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東方虚空伝

作者:TAKAYA
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第一章   [ 胎 動 ]
  十二話 帝都防衛戦 前編

 帝都の外壁内にある守備隊総司令室。戦場を揺るがした轟音はここにも届いていた。

「何が起きた!状況を確認しろ!」

 ここで総指揮を執っていた庵は部下達にそう指示を出す。状況の報告が上がる間にモニターに映る戦場の様子を観察する。モニターには先程とは打って変わり静寂が漂っていた。
 庵にはそれが不気味でまるで嵐の前の静けさを感じさせた。そんな事を考えていた庵に部下から報告が上がる。

「轟音の発生地点を解析完了。ポイントは…SH22…4…5!あ、紅髪の封印地点です!」

「な、何だと…」

 報告は最悪の事態を知らせるものだった。この妖怪に追い込まれた状況で奴の封印が解けるとは!よりにもよって何故今なんだ!庵の中に言いようの無い怒りと絶望感が荒れ狂った。

「くそったれがーーーーーー!!!!!」

 ガン!!!
 激情任せに壁を殴りつける。「八つ当たりした所で状況は好転しない」心の中でそんな事を言う冷静な自分がいる。それでの感情を抑える事が出来なかった。
 怒りで我を忘れそうになった庵の脳裏にふと今は亡き親友、朔夜鏡真の姿が過ぎる。あいつならこんな状況でも冷静に対処しただろう。
 だがあいつはもう居ない。甘ったれんな!そう自分自身を叱咤する。
 なんとか冷静さを取り戻し、今しなければならない事を考える。

「…シャトルの管制所に連絡しろ。無理矢理でもいいから出発を出来る限り急ぐようにと」

「りょ、了解!」

「あと指揮を執ってらっしゃる劉禅様にすぐにシャトルに搭乗なさるよう伝えてくれ」

「はい、すぐに!」

 あとやらなければならない事。この状況ではもう防衛戦はきつい。予定を早めて撤退戦を始めなくては。その為にはなんとか奴を抑えなくてはならない。
 頭に浮かんだ作戦は一つだけ――――もっとも効率的で残酷な。

「迦具土、紅、虚空の内一番奴のポイントに近いのは誰だ?」

「え?は、はい!少々お待ちください」

 部下がコンソールを操作する。長い様な短い様な時間が流れ部下から報告が上がる。

「一番近いのは七枷隊員です」

「そうか、すぐ虚空のいる分隊に通信を繋げ」

「了解」

 すまねー、心の中で庵は虚空へ謝罪の言葉を漏らした。




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 動揺と混乱、僕達だけじゃなくおそらく他の部隊も同じようなものだろう。今は突然の出来事でこっちも妖怪側も停滞しているがすぐにでも戦闘は再開する。
 そうなれば僕達の方が圧倒的に不利になる。ただでさえ劣勢だった現状であいつの復活は最悪の横槍になるだろう。そうなれば僕達はあっという間に全滅だ。
 そんな負の思考に陥っていた僕を突然の通信音が引き戻した。

「こちら第8分隊」

『本部の錦月だ。そこに居る七枷に代わってくれ』

 通信に出た分隊長に庵さんはそう告げる。

「はい七枷です……なんですか庵さん」

 そう問いかける。でも本当は話の内容が予想できていた。
 
『簡潔に説明する。奴の封印が解けた。そのため予定を切り上げすぐに撤退戦を始める。虚空お前には作戦完了まで奴の足止めを命じる。あと援軍は無いものと思ってくれ』

 無感情な声でそう命令してきた。

「な!?待ってください!総隊ちょ…」

 庵さんに意見しようとした分隊長を手で制する。いいんです、と言う様に首を横に振る。
この命令は今の状況でもっとも効果的だ。
 ただそれが出来そうなのが僕か紅か迦具土さんだけだろう。総指揮を執っている庵さんがする訳にはいかない。僕に命令が来たのはたまたまあいつに一番近かったからだと思う。
 結局は誰かがやらなくてはならないのだ。命令を出した庵さんを責める事は誰にもできない。

