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東方虚空伝

作者:TAKAYA
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第一章   [ 胎 動 ]
  六話 指導者

 ある日の午後、兵舎に館内放送が流れる。別に放送そのものが珍しいわけではない。問題はその内容だった。

「第四連隊 七枷虚空 直ちに総隊長室に出頭せよ。繰り返す、第四連隊 七枷虚空 直ちに総隊長室に出頭せよ」

 食堂で昼食をとっていた僕を周りの隊員達が一斉に注目する。その視線は『コイツ何したんだ?』ではなく『お前も大変だな、まぁ頑張れ』的なものだった。
 呼び出しの内容は解っている。間違いなく輝夜だ。『たまになら一日相手をする』とは約束したが数日したら押し掛けてきた。
 それからもう何回もここに来ては僕を呼び出すのだ。総隊長も蓬莱山の名前には弱いのか輝夜の我侭に従っている。他の隊員達も最初は驚いていたが今ではこれである。
 正直気が乗らない…

「ほらお姫様からの呼び出しよ。早く行きなさい」

 隣りで食事を取っていた美香がそう催促してくる。

「行きたくない、めんどくさい」

「蓬莱山に逆らうと首がトブわよ?それに兄さんにも迷惑がかかるわ」

「だよね…しょうがない行くか」

「いってらっしゃい、ロリペド野朗」

「何?美香ったらもしかしてヤキモチ?いや~照れるな~」

「……さっさと、逝って来いッ!!!」

 割と本気の殺気が篭ったナイフを投擲された。




□   ■   □   ■   □   ■   □   ■   □   ■




 総隊長室の扉の前までやってきた僕は覚悟を決めてノックする。

「第四連隊 七枷虚空参りました。入ってもよろしいでしょうか?」

 僕の問いに中から声が掛かる。

「ご苦労、入りなさい」

「失礼します」

 中には総隊長である朔夜 鏡真さんと輝夜、そしていつも輝夜の護衛として来ている王宮守護団の総団長 黄泉 迦具土(よみの かぐつち)さんがいた。髪の色は黒く短髪で俗に言うツンツン頭である。髪と同じ色の目は鋭く凛々しい。

「遅いわよ!もっと早く来なさい」

 そんな文句を言ってくる我侭姫。

「ごめんな、どっかの誰かさんと違って忙しかったんだ」

「な!わたしだって忙しいのよ!だけど態々来てやってるんじゃない!」

「あれー?僕は別に輝夜の事だなんて言ってないよ☆」

「こ、こいつー馬鹿にして!」

「あっ、でも“わざわざ僕に”会いに来てくれているんだから感謝しないとね~♪」

「な、何自惚れてんのよ!?」

「あれー、輝夜顔が紅いよ?どうしたのかな?」

「く、うぅぅーーーー!!!」

「七枷君、そろそろいいかな?」

 鏡真さんが困った顔をしながらそう言ってきた。視線の先を辿ると青筋をたてた黄泉総団長殿が怒気の篭った目で睨んでいた。怖いよ。

「では姫様本日のご用件はなんでしょうか?」

 生真面目に解りきった事を聞く鏡真さん。どうせいつもと同じで僕の拉致?だろ。なんて思っていたら以外にも答えたのは黄泉総団長だった。

「本日は盟主 蓬莱山 劉禅(ほうらいさん りゅうぜん)様よりいつも輝夜様の遊び相手を勤めてくださっている七枷殿を持て成したいという事でご招待に参じました」

 今なにかすごい事を言われた気がする。輝夜も知らなかったのかポカーンとしていた。

「そういう訳でして七枷殿にはすぐにご同行願いたいのですが朔夜総隊長よろしいか?」

 話の内容にすこし呆気にとられていた鏡真さんは慌てて許可を出した。

「解りました、では七枷君すぐに準備をしてくれ」

「え?あ、はい…了解しました」

 どうやら予想外の事態になってきた。

「?えっ?えっ???」

 そして輝夜はまだ混乱していた。





□   ■   □   ■   □   ■   □   ■   □   ■




 車での移動中、僕は落ち着けなかった。これからお偉いさんに会うから緊張している、とかでは無い。目の前に座っているお方の視線というか圧力のせいだ。
 僕を威圧している人物 黄泉総団長に思い切って聞いてみる。

