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魔法少女リリカルなのはStrikerS ~賢者の槍を持ちし者~

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Chapter29「拭えぬ過去」


『出現したガジェットは前線のおかげで全て殲滅できましたが、召喚士の方は確認できませんでした……すみません!』

『近隣の観測隊に通信を出しましたから、移動ルートぐらいは割り出せると思います』

「うんん、報告ご苦労様や。引き続き、ホテル周辺の警戒と現場検証を」

『了解です』

オークション会場の外で、はやてが今回の件についてロングアーチと通信をしていた。

(ふぅ……やっぱルドガーを向かわせたのは正解やったな)

ティアナの誤謝……もしあの時魔力弾がスバルに直撃していたら、自分はまた大切なモノを失うところだった。

何から何まで、ルドガーには感謝の気持ちでいっぱいだ。

「そこのお嬢さん、オークションはもう始まってるよ。良いのかい?中に入らなくて」

通信を切ってすぐ、そう話しながらはやてに近づく、白いスーツに身を包んだ緑髪の男性。
男性を見たはやては彼が誰なのか気付く。

「ご親切にどうも。せやけど、これでもお仕事中ですんで、どこかのお気楽査察官と違うて、忙しい身なんです」

皮肉を言うはやてではあるが、その言葉にトゲはなく、むしろからかいのような様子が感じられる。

「ほほぅ……」

「……えい!」

笑いながらはやては男性の胸を軽く殴る。そして男性はそれに笑いながら、はやての頭を撫でる。

「あはは、またお仕事ほったらかして遊んでるんとちゃいますか?アコース査察官」

「酷いなぁ、こっちも仕事中だよ……おや?」

「 ? 」

男性の視線がはやての後方へと移る。視線に気付いたはやても体を動かして自分の後ろを見る。廊下を歩いて近づいくる、黒いスーツを来た銀髪の男性。はやてがよく知る気になる男、ルドガー・ウィル・クルスニクである。

「お疲れさまルドガー」

「サンキューはやて……ん?」

言葉を返した後、はやての隣に立っている男性に目が行く。視線に気付いた男性は軽く手を挙げ自己紹介を始める。

「初めまして、僕はヴェロッサ・アコース。よろしく、ルドガー・ウィル・クルスニク君」

「俺を知って?」

ヴェロッサが自分の名前を知っている事に驚くルドガー。

「すまない、驚かせたね。査察官という立場からもある程度知った事もあるけど、君の事ははやてやクロノ君から聞いていたんだ。特にはやては君の事をベタ---」

「ロッサ♪」

「あはは、なんでもないよ……」

何かを言い掛けたヴェロッサだったが、眩しいくらいの笑顔を送ってくるはやてにそれ以上何も話せなくなった。

「……仲、良いんだな」

「うん?ああ、まぁね。はやてとは長い付き合いでね、はやては僕にとってかわいい妹のようなものなんだ」

「ロッサの妹…ねぇ~?」

「あれ?もしかして不服かい?」

腕を組んで微妙な顔でヴェロッサを見る。

「カリムの妹なら納得やけど、ロッサの妹はなぁ~」

「酷いなぁ」

はやてにそう言われ笑いながら少し複雑そうな顔になるヴェロッサ。
その微笑ましいやり取りを聞いていると2人は本当の兄妹にしか見えない。
だがその反面、仲良く話す2人を見て何故かルドガーは胸に小さな痛みを覚えていた。

(……なんだよ、この気持ちは)