『早々に作戦に移れ。第8分隊は第4分隊と合流するように』

 普段とは打って変わり冷淡に言い放つ。

「……了解しました、総隊長」

「了解。あ、でも――――」

 渋々といった感じで返答した分隊長とは違って僕はいつも通りな感じで、

「命令は足止めですけど――――別に倒してもいいんですよね?」

 この状況でそんな事を言う僕を見て分隊の皆は唖然としていた。そして通信機からは、

『――――ハ、ハハハハハッ!!あぁそうだな!いいぞ遠慮なくぶっ飛ばして来い!』

 いつもの調子を取り戻した庵さんの声が響いた。

『一応通信機は持っていけ。…言えた義理じゃないが…死ぬなよ』

 そう言い残し庵さんは通信を切った。

「そういう訳ですので僕は行きますね」

 通信機を受け取りながら分隊長に告げる。

「七枷、一応これも持っていけ。無いよりはマシだろう。こんな事しかできんが生きてまた会おう」

 分隊長は霊刀と炸裂弾を渡してくる。“生きてまた会おう”正直死ぬつもりなど無い。だからこそ僕は分隊の皆にこう告げた。

「ハハハ、当たり前じゃないですか。それじゃまた後で」

 いつもの様にヘラヘラ笑いながらあいつが居るであろうポイントに向かう。妖怪達が動き出したのか戦場に再び喧騒が戻っていた。




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 ポイントに辿りついた僕は目の前の光景に首を傾げる。見渡す限りに塵になって消えていく妖怪の成れの果てが転がっていた。
 少し先には今まさにあいつに首を引き千切られている虎の様な妖怪が見える。
 この惨状を生み出した存在に僕は背後から声を掛けた。

「何?仲間割れ?」

「ふん、俺に仲間などいない。こいつ等が分際も弁えず挑んできたから始末しただけだ」

 僕の問いに振り向きながら紅髪は答える。

「そうなの、じゃぁついでにこの辺りにいる妖怪も消してくれない?」

「態々雑魚の相手をする気は無い。それよりも中々小癪な真似をしてくれたな」

 どうやら封印はお気に召さなかったようだ。当たり前か。

「しょうがないよ、人間は力で勝てなかったら知恵を使うんだ」

「なるほどな。だが二度は通じんぞ」

 そう言い放ち赤髪は戦闘態勢を取る。言われなくても解っている、どちらにしてもあの作戦はもう使えない。
 僕は両手に霊刀を握り構える。これからやるのは命懸けの時間稼ぎだ。
 紅髪の動きを見落とさないよう意識を研ぎ澄ます。瞬間――――爆発的な加速であいつが突っ込んでくる。
 凄まじい速度……だけど――――

「人は…学習できるんだよッ!」

 紅髪が繰り出してきた左拳の軌道を避けつつすれ違い様にカウンターで奴の右肩を切り裂く。

「何!?」

 カウンターを受けた紅髪が驚愕の表情で振り返る。先手は取った――――あとはこの優位を利用出来ればいいんだけど……

「驚いたぞ!ハハハッ!いいな人間!」

「あんたと闘り会うのはこれで3回目。これぐらい出来るようになるさ」

 正直に言えばただの強がり。でもこれであいつが攻めあぐねてくれれば儲け物だったけど僕の思惑とは裏腹に紅髪は妖力を高めていく。

「では続きといこうか!楽しませてくれよ!」

 その言葉で僕は気合を入れ直す――――ここからが本番だ。




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「くっ!」

 紅髪の一撃で派手に吹き飛ばされ僕の体は地面を抉る様に転がる。やっぱり一人でどうにかできる相手じゃないな。時間稼ぎに徹してこの様だなんて。
 そんな愚痴を心の中で溢しながら上体を起こす。すると突然後ろから殺気を感じ横に思いっきり飛ぶ。
 回避するのと同時に僕がいた場所に五メートルはあるミミズの様な妖怪が牙を突き立てていた。
 しまった、主戦場まで後退していたのか。周りを見ると無数の妖怪が僕に視線を向けていた。その内の一匹が襲い掛かってくる。

