表情から放たれる迫力というべきか威圧感のようなものがシグナムを襲う。

「……それもそうか……では改めて。ロドスシルト・ルチアーノ」
「ああ、久方ぶりにその名を呼んでもらえたな……嬉しいよシグナム。互いに古代魔法の使い手同士、派手に火花を散らそうじゃないか」

 ロドスシルトの口調が少し砕けたものになり、声もどこか柔らかくなったように聞こえる。まるで旧来の友人のように。そして彼がだらしなく下げた両手には、いつの間にか褐色のトンファーが握られていた。しかし彼は、上官であるはずのビスカイトと共に、この世界から離脱したはずなのだが……

「以前使っていた双剣のデバイスはどうした?」
「ああ、彼か。残念ながらあの時の貴殿との戦闘で再起不能となってしまってね。メモリーバンクを除いて、新調させてもらったのだよ」
「ということは、それもまた百数十年と使い続けたわけか……厄介だな」

 双剣とトンファーはまったく別の扱い方を要求される武器なのだが、彼はそれを長く使い続けることで振るえるようになったようだ。平然と百年単位の時間が出てくることが、彼らの時間間隔を物語る。

「ああ。貴殿と再びこうしてあいまみえることができるとは思っていなかったが、これは天からの試練か、それとも褒美ととるべきか」
「私としてはどちらでも構わないがな。我々は色々立て込んでいるため、できれば手早く済ませたい」
「そうつれない事を言ってくれるな。貴殿と再び見える日を一日千秋の思いで待っていたのだからな」

 言葉をかわしつつも、シグナムは懐にしまいこんでいた魔力カートリッジを愛剣のリヴォルバー部分に挿入していく。

「レヴァンティン、まだ行けるか?」
「Mit keinem Problem.」
「よし、頼むぞ。少々長引きそうだからな」

 シグナムが正眼の構えをとる。対するロドスシルトも、トンファーを持ち上げてボクシングのファイティングポーズをとると、拳を通して魔力を込める。するとそれが光りを帯びだした。魔力光は藍色。

「頼むぞエイブラムス。長引くが持たせてくれ。前回みたく壊れてゲームセットは勘弁なんでな」
「Jawohl.」

 あくまでこの二人に決闘をさせるためか、周囲を囲むように指示を出す指揮官。そして一触即発の空気の中でシグナムが先に動くと、ほぼ同時にロドスシルトも接近する。

「ハァッ!」
「くッ……せぇいッ!」

 シグナムの振り下ろす一撃をロドスシルトは両腕を重ねて止め、そのまま押し返した。彼は彼女がひるんだ一瞬を狙ってドロップキックを放つも、体を半歩ずらしてかわすシグナム。

「そんな大振りでは当たらんぞ!」
「まさかこれを当てることが狙いとでも思ったか?」

 そのまま倒れることなく脚力でブレーキをかけると、急反転して再び接近し、躊躇なく両手の武器を振るう。一つしかない剣で両手分、つまり倍襲い掛かってくる攻撃をしのぐのは、通常ならば至難の業だ。

「そらそらそらそらッ!」
「くっ、あの時より早いッ……!?
「当然だ!私とて無駄に長生きをしているわけではないのでな!しかしこれだけのスピードに対応してくるとは、貴殿もあの時より精進したのではないか?」

 いつまでも続くかと思われたロドスシルトのラッシュ。しかしシグナムはタイミングを強引に合わせて剣をひと振り、弾き飛ばして呼吸と体制を整える。

「同じ言葉を返すぞロドスシルト!私もただ無為に時を過ごしていたわけではない!」
「そうか!やはり互いに騎士であり、戦士であったわけだな!嬉しい、嬉しいぞ私は!」

 二人のボルテージが高まる中、再びロドスシルトのトンファーによるラッシュがシグナムを襲う。時には持ち手を変えて振り回し、時には回転させて直撃を狙う。それら全てを防ぎ、時には受け流すシグナムのディフェンスは流石というべきか。

