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占術師速水丈太郎 白衣の悪魔

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29部分:第二十九章


第二十九章

「しかし倒さなければなりません。それが仕事ですから」
「ええ。私も術は全て使うつもりだけれど」
「それは私もです」
 速水も述べる。
「ですがそれだけでは」
「策はあるかしら」
「策ですか」
「ええ。何かあるのかしら」
 速水にそのブラックルビーの目を向けて問う。漆黒の光が彼を照らしている。
「貴方には」
「そうですね」
 速水はその右目に思案の色を含ませてきた。そのうえで言うのだった。
「ないわけではありません」
「そう。どうするのかしら」
「すいません」
 ここで話を一旦中断してきた。
「カクテルをもう一杯」
「わかりました」
 バーテンに注文した。頼んだのは今度はジントニックであった。
 そのジントニックを受け取る。透明で澄んだカクテルが早水の白い顔の右半分を映し出していた。そこに映るのは半分だけで後は見えはしない。
「これです」
「これ!?」
「目に見えるだけが全てではありません」
 彼はこう言ってきた。
「その他もまた真実であるのです」
「では真実を隠していくのね」
「そういうことです」
 ジントニックを口に含む。その刺激を口の中で楽しむ。そうした中でまた沙耶香に言うのである。
「隠された中真実こそが最も重要なのは全てについて言えることです」
「ええ」
 沙耶香もそれは同じ考えであった。彼女もまたそれに頷く。
「それじゃあ。聞かせね」
「わかりました。それでは」
 それを受けて沙耶香に話す。これで最後の戦いの手筈は整った。次の日の朝二人は警部のところに来て昨日のことを述べるのであった。
「そうですか、穴をですか」
「はい」
 警部の問いにこくりと頷く。
「一つを残しまして」
「後は全て」
「左様ですか。それではその最後の一つですね」
 警部は沙耶香の言葉も聞いたうえで言ってきた。
「そこで決着ですか」
「そのつもりです」
 速水が答えた。
「それで如何でしょうか」
「それは御任せします。ですが」
 警部はここで剣呑な目を見せてきた。それに速水も気付いた。
「何か?」
「かなり手強い相手ですよね」
 警部が剣呑な目をしてきた理由はそれであった。魔人の力を警戒していたのだ。同時にそれは二人への細かい気遣いでもあった。
「相手は」
「ええ、それは勿論です」
 その問いに速水が答えた。
「正直かなりの手強さですね」
「魔王に匹敵するでしょうか」
「魔王、ですか」
 そうしたことに詳しくはない警部でも魔王という単語が出てはどういった相手なのかすぐにわかった。魔王というのは絶対的な力を持つものだ。それを彼もわかっているのである。
「それですとかなり」
「まあ大したことはありません」
 しかし沙耶香はここで余裕の笑みを見せてきた。
「今までそうした相手ともかなり渡り合ってきましたし」
「いや、それでもです」
 警部はその沙耶香に対しても言う。声もまた怪訝なものになっていた。
「殺し方を見ているとやはり」
「何、既に手は打ってあります」
 速水が警部に答えてきた。
「正確に申し上げると策を用意していると申しましょうか」
「策をですか」
「はい」
 速水は答える。
「色々とね。手はあるのですよ」
「左様ですか」
「もがけばもがく程」
 沙耶香が言う。
「動けなくなるものがありますわね」
「もがけばもがく程ですか」
「そういうことです。それでは今夜」
「今夜全てが終わります」
 速水も言ってきた。
「間違いなく」
「それではお任せして宜しいですね」
 警部も腹を括った。そうして二人に問うてきたのだった。

 
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