「GGooaaaaaa!!」

 その妖怪を斬り伏せ続くように飛んでくる妖怪達の攻撃をかわし続ける。あいつの相手で手一杯だっていうのに。
 そして妖怪達は僕を包囲するかのように動き出す――――がその妖怪達の一角に突如爆発が起こる。

「七枷を援護する!撃て!」

 近くにいた分隊が駆け付けてくれたらしい。妖怪達に次々銃撃が加えられる中その分隊に向かってさっきのミミズ妖怪が鎌首を擡げたが次の瞬間その妖怪は何かに木っ端微塵に吹き飛ばされた。

「何を雑魚共と戯れている」

 跡形も無くなった妖怪の背後から紅髪が現れる。あいつを見て分隊の隊員達に緊張が奔るのを感じる。これ以上分隊の手を借りる訳にはいかない。

「援護ありがとうございました。あとは何とかしますので作戦に戻ってください」

 分隊の隊員達にそう言うと返事も待たずに紅髪の元へ向かう。

「ねぇ、ここは邪魔が多いから場所を変えない?」

 僕は周りを取り囲む妖怪を見渡しながら紅髪に提案する。

「ふん、こんな雑魚共を気にするな。邪魔をするなら片っ端から潰せばいい」

 どうやら移動する気は無いか。だけどこいつを主戦場から引き離すのが僕の任務。

「そう。なら無理矢理でも動いてもらうよ!嫉妬(レヴィアタン)!」

 呼び出した瞬間自分の全周囲に向け斥力を放つと紅髪だけでなく僕を取り囲んだいた妖怪達も纏めて吹き飛ばした。妖怪達の中にはその衝撃波だけで砕けるように吹き飛んだ奴もいたが紅髪にはやはり効果は薄いようだ。

「ちっ!鬱陶しい!」

「悪いけど付き合ってもらうよ!」

 剣の切っ先を紅髪に向け連続で斥力を放ちこの場所からあいつを引き離す為に弾き飛ばしていく。

「鬱陶しいと言っている!」

 紅髪は斥力を相殺するつもりなのだろう、右腕に妖力を集めだす――――がやらせはしない。
 斥力を止め今度は逆に引力であいつを引き寄せ、それと同時に二刀を構え全速力で紅髪に向け飛び出した。攻撃の間をはずされ紅髪に隙が出来ている。
 霊刀とエストックを同時に振り抜きあいつの右腕を斬り飛ばした瞬間に更に至近距離から斥力を放ち再び吹き飛ばした。
 弾き飛ばされていく赤髪に全速力で追いつき奴の頭上を取ると地面に向け斥力を使い叩きつける。まるで隕石が墜ちたかの如く激しい衝撃音が響き天高く土煙が上がった。
 さすがの紅髪も凄まじい勢いで地面に打ち付けられた衝撃で動きを止めている。
 普通の妖怪なら今ので粉々になってもおかしくないんだけどな、なんて考えながら僕はそのまま倒れている紅髪を地面に縫い付ける様に嫉妬(レヴィアタン)を奴の胸板に突き立てた。

「ガァァァァッ!!」

「まだだよッ!!」

 僕は剣を突き立てた状態で引力を全開にして剣を残しその場を離れるとその引力に引かれ周囲の岩や木々などが怒涛の様に殺到しまるで出来の悪い芸術作品の様な歪な塊を形成した。
 普通ならこれで圧殺される筈――――なんだけど間違いなくあいつは生きていると勘が言っている。
 僕は剣の使用限界が来るまで休む事を決めるとその場に腰を下ろした。僕に残された切り札はあと二本、なんとしても持ち堪えなければ。