「あの、僕に何か?」

「いや別に…」

 そう返してきたが視線は鋭いままだった。これまでも何度か一緒になる事があってこういう視線を向けられる事はあったけど今日は特別きついな。
 そんな黄泉総団長の視線に耐えられなくなったのか僕の隣に座っていた輝夜がいきなり叫んだ。

「あー!もー!迦具土いい加減にして!息が詰まるでしょ!」

 別に輝夜に向けられていたわけじゃないだろ、そう心の中で突っ込む。輝夜にそう言われた黄泉総団長は、

「えっ!いえいえいえいえ!じ、自分は輝夜様を睨んでなどおりません!誤解なさらないでください!はい!」

 めっちゃ狼狽した。実はこの人輝夜にめちゃくちゃ弱い!とんでもなく弱い!輝夜が我侭なのはこの人のせいじゃないのかな、と思う程である。
 そしてなぜか僕に向けて怒気の篭った視線を突き刺してくる。なんで?

「……迦具土?」

「は、いえ、ええと、申し訳ありません輝夜様!」

 はぁ、早く目的地に着かないかな?




□   ■   □   ■   □   ■   □   ■   □   ■




 ついた場所はやたらと立派な屋敷だった。広さなら守備隊の兵舎くらいだ。門を抜けた先正面玄関と思われる所には執事やメイドさんが整列しており、輝夜が車を降りると、

『おかえりなさいませ、輝夜様』

 と見事なコーラスが流れた。僕がこの状況に驚いていると輝夜がこっちを向きドヤ顔してきた。いや、お前何もしてないから。
 全員が車から降りたのを見計らって執事の一人がこちらにやって来た。結構年配の人のようだがその仕草は若々しさに満ちている。

「おかえりなさいませ姫様、そしてどうぞいらっしゃいました七枷様」

 そんな慇懃な態度をとられるとちょっと困る。

「では旦那様がお待ちになっております。私が御案内しますのでどうぞこちらに」

 そう僕等を促し屋敷に入っていく。その後を遅れないよう付いて行く。屋敷の中も随分と立派だった。僕には価値の解らない調度品やらがあちこちに飾ってある。
 あっちこっちと視線を向ける僕を見て輝夜が、

「ふふん!どう、すごいでしょ!」

 勝ち誇ってきた。

「うんそうだね“屋敷”はすごいね」

「…何か引っかかる言い方ね」

「気のせいだよ」

 そんなやり取りをしていると、

「こちらの部屋になります。少々お待ちを」

 執事さんはそう言うと扉をノックし中に声を掛ける。

「旦那様お連れいたしました」

「解った、入れ」

「ではどうぞ」

 扉を開け中へと促す。
 部屋には黒髪をオールバックにした目つきの鋭い男性が立っていた。柴色(ふしいろ)の着物に同じ色の羽織を着ている。身長は僕と変わらない位だけど纏っている威厳というかオーラみたいなものの所為で大きく見える。

