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みなかたパッチン

作者:hiroki08
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みなかたパッチン

 
前書き
 人物 
水元雄心(29) 南方舗道土木作業員 
光春 衛(29) 町教育委員会嘱託委員
木戸時生(29) 消防士
彼方源次郎(29)漁師
南方仁 (46) 南方舗道社長
水元麻奈(60) 水元の母。居酒屋ちきんは
        ーつ店主  
楫 護 (49) 慈円町長
菜波智仁(49) 菜波グループCEO
坂田和也(40) 南方舗道現場監督
相原 治(55) 同土木作業員
郡司昭義(35) 同
波賀なつみ(24)南方舗道事務員
吾川 学(38)慈円町土木課長
警察官A(42)
警察官B子(21)
吾我 意智朗(55)慈円警察署長
島崎 一郎(49) 郵便配達員

 北海道
 道東地方
 めあり郡慈円町
 人口は二万人
 基幹産業は漁業
 さんま・鮭・蟹・うに・かきが主に水揚げされる。
 映画館はないし○クドナルドもない。
 でも人情に溢れている?
 そんな訳けがない。
 ローカルには守るべき決まり事がくもの巣みたいに張り巡らされている。
 都会さんたちはそれを人情なるものと誤解する。  
 
 年を経る度にそれが強固なものになり大きな闇が出来上がる
 下々のものはそこには決して入ってはいけない。
 足を踏み入れてはならない。  

 
○閑散とした商店街アーケード・入り口(夕)
商店街アーケードの通路はつぎはぎだら  
けのアスファルト。
車両通行止めの看板を端に寄せる男性が
「どうぞ」と頭を下げる。
  そこを通る一台の高級車。
  T・みなかたパッチン
  (M 青色7・青いスポーツカーの男)

○車どおりの少ない町道
舗道に開いた穴の補修工事を行う土木作
業員たち。
N水元「北海道めあり郡慈円町。人口二万人
   ちょいの錆びれた港町。俺は捨てたは
   ずのこの街に拾われ、今は街のやつら
   が開けた穴を埋めている」
  × × ×
砂利の上にアスファルト合材をスコップ
で敷く水元雄心(29)。
その様子を腕を組んで眺める現場監督・
坂田和也(40)
坂田「やっと[ この地方のスラングで人をせ
  かすという意味を持つ]やっとやれや」
水元「すみません」
 
○トラック、車内
  昼食を頬張る作業員たち。
坂田「どうだ。疲れたか?」
水元「合材が以外に熱くてびっくりしました」
坂田「そんなこときてねえんだよ。疲れたか
  って聞いてんの?」
水元「はい。疲れました。足に結構きてます」
坂田「そうか。じゃあ昼からはエッチできな 
  くまるで使ってやるからな」
  薄ら笑いを浮かべる坂田。
相原 治(55) 、郡司昭義 (35)が
笑う。

○居酒屋ちきんはーつ(以下ちきんはーつ)・カウンター席(夜)
カウンター席向こう側の厨房でフライパ 
ンをふるう水元の母・水元麻奈(60)。
カウンター席後ろのイス席からガヤガヤ
と聞こえる。
カウンター席に座り、どぶろくにはいっ
ているアイス昆布茶を酌み交わす水元と
木戸時生(29)。
木戸「雄心。おつかれ」
水元「ほんと疲れたよ」
水元と木戸は互いのグラスを当てる。
アイス昆布茶を飲む二人。
水元「これまずいな」
木戸「まずい。源が来ないうちに捨てようぜ」
水元「そうしよっか。じゃ、あとりあえず」
水元は目の前にあるキープボトルの群れ
にそのどぶろくを隠し木戸に目線を向け
る。
水元「なんかさ。夢が無くて働くのってむな
  しいよな」
木戸「何言ってんの!」
麻奈「ゆう。そんなこといってたら後ろから
  モノ飛んでくるわよ。はい。これ持って
  って」
水元「はいよん」
席を立ち、イス席に向かう水元。
水元「お待たせてしました。牛とろフレーク
  と塩いくらの海苔巻きです」
  海苔巻きをイス席の客に差し出す水元。
カランコロンと、入り口戸が開き彼方源
次郎(29)が入ってくる。
  水元は戸の方向に目を向ける。
水元「よう」  
彼方「おいっす」
麻奈「いらっしゃい」
彼方「おばさん。これ今日の会計ね」
彼方は麻奈に向けて左手に持つ、金目鯛
を掲げる。
麻奈「あら、いいおめめね」
彼方「冷凍だからしゃぶしゃぶにしな」
  × × ×
  カウンターで談笑する水元、彼方、木戸。
彼方「そういうちっちゃいやつはどこでもい
  るよ」
木戸「うんうん。うちにもいるよ。ある程度
  のポストにのさばっていばりちらしてる
  奴」
水元「まあさ。前の職場はもっとたちの悪い
  おっさんがいたからはげの坂田なんてか
  わいいもんよ」
木戸「映画作ってる人たちの世界って人を蹴
  落としてなんぼの世界って感じなんでし
  ょ? やっぱり」
水元「蹴落とすというよりきちがいの集合体
だよ。だって遡上する鮭にどこの事務所
だ。カメラに水ぶっかけやがってもう使
わねえぞって言う馬鹿な監督がいるんだ
よ」
  目を動かして何かを探す彼方。
彼方「こんなところにいたか。我が漁協の新
商品。お前ら飲んでないだろ」
水元、木戸はグラスを顔の高さまで持ち
上げる。
彼方「それならいいんだけど」
  アイス昆布茶をぐいっと飲み干す木戸。
木戸「グッテイスト」
  木戸と彼方が水元に視線を注ぐ。
  苦悶の表情を浮かべる木戸。
水元「俺はちびちびのむ派だから」
彼方「おばさん。ウーロンティーちょうだい」
麻奈「あいよ」
水元が彼方を睨みつける。
水元「源のウーロンティー、キャンセル」
彼方「なんでよ」
水元はあのどぶろくを手に取り、カウン
ターのジョッキ群から大ジョッキを選び
手に持った。
彼方「今日はいいよ」
  彼方は数往復顔を横に振る。
水元「そんこと言わないで飲みなさいよ。お 
兄さん。昆布は疲労をやわらげるグルタ
ミン酸入ってるんでしょ?」
水元の手に持つ、ジョッキにはなみなみ
のアイス昆布茶が注がれている。
水元「はい。お待ち」
  ジョッキを彼方に差し出す水元。
彼方「待ってないです」
木戸「あのさ。うしろにピカいるの知ってた」
水元「ピカって中三の時、転向してきたあの 
  ピカ?」
彼方「さっきうしろに行ったじゃん」
  × × ×
  (フラッシュ)
わいわいと騒ぐ四人イス席の隣、二人イ
ス席奥に一人でひっそりと座りノートパ
ソコンに向かうピカこと光春衛(29)
  × × ×
水元「そういえばいたね」
  水元はうしろをチラッと見る。
光春はカンウンターの方に向いていた目
線をパソコンに戻した。
木戸「あいつ。役所辞めてから引きこもりや
  ってたんだけど。メルマガで悟りひらい
ちゃって、月30万稼いでんだって。そ
れに今はメルマガ人気に便乗した教育委
員会のやつらが頼み込んで不登校生徒対
策室長なるものをやってんだってよ」
水元「そんなにうまくいくかな? 人生って」
彼方「つうかさ。あいつ親、転勤族なのにな
  んで慈円にいんのよ?」
  カウンター席のうしろを通る光春。
光春「おあいそ」
麻奈「はいよ」
  うしろを振り向く水元、木戸、彼方。
レジ台に置いてあるカルトンに代金をさ
っと出し、ちきんはーつを去る光春。
水元「疾きこと風の如くだな」

○南方舗道・事務所(朝)
  花咲ガニ、二匹が入ってる水槽。
  社長・南方仁(46)の朝礼が聞こえる。
一方のかにがはさみでちょっかいをだし、 
けんかがはじまる水槽。
  眠そうに朝礼を聞く水元たち。
ばれない様にスマートフォンを動かす事
務員・波賀なつみ(24)。
水元のM「おれは東京でスタントマンをやっ
ていた。並のスタントマンでも全国の交
通安全教室行脚などでそこそ食える。し
かし、大きな仕事が入らないことや同志
たちが怪我をしてやめていったり撮影の
不慮の事故によって仲間が亡くなってし
またことが理由でその世界から足を洗っ
た。そして、この会社南方舗道・通称み
なかたパッチンに入った。パッチンとは
道路舗装を補修するパッチング工事のこ
とを指す。街の人は穴埋めしかできない
この会社を皮肉ってそう呼ぶ」
けんかがおわりハアハアと疲れたようす
のカニ達。
朝礼が終わり、従業員四人は事務所を出
る。
  彼らを見送る。南方となつみ。