□   ■   □   ■   □   ■   □   ■   □   ■




「総隊長、最後のシャトルの発進を確認。これですべての住人が月へと向かった事になります」

 部下からの報告を聞き庵は安堵した。なんとか間に合ったか。戦場の方も今の所は作戦通りに進んでいる。これなら虚空の援護に向かい共に脱出する事ができる。
 庵は作戦を最終段階に移す様に部下に指示を出そうとした。そのとき爆発音が響いた。“帝都の内側”から。

「何だ?何が起きた?」

 庵の疑問はすぐに入った通信で解けた。

『総隊長大変です!わ、我々の脱出用シャトルが爆散しました!』

 司令室に衝撃が走った。それもそうだろう脱出の術が無くなったのだから。動揺が奔る司令室に一本の通信が入る。

『帝都を守る戦士達よ聞こえるかな?』

 こいつは確か議会の斎賀だったな。このタイミングで通信してくるって事は……

「これはテメーの仕業か!!何の真似だッ!!」

 斎賀はさも当然と言う風に、

『これは当然の処置だ。新たな帝都にお前達の様な妖怪と変わらない穢れを入れる事などできる訳がないだろう!』

「ふざけるな!確かテメーは守備隊を嫌っていたはずだ!ここには守護団の連中もいるんだぞ!」

『ふん!あやつ等も最早穢れよ!私は新帝都を守る義務があるのだ!』

 庵の心は怒りで燃え滾っていた。こんな奴のために!“劉禅様の懸念通りになるとは”

『安心したまえ。君達の事は英霊として新帝都で語り継ごうじゃないか。そう君達は帝都を守るために“帝都と共に散った”と』

 斎賀の言葉に庵は違和感を覚えた。何だ、こいつは他に何をした?

『精々妖怪共を引き付けてくれ。君達も妖怪共も「メギド」が始末してくれる!』

「何だと!」

 王宮の地下にあると聞いた事がある自爆装置。こいつはあれを起動させたのか!

「何処まで腐ってんだテメーはッ!!!!」

『腐っているのはお前達の様な穢れだ!では最後まで帝都を守り抜いてくれたまえ。ハハハハハッ!』

 そう言い残して斎賀は通信を切った。奴への怒りを押し殺し庵は部下に指示を飛ばす。
劉禅様が残してくれた保険を使う事になるとはな。

「すぐに全部隊に帝都のB13区画に向かう様に通達しろ!そこに劉禅様が用意してくださった予備のシャトルがある!」

 絶望感に染まっていた司令室は庵の発言で活気を取り戻した。

「はい、すぐに通達を出し…」

『庵さん!大変だ!!』

 突如、紅からの通信が入る。

「どうした?」

『さっきの通信を聞いてあっちこっちの分隊が混乱してる。このままじゃ撤退できない!』

 再び庵に怒りが込み上げる。あいつは通信をオープンチャンネルで繋いでいたのか!それでは予備のシャトルの事を知らない紅の部隊以外は戦意を喪失するに決まっている!
 今から情報を伝えた所で戦線は崩れるだろう。そんな庵の予想は残酷にも当たった。