胸に手を当て、痛みの正体を探る。

……当然何もわからなかった。

「ルドガー?」

そんなルドガーを見て不思議に思ったはやてが声を掛ける。悩んでいた事を悟られぬよう、ルドガーは気丈に振る舞う。

「い、いや、なんでもないよ。それより報告する事があるんだ」

「報告?わかった、ええよ」

「ああ……既にロングアーチから報告があったと思うが、ホテルを襲撃したガジェットは全て殲滅した」

「うん。ついさっきシャーリー達から報告があったよ」

「……ティアナの件は?」

「……うん、聞いとる」

ティアナの誤謝についての話しが出ると、気まずい雰囲気になるがそれでもルドガーは報告を続ける。

「あと、関係があるか分からないが1つ気になる事がある」

「話して」

「ホテルの地下駐車場に停めてあったトラックの荷台が何者かに荒らされたそうだ」

「トラックやて?」

「幸い現場を発見した警備員にケガはなかったが、荷台に積んでいた荷物が盗られたらしい」

「盗まれた物は何かわかる?」

「現在調査中だ。何かわかったらまた報告する」

「うん、よろしく頼むわ」

報告する事を全て言い終え、その場を後にしようとするルドガー。
だがその時、ヴェロッサがルドガーを呼び止める。

「ちょっといいかな、ルドガー君?」

「 ? 」

「ロッサ?」

「なに、時間は取らないよ。僕も彼も仕事中だしね。少し個人的な話しを男同士でしたくてさ」

「男同士ィ?なんか怪しいなぁ~」

ヴェロッサの事をよく知るはやては、彼がルドガーに何か良からぬ話しを持ちかけるのでと疑いの眼差しを向ける。

「心外だなぁ。別に可笑しな事は話さないよ…ね?」

「……(……俺に聞くな)」

結局こちらの有無も取らずにヴェロッサはルドガーを半ば強引にはやてから少し離れた廊下まで連れていかれる事になる。正直ルドガーはこういう胡散臭い人間は苦手だ。一番の理由はやはり、多額の負債を自分にかけたリドウが原因だ。
ヴェロッサはリドウ程ではないが何となく話すのが苦手だと、そんな第一印象を抱いていた。

「それで?俺に話しっていうのは?」

「ああ、そうだね。本当に個人的な事でね……まぁ主にはやての事が中心だけど」

まただ。ヴェロッサがはやての名前を口にすると胸に微かに痛みを覚える。そしてその痛みは名前を聞く度に少しづつ大きくなっているような気がする。

「君は異世界渡航者だったね。それも未だ確認されていない未知の世界……」

「そうらしいな」

ルドガーがミッドチルダに漂流してもう2ヶ月は立つ。
管理局は未だリーゼ・マクシアやエレンピオスが存在する世界を発見できてはいなかった。

「成る程……確かに聞いていたとおりだね」

「ん?」

「ルドガー君。君は何故、自分の世界の捜索にそこまで消極的なのかい?」

異世界渡航者は保護された場合、通常なら管理局がその人物の出身世界を捜索し送り返すのが常識だ。だがルドガーは自分の世界の捜索に乗り気ではない上、挙げ句捜索を打ち切ってもかまわないとまで言ってもいた。管理局側もこれまでにないパターンに対応に困り、とりあえず規則として予め定められている期間内の間は、ルドガーの世界の捜索を続ける事にしている。

「……俺はもう、あの世界で存在する事はできない……死んだも同然だ」

「死んだも同然?」

ルドガーの口にした元の自分の世界に帰らない理由を聞いたヴェロッサだが、言葉の意味がわからずにいた。だがルドガーは話しを続ける。

「もうあの世界に後悔はない。だから帰る必要もない。俺はここで、自分の世界を作りたいんだ」

「なるほど……君は聞いていた以上に変わった人間だね」

ヴェロッサのルドガーの情報源がどういったものかはわからないが、少なくともヴェロッサは今のルドガーとの会話で彼に興味を持っていた。

「変わった人間って……俺からすれば、アコース査察官の方が変わってると思うけどな」

「へぇ……それは気になるな。例えばどんな所がそう見えるんだい?」

顎に手をやり悩んでいるような仕草をするルドガー。考えがまとまり口を開く。

「簡単に言えば、パッと見何を考えているか読めないところとか、普通に話していても相手を観察しているようなその眼差しが、一般人より少し違うように見えるんだよ」

「はっは、確かによく姉さんやはやてに言われるな。査察官という立場は、洞察力がないとやっていけない仕事でね……物事の奥に隠された真実を僕達は見抜かなければいけないんだ」

