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占術師速水丈太郎 白衣の悪魔

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23部分:第二十三章


第二十三章

「解剖の結果は多分素手で引き裂いたり千切ったりというのが完全に出ていますね」
「ええ、その通りです」
 警部もその問いに答えて頷く。
「それはもう事故現場だけでおわかりだと思いますが」
「そうです。それです」
「魔人は相手を素手で引き裂いて楽しんでいるのです」
 沙耶香も述べてきた。
「殺戮を楽しんで」
「真性の快楽殺人者ですか。話はやはりそこにいきますね」
「ええ」
「残念ながら」
 二人もそれに頷く。警部はまたハンカチで手を拭きはじめていた。
「しかし。やはり魔人ですね」
 そのうえで彼は言う。
「素手で人間を引き裂いたりできるとは。恐ろしいものです」
「相手は痛みや危険といったものも楽しんでいます」
 速水はこうも説明する。
「全てのことを退屈なことを潰す為のものと考えているのです」
「完全に子供ですね。というと」
 まだハンカチで手を拭いている。拭きながらまた言う。
「子供が虫を殺すような感覚ですか」
「彼にとってはまさにそれですね」
 速水はその通りだと述べてきた。目に何かを分析する冷徹な光があった。
「完全にそうした感じです」
「それが子供で相手が虫ならばまだ最低限許せます」
 ところがその対象が人間ならば話が別なのだ。なおあのドラキュラ伯爵のモデルとなった串刺し公ことブラド四世は実際に小鳥を虐待して殺して悦に耽っていたという。トルコとの戦争や平時での様々な酸鼻を極める処刑は当時の過酷な情勢もあったのは確かだがそこに虐殺を楽しむ彼の気性があったことは間違いがない。彼は本質的に残忍であったのだ。今でなら精神異常者と断定されていたかも知れない。
「しかし人間となると」
「そういうことです」
 速水が言いたいのはそこであった。
「だからこそ。私達にお任せ下さい」
「こちらも仕事なので」
 沙耶香も述べる。
「必ずやあの魔人を倒すなり封じ込めるなりします」
「私達の術で」
「術ですか」
 警部はその言葉を聞いて二人に顔を向けてきた。
「そういえば貴方達の術は」
「はい」
「これを」
 速水はカードを、沙耶香は蝶を。それぞれ出して来た。沙耶香のそれは青、赤、白、黒、黄の五色の蝶、速水のそれはタロットの小アルカナのカードであった。
「使いますので」
「御安心を」
「カードに蝶ですか」
 警部の目にもそれははっきりと見えていた。そのうえで二人に尋ねる。
「それではですね」
「ええ」
「そのカードと蝶を使ってどうなさるのですか?」
 彼の疑念はそこであった。そこをまずはどうしても聞いておきかったのだ。だからこそ聞いた。
「カードは占いですが蝶は」
「このカードは占いには使わないのですよ」
 速水はうっすらと笑って警部に答えてきた。
「占いには使わない」
「そうです。このカードの使い方は」
 ここでカードを浮かせる。投げるのではなく宙に浮かせる。そうしてそれ等のカードを一枚ずつ何処かへと向かわせるのであった。
「こう使うのです」
「あのカード達は一体何を」
「目です」
 速水は警部にこう答えてきた。
「目、ですか」
「そうです、私の目の役目を果たすのです」
「といいますと今街中に出ましたよね」
 警部はそこを指摘する。
「では貴方はこれから札幌の中をカードを使って見るわけですか」
「ええ。これもまた私の術の一つです」
「それは私も同じことでして」
 沙耶香も言ってきた。
「この蝶達を使って」
「見るのですか?」
「いえ。私は違う役目を」
「!?その蝶達は」
「特別な蝶でして。魔力を持っているのです」
 己の周りにその蝶達を漂わせている。生きている蝶そのもののようにひらひらと飛び回っている。
「魔力ですか」
「結界を晴れるのです。つまり」
「札幌に結界をですか」
「あまり強い結界ではありませんが確かに張ることができます」
「それは凄い」
「では」
 その蝶達を放ってみせた。蝶達は一羽、また一羽と去っていく。そうして沙耶香の周りに五色の燐粉と香りを残していったのだった。妖しい香りを。

 
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