○海沿いの車どおりの少ない町道(朝)
  舗装補修工事を行う水元達。
アスファルト合材をコンプレッサーと言
う機械を使って成型しなが固めていく水
  元。
それを前から腕組みして見下ろす坂田と
郡司。
  水元の後ろから心配そうに見守る相原。
坂田「おい。そんなによろけたら、固まんね
  ーぞ。もっと腰いれろ」
郡司「だめにしたら買取だぞ。1トン160
  00円で今使ってんのが100キロぐら
いだから1600円。二時間ただ働きか。
大変だね」
相原「もっと下に下に体重かける感じで」
水元「はい」
相原「そう。そう。いいぞ」
  × × ×
コンプレッサーをトラックの荷台に上げ
る水元と相原。
水元の作業した場所をチェックする坂田
と郡司。
水元の作業用つなぎには作業中に付着し
た合材と砂利をくっけるための乳剤が日
  光に反射する。
郡司「買取なしかおもしろくないな」
坂田「水元。お前汚いから荷台のれ」
水元「えっ」

○トラック・荷台(朝)
  走行するトラック。
水元は前方をコンプレッサー、右側面を
数本のスコップ、左側面に数本の竹箒、
後方をトラック荷台フロントパネルで自
分の体を隠している。
  パトカーのサイレンが鳴る。
警察官A「南方さんのトラック。端に寄って」

○路肩(朝)
トラックの後ろにパトカーがとまってい
る。
警察官A(42)と警察官B子(21)がト
ラック荷台を凝視する。
慌ててドアを開け荷台に駆け寄る坂田、
郡司、相原。
警察官A「君、もうばれてるから出なさい」
  息を潜めている水元。
警察官B子「運転手さん。免許提示してくだ
  さい」
坂田「ひとなんていねえよ。路肩に捨てられ 
  てたマネキンだ」
警察官A「つなぎ着てるマネキンね。ワーク 
  ショップで飾ってたやつかな?」
坂田「そうだよ。ワークショップ田村に注意
  してくれ。立派な不法投棄なんだから」
警察官「毎回こういうふうに付き合わせてく 
るけど職務規定違反になるからやめてく
ださい」
坂田「のりつっこみさせるのはNGかい。わ
かったよ。じゃあ、おれら次の現場ある  
んで」
  警察官のもとをはなれる南方舗道の面々。
警察官A「もういいかげんにして。今日とい
う今日は切符切りますよ。まずは彼を下  
ろして、そしてあなたは免許みせて」
荷台を指差しながら坂田を罵倒する警察
官A。
水元は竹箒の側からゆっくり出て、あお
りをまたぎタイヤに足をかけてトラック  
からおりた。
警察官A「こきたないマネキンだ」
相原「そういう言い方すんなや」
警察官A「これは口が過ぎました。ごめんな
  さい」
  相原に向けて頭をおろす警察官A
相原「なんだよ。それ、空箱だな」
警察官A「最近は空箱だけでも値打ちがある
  らしいですよ。ファミコンのとか」
  自分のパーとグー何度もぶつける郡司。
郡司「相原さん。こいつやっちいましょ」
坂田「グンソクやめとけ。社長に迷惑かかる」
郡司のパーとグーを左のパーで上から包
む坂田。
警察官A「ナイスコンプライアンス。この世は
  コンプライアンスで出来ていますから」
  笑みを浮かべる警察官A。
水元「あのう、マッポさん。おとというちの
  店来ましたよね? そちらの人と」
  水元は警察官B子をパーで差した。
警察官A「ああ。あそこの息子か」
  × × ×
  (フラッシュ)
ちきんはーつ・四人イス席の壁側、激し
いディープキスをする警察官Aと警察官
B子.
  × × ×
水元「ハードコミュニケーションをなさって
  いましたね」
警察官A「場末の居酒屋にはプライバシーポリシーがないの? 心外だよ」
水元「うちの店はPマークはってないんすよ。
すいません。こないだから気になってい
たんですけど若奥様は指輪してないんで
すね」 
警察官B子「たっくんやばいよ」
警察官Aのうしろに立つ警察官B子は彼
の拳銃ケースを引っ張る。
  目線を水元から坂田に変える警察官A。
警察官A「坂田さんほんとに今回だけですよ」
坂田「ありがとうございます」
警察官A「では我々はこれで失礼します」
  二人の警察官がパトカーに戻っていく。
坂田「あの野郎。性格悪いのにあんなかわい
  いマッポちゃんとやりまくってんのか。
  俺にもチャンスあるかな」
  坂田の指輪が光る。
  パトカーが動き出す。
水元「ローカルはモラルプライアンス違反に
  厳しいですよ」
  と水元がパトカーに向かって叫ぶ。
  
○パッチング工事現場
  コンプレッサーをかける水元。
坂田「水元。疲れたか?」
水元「ちょっと」
坂田「郡司。かわってやれ」
郡司「はい」
郡司が水元に代わりコンプレッサーをか
ける。
水元は首にまいてるタオルで額の汗を拭
く。
坂田「さっきは助かったわ。お前使えない奴
  だと思ってたけど頭はキレるんだな。こ
  れからも頼むぞ・コンプラ担当」
水元「ウっす」
  水元はあごを軽く下げる。
郡司「ホタテのてんぷらくいたくなってきた
  な」
相原「グンちゃん。そこ、圧がちゃんとかか
  ってないぞ」

○チキンはーつ・カウンター席(夜)
  水元と彼方。
彼方「それはお手がらっだったね」
水元「うん。坂田に恩売ったから明日からはやりやすいよ」
N水元「今日は火曜日。人が一番入らない日。
居酒屋のゴールデンタイム七時だという
のに、客はイス席でパソコンに向かうピ
カだけである」 
  厨房奥から麻奈がカウンターに現れる。
麻奈「雨降り出したし、九時過ぎにポツポツ
とワケアリさんたちがきて11時になっ
て終わりか」
水元「ごめん一組減らしちゃたわ」
麻奈「はい。生活費4万ね」
  左の手のひらを差し出す。
水元「なんで一万もふやすんだよ」
麻奈「わたし録画した韓国ドラマ、見てくる
  からお客さん来たら頼むわ。源ちゃんい
  るから大丈夫でしょ」
彼方「おまかせあれ」
  彼方が麻奈に手を振る。
厨房奥の自宅に繋がっている扉に麻奈が
入っていく。
水元「おー。行った行った」
彼方「あの団子食べていい?」
厨房においてあるトレーに入った団子を
指差す彼方。
水元「それ、とうちゃんの仏壇にあげてたや
つ。ババアがたぶんキープしてたんだろ
うけどな」
彼方「いいだろもう八時過ぎだし」
  
○(回想)ちきんはーつ・カウンター席
  T・20年前。
  喪服の麻奈と水元。
麻奈「ノミの心臓だった漁師がなんで海に落
  ちちゃったのバっカじゃない」
  弁当を食べる水元。
麻奈「ごはん落とさないの」