この会話でもヴェロッサはルドガーの言葉の端から彼を観察していた。
ルドガーもそれを見抜いていた上で、簡単にだが自分の事を話していた。
少ない情報からヴェロッサがどれほど自分という人間を見極められるか確かめる為に。

「で、俺を観察して何かわかったんですか?」

「そうだね……査察官としては今の会話だけで君がどういう人間か判断する事はできないね……けど」

そう言ってヴェロッサは右手をルドガーに差し出す。

「一人間ヴェロッサ・アコースとしては、君は信用に足る人間だと思うよ」

意外だった。どうもこのヴェロッサ・アコースという人間の中で、ルドガー・ウィル・クルスニクという人間は本人が思っていたよりも好印象のようだ。

「根拠は?」

「はやてが君の事を信頼しているから……じゃダメかい?」

いくら査察官としての立場ではなくヴェロッサ個人の評価でも、どうもルドガーには彼のやり方が甘く見えてしまう。はっきり言ってルドガーは六課の不協和音であり、彼の力とその存在は六課を転覆させなかねない。だが彼のその心意気ははやて同様に嫌いになる理由はなかった。
故にルドガーは彼の手を取り、握手に応じる。

「よろしく、アコース査察官」

「ロッサでいいよ、ルドガー君。それと……」

突然表情が真剣なものから、人をからかうような表情へと一瞬で変わる。

「はやては僕にとってあくまでも妹のようなものだから、安心してアタックしていいからさ」

「なっ!?」

ヴェロッサの言葉で初めて動揺が走った瞬間だった。

そしてルドガーはまだ気づいていない。


この刹那の動揺と握手という行為を使ってヴェロッサが自分の記憶を読もうとしている事に。


(……すまないね、ルドガー君)


査察官として土足で心の中に入り、勝手に記憶を見る事に対してヴェロッサとして謝罪する。
ヴェロッサがルドガーを信用しているのは本当だ。

だが彼は立場上、不安要素のある人間を内偵しなければならない。ルドガーに悟られない内に思考調査を始める。



だが、ヴェロッサは記憶を読みとれなかった……。


お互い手を離し、ルドガーは職務に戻り、ヴェロッサははやての下に戻る。

「ロッサ?」

「あ、ああ、なんでもないよ」

はやてに話しかけられた事で我にかえるヴェロッサ。

(まさか……僕が他人の記憶を読む事ができないだなんて……それにあんな事が)

ヴェロッサは触れた相手の記憶を読むレアスキルを所有している。
だが今回ヴェロッサはその能力でルドガーの記憶を読む事ができなかった……いや、記憶を読む事を自ら中止した……あの時、記憶を読んだ瞬間ヴェロッサはこれまでに経験した事のない恐怖に襲われた。

ルドガーの精神に侵入したはずのヴェロッサは、いつの間にか金色と無数の歯車に支配された空間の中に居た。動揺するヴェロッサ。

空間が何なのか詮索を始めようとした瞬間、彼の体に変化が起きる。
突如彼の手が指先から黒い何かが広がり始め、それはどんどんヴェロッサの全身をまるで乗っとろうとするかのように侵食していった。

頬から右目まで侵食された際、これ以上ルドガーの記憶を読む事は危険だと判断し、彼の精神から手を引いた。


(彼はいったい……)


------------------------

はやて達と別れ、ホテル周辺をまわるルドガー。
ホテル正面付近に着いた時、現場検証を行う調査班と彼らの手伝いを積極的に行うフォワード達が目に入る。
だがその中で、ティアナはいつもと様子が違う。
やはりまだ誤射の事を気にしているようだ。

「ルドガー」

呼び掛けられ声の聞こえた方を見る。
調査班達から離れた所からドレスから陸士隊の制服に着替えたなのはとフェイトがこちらに歩いてくる。

(誰だ?)