「やはりこの時間というのは楽しいな、シグナム。貴殿もそうは思わないか!?」
「このような状況でなければ、私も楽しめるのだがな!」
「勿体無い話だな。今度は主に相当恵まれたか!」
「その通りだな。これまでとはまったく違うが、今ほどの主はこれまでに数える程しか出会ったことがない!」

 本来ならばシグナムも、このシチュエーションには血湧き肉踊る想いが汲めども汲めども湧き出てくるのだが、シグナムにはそれに身を任せるほどの時間も余力もほとんど残されていない。それゆえに決着を急ごうと一撃一撃が重く鋭くなっていくが、いかんせん狙う場所がわかりやすくなりがちなため、ロドスシルトにかわされてしまう。

「焦ったところでいいことはないぞ?騎士ならその一瞬一瞬に全力を注がなくてはな!」
「貴公も確か騎士であったな!相当の地位にいたのだろう?」
「ああ。最も祖国は滅び、生き残りは私とビスカイト副団長のみになってしまったがな!」

 ロドスシルトはかつてビスカイトと同じ国で騎士として王室に仕えていたことがある。当時は王室親衛隊に所属していたというその戦闘能力は十分に高い。

「貴公の身に何が起こったかに興味はないな。悪いが私には時間がない。押し通らせてもらうぞロドスシルト!」
「ならば見せてもらおうかシグナム!烈火の騎士の全力とやらを!」

 そして再び火花を散らす二人のデバイス。二人のワルツは、まだまだ終幕を降ろすことはないようだ。ただし敵の数は減ってきたものの、多対多の戦いで一体一などやっていては当然効率が悪い。

「クッソシグナムの奴、一体一なんかやってる場合かよ!」
「いや、将はあれでいい。むしろ将以外に、アレを止められるであろう者はここにはいない。ハァッ!」

 ヴィータの悪態にザフィーラが敵を殴りながら答えた。

「なんで?」
「今の将は疲労がかなりきているが、プログラムである我々は呼吸さえ正せば万全に戦える。その呼吸を正す暇すら与えないあの攻撃、お前なら捌けるか?」
「ぐっ……確かに」

 ハンマー型のデバイスであるグラーフアイゼンが示すとおり、ヴィータの本領は一撃必殺の超重量級攻撃にある。その分、一撃一撃は軽くとも素早い連撃をかけてくる相手は苦手なのだ。もちろん竜二や直人といった彼女たちから見て半端な魔導士相手ならばどうとでも対処できるが、シグナムと互角に打ち会える相手となると冷静に判断して厳しいと結論を下すほかない。

「ならば我らは我らにできることをなすのみだ!」
「わぁってるよ!」

 巻き込んでしまったアリサやすずか、主であるはやてを守り、無傷で帰すために、彼女たちはただ全力を尽くす。



 一方竜二はステージを終えて降りてくると、矢吹達と合流する。

「お疲れー」
「お疲れ様でした、主」
「おう」

 アスカが竜二の荷物を持つ。とはいってもギターケースくらいしかないが。

「しかしびっくりしたわー……」
「あれ何なんだ?」
「関西やったら有名やで。そうそう知らん人おらんのちゃうかってネタや」
「関西ローカルか……」

 それはおそらくステージに現れたフレディのことだろう。どこからどう見ても奇抜で、変態といわれても仕方ない風貌で現れたのだから。

「それにしてもあの人、いつの間に参加登録してたんだ?」
「さぁな。とにかくアレとおったら胃が痛い。飯や飯!」

 胃が痛いと言っておきながらも腹は減っているらしい。それを聴いた矢吹は目を輝かせながら急かすように言う。

「翠屋行こうぜ。あそこのエビピラフがまたこれうめぇんだ」
「何回も行ってるわあの店は。店員とも顔見知りじゃいこちとら」
「え、マジで?」

 事実竜二はもはや常連である。たまに仕事を手伝うこともあり、シュークリームと日給をもらって帰っている。

「おう。つかお前そっちが目的?」
「そっちも、と言ってくれねぇか?美人を眺めながら食う飯はうまい」
「おさわりは禁止やで、わかってんな?」
「誰がサテンでするか!」