○チキンはーつ・カウンター席(夜)
カウンターでアイス昆布茶をすすりなが
ら串団子をつまむ彼方。
  厨房で洗い物をする水元。
彼方「みたらしとこぶ茶の苦味が合うね」 
  店の外から言い合いをする男女の声。
彼方「うるせえな」
ちきんはーつ外の商店街アーケード通路
で傘で突き合う慈円高校の制服を着た少
  年少女。
  入り口のガラス戸越しにそれを見る彼方。
彼方「ゆう。外で円高生がフェンシングの試
  合やってるぞ」
ちらっと外を見て、グラスに息を吹きか
け、ふきんで磨く水元。
水元「全身が攻撃対象か。エペだね」
彼方「審判やりにいこう」
水元「アイス昆布茶のネーミング決まったの
  か」
彼方「まだ」
水元「コンブライアンスでいいんじゃね」
彼方「どういう意味?」
厨房・冷蔵庫の扉にマグネットでとめた
裏紙群から一枚を抜き、筆ペンで字を書
  きそれを彼方に見せる水元。
彼方「昆布遵守。いいね。漢字は幹部のじい
さまたちが好きなんだわ。でもこれじゃ  
ないな。20代女子が手にとるようなや
つプリーズ」
水元「その前に若い子はどぶろく手に取らん
  よ。客層を明確にしなさい」
光春「海のやすらぎはどうかな?」
  彼方の後ろに光春が立つ。
  目が点になる水元。
  後ろを振り向く彼方。
彼方「びっくりした」
光春「ごめん」
水元「まあ座れよ」
  × × ×
カウンター席に腰掛ける三人。
水元と彼方が談笑し、それをよそに光春 
がパソコンに向かう様子。
N水元「中三の時から四年間、慈円にいたピ 
カは暗い奴だが空手の黒帯で学業成優秀。
完璧な奴だった。高校卒業後に札幌の大
学に進学してからなぜか慈円役場に入っ
た」
彼方「で。なんで役場やめたの?」
水元「ストレート過ぎるでしょ。まずいよ。
  このお茶ぐらいまずいよ」
  とそのどぶろくを顔の前に持ち上げる。
彼方「お前の方が球速早いよ」

○(回想)慈円高校・教室
  T・11年前
  休み時間。
  じゃれ合う生徒たち。
ラジカセからはモンゴル800矛盾の上
に咲く花が流れている。
  勉強に励む光春。
  光春の肩を後ろからポンと叩く水元。
水元「ピカ。勉強楽しいか?」
光春「勉強は楽しんでやるもんじゃない。将
  来の自分への投資をしてるだけ。それだ
  けだよ」
水元「そうか。じゃあ将来、慈円町長になれ
  よ」
光春「メリットがあればね」
水元「愛人たくさんつくれるぞ。まあそれぐ
らいかな。俺、バカだけど話聞くのだけ  
はうまいって言われるから、なんかあっ
たら話聞くよ」
光春「今のところはないよ」

○ちきんはーつ・カウンター席(夜)
光春「潰されたんだ。今の町長に」
彼方「試合終わったみたいだな。抱き合って
  キスしてるよ」
水元「楫にかよ」
光春「あいつが建設水道部長だったころ、俺 
は慈円の闇に放り出されて壊れたんだ」
彼方「闇って」
光春「それ」
光春は串団子を口にいれる彼方の口元を
指差した。
足音が聞こえ。厨房奥から麻奈が現れる。
水元「目腫らしてでてくんなよ。冷やせ、冷 
  やせ」
製氷機から手づかみで掴んだ氷を麻奈に 
渡す水元。
  それを目元に当てる麻奈。
麻奈「わたしの団子」

○牧草地の見える路肩(朝)
草刈機で草を刈る水元と彼に罵声をとば
す坂田の様子。
N水元「一年中寒い慈円は六月に桜が咲く。
それを合図に木々、草花が一斉に成長す
る。そのころからみなかたパッチンはも
うひとつの仕事・道路脇の草刈が行われ
る」
坂田「腰いれて腰振ってリズムよく」
水元「はい」
草刈機の音が止まる。
坂田「チッ。またからませやがったな。この
やろ。アクセル入れるタイミング悪いか 
らこうなるんだぞ」
険しい表情で機械に絡まった草をとる水
元。
坂田「聞いてんのコンちゃん」
水元「さーせん。聞いてなかったす」

○南方舗道・事務所(夕)
応接イスに深く腰をかける菜波グループ
CEO・菜波智仁(49)。
テレビ画面。
脱線事故のニュース。
男性アナウンサー「午後から行われた会見で
酒井代表取締役はレール幅の点検見直し
を再度徹底したい。深く深く反省してい
ると述べました」
事務員A子「社長。どうぞ」
お茶を差し出すなつみ。
菜波「ナミちゃん。シーイーオー」
なつみ「すいません社長」
  事務所入り口戸が開き、南方が現れる。
南方「シャーイーオー。お待たせしました」
菜波「やっぱ。社長に戻そうかな」
× × ×
応接イス。
菜波と南方。
南方「今日も脱線事故ありましたね」
菜波「深く深く反省してるんだってよ」
南方「深くの回数で誠意をあらわしたところ
 で私達は許しませんよって感じですよね」
菜波「やつら反省してないよ。かたちだけ。
インフラ権力は何やっても結局は許され
んのよ。なくてはならないオンリーワン
だから」
南方「はあ」
菜波「パッチングの図面。ナミに渡しておい
  たから。じゃあ帰るわ。よろしくね」
南方「わざわざ、ありがとうございました」
  南方が立ち上がり、深く頭を下げた。
  入り口戸が開き、水元たちが入ってくる。
菜波「おつかれさん。おつかれさん」
菜波は汚れたかっこの水元たちに触れな
いよう距離をとって事務所を出た。
相原「何年たってもいけすかないやつだな」
坂田「社長。またパッチンですか。新築道路
とは言わないからオーバレーぐらいとっ
てきてくださいよ。入札でこうやって手
上げてさ」
と左手をあげて右手で左脇を隠す坂田。 
郡司「オーバレイをやりたいの」
AKB・市川美織のギャグ〈フレッシュ
レモンになりたいの~〉ように郡司が叫 
ぶ。
南方「機材ねーんだよ」
水元「あの。社長」
申し訳なさそうに草刈機の刃を持つ水元。
南方「またやったの」
とうわずった声をあげる。
× × ×
(フラッシュ)
路肩
刃をガードレールに打ちつける坂田。
水元「なにやってんすか」
坂田「これお前こわしたことになるから」
  にやける坂田。
  × × ×
水元「それでですね。私のようなものでも折
れない刃・トミタディスクを購入してい
ただけないでしょうか?」
と文章を読み上げるように話す。
坂田「コンちゃんがこのようにいってるんで」
坂田と水元が頭を下げる。
南方「わかった。わかったから新人にそうい
芝居やらせるな」
○ちきんはーつ・カウンター席(夕)
奥から水元、彼方、木戸、光春の順で腰 
掛ける。
光春の前にはパソコン。
木戸「狭いよ。ここ三人がけなんだから。て 
いうか。光春なんでいるん?」
彼方「そんな。火の出るような怒り方すんな 
よ消防士なんだから」
木戸「夜勤の間に勝手に仲間に入れんなよ」
  じゃれあう水元、木戸、彼方の様子。
N水元「時生は円高を出てから専門学校に通 
い、一年の消防浪人を経て消防士になっ
た。慈円消防署管内では火災と認められ 
る出動は年1回から2回。なのでここの
消防士は訓練や煙探知機の設置、放置空
き家の調査など防災活動が主な仕事。ま
た夜勤は町内見回りの時間以外は署内待
機なので、時生はひたすらはじめの一歩
を読んでいる。ちなみに今は62回目の
40巻らしい。源にかんしてはみなさん
だいたいおわかりだろうとおもうので。
割愛します」
木戸「だから。こういうことは一言俺に断っ
  てから」
水元「消化準備用意」
(BGM エボリューション 消防車の
テーマ)
水元がコップに氷をいれ、アイス昆布茶
をなみなみ注ぎ、彼方、経由で木戸に渡
した。
木戸「これ。この前なくなったじゃん。この
緑。ゾンビを溶かしたみたいだな。源。
ネーミング、ゾンビグリーンでいいんで
ない」
彼方「却下」
水元「火が二階上っていくそこには幼い男の 
子が」
木戸「ふざけんな。はい消化」
  それをぐっと飲んだ木戸。
  苦悶の表情を浮かべる木戸。
水元「混布のグルタミン酸は心の火を消化し 
  ます。このキャッチどうよ」
彼方「頂きました」
厨房から店内奥のテレビに目を向ける麻 
奈。
麻奈「時生君。また全国大会出るんだね。今
やってるよ」
うしろを向く四人。
テレビ画面。
ロープブリッジ渡過をする木戸。
彼方「あれって暇なところのやつがだいたい
優勝すんだろ。札幌とか忙しいとこ不利
じゃん。フェアじゃないね」
水元「練習を競ったところでなんの意味があ
る」
光春「ちなみに去年の火災件数、札幌管内は
  500件、慈円は2件」
木戸「そんなとこと比べんなや」
水元「500対2ってなんのスポーツのスコ
  アだよ」
木戸「とりあえず、祝えや」
水元「源もう一本くれ」
木戸「出すな」
  と彼方を睨む・
テレビ画面。
原稿を読み上げる男性アナウンサー。
男性アナウンサー「一昨日未明、牡蠣の養殖
場で養殖牡蠣が消える事件がありまし 
た」
彼方「これ。鈴木のじじのところやられたん
だ。こんなことできるのは漁師しかいな
くて漁協の幹部が犯人捜ししてたんだが
みつけられなくて、今日じじが被害届け
だしたんだってよ」
男性アナウンサー「養殖場の被害は垂下式ロ
ープ一本・十メートルについていた牡蠣
50キロです。被害総額は15万円にの
ぼります。また、同時刻の犯行現場近く
には地元・慈円高校のジャージ姿の人影
が目撃されました。警察は何者かが典売
目的で牡蠣を盗みだしたとして捜査をす
すめています」
水元「それしかねえだろ」
彼方「被害がのぼったら誰がおろしててくれ
んだよ」
木戸「被害におろすとかないから。高いとこ
  ろにあがった子供じゃないんだから」
  被害現場。
被害者のインタビュー。
モザイク男性「おいこのやろう。見つけたら、
ロープさつるして養殖してやるからな」
男性アナウンサー「ただいまインタビューで
不適切な発言があったことをお詫びいた 
します」
  カウンター席。
拳をグーにしてガッツポーズを見せる彼
方。
彼方「よく言ったよ。鈴木のじじ。その意気 
 で犯人捕まえて浜のヒーローになれ」
依然苦悶表情を浮かべる木戸。
木戸「人間、養殖したらヒーローじゃなくな 
  るよ。おばさん。水」
木戸に水を差し出す麻奈。
麻奈「どうでもいいけど今日定休日だよ」
水元「わかってるよ。韓国ドラマでも見てろ。
  こっちこなくていいから」
厨房奥に姿を消す麻奈。
木戸「円高生なのかな? でも高校生にでき 
ないべ。海に出て50キロ引っこ抜いて
車で運ぶなんて」
× × ×
(フラッシュ)
幼少期の彼方。
軽トラを運転する。
小型船舶を操る。
× × ×
彼方「浜で育ったやつは自転車乗れるころに
は軽トラも船も動かせるように教育され
てるから無理ではないな」
水元「ジャージも今年変わったばっからしい 
  からOBの線も消えたな」
光春「でも、これ見て」
木戸「お前に発言権ないよ」
水元「消火準備かい」
木戸「ピカどうぞ」
カウンターの真ん中にパソコンを置く光
春。
光春「円高教師のツブヤクンダーなんだけど。
ジャージ盗難事件があったんだよ。おと
といの夜に」
彼方「なになに私の勤め先に泥棒が入る。深
夜、ガラスに石をぶつけ浸入して盗んだ
ものは男子の学校指定ジャージだけでし
た。犯人はそういう趣味の方だと思いま
す。まことにいかん崎です」
木戸「神崎真じゃねえかよ。まだいたのかあ
のハゲバイオレンス。他のツブヤクは愚
痴ばっかだし最後、全部まことにいかん
崎でしめくくってるよ。しかも情報漏洩
だしねこれ。ピカ、炎上攻撃をしろ」
水元「こころの出火ばかりするファイヤーマ
  ンだな。あれやるか」
木戸「間に合ってます」
光春「でもこれだけじゃわかんないから直接
張り込んだほうがいいと思うんだけど。
どうかな?」
彼方「じゃあ今日いくか?」
光春「今日はないね」
水元「そうだな。ほとぼり冷めてからまたっ
ていうパターンぽいな。じゃあ、いつに
する」
光春「単純なんだけど土曜日にしない?」
水元「おれはいいけど。みんなは?」
彼方「わくわくすんな。高校の時、三人で泥
棒退治したの思い出すな」
水元「あんときの褒章金。祝賀会と称してこ
こでうちのババアにぼったくられたけど
な」