「ようこそ我が屋敷に七枷虚空君。私が蓬莱山劉禅だ、よろしく」

 なかなか渋い声でそう自己紹介された。

「初めまして、本日はお招き頂ありがとうございます」

「そう畏まらないでくれ、君は客人なのだから」

 そう言って笑みをこぼす。あぁ笑い方がなんとなく輝夜に似てる。

「君にはいつも娘が迷惑を掛けている様だからな」

「えぇそうですね、ホントに」

「「「 ……………… 」」」

 僕がそう返した瞬間部屋が静寂に包まれた。あれどうしたんだろう?そんな疑問を抱いていると突然静寂が破られる。

「あんたね!!そこは普通『いえ、そんな事はないですよ』って返す所でしょうがッ!!!ていうか迷惑とか思ってたの!!!」

 輝夜が噴火した。

「僕、嘘が嫌いなんだよ。それに輝夜よく考えてごらん」

「何をよ!!!」

「真面目に勤務している人間を自分の都合で無理やり拉致していく事を迷惑だと思わない訳ないでしょ?」

「無理やりじゃないわ!ちゃんと約束したじゃない!」

「確かにしたね、“たまにでよければ”って」

「たまにしか行ってないじゃない!」

「あれのどこが“たまに”なんだよ」

 輝夜と僕が言い合っていたら部屋に笑い声が響く。

「アハハハハハハッ!!!」

 劉禅さんが大爆笑していた。突然の出来事に僕と輝夜、黄泉総団長、執事さんは呆気にとられていた。

「あーいや、すまんすまん!つい可笑しくてな」

 なんとか笑いを抑えた劉禅さんがそう言ってきた。面白い所が在ったっけ?僕の疑問を察してか理由を話してくれる。

「まさか輝夜が他人にあんなに感情的になるとは思いもしなくてな」

「ちょっ!お父様!」

「でも輝夜は出会った時からこんなでしたよ?」

「ちょっ!あんたも何言ってるのよ!」

「そうなのか?普段はもう少し淑やかなんだが?」

「だからお父様!」

「僕にはそっちの方が信じられないんですけど?」

「あんたね!」

「なるほど、輝夜はよほど君に懐いているようだね」

「そんな訳ないでしょ!」

「懐いてるっていうか間違いなく噛み付いていますよ?」

「誰がよ!」

「ハハハッ、もっと君の話を聞いてみたいな」

「え?わたし無視されてる?無視されてるの?」

「まぁ、輝夜の失敗談でよろしければいくらでも」

「…わたしを無視するなーーーー!!!!」

 輝夜のとび蹴りが僕の腹部を強打した。

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 なんだかんだあったがその後は食事会となった。何て言うか豪華としか言いようの無い料理がずらりと並べられる。味も申し分なく大満足。そしてそんな僕をみてドヤ顔する輝夜。だからお前は何もしてないから。
 劉禅さんに普段の輝夜の事を聞いたり僕といる時の輝夜の様子を聞かれたり守備隊に関する真面目な話をしたり、そんな感じで時間は過ぎていった。

「すまんな七枷君、もっと持て成したかったのだがな」

 仕事の都合で行かなければならなくなった劉禅さんが申し訳なさそうにそう言った。

「そんな気にしないでください。十分過ぎますよ」

 僕なんかにはもったいない待遇だった。これで文句など出るわけが無い。

「ではそろそろ行かせてもらうよ。これからも輝夜の事をよろしく頼む」

 そう言うと僕の手をとり握手してくる。

「僕なんかでよければ」

「ハハハ、それではまたな」

 劉禅さんを乗せた車が遠ざかって行く。そしてその場には僕と黄泉総団長だけが残った。輝夜は用事でさっき部屋に帰っていった。
 なんとなく気まずい雰囲気の中総団長が一言、

「あまり調子に乗るなよ…」

 と恫喝してきた。警戒と言うか嫌われているんだろうか?と思った時、頭に浮かんだ疑問を聞いてみることにした。

「もしかして総団長…輝夜に惚れてる?」

「!?!?!?な、何を言っているんだ!!!」

 めっちゃ動揺してるな。

「いやだって総団長の視線って僕が永琳と街を歩いている時に感じる物と同じなんですよ。いわゆる嫉妬?みたいな」

 僕がそう言うと、

「そ、そんなわ、訳がないだろう!俺が輝夜様にそ、そんな感情を持つなど!そ、それによく考えてみろ!俺と輝夜様は二十以上も歳が離れているんだぞ!」

 確か総団長って二十五、六だったっけ?

「歳の差なんて愛には関係ないですよ?」

「そ、そうか?うむ、そう言われれば確かに…って、だから違うと言っているだろ!!」

 この人意外と面白い!

「ええい!もういい!貴様はとっとと帰れ!!」

「そうします。それでは総団長また」

 僕がそう言うとふん!と言って屋敷の方に行ってしまった。まさか総団長がねー。この事が今日一番の収穫だったのかもしれないな。

 
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