 やりそうだから言ったんだ、と竜二は呆れながらこぼした。矢吹はどうやらソッチの方は結構軽いらしい。すると、唐突にステージから爆音が響く。

「お、次か?」
「控え室に直人らがおったしな。俺らの次あいつらやったんか」
「そうみたいだな」

 どうやら竜二はちゃんと確認していたらしい。メンバー構成は、ヴォーカル、ギター、ベース、キーボード、ドラムが一人ずつの五人組。キーボードとベースは女性。

「えージャムセッションの後ということで、インパクトでは負けてられませんということで、今日ここで我々が演奏するのは……ってお前いきなり鳴らすな!」
「ええやんけワンフレーズ弾いたらわかるわどうせ」
「そうじゃねぇだろって……」

 直人がサウンドチェックにしては大きすぎる音量で鳴らすため、ヴォーカルに文句を言われている。

「まぁいいや、んじゃそろそろやるか……テンションまだ高いなお前ら!」

 ここまで来ても観客に疲労感は見えない。拳とともに大歓声が彼らを迎える。

「どっきゅんハートのヘヴィメタルアレンジやりまーす」
「フリ軽ッ!ってわけで聞いてって下さい!」

 この一言に、竜二と矢吹は口に含んでいた飲み物を吹き出した。そして曲が始まるも、その面影は全くない。儚く響くキーボードサウンドが不穏な雰囲気をかもし出す。

「Come on!」

 ヴォーカルが煽ると全パートのメンバーが狂ったように暴れだし爆音が響き、最前列がそろってヘッドバンギング。呆気にとられて暴れるタイミングを逃してしまった四人。

「ちょ、これってあれじゃね?」
「どっからどう聞いてもChildren of bodomのHate crew deathrollやないか……あれを元にしてアレンジしたか」

 歌詞は日本語だが、歌がすべてスクリームのため何を言ってるのかよくわからない。アスカと神坂はあんぐりと口をあけていた。




「ふぅん、なるほどな」

 シグナムは未だ、ロドスシルトとの戦闘を継続していた。指揮官は携帯端末のようなものを彼らに向け続け、時々うなずいたり驚いたりしている。

「はぁっ!」
「ぬぉおおおッ!」

 最初は焦りがちなシグナムだったが、戦う間に当初予想していた通り時間をかけざるを得ないと判断したようで、手数に勝るロドスシルトに対して落ち着いて対処している。

「どうしたシグナム、さっきまでの威勢はどこへ行った!」
「ほざけ!」

 本来は彼女も手数で押すタイプなのだが、両手にそれぞれ武器を握る彼に手数で勝負するにはどうしても一歩遅れてしまう。ならばと彼女が選んだ戦法、それは。

「はぁっ!」
「くっ、重いし速いッ……」
「何を言う。以前貴公と戦った時と同じ技術だぞ?」
「これでかっ……!?流石は貴殿、ますます手強くなっているな。だがそれでこそ、相手にとって不足なし!」

 一撃の重さに重点を置いたヒットアンドアウェイである。蝶のように舞い、蜂のように指すといえば聞こえはいいが、その一撃はまさにチーターの突撃のよう。質量こそ変わらないものの、一瞬のスピードを上げて加速の勢いを増したことで得られる衝撃によって相手を弾き飛ばす。

「その気性……変わらないな、貴公は。正直羨ましいよ」
「そういう貴殿は変わったな。しかし、以前よりずっと好感が持てる。以前は機械と戦っているようだったが、今はこのように強く麗しい女性となっていたことに、私は驚きと感動を覚えたよ。やはり人が強くなるには、意志を強く持たねばな!」

 それに合わせてロドスシルトも若干戦法を変えてきた。手数を増やして緩急をつけることで攻撃にさらなる変化をつけ、いざという時に急所を狙って一撃で意識を刈り取らんとするように。