○(回想)ちきんはーつ・カウンター席
 T・11年前
彼方「ヒーローだな。おれら」
水元「こんなのヒーローじゃねえよ。俺は東 
京行ってほんもののヒーローになる」
木戸「スタントマンの学校ほんとにいくんだ」
水元「まあね」
彼方「ウルトラマンとか仮面ライダーになる
のか」
水元「俺が目指してんのはトニージャーかな。
ジャッキーの三倍ぐらいすごいぜ」
木戸「スターになって帰ってくるの待ってる
よ」
彼方「そうだな。その時はかにやらうにやら
用意して待ってるわ」
水元「やっぱ源は漁師になるんだ」
彼方「まあな。英才教育受けてるし」
木戸「おれは消防士になる」
水元「せいの」
一同「本気になったら大原」
  CM曲のワンフレーズを口ずさむ三人。 

○ちきんはーつ・カウンター(夜)
木戸「おれはパスな。その日夜勤だし、ガキ 
 と嫁がいるから無茶できんわ」
水元「そうかい」

○漁港(夜)
  T・土曜日の夜1時すぎ
軽トラック・車内
運転席に彼方、助手席に水元、真ん中の
補助席に光春。
彼方「トッキーからメール返ってきた?」
水元「うん。青木タイトル挑戦中だってよ」
彼方「51巻じゃねえかよ。あいつ破門だな。
  公務員てのは性格まで公務員になるんだ
な」
光春「元公務員ですいません」
彼方「お前は公務員って感じしねえわ」
  だんだん大きくなるトラックの走行音。
水元「なんかトラック来たぞ。隠れよ」
  座席の下に実を潜める三人。
水元「源なんか見える?」
頭をあまり上げず、窓から外の様子をの  
ぞく彼方。
彼方「マルシンのトラックだ」
光春「慈円で一番でっかい水産会社だね」
水元「えげつないね」
  中国語を話す二人の男性。
彼方「あいつらチャイナか」
水元「チャイナ。中国人実習生だな」
  船に乗り込む彼ら。
彼方「島田の昭夫の船か。あのおっさんキー
つけっぱなしだからな」
光春「それ熟知してんだ。確信犯だね」
船外機の音が鳴り響いてから船は出港す
る。
光春「警察に電話しよ。それで終わり」
  水元は下を向いている。
水元「街の連中にすずめの涙でロボットみた 
くして使われて、街に出りゃ白い眼で見 
られ、嫌になったんだろう。あいつらを 
追い込んだのは慈円だ。そっちは犯罪じ
ゃないのか」
彼方「見逃せってことか。じゃあすずきのじ
じはきもちをどこにぶつければいいんだ  
よ」
水元「わっからんよ」
  海に向かって叫ぶ。
 
○海(夜)
船外機の音を轟かせ港へ近づいてくる船。

○港(夜)
岸壁で船を待つ三人。
彼方「もう帰ってきたぞ。結論だせよ。ピカ
  と俺は決まってんだから」
水元「あいつらがどんな顔して戻ってくるか 
で決めるよ」

○船内(夜)
  デッキに出てきた一人の中国人は火炎瓶
を手に持つ。

○港(夜)
  (BGM ピンクパンサー テーマ曲)
光春「ビンじゃないあれ? あっ火つけた」
水元「火炎瓶じゃねえか」
光春「投げた」
彼方「逃げれ。逃げれ」
数発の火炎瓶が岸壁に落ちた。

○炎の中(夜)
火炎瓶の火が一瞬にして近くにあった魚
網に引火し三人の行く手を阻む。
水元「やべえ。なんかねえの」
彼方「これしかないわ」
彼方はリュックサックからどぶろくを取 
り出し、燃えさかる炎に中身をかけた。
彼方「おらあ」
炎は強さを増した。
光春「それ酒のにおいがするよ」
水元「アホ」
彼方「すまん」

○炎の外(夜)
向こうから車が来る。
急ブレーキで車が止まる。

○炎の中(夜)
火の隙間から木戸の姿が見える。
水元「時生だ」
プシューという長い音が水元たちの前に
立ちはだかる炎を小さくする。

○炎の外(夜)
消火器で懸命に消火する木戸。
三人の姿が確認できるまで炎が沈静化し
た。
○港(夜)
黒こげた魚網に白い液体がのっかる。
呆然と立ち尽くす、水元、彼方、光春。
消火器を静かに置く木戸。
木戸「バカ」
警察のサイレンが聞こえる。
× × ×
  十人以上の警察官に囲まれる二人の中国 
人。