歩いてくる2人の隣に、見覚えのない人物がいる事に気付く。
薄い金髪にメガネを着けた、女性のような顔立ちの男性だ。

「はやてちゃんに報告は終わったの?」

「ああ。さっき別れたところだ」

「お疲れさま」

「そっちこそ……ところで」

話しに一旦区切りをつけ、先程から気になっていた男性に視線を向ける。
その意味に気付いたなのはが男性の紹介をする。

「そっか、2人は初対面だったね。ルドガー君、こちらは時空管理局最大のデータベース無限書庫の司書長であり、優秀な考古学者のユーノ・スクライア先生だよ」

「優秀って…言い過ぎだよなのは……えっと、ただいま紹介されたました、ユーノ・スクライアです。よろしく」

「こちらこそ。俺はルドガー・ウィル・クルスニク」

自己紹介を済ませ、堅く握手するルドガーとユーノ。

「ユーノはね、私やなのは、はやての子供の頃からの友人なんだ」

「ルドガー君の出身世界も、実はユーノ君に無限書庫を使って捜索に協力してもらってたりもするんだ
よ」

「そうだったのか……世話になってるみたいだな」

自分のいた世界の捜索が、自分の想像以上に規模が大きい事を知り、驚くと共に罪悪感を覚えてしまう。ルドガーの世界が見つかる見つからないは別として、彼自身は元居た世界に帰還する気は毛頭ない。そういった事から、ルドガーはこういった捜索に奮闘する人物の話しを聞くと、申し訳ない気持ちになってしまう。

「いいえ。他ならぬなのは達の頼みと、その友人が困っているなら、僕も出来る限りの協力がしたいんです。それに僕もルドガーさんの世界には考古学者としても興味がありますから、お時間のある時にでもルドガーさんの世界の事について話しを聞かせてもらえませんか?」

「あまり難しい話しは出来ないけど、簡単な話しなら……それでいいかな?」

「はい。ありがとうございます」

ルドガーの世界の話しを聞きたいというユーノの頼みを、ルドガーは快く引き受けた。
ユーノの人柄からか、心なしかまるでジュードと話しているような気分になる。
そういえば今でも彼は列車マニアを続けているのだろうか?あの熱い列車魂は、ある意味彼の使命とも言える源霊匣研究並みに力を入れているような気がしてならない。


まぁジュードを列車マニアへと導いたのは他でもないルドガー自身だが……

「さっそくだがなのは、例のリストを」

「そうだったね。えーと……はい、これだよ」

エアディスプレイを操作する。あるリストを表示し、そのリストから更にある2つのデータを開く。
表示されたのは碧色の瞳を思わせるひし形の宝石と、見るものの目を奪うような光沢を放つ大剣があった。

「そしてこっちの剣は完全に歴史的文化遺産扱いの……覇王の天剣。聖王教会の管理下にあったロストロギアではない骨董品に近い物なんだけど、数年前盗み出されて、それ以来行方がわからなくなっていたんだ」

「皮肉だな……密輸品がまた違う奴の手に盗まれるなんて……ん?」

話しながらルドガーはある事に気付いた。
襲撃を受けたトラックの荷台には違法取引される物以外にも当然正規の方法で取引される品も多数あった。

だが何故襲撃者は覇王の天剣以外何も持ち去らなかったのだろうか?

