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占術師速水丈太郎 白衣の悪魔

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31部分:第三十一章


第三十一章

「またそれなんだ」
 魔人は幾人にも別れた二人を見て述べてきた。
「飽きないね。見ていても面白いけれど」
「生憎面白いだけでするのじゃないわよ」
 沙耶香は妖艶に笑って述べてきた。
「さあ。いいかしら」
「行くわよ」
 沙耶香達が言ってきた。そうしてそれぞれの手に黒い炎と青い氷を出してきた。紅い稲妻を持っている沙耶香もいた。
「ふうん、今度は多彩だね」
「この方だけではありませんよ」
 速水が言ってきた。
「私もまた」
「宜しいですね」
「ああ、君もいたんだ」
 速水に顔を向けて言ってきた。
「そうだったんだ、二人いるなんて。けれど君は」
「御安心下さい」
 速水の一人が答えてきた。
「私もまた」
「複数のカードを使えますので」
 小アルカナのカードを出している者もいればその大アルカナのカードを出している者もいた。彼もまた本気であったのだ。
「これで宜しいでしょうか」
「うん、充分だよ」
 魔人はそれぞれの速水を見て楽しげに言ってきた。
「そこまで凄い遊びができるんならね。何か今夜は最高のパーティーになりそうだよ」
「さて、それでは」
 速水はそれぞれカードを構えてきた。
「参ります」
「さあ」
 まずは一人が小さいアルカナのカードを投げ付けてきた。沙耶香もそれぞれの手でカードを放ってくる。幾数もの光が放たれたように見えた。
 まずは黒い炎とカードが来た。魔人はそれ等を前にしても全く動こうとはしない。
「わかってると思うけれどね」
 構えもせず悠然と笑っていた。
「この程度じゃ平気だよ」
 そう言って両手を軽く振り回してきた。それでカードも炎も打ち消してしまった。
「ほらね。前に見せてあげたじゃない」
 笑って二人に言葉を返してきた。相変わらずの無邪気な笑みであった。
「そうだろう?わかってると思うけれど」
「一つではね」
 沙耶香が応じてきた。
「けれど。複数であらゆる方角なら」
「どうでしょうか」
 速水もそれぞれの口で言ってきた。
「カードの力は一つだけではありません」
 速水の中の一人が言ってきた。見れば沙耶香も速水もそれぞれめまぐるしいまでに場所を変えている。魔人の周りを複雑なまでに。
「その証拠に」
 大アルカナのカードが掲げられた。そうして魔術師が姿を現わした。 
 魔術師が炎を放つ。それは正面からで後ろからは沙耶香が青い氷と紅い稲妻を放っていた。そうして前後から同時に攻撃を仕掛けていたのだ。
「成程、つまりあれだよね」
 やはり魔人は動かずに彼等の攻撃を見ているだけであった。
「こうして挟み撃ちにして。しかも攻撃のグレードをあげて」
「わかっているのね」
「わかるよ」
 また笑って沙耶香に言ってきた。
「この位はね。けれど」
「けれど?」
「やっぱりこれじゃあ僕は倒せないよ。ほら」
 今度は姿を消した。そうして炎も稲妻も氷もかわしたのであった。
「こうすればいいだけなんだから」
 姿は消えていた。声だけがする。
「消えた!?」
「そうだよ」
 魔人の声が述べてきた。
「こうしてね。一旦消えて」
「消えて」
「また出て来るから。ほら」
 沙耶香の一人の後ろに現われてきた。すぐにその頭から右手で引き裂こうとしてきた。
「くっ」
 それで沙耶香の一人の姿が掻き消えた。その沙耶香は影であったのだ。
「何だ、影だったんだ」
「残念だったわね」
 沙耶香は一斉に彼から身体を離して応えてきた。
「それは私であって私ではない」
「影の一つだったのよ」
「外れか。けれどね」
 魔人はまた姿を消してきた。今度は速水の一人の前に姿を現わしてきた。
「むっ!?」
「こうやってね」
 彼の心臓に突きを入れる。そうして心臓自体を引き摺り出すつもりだったのだ。
「一人ずつ。消していけばいいよね」
 今度は速水が消えた。魔人はその消えていく有様を見て無邪気に笑っていた。速水の一人はまるで霧のように彼の前で消えていくのであった。
 
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