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逃れられぬ運命

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第一章

                        逃れられぬ運命
 アルゴスの王アクリシオスは不吉な予言を聞いた。
『己の孫に殺される』」
 この言葉を聞いてだ、彼はすぐに家臣達に命じた。
「娘のダナエーを宮殿の塔に幽閉せよ」
「あの予言ですか」
「あの予言があるからですか」
「そうだ、ダナエーはあまりにも美しい」
 父である彼から見てもだ、ダナエーは人とは思えぬまでに美しい。これ自体はいいことがだ今はそれがだというのだ。
「男が放っては置かない」
「そしてダナエー様にお子が生まれればですか」
「それで」
「そうだ、私は孫に殺される」
 玉座において強張った顔で言った。
「そうなるつもりはない」
「ではダナエー様を宮殿の塔にですね」
「その最上階のお部屋に」
「用足しの場や風呂、そして食事や水は用意してやれ」
 そうしたことは忘れなかった、流石に己の娘にそうしたことは忘れなかったのだ。
「しかしだ、決してだ」
「塔の部屋からは出さない」
「何があろうとも」
「男は誰も近付けるな」
 アクリシオスはこれ以上はないまでに強い声で告げた。
「わかったな」
「わかりました、それでは」
「その様に」
 家臣達も応える、こうしてだった。 
 ダナエーは塔の部屋に幽閉された、武装した腕自慢の侍女達が護り男はそれこそ雄猫一匹入り込めない様だった、だが。
 ある日侍女の一人が血相を変えてアクリシオスのところに来た、そのうえでこう言って来た。
「ダナエー様がご懐妊されました」
「馬鹿な、そんな筈がない」
 話を聞いたアクリシオスも血相を変えて言う。
「男は誰も近付けていない、それで何故だ」
「どうもそれが」
「どうも?」
「ダナエー様があまりにもお美しいので」
 それ故にだとだ、侍女は言うのだ。
「先程ヘラ神殿の巫女に神託を伺ったところ」
「ヘラ女神か」
 アクリシオスは話を聞いてすぐにわかった、懐妊といえば女のことだ。ヘラは女性の守護神なので解任も司るからだ。
 ならばダナエーの懐妊の理由はヘラの巫女に聞くといい、そういうことだったのだ。
 侍女はこうアクリシオスに話した。
「ゼウス神が」
「あの方か」
「はい、黄金の雨にお姿を変えて」
「部屋に入られてか」
「そのせいの様です。ヘラ様は激怒しておられるそうです」
「そういうことか」
「ダナエー様のお腹の子はゼウス様です」
 侍女はアクリシオスにあらためて言った。
「そうとのことです」
「わかった」
「それでどうされますか?」
 侍女jはアクシシオスに怪訝な顔で問うた。
「ダナエー様とお腹の中のお孫様は」
「少し待て」
 厳しい顔と声での言葉だった。
「考えさせてもらう」
「そうですか」
「ダナエーは娘だ、それに孫もゼウス神のお子となると」
 殺せなかった、肉親でありしかも神の子ともなると。
「無下には出来ぬ」
「では」
「暫く考える、待て」
「わかりました」
 こうしてダナエーがその子、アクリシオスの孫を産むその時まで決断は見送られた。そしてその子が生まれた時にだ。 
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