○港・岸壁(夜)
真っ暗な海を見つめる四人。
水元「ありがとな」
木戸「ああ。おれ、展望台から見てたんだぞ。
気づかなかった?」
とちらっと後ろを向き斜め上を見る。
丸太の柵で囲まれた展望台。
彼方「うそお」
木戸「ほんとだよ。じゃおれ戻るわ見回りし 
てることになってるから」
三人のもとを離れる木戸。

○慈円警察署・署長室(朝)
  T・月曜の朝
  パイプイスに座る水元、彼方、光春。
  記者から質問を受ける。
記者A「めあり新聞の喜多見です。お手柄で
すね。どういう想いで凶悪犯に立ち向か
ったのですか。彼方さん」
  ギラギラとした眼の彼方。
彼方「漁師として海を汚すものは許さない。 
  ただそれだけです」
記者A「ありがとうございました」
記者B「慈円新聞の波岡です。光春さんは教 
育委員会の嘱託職員をなさってますがそ 
の観点でこの事件を振り返って頂けます 
か?」
光春「うん。今回は慈円高校の生徒が疑われ
ていたので真意を確かめたかった。その
思いで仲間と共に動きました」
記者B「ありがとうございました。では写真
お願いします」
署長室のドアが開き、カメラをぶら下げ 
た記者Cが入って来た。
水元「29歳土木アルバイトには興味がない
か」
とぼそっと呟く。
彼方がパイプイスに立てかけた手提げカ 
バンに手を入れる。
彼方「ピカはこれ。ゆうはこれ。おれはこれ」
真ん中の水元は〈WEAREみなかたパ 
ッチン〉と書いたA4用紙、右側の光春
は紫色の額に入った木戸の写真、彼方は
どぶろくを持ち立ち上がった。
記者Cが二人の記者の間に割り込む。
記者C「北海道新聞の足利です。写真の前に
二、三質問させてください。それはチー
ム名?」
彼方「そうっす」
記者C「その写真は?」
彼方「メンバーです」
記者C「あなたが手に持つそれは」
彼方「あなたのこころの消火器でありたい。
  海のやすらぎという冷たい昆布茶です」
記者C「なんだそれ。まっいっか。じゃ撮り
ます」
記者A「遅れてきたのにトップバッターはな 
 いでしょ。ドウシンさん」
記者B「まあまあドウシンさんは忙しいから」
記者C「いいんですよね」
と言って記者Bを睨みファインダーをの 
ぞく。
記者C「パッチンということで端の二人は指
パッチンしましょうか。はーい、いいね。
じゃいきまーす」
慈円警察署長・吾我 意智朗(55)が横
は入りする。
記者C「署長。顔半分ですよ。急に入るから」

○ちきんはーつ・カウンター席(夕)
  北海道新聞・水元たちの記事。
木戸「なんだいこれ。説明してもらおうか」
記事の写真を指差す。
水元「ほら、やっぱ怒ってる。源が説明しろ
よ」
彼方「いいけど。何で怒ってんの?」
木戸「この写真の写真だよ。黒縁だしよ」
足元においてある手提げカバンに手をつ 
っこむ彼方。
彼方「紫だよ」
あの額を木戸に向ける彼方。
木戸「写真白黒になること配慮しろよ。後輩
にバカにされたっしょ」
カランコロンと
入り口のガラス戸が開く。
慈円町長・楫護(49)が立っていた。
楫 「やあ、お手柄だね」
水元「ちわ」
楫が店内を見渡しながらカウンター席に
近づいてくる。
楫 「今回の件はほんとうに誇りに思うし、 
  君達の正義感には感服するよ」
水元「あざす」
楫 「さっそくやってるね」
 楫は目線をテレビに向ける。
 テレビ画面。
 北海道ローカルの情報番組。
 中国人実習生の牡蠣強奪事件の特集の様子。
水元のM「俺らのことはまったっく扱ってな
かった。こいつらは極悪非道な中国人の
姿を全道にさらしたいだけである。熊の
人を襲ったニュースみたいな取り上げ方
だ。普段はかわいいああかわいいって言
って、北海道の象徴にしてるくせに人間
様にかすり傷一つつけようもんなら恐怖 
を連想させるBGMで凶悪なイメージを
視聴者に刷り込む。これが偏りのない報
道なのかい。自分がこういう立場にいた
ら絶対に耐えられない。彼らはこれから
強制送還で国に戻されブロカーと言われ
る人物に違約金を返す人生が始まる。日
本人で良かったと一瞬思った自分を殺し
たい」
男性キャスター「この人たちは確信犯ですよ。
流通先まで確保して犯行をしているんだ    
から。漁師さんが手塩にかけて育てた牡
蠣をなんだと思っているんだ」
水元「バカがほざくな」
  と呟く。
イス席に腰掛ける楫。
楫 「困ったもんだな。水元君ならどういう 
  対策をとる?」
水元「呼ばないという対策を取ります」
  下唇を強く噛む水元。
  歯型が残り、うすらっと出血する下唇。
楫 「そうだね。火種がないと煙もあがらん 
からね。でもそれは無理だな。大人の事
情があるから。あれ、光春君は」
彼方「仕事です。役所が終わる5時半から活 
動するって決めてるんですよ」
楫 「あまりいいことじゃないけど。彼のポ
  リシーだからそれは尊重しないとね」
彼方「だれかさんへの当てつけって言ってま
した」
楫 「ほう」
鋭い目つきになる楫。

○某不登校児童の自宅(夕)
 児童の部屋。
 勉強机に向かう児童を見守る光春。
児童「ミッツさん。新聞のってたね。遺影持 
って」
光春「あれ遺影じゃないよ。これなかったメ
ンバー」
児童「ああそうなんだ。そろそろ集合写真の 
季節だな。貼り付けは嫌だから学校行こ
うかな」
光春「闘う準備はできたのかい?」
児童「闘うって前から言ってるけどなんなの 
 それ」
光春「やられたらやり返すマングースだ。チ 
  ュウ、チュウ」
児童「ばっかじゃない」
  児童の笑い声。

○南方舗道・事務所(朝)
  入り口戸が開く。
水元「おはようございます」
坂田「恥さらしが来たよ」
事務所の奥に進む水元。
水元「なんすか恥さらしって」
南方がイスから立ち上がり水元に近づい 
てくる。
南方「おはよう。水元」
水元「昨日は休ませてもらってありがとうご
  ざいました」
南方「いかせなきゃよかったよ。みなかたパ 
ッチン。指パッチン」
水元を睨みながら指パッチンをする南方。
水元「あれはメンバーが、でもすいません。
  配慮に欠けてました」
南方「まあ。うちは一時的にパッチン卒業す 
るけどね」
坂田「どいうことすか?」

○(回想)料亭みやび・お座敷
  T・日曜の夜 
対面に座り酒を酌み交わす南方と菜波。
かにやらうにやらがテーブル狭しと置か  
れる。
南方「みやびなんてもう久しく来てないです 
よ」
菜波「そう。来たかったら言ってくれればよ 
かったのに」
南方「恐れ多いですよ。私なんてちきんはー 
  つがちょうどいいですよ」
菜波「アーケードの居酒屋でしょ。一度はい
  ってみたいな」
  首を横に振る南方。
南方「いけません。あそこは早い時間は下世 
話な客、遅い時間は不倫カップルがたむ
ろしてる無法地帯です」
菜波「無法地帯はだめだね。下々の人はルー  
  ルに従わないとまわっていかないから」
南方「おっしゃる通りです」
菜波「うん、それでだね。今日は社長にいい 
話持って来たよ。ずばり言うんだけど来
週の入札参加してよ」
南方「なんの入札ですか?」
菜波「オーバレイなんだわ。武玲亜(ぶれあ) 
  町との境のところ」
南方「でも機材ないし、坂田と相原さんしか
オーバレイやったことないですよ」
菜波「うちを下請けに使えばいいじゃない。 
安く貸すよ」
南方「では、お言葉に甘えてやらせていただ 
  きます」

○南方舗道・事務所(朝)
南方「こういういきさつなんだわ」
  と誇らしげに言う。
相原「なんか虫がよすぎるはなしだな」
坂田「あいさん。考えすぎですよ。自分のと
ころばっか儲かってるからうちに配慮し 
たんだしょ。慈円のドンの気持ち素直に
受け取りましょう」
机の下でスマートフォンをいじるなつみ。
南方「水元の処分保留ということで朝礼おわ
ります」
水元「チェッ。わすれさられたと思ったのに」

