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占術師速水丈太郎 白衣の悪魔

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33部分:第三十三章


第三十三章

「このカードは特別でしてね。あらゆるものを束縛する力があるのですよ」
「束縛・・・・・・」
「ええ。そして」
「私のこの糸も」
 今度は沙耶香が自分の手に持っている糸の玉を見せてきた。それは一見只の糸の玉だがあまりにも見事な白銀の色からそうではないのがわかる。魔術のかかった糸であるのは明らかであった。
「そうなのよ」
「まさかその糸もまた」
「ええ、束縛の糸よ」
 沙耶香もまた答えてきた。
「使い方が難しいけれど。使えば見事なまでに効き目があるのよ」
「じゃあ僕は」
「動けますか?」
 速水が彼に問う。
「動けませんね。おそらくは」
「うう・・・・・・」
「そう、勝負ありね」
 沙耶香は悠然とした笑みを浮かべていた。それはまさに勝利の笑みであった。
「これで」
「まさか・・・・・・こんなことが」
「普通に戦っても勝利はおぼつきませんでしたので」
「それでね」
 二人はまた言う。
「こうした絡め手を使わせて頂きました」
「動こうとしても無駄よ」
 沙耶香は念を押す。
「魔術の糸はもがけばもがく程絡んでくるものだから」
「さて、それでは」
 速水の顔左半分を覆っていた髪が上にあがりその左目が黄金色に輝く。沙耶香の両目また紅く輝く。
「終わりです」
「決めてあげるわ」
「残念だね」
 魔人はまるで他人事のように言葉を返してきた。それがやけに印象的な程であった。
「これで終わりだなんて」
「終わりは終わりだからね」
 無邪気な笑いで述べる。4
「それを思うとね。まあそれでいいよ」
「いいのですか。それでは」
 速水は黄金色の目を光らせてそこから力を放ってきた。それが吊るし人の鎖を輝かせる。
 沙耶香の両目もまた。紅い光が糸を輝かせる。するとそこから二色の稲妻が魔人を焼き尽くして跡形もなくしてしまったのであった。
 こうして戦いは終わった。速水はそれを見届けてからカードを懐に収めて沙耶香に対して述べてきた。
「これで終わりですね」
「ええ、何かあっという間だったわね」
 沙耶香はそれに応えて言った。既に二人の目は静かな黒に戻っている。速水の左目は黒髪に隠れて見えなくなってしまっていた。
「終わってみると」
「それでは明日ですね」
 彼はまた言う。
「警部に報告して」
「ええ。ただ」
「ただ?」
「これで私達の戦いは終わりよ」
 悠然とした笑みを受けての速水への言葉であった。
「これでね。だから」
「何処かに行かれるのですか?」
「ええ、よかったら二人でどうかしら」
 速水を誘ってきたのだ。これは彼にとっては願ってもないことである。
「二人でね」
「ではどちらへ?」
「そうね。ホテルだとどうかしら」
「けれどそれはないのですね」
 速水もまた悠然と笑って返す。まるで全てがわかっているかのように。
「どうでしょうか、そちらは」
「あら、わかってるのね」
 沙耶香も笑って速水に返す。
「そうよ。その通りよ。やっぱりそちらは気分じゃないから」
「やれやれです。では何でしょうか」
「北海道だからね」
 ここで言葉が思わせぶりになった。
「海のものが食べたいのよ」
「海のものですか」
 速水もまたその言葉に顔を向ける。まんざらではないといった様子であった。
「そうよ。お寿司かお刺身を」
「悪くないですね」
 そのまんざらでもない様子をまた見せる。
「それではどちらに行かれますか?」
「まだお店は開いているわよね」
「ええ、充分です」
 左手の腕時計を見ての言葉だった。見れば沙耶香もその懐から懐中時計を見ている。見るものは全く同じものであった。
「この時間なら」
「それじゃあ決まりね」
 沙耶香はそれを聞いて言ってきた。

 
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