金目の犯行なら荷台にある物全て奪っていったって可笑しくはない。
残された現場の状況から考えると、襲撃者は始めから覇王の天剣以外、持ち去る気はなかったとしか考えられなくなる。

それも物が荷台に積まれている事を知っていたことになる。

「ガジェットの襲撃を隠れ蓑に、俺達の監視の目を掻い潜った……」

「ルドガーさんは、スカリエッティが骨董品を奪ったと考えているんですか?」

「あくまでも仮説だ。そう考えれば全て繋がる」

ルドガーは自分の立てた推理を説明し始める。

「まずガジェットの襲撃だが、これには今話した陽動以外にも、もう1つの意味が隠されている」

「隠された意味?」

「ああ、そうだ。なぁフェイト。俺達はガジェットの襲撃に備えて昨日からこのホテルで警戒体制を敷いてたよな?」

「そうだけど、それがいったい?」

「機動六課の知名度はミッドではそれなりに知れ渡っている。それもそうだ。新設でしかも精鋭揃い、
マスメディアが食い付かないはずがない……ならどうだ?六課が動けば必ず情報が大小関係なく興味のある連中には知れ渡る……ましてや敵対している勢力なら尚更…な?」

戦いにおいて敵対する勢力の戦力状況を知っておく事は絶対条件。
六課と敵対しているスカリエッティも今回の六課の情報を必ず得ていたはずだ。

「そしてガジェットがオークション品をレッリクと誤認する事を考えている俺達の警備体制を逆手に取り、ホテル防衛に集中していた俺達の裏をかいて、上手く潜りこんだ何者かがスカリエッティのお目当ての物を手に入れたってわけだ」

「確かに……考えられなくもないね」

「でもそうなると一番わからないのは……」

「うん」

この件をスカリエッティの犯行とすれば一番の謎ができる。覇王の天剣を強奪した動機だ。
スカリエッティほどの次元犯罪者がここまで大掛かりに事を起こしたからには理由があるはずだ。

「盗まれたその覇王の天剣の事を調べれば何かわかるんじゃないのか?」

「聖王教会にはどのみち覇王の天剣の事を伝えないといけないから、私が調べるよ」

「僕も協力するよ。無限書庫の古代ベルカに関する記録から、覇王の伝承を調べてみる」

フェイトやユーノがそれぞれのルートから事件の情報を探ると話す。
どんな些細な事でもいいので、情報を見つけたいところ。
スカリエッティの目的を知らなくては、ルドガー達は後手に回る事になるのだから。
それから4人は話しに区切りをつけ、各々の持ち場へと戻り、ルドガーも現場検証を手伝い、スムーズに全てが片付く。

こうしてホテル・アグスタでの機動六課の任務は終わった。


思わぬ再開と、言いようのない不安を渦巻かせながら………。

------------------------


機動六課帰還後、ルドガーは部隊長室で、隊長格とシャーリーに混じり任務の報告に参加していた。
もう時間帯も夕方な事からフォワードチームの訓練は休みとなっていた。
任務の報告が終わり、はやてが解散と告げる直前、ルドガーは気になっていた事を尋ねる。

「なぁ、皆」

「どうしたん、ルドガー?」

「いや、ティアナの事だ。ちょっと気になってな」

任務中のスバルへの誤射。ある意味この事件で一番の問題だろう。
任務どころから今後の訓練にも関わってくる事だ。

ティアナの銃の師としては、なにかできる事がないかルドガーは悩んでいた。

「アタシも気になってたんだよ、ティアナのこと……強くなりたいなんてのは、若い魔導師なら皆そうだし、無茶は多少するもんだけど、時々ちょっと度を超えてるっつーか、なんつーかさ。アイツ、ここに来る前になんかあったのか?」

「うん……」

ヴィータの言葉になのはが悲しそうな表情になり、話しを始める。

「ティアナには執務官志望のお兄さんがいてね、ご両親が事故ど亡くなってから一人でティアナを育てていたんだけど……ティアナが10歳の頃、任務中に殉職してしまったの……」

「 ! 」

なのはから聞かされたティアナの過去を聞きルドガーは目を見開く。
だがこれはほんの一部に過ぎなかった。今のティアナの意志を作った過去のほんの一部……。
なのはは言葉を区切り、モニターに一人の男性の写真を表示する。