「私も正直驚いている。ちなみに聞くがそれは口説き文句(プロポーズ)のつもりか?」
「まさか。私にはもう、妻も子供もいるのでな。この上騎士まで望んでは、流石のこの身にも余ってしまう」

 まるでそこで今戦っているとは思えない世間話のような会話を、火花とともに交わす二人。

「それに、貴殿とは友人というよりはこのくらいの関係がちょうどいいと思っている。明確には敵対しておらずとも、見れば戦いたくなるような、そんな関係がな」
「それに関しては私も同感だ。このような状況でなければ、いくらでも付き合いたいものだが」
「そうか……」

 そう漏らし、一旦距離をおくと一気に加速して一撃を叩き込まんとするロドスシルト。しかしシグナムはその攻撃に対してカウンターをしかけることで、彼を弾き飛ばして距離を取る。

「やはりそなたは、戦士である前に騎士であったな。私にもあの時、貴殿ほどの力があれば……」
「後悔先に立たず。そこから先は、貴公の妻にでも聞いてもらうがよい。敵である私に語るべき話ではなかろう?」

 ロドスシルトの独白を切って捨てるように遮るシグナム。一瞬あっけにとられたような表情を浮かべるが、すぐに自嘲するかのような呆れ顔へと変わる。

「……フッ、まさか敵に諭されるとはな。私もまだ未熟か」
「貴公も私も、まだまだ未熟な身にすぎない。そして、熟す時は永久に来ない。人であるならばな」
「人であるならば、死す時まで成長あるのみ……か。全く誰に似たのか、同じ言葉をつい最近誰かから聞いたような気がするな」

 そして、ロドスシルトの構えが変わる。エイブラムスを握りつつ、だらりと腕を下げた。脱力しているはずなのに、威圧感だけはどんどん増していく。シグナムを除き、この戦いを見守るものは誰一人動けない。

「さて、そろそろお遊びはここまでにしようか!私も時間が押している。次の一撃で終わりとしよう!」
「いいだろう。貴公の全力に、私も全力で答えよう」

 シグナムもそれに合わせ、レヴァンティンを正眼に構える。

「行くぞエイブラムス。耐えてくれよ!」
「Blasen des schwachen!」
「これより見せるは不退転の覚悟。負けは即ち死への片道切符。それを代償として捧げん、我らが武神よ、我にさらなる力を……ハァァァァァァアアアアアアアアアアァッ!」

 するとエイブラムスの形態が、トンファーからランスへと変化した。そして彼の足元に藍色の魔法陣が展開されると、そこから彼に何かしらの魔力付与がなされたのか、彼から藍色の魔力光が漏れ出す。

「我が必殺の一撃、止めてみせよシグナム!」
「その言葉、そっくりそのまま返そう。レヴァンティン、カートリッジロード!」

 それに対してシグナムも、カートリッジを一発消費し、レヴァンティンの刀身に炎を纏わせる。ロドスシルトの突撃にあわせ、ブースターを吹かせ、接敵。

「ブロウズン・ディス・シュワッヘン!」
「紫電……一閃!」
「「ハァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」」

 両者の槍と剣が正面から交錯した。倒れたのは――

「……私のほうが、ほんの刹那だが、速かったな」
「ごふっ……」

 ――ロドスシルトだった。そのまま姿勢が崩れ、倒れこむ。

「そう、か……これでもまだ……貴殿には届かぬか……」
「……いや、ほとんど紙一重だった。次戦えばわからんな」
「次……か……」

 腹部を切り裂かれてはいるが、炎熱変換で傷口は焼かれ、出血は止まっている。シグナムはレヴァンティンについた返り血を振るって飛ばした。

「……その程度で死ぬ貴公ではなかろう。腕を磨いて、また来るといい。もっとも、私もその頃には、さらに腕を上げているだろうがな」
「次、か……いや、「この私」には、次などこんよ。だがいずれ、本来の私自身でお相手しよう……」
「それはどう言う意味だ?」
「ここにいる私は、私であって私ではない……フフフッ……いずれわかるさ……」