○武玲亜町との境に近い町道
〈ON MY MIND めあり 慈円〉
という大きな看板。
50メートル先、〈不思議の国の武玲亜〉 
という大きな看板。
看板と看板の中央には〈町境〉と書かれ
た標識が立つ。
慌しく動く作業員の様子。
N水元「うちの社長は菜波の助言により、5 
00平方メートル切削オーバレイ工法に
よる町道舗装工事を落札。郡司さんは工
事前日、一睡もできなかったそうだ。工
事は午前に舗装切削機で表層約5センチ
を切削した。そして今からフィニッシャ
ーという機械で合材を流し込む」
乳剤が散布された切削箇所。
ダンプトラックの荷台が傾きフィニッシ
ャーに合材流し込まれる。
機械から出る轟音。
フィニッシャーが通過したあと、擦り付
け部の調整をする水元たち。
転圧を行う大型ローラー。
(舞台の場合はプロジェクターで機械や 
現場を映し出す)
× × ×
T・三時間後
  500平方メートの新しい舗装。
路肩で座り込み小休止する水元たち
坂田「あと、かたして終わりか」
水元「やりがいありますね。オーバレイ」
相原「うんだ」
  眼をパチパチさせる郡司。
郡司「眠い」
  武玲亜側から人が走ってくる。
武玲亜の人「南方舗道の人いる?」
坂田「はい。あんた誰」
武玲亜の人「私役場の土木の人間だけど。お 
宅のトラックの後輪うちの街に入ってん
だわ前に出してくれない」
坂田「三角帽子やら積んで帰るだけだから。
  せかさないでよ」
武玲亜の人「そうなの。今度から気をつけて
  よ。決まりなんだから」
坂田「はいはい。だったらダッシュであなた
も出なさい」
武玲亜の人「そんなこと言わなくてもいっし
ょ。教えてあげたんだから」
水元「決まりなんで。ダッシュで帰ってもら
えます」
坂田「ナイス。コンプラアンイス促進」
武玲亜の人「慈円の人は心がしゃっこいね」
武玲亜の人が走って慈円を超えて武玲亜 
に入る。
郡司「あいつ。ほんとにはんかくさい。後輪  
入ってますよだなんて初めて聞きました
よ。腹立つわ。町境の標識引っこ抜いて
武玲亜の役場にぶっさしてこようかな」
相原「やめとけお前のうちに大量のアイスも 
  ずく茶送られるぞ」
郡司「それはいやだ。あのお茶やばいです。
  化学兵器に指定されたらしいですから」
郡司の眼がパッチリと開いた。
坂田「バカかお前は。そうだ。今日はみんな
  でコンのとこいくか?」
郡司「坂田さんのおごり?」
坂田「なんでお前らに奢るんだよ。こないだ
ケツ割ったやつの旅行の積み立てが宙ぶ
らりんらしいからそれ使うべ」
郡司「さすがっすね」
坂田「まあね」
作業着の胸ポケットからカメラを取り出
す坂田。
坂田「コンちゃん。ボード持ってそこに立て」
  坂田は新しい舗装の方を指差した。
水元は工事用黒板を持って新しい舗装の
上に立った・
坂田「ハイチーズ。バカ、ピースするんじゃ
ねえ」
水元が右手に黒板、左手にピースする写
真。
○南方舗道・事務所(朝)
ムラサキうにが五、六個はいった水槽。
南方の朝礼が聞こえる。
うにのとげが動く。
  ドアが開く。
刑事A「はい。動かないで」
  動揺した様子を見せる水元たち作業員。
落胆した表情でスマートフォンをみつめ
るなつみ。 
坂田「なんだ。マッポやろうこのやろう」
刑事が五、六名折りたたんだダンボール
などを持って入ってくる。
刑事B「南方さん。こういう令状出てんだわ」
と言って南方の目の前に一枚の紙ペラ掲
げる。
南方「そんな近づけたら、見えんよ。なに官  
製談合防止法違反。そんなことしてねえ
よ」
刑事B「おい。ワッパ」
  沈黙した室内に金属が響く。
刑事A「みなさんにおいては関係はありませ 
んが事務所などを捜索するのでお仕事は
ご遠慮頂きたい」
  動揺が増す作業員達。

○(回想)菜波グループ本社ビル(夕)
  T・南方逮捕の前日
五階建てのビル。
CEO室。
客人用のソファーに腰掛けスマートフォ 
ンを操作する楫。
CEOイスに腰掛けテレビを見る菜波。
テレビ画面・鉄道会社社長の会見。
菜波「ジャパニーズオジギだね。早く料亭い
きてーって顔してんな」
楫 「また脱線ですか。まるで古い家屋の雨
漏りですね」
楫の目線は依然としてスマートフォン。
菜波「うまいね。でもあれだね。一杯ひっか
けて着いたら札幌っていう乙な移動がも
うできんね」
楫 「そうですよ。移動は空。CEOのよう
  な要人は身の安全考えないと」
ちらっと菜波に目線を移してすぐスマー
トフォンに目線を向けた。
テレビ画面・鉄道会社社長の会見。 
菜波「深くの回数三回に増した。ふっ、いい 
ね。下々をこけにしてるよ」
楫 「CEO。業者側の生け贄決まりまし
  た?」
菜波「悩んで決めたよ。みなかたぱっちんに。 
あそこはそいう血筋だからちょうどいい
よ。でもちゃんと管理してよ。そっちが 
内部告発者出す度に俺の従順な犬に傷が
つくんだから」
楫 「以後気をつけます。すいません」
座ったまま菜波に向け、軽く頭を下げる。
楫 「みなかたってあの実習生捕まえたやつ
  が働いてるとこですね」
菜波「そう、そう。あいつらバカだよね。一
  歩間違えたら殺されてたんだから」
楫 「使えるバカかと思ってちきんはーつに 
いったんですけど。従順さがない。嫌い
なんですよああいうやつ」
菜波「従順じゃないとこの街で生きていけな 
いのに。お気の毒ことだね」
楫 「今月分。誰に振り込みました?」
菜波「皐だよ」
楫 「了解。あと楫セブンそろえろ新メ
ンバー入れかえてくださいよ。飽きちゃ
いました。特に火曜日がなんか流れ仕事
みたいにやるから全然楽しくないです」
菜波「火曜日ナミじゃん。スパイとしてはい
い仕事するんだけど切るか、もう必要な
いし。いい仕事する娘(こ)入れるから変
わりにおいしい仕事頼むよ」
菜波は顔を縦に揺らす。
会話のないCEO室の様子。
N水元「楫は十年前に建て替えをした町立病 
院の建設準備課長だった。その際に、元
請である菜波グループに便宜をはかるこ
とで菜波の信頼を得た。その後、異例の
速さで建設水道部長に昇進し二年前の市
長選で本命候補者を大差で破り町長にな
った。それまで、総務部長が退職し市長
になるという暗黙のルールを破壊したつ
わものである」

○ちきんはーつ
  四人イス席に水元以外の作業員達。
二人席の壁側にスマートフォンをいじる
なつみ。
カウンターのイスを通路に置いて座る水
元。
郡司「何が起きたの坂田さん」
坂田「単純に不正入札だろ」
相原「不正入札? そんなことひとしにでき 
わけねえだろ。十年前先代がそれに巻き
困れて自殺したんだから」
水元「なんすかそれ?」
カランコロンとドアが開き光春が入って 
くる。
相原「当時はいなかったけど彼のほうが詳し 
いよ」
光春を見る相原。
光春「病院建設のことですね」
水元が通路に差し出したいすに腰掛ける
光春。
光春「町立病院の建設時に楫が菜波に便宜を
  はかりそれが楫の同僚にばれ、その同僚 
は警察に告発文を出した」
坂田は突然立ち上がり、光春に手のひら
を掲げ話を止めた。
相原「それを揉み消すためにうちの先代は使
われた。信じたくないけど今回と同じだ」
坂田「その時、会社辞めなかったのが相原さ
んと俺よ。先代生きてたころはフィニッ
シャーもあったし舗装工事ばんばんやっ
たんだぞ」
一同「……」
カランコロンとドアが開く。
彼方「南方舗装のみなさん。こういうときは
うまいもんを食べましょう」
坂田「情報はやいな」
彼方「この街の口コミニケーションズはまだ
まだひかり回線、WIFIには負けませ
んよ」
両手にいくらの入った小瓶を持っている
彼方。
水元「それ。タダ?」
彼方「そうだよ。新製品だから」
坂田「瓶詰めいくらの新製品ってなんだよ」
× × ×
それぞれに行き渡るいくらの乗った白ご
飯。
一同「いただきます」
郡司「なんだこれ硬いぞ」
彼方「そこがみそなんですよ」
  ビンのラベルをみつめる水元。
水元「BUCHI。ブチ、まんまじゃねえか」
坂田「にいちゃん。これいくらでうんの? い
  くらだけに」
水元「一瓶140グラム。1000円です」
坂田「値段はやらかくできるだろ」
水元「どんだけ、ぼったくんだよ。それ原価
ただみたいなもんだろ」
彼方「そうだよ。でもね、コンサルの水野さ
んが劣等感を逆手に取ることで内地[ 北海道のスラングで本州を指す]の
コア層に需要があるっていうんだ」
水元「コンサルタントっていうのは未知なも
のに勝手に価値をつけるやくざな職業な
んだぞ」
彼方「どうぞ、どうぞ」
彼方が手に持ったどぶろくでグラスにお
茶を注ぎ水元、光春以外に配る。
彼方「さっきなんか言った。俺、これから町
  民会館で水野先生の勉強会だから」
彼方がカランコロンで外にでる。
お茶を飲んだ一同が苦悶の表情。
郡司「なんだこれ。もずく超えてんじゃねえ
  か」
坂田「冷たさが不味さを連れて来ているよ」
むせる相原。
相原「コンサルの水野はもずくもこれも開発
  してるぞ。めあり新聞に書いてた」
郡司「恐るべし、マッドサイエンティスト水
  野」