「ティーダ・ランスター。当時の階級は一等空尉。所属は首都航空隊、享年21歳……」

「……結構なエリートだな」

なのはの言葉に、ヴィータは腕を組みながら話す。ルドガーにはまだ管理局員の階級の価値がはっきりわからないが、ヴィータの反応を見て、ティーダがそれなりに優秀な管理局員だった事は理解する。

「そう……エリートだったから、なんだよね。ティーダ一等空尉がなくなった時の任務……逃走中の違法魔導師に、手傷は追わせたんだけど……取り逃がしちゃってね」

「まあ、地上の陸士部隊に協力を仰いだおかげで、犯人はその日のうちに取り押さえられたそうなんだけど……」

フェイトがゆっくりと話し、なのはがそれに続ける。

「その件についてね。心ない上司がちょっと酷いコメントをして、一時期、問題になったの」

話しにくい……悲しそうに話すフェイト。

「コメント?どんな内容なんだ?」

「……犯人を追い詰めながらも逃がすなんて、首都航空隊の魔導師としてあるまじき、失態で、たとえ死んでも取り押さえるべきだった……」

「っ!」

はやてが口にした言葉が、ティーダの上司のコメントだと直ぐにわかった。
とてもだが心ある人間の言葉だとは思えない。

「もっと直球に言うと、任務を失敗するような役立たずは死んだ方が管理局の為だ……って言うところや」

「なんて…事を……!」

拳を強く握りしめる。顔もわからないティアナの兄を侮辱した上官に対し、ルドガーは激しい憤りを覚えていた。

「ティアナはその時まだ10歳で、大事なただ一人の肉親を亡くした……それもお兄さんの最後の仕事が無意味で、役立たずと言われた事で、ティアナは物凄く傷ついたはずや……」

家族を失う悲しみはこの場にいる者は誰よりも知っている。中でもルドガーはティアナと同じく兄を失っている。だがルドガーは自分はティアナと同じ境遇だとは思ってなどいない。

失い方が違うからだ。
それに大切な者を失う悲しみは大小ありはしないのだから。

「俺、ティアナの気持ち…少しわかる。……もし兄さんが同じように侮辱されたら、許せないし、そいつを殺したくて仕方ない……きっと」

ティアナも自分の兄を侮辱した人間を許せないはずだ。

(もしティアナのあの行動が、兄の意志を継ぐ事から来ているのだとしたら……)

ルドガーもティアナの助けになりたい。
彼女の夢を叶える為の手伝いをしたい。
だが今のティアナは、兄の事を考えるあまり、行きすぎた行動が見えはじめている。
もし自分が選択を見誤り、間違った方に導けば、ティアナは本当に自分自身すら見失うことになる。

「……大丈夫……きっと大丈夫だよ」

そんなルドガーの心を読んだかのように、なのはは微笑みながら話す。

「ティアナはちゃんとわかってくれた……今はまだ今日のことで混乱してるかもしれないけど、私はどんなに苦しくて辛い過去でも乗り越えられるって信じてる。私はあの子達の先生なんだから、信じなくちゃね」

「なのは、オマエ……」

ヴィータはなのはの言葉に何か考える事があったのか、一瞬悲しい表情を見せる。
よく見ればはやてやフェイトも同じよう表情をしており、ルドガーはそんな彼女達を見て疑問を持ち、何故かティアナ同様になのはにも一抹の不安を覚える。

(俺の思い過ごしならいいんだがな……)

もしかすれば今自分は、なのはの決して癒える事のない傷を見たのかもしれない。
それを確かめたいが、まだはやて達に過去を偽っている自分が聞くべきではないのかもしれない。
何とも言い表わせない2つの痛みを胸に感じながら、ルドガーは部隊長室を後にした。
 
 

 
後書き
今話はvividから次元世界でその名が語り継がれている、アインハルトの祖先
覇王の名を引用させていただきました。
正直に話せば、ただ覇王を使いたかっただけで、覇王の天剣とは適当に考えた名称です。


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