 ロドスシルトはそのまま息絶えた。

「ロドスシルト、貴公に一体何が……むっ!?」
「キェェェェェエエエエエエエエエエエエエエエッ!」
「雑魚が……そこをどけェッ!」
「ギェェェェェェェエエエエエエエエエエエエエエッ!?」

 決闘が終わったと見るや、シグナムにも攻撃をしかける敵陣営。しかし、すぐに頭を切り替えて対応し、仕掛けてきた男をレヴァンティンの一振りで吹き飛ばす。すると、後方で爆発音のようなものが響いた。

「なんだ、今のは……くっ、気にかける暇すら渡さんか!」

 邪魔する心配がなくなったからか、シグナムに向けて波状攻撃のように突撃を繰り返していく。そのおかげで少し余裕が出たヴォルケンズ陣営はシグナムを援護しつつ陣形を整えなおす。いつの間にか戦闘に参加しているなのはやフェイトにも指示を出し、防衛戦の最中に数が減ってきたこともあって突破より全滅を選択した。

「月村とバニングス、そして主はやてに指一本触れさせるな!ここにいる全員黙らせて帰るぞ!」
『了解!』
「その必要はねぇよ。もうこれ以上戦う理由がこっちにはなくなっちまった」

 しかし、それに対して待ったをかけるのは敵側の指揮官。すると敵も行動を止めた。

「どういうことだ?」
「どうやらここにも管理局のお偉方がいるみてぇだからな。成果は十分とあらば、いつまでも居座るわけにもいかねぇ。さっさと消えさせてもらうさ」

 すると青年は倒れていた全員に対して転移魔方陣を敷き、一斉に撤退した。

「……人払いが解除されたようだな」
「みたいね……今のはなんだったのかしら」
「わからん。だが、このまま引き下がるとも思えん」

 拳から血を垂らすザフィーラと、途中から転移魔法ではなく全員の魔力にブーストをかけていたシャマルがささやきあう。どうやら、彼ら以外による転移魔法の展開は阻害されていたらしい。

「……考えるべきことはあるが、今はともかく翠屋のエリアまで戻るぞ。さすがにここまできては、ハラオウン提督に相談せねばならない」
「ええ。あきらかに私達を目の敵にしている組織がいるわけだし」

 バリアジャケットを解除し、周囲に警戒しながらも戻っていく彼らであった。なのは達もまだ気が抜けないか、緊張した面持ちを崩せていない。

「そういえば、彼の死体は……待て、今のは本当に彼だったのか?」
「どうしたシグナム?」

 思考の海に沈み込もうとしたシグナムの意識を引きずりあげるためか、ヴィータが彼女に声をかける。

「もし私が戦っていたのが本当に彼だったのなら、あの程度で死ぬはずがない……」
「アタシは見てなかったけど、奴は偽者だっていうのか?」
「その可能性がどうしても否定できない」

 一息置くシグナム。彼とは何度か見え、その度に今回みたく決闘のような戦いを行ってきたのは間違いがない。だが彼女は彼に対して、あの程度の怪我など何度でも与えてきた。しかし本来の彼ならば、自然治癒力の高さにものをいわせて気に留めることもなく高速戦闘を続行できたことを彼女は知っている。

「それに彼は転移魔法ではなく、まるで隠れていた世界の狭間から抜け出すように現れた。あんな登場の仕方をするだろうか……」
「でも強かったんだろ?本物だと思っちまうくらいには」
「ああ……もし私の想像が当たっていたとしたら、これはかなり厄介なことになるだろうな……」
「……」

 ヴィータはそれ以上追及しなかった。どういう答えか想像がついたからだ。つぶやいたシグナム自身も自分の結論に対して確証が持てないからか、それ以上は言わなかった。 
 

 
後書き
 作中に出てくるオリ技で、「何してんのかワカラン」とか言うのがあったら連絡くだされば解説します。わかりやすくはしてるつもりだけども。 
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