○留置場・面会室
水元と光春、対面窓一枚隔てて南方。
南方の斜め後ろに看守が座る。
 南方と水元が談笑する様子。
N水元「ピカと俺は吾川さんが菜波たちを脅
かす情報をもっているとふんで留置場に
来た。今はついでで社長に面会してる」
南方「ついでかよ」
看守「七番。時間、終わり」
水元「ラッキーセブンですね」
南方「うるせえ。お前なんてクビだ」
水元「はい。はい」
南方と入れ違いで吾川が入ってくる。
光春「お久しぶりです。主査」
吾川「元な」
と言って座る。
光春「なんで急に正義感出しちゃったんです
  か?」
吾川「うしろから急に襲いかかって来たんだ 
よ」
光春「自分は前からぐっさりと動けなくなる
  まで」
吾川と光春が笑う。
水元「役場ジョーク?」
吾川「この二人にしかわからないやつね」
光春「そうですね」
笑みを浮かべる吾川。
吾川「ネタさがしに来たんだろ。あるよ」

○丘の上の住宅街
  辺りを見回す水元と光春。
水元「あそこ。神崎誠の家だよ。昔、ロケッ 
 ト花火よく発射しにいったな」
光春「島崎さんを探してよ」

○島崎宅
島崎一郎(49)がドアモニターに映る二 
人をみる。
水元「すいません。はじめまして水元といい
ます。吾川さんからの預かり物を引き取
りに来ました」
島崎「あがって」

○リビング
  ソファーに対面で腰掛ける二人と島崎。
島崎が書類の入ったクリアファイルを水
元に差し出す。
島崎「これでしょ?」
水元「中、見ていいですか」
島崎「もちろん」
水元が中味を見ずに、光春にファイルを
わたす。
× × ×
光春「すごいですね」
島崎「困ってたんだよ。吾川がこんなもの持
ってくるから」
× × ×
(フラッシュ)
島崎宅・玄関前(夜)
雨が降る。
T・逮捕前日
島崎「なんだよ」
吾川「これ預かってください」
  とクリアファイルを差し出す。
島崎「お前まさか」
吾川「そうです。まさかのブツです。宜しく
  お願いします」
と立ち去る。
島崎「おい」
× × ×
せんべいをぼりぼりかじる水元。
光春「シンパシーを感じたのでは」
島崎「感じてたかもな。あついは100%ヒ
ーローごっこ、こっちはジェラシーがか
なりまじってけどな。でも悔いてるよ」
光春「郵便配達員という現状をですか? あ
  れがなかったら今頃は課長ですよね」
島崎「そうだね。世間で言う正義は幻想、お
とぎ話だということをあんたちも自覚し
たほうがいいよ」
光春「自覚しても止まらないんです。もう動
きはじめたので。ゆうくん。落ちてる、
落ちてる」
カーペットに落ちたせんべいのかすを拾
う水元。
島崎「こんなので菜波の城は落ちない。これ
だけは言っておく」

○ちきんはーつ(夕)
  カウンター席。
  落胆する水元と光春のようす。
N水元「水元と菜波が談合をやった証拠はあ
の書類にばっちりと書かれていた。しか
し、警察はその書類を突き返してきた」

○(回想)ちきんはーつ(夕)
  T・10分前
  カウンター席。
  水元と光春。
  カランコロンと島崎が入ってくる。
水元「ちっす」
島崎「弾(たま)が戻ってきたぞ」
とクリアファイルが入った封筒を光春に 
渡す。
光春「万事休すか」
島崎「菜波から伝言だ。これで終わりならな
にもしない、これ以上やると君らだけの
問題じゃなくなる。だそうだ」

○ちきんはーつ(夕)
カウンター席。
水元、光春。
依然として落胆している。
光春「もうやめよ。チキンハーツでいいじゃ
ない。何が悪い」
とカウンターを叩く。
麻奈「あーびっくりした」
  麻奈がカウンターに姿を現す。  
顔をカウンターにうずめてから首だけ入
り口戸に向ける水元。
麻奈「なんでこの子死んだ蟹みたく口パクパ
クさせてるの?」
光春「ちょっと。いろいろと」
麻奈「なんかめんどくさそうだから。これわ
たしといて。こないだ来た事務の女の子
からね」
麻奈はUSBメモリーと手紙を光春に渡
した。
厨房奥に消えていく麻奈。
光春「ゆう君。これ見ていい」
  首だけ光春に向ける水元。
水元「手紙と何それ」
光春「USBだよ。談合の証拠かな。はい手
紙」
光春は手紙を滑らせて水元の顔の前に送
った。
水元「痛いよ。お前。なになに拝啓。すごい 
 丸文字だな」
光春「USB見るよ」
USBをノートパソコンに差し込む光春。
水元「拝啓いくらおしかったよ。コアがこん 
な近くにいたか。あの言いにくいんだけ
ど私菜波のスパイやってました。まあ、 
うちの社長はバカというか人を疑うこと
をしないので、すごいらくでした。でも、
私もお役ごめんで菜波に切られた。だか
らこのUSB何かに使って。でも、これ
でシコシコしたらころすからね。PSい
くら2・3瓶頂戴ってあの人に言ってお
いて」
あえぎ声が聞こえる。
水元「何してんだよ」
とパソコンに目を向ける。
光春「ヘッ」
  パソコン画面には楫となつみの夜の営み。
水元「へ。じゃねえよすごいな」
カラン、コロンと戸が開く。
木戸と彼方が入ってきた。
彼方「何してんだお前ら」
木戸「おばさんが死んでるって言うから来た
  のに」
水元「ピカ消せ」
パソコンの映像が消えた。
木戸「何で消すだよ。あの茶かけるぞ」
水元「ちょっとシャラプ」
と木戸に手のひらを掲げた。
彼方「それ誰。もんぶらん?」
光春「シャラプ」
水元「これ使えんな」
  光春が頷く。
光春「ネットにはカネばら撒けないからね」
水元「やる?」
光春「これだけじゃ。菜波にダメージがない」
水元「城は俺が落とす。ピカは砦を頼む。さ
  あ準備すっか」

○慈円役場・町長室(夕)
(M ZONE - Good Days)
客人ソファーで楫と愛人がキスをしてい
る。
  ノックなしで開くドア。
光春「失礼します」
木戸「同じく失礼します」
  スマートフォンで動画撮影する木戸。
楫 「許可もなく失礼だろが」
光春「ちゃんと下で名前書きましたよ」
楫 「許可とはいわんだろそういうのは」
光春「時間外なのにお盛んですね」
愛人が市長の机の電話に手を伸ばす。
木戸「ちょっと黙ってて。黙ってないと君
にまで害が及ぶよ」
愛人が手を戻す。
楫 「君ら町で働いてるのにこんな真似して
いいと思ってるのか?」
光春「町のために働いてるから今ここにいる
んですよ」
楫 「君ら興奮してるみたいだね。何をして
  いるかもう一度よく考えなさい」
光春「あんたこそ何してんだよ」
右肩から左脇下へとかけたメッセンジャ
ーバックに入ってるノートPCを取り出
し画面を楫に向ける光春。
画面には楫となつみ。
楫 「やめろ。やめろ。やめろー」
と叫ぶ。
光春「やめません。エンター押せばネットの
  海に放流できますけど。どうします?」
ピーピーという機会音が鳴る。
木戸「充電切れる。早くして」
楫 「勘弁してよ。南方釈放するから」
光春「吾川さんもだ」
楫 「わかったから」
光春「返事は」
楫 「はい」
光春「マングーズ成功だ。チュウチュウ」
木戸「有吉かよ」