『こ、こちら第九分隊!え、援軍をお願いします!』

『こちら第六分隊!助けてください!妖怪を抑えられません!』

 あちこちから援軍要請が入る。持ち堪えているのは紅と迦具土の部隊だけか。
 少し考えた後、庵は虚空に通信を繋いだ。

「俺だ。そっちはまだ抑えられるか?」

『……大丈夫ですよ。こうやって通信出来る位には余裕があります」

 虚空がそう答える。こんな事態にならなければ援護にいくつもりだったが最早それは出来なくなった。

「状況は最悪だ。すまないが何としても撤退が完了するまで奴を抑えてくれ」

『了解。そっちも気を付けてください』

 短くやり取りをして通信を切る。おそらく時間はあまり残されていない。メギドがいつ起動するかも解らない以上迅速に行動しなくては。

「俺は戦場に出て指揮を執る!お前達はさっき言った事を部隊に通達したらすぐにシャトルに向かえ!すぐにでも飛ばせる様にしておくんだ!」

「了解しました!」

 生き残って絶対に奴をぶっ飛ばす。心の中で叫びながら庵は戦場を目指した。彼等の不運とは裏腹に戦場の空は晴れ渡っていた。




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 庵さんからの通信を切った直後、僕の手の中で怠惰(ベルフェゴール) が砕け散り、眼前に開いた大穴からゆっくりと紅髪が浮き上がってくる。
 庵さんに言った事は嘘じゃない。通信する余裕はあった――――さっきまでは。これで能力は三本とも使い切ってしまった。あとどれ位粘れるだろうか。
 僕の思考を断ち切るかのように紅髪が飛び掛ってくる。しょうがない……今はやれる事をやろうと腹を括った瞬間――――僕の霊刀とあいつの拳が激しくぶつかり合った。




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 なんとか全部隊を撤退させる事に成功した。戦線はズタズタになったがシャトルに続く道はここだけだ。この通路さえ守りきればいい。

「庵さん!虚空の援護に行かせてください!」

 紅はそう庵に懇願した。庵自身も実際はそうしたかった。だがメギドの起爆までの時間が解らない以上虚空の元へ行かせる訳にはいかなかった。

「庵さん!」

 再び懇願してくる紅に言い返そうとした時その虚空から通信が入った。

『……庵さん…撤退は…終わった…?』

 電波が弱いのか虚空の声は弱弱しかった。

「ああ、完了した。お前もすぐに来い!」

 通信が出来るという事は奴をなんとか出来たと思い庵は虚空にそう伝えた。しかし虚空からの返答は予想外の物だった――――いやもしくは予想の範囲内だったのかもしれない。

『…すいま…せん。…もうちょっと…掛かりそう…なんで…先に…行ってて…ください…』

「そんな事出来る訳ねーだろッ!」

 紅が横から叫ぶ。庵も同じ気持ちだった――――だが全隊員を預かる者として決断を下す。奴の足止めを命じたあの瞬間から覚悟していた事だ。

「…わかった。何か伝言はあるか?」

「!?庵さん!何言ってんだよ!」

 紅が庵の襟を掴み上げる。それに構わず庵は虚空の返信を待った。

『……ちょっ…と遅れる…けど…怒…らない…でね、…と…伝えて…くださ…い』

「確かに伝える」

 それだけ答えると通信を切る。

「炸裂弾でこの通路を破壊する。総員退避!」

「ふざけんじゃねーッ!虚空を見捨てんのかよ!あんたの弟子だろーがッ!」

「あぁそうだ!俺は総隊長としてあいつを捨て駒にした!!虚空を犠牲にした以上絶対に脱出を成功さなきゃいけないんだよ!!文句はあとで聞く!さっさと行動しろ!」

 庵の剣幕に押されたのかそれとも覚悟に押されたのかは解らないが紅は引き下がった。退避していく隊員達の背後でシャトルに続く唯一の通路は爆発音と共に閉ざされた。


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 コックピットの後部座席に座り庵は最後の指示を出す。

「カウントダウンはいらん……すぐに発進しろ」

「…了解しました」

 シャトルがゆっくりと加速していく。薄暗い通路の先に光が見えてきた。そして通路を抜け空を目指して飛び立つ庵達の目に飛び込んできたのは雷を伴うどす黒い黒雲だった。
 さっきまでは嫌味な位の快晴だったはず。そして地上を映すモニターに出てきたのは真っ赤に染まる大地だった。
 何だこれは?そんな疑問を抱いた瞬間脳裏に虚空の姿が浮かぶ。まさか、お前はまだ戦っているのか?諦めずに抗っているのか?
 そんな事を思った庵の中に言いようの無い感情の波が荒れ狂う。唐突に館内通信用のマイクを取り、

「全員そのままでいい…七枷虚空に敬礼!」

 シャトルの中で隊員達がもう会えぬ仲間に敬意を持って別れを告げた。地上への後悔だけを残しシャトルは月を目指した。
 
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