○商店街アーケード・入り口(夕)
  (M 夕方の恋神聖かまってちゃん) 
 ほうきで辺りを掃く商店街理事長・宗像修
 (65)
高級車に乗る菜波が車両通行止めの看板
の前で車を止める。
宗像が急いで寄ってきて看板を端に寄せ
る。
宗像「どうぞ。どうぞ」
菜波が左手を上げる。
車が動き始める。
(M 神聖かまってちゃん フロントメ 
モリー)
車が加速する。

○アーケード・出口(夕)
水元が立っている。

○動く車(夕)
  車内。
菜波「あいつか。ひかれたいのか。ひいてや
ろうじゃねえか」
通路。
傘でつつき合う高校生カップル。


○アーケード・出口(夕)
 車がせまり来る。
 水元は目をしっかりと開いてたってる。
 その脇でビデオカメラをまわす彼方。

○車内(夕)
菜波「バカ。なんでよけない」
急ブレーキをかける菜波。
キー、ドンというでかい音がアーケード
に響く。

○アーケード・入り口(夕)
  宗像が音の方を見る。

○アーケード・出口(夕)
  水元の体が宙に舞った。
ルーフに大きな音を立て、落ちた体は転
がって地面に落ちた。

○ちきんはーつ・店外(夕)
麻奈が出てくる。
つつきあっていた高校生カップルが手を
止め、音の方向を見る。
麻奈「あれだれ?」
女子高生「息子さんです」
麻奈「息子って」
  麻奈が水元のもとへ走った。

○アーケード・出口(夕)
  彼方が菜波に近づいてくる。
菜波が車から降りる。
彼方「これほしいですか?」
  とビデオカメラを横に振った。
菜波「お前ら狂ってる」
彼方「狂ってるのはお宅さんでしょ。南方シ 
  ャッチョーさんと吾川さん出してよ」
菜波「……」

○地面(夕)
リアバンパ。
うつ伏せの水元。
麻奈「雄心。大丈夫」
と叫んで駆け寄る。
水元のM「くんなよ。ばばあ」
  水元の前でひざをつく麻奈。
麻奈「ねえ大丈夫。大丈夫。あらなんか落ち 
 たわ」
麻奈が水元を摩ると肘プロテクターが出
てくる。

○(回想)ちきんはーつ・カウンター(夕)
厨房奥からボストンバックバックを抱え
て持ってくる水元。
彼方「何それ?」
水元「お願い。つけて」
とバックからプロテクターを取り出し顔
を傾ける。
○アーケード・出口(夕)
 顔を下に向ける菜波。
彼方「早くしてよ。ゆうが死んじゃうよ」

○地面(夕)
麻奈「この子息してない。エペ、救急車呼び
なさい」 
女子高生「番号なんだったけ」
スマートフォンを持ってあたふたする女
子高生。
麻奈が強引に仰向けにして口を水元の顔
に近づける。
男子校生「1、1」
水元「うー」
水元が叫んだ。

○アーケード・出口(夕)
 顔を下に向け何かつぶやく菜波。
彼方「なに聞こえないよ」
  依然、その状態の菜波。
菜波「民主が道路事業をほとんど凍結した時、
誰がカネ出したと思う、町か? 道か? 
国会議員か? 俺だぞ」
顔を上げる菜波。
菜波「この街を守ってるの俺だ。お前らは黙
って俺の歯車やってればいいんだ」
とアーケード中に響く。
女子高生「1、1、うー繋がらないよ」
水元「1、1、うーぴーごーるどばーぐは
  どうだろう」
という声が聞こえ
菜波は膝から崩れ落ちる。

○アーケード・入り口(夜)
YOSAKOIソーランの練習をする踊
り子達。
  (M 平岸天神 心踊り体衝き動かす)
踊り子達にかまわず車をバックさせる菜 
波。
  通行止め看板を慌ててどかす宗像。

○ちきんはーつ(夜)
  トイレ入り口。
  トイレ戸が開く。
彼方「あー。ケツがいたい。きれじかな」
とカウンター席に向かってくる。
カウンター席に座る水元、木戸、光春。
水元「お前。ウォシュレット毎回使うのか?」
水元と木戸の間に席に腰掛ける彼方。
彼方「まあな」
  おしぼりを差し出す麻奈。
水元「お前。それやばいよ。ケツの表面の菌
が死んでケツがキレやすくなるんだって
よ」
彼方「まじか」
  木戸が手を叩く。
木戸「はい。その話終わり」
カウンターテーブルにはジョッキに入っ
た。緑の液体。
南方「みなさん。ご準備ください。音頭はピ
カ。リーダーは車にぶつかって寝てただ
けだから」
水元「おい」
女子高生「1、1うーぴーごーるどばーぐ何 
度やってもつながりません」
イス席の方から聞こえてきた。
水元「じゃ。うーぴーごーるどばーぐで」
女子高生「変なおばさんの顔でてきましたよ」
と水元のもとにスマートフォンの画面を
見せにくる。
水元「だれだよ。それ。あっちいけ」
  女子高生がイス席に戻る。 
光春「ジョッキ持ったかな」
  ジョッッキを持つ四人。
木戸「これ色おかしくね」
彼方「もずくとの融合だ。いがみ合いはよく
ないっていう水野さんのお告げでついに
実現したんだよ」
光春「まあ今回はいろいろとあったけど結果
 オーライですね。じゃあ。天使にラブソン
 グを」
  ジョッキをぶつけ合う四人。
ジョッキに口をつけ凄い勢いで液体を飲
み干す四人。
水元「アメフトのメット、木魚の棒で叩いて
  たおばさんか。すっきりした」
木戸「あれ、うまいかも。水野は天使だった
か」
彼方「オー。イッツミズノマジック」
光春「まだ、すこぶるマズイよ」
麻奈「あんたたち室内でエペはやめなさい。
  もう」

○南方舗道・事務所
  (M 槇原敬之ムゲンノカナタヘ~To   
  infinity and beyond)
  入り口の戸が開く。
入り口を向く、坂田、相原、郡司、なつ 
み、南方。
水元「おはようございます」
坂田「うるせえな。元気の押し売りはご遠慮
くださいっておもてに書いてるだろ」
  水元が坂田に噛み付く様子。
N水元「あれから二ヶ月、季節は秋。うちの
社長、吾川さんは釈放された。菜波は吾
我から誰かださないと警察のプライドが
丸潰れだと言われ、あの談合は全て楫の
仕組んだことにして元鞘におさめた。結
局、菜波のダメージは楫を失った事と南
方舗道に新品のフィニッシャー寄贈した
ことだけだった」
なつみ「水元。光春町長またのってるよ」
水元「お前。かなり年下だろ敬語使え。お前
でぬくぞ」
じゃれ合う水元となつみ。
N水元「あっそうだ。ピカが町長になった。
楫の擁立した候補に僅差で勝利し見事、
町長になった。強欲な菜波を嫌う反菜波
層を取り込んだのが大きな勝因である。
しかし、公共事業の面では菜波の協力な
しでは町の運営ができないので菜波は依
然としてこの街における影響力は大き 
い」
なつみ「うるせえ。バイト」
なつみが朝刊を水元にぶつける。
南方「水元、お前今月でクビね」
水元「なんで」
坂田「お前10月末で契約終了だろ。それに
冬になったら雪かきだけだから大特もっ
てないとだめなんだよ」
水元「いいですよ。退職金代わりでフィニッ
シャー持ってきますから。なっちゃん。
鍵」
なつみ「ちょつとまって。やるかばか」
相原「大特とればいい話だろ」
水元「あっそうか」
郡司「その前におまえ免許あんの?」
水元「ありません」
坂田「アウト」
南方「しょうがねえ。春までな」
水元「正社にしろ」


                (おわり) 
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