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舞台神聖祝典劇パルジファル

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第一幕その八


第一幕その八

「こうしたことはだ」
「その通りです」
「何という男なのか」
「御前はだ」
 グルネマンツは若者をさらに責めた。
「この神聖な森の中で何をしたのかわかっているのか」
「何をとは?」
「静かな平和が御前を囲んでいたな」
「平和を」
「そうだ、平和をだ」
 こう若者に話していく。
「その中でこの森の鳥や獣達はどうしてきた」
「それは」
「そうだな。御前に危害を加えることはなかった」 
 まずはここから話すのだった。
「それはだ」
「それはその通り」
 若者はまだぼうっとしたままではあったが答えはした。
「僕に何も」
「御前を親しげに、穏やかに迎えてくれたな」
「その通りだった」
「この誠実な白鳥が御前に何をしたか」
 その傷つき悲しい顔になっている白鳥に顔を向けての言葉だった。
「相手の雌を探しその妻と共に湖の上で弧を描いて飛んでいたな」
「そうしていた」
「しかし御前はだ」
 若者をさらに咎めるのだった。
「その白鳥を射たのだ。何の感嘆も持たずにだ」
「そうだったんだ、僕は」
「そしてだ」
 さらに話す若者だった。
「腕白小僧の弓矢遊びの気持ちしかなかったのか」
「僕は」
「我々には可愛い鳥だ」
 今度は白鳥をいとおしげに見ていた。
「これを見ろ。白鳥の傷を」
「その傷を」
「まだ血が残っている。身体も弱くなり羽根も汚れ」
 まさにグルネマンツの言葉通りだった。
「悲しい目は。わかるな」
「それは」
「御前の罪の深さにわかったな」
 こう若者に話していく。
「何故こんなことをした」
「罪なんて知らなかった」
 だが彼はこう言うのだった。
「そんなことは」
「それでは何処から来た?」
「わからない」
「では父親は誰だ?」
「それもわからない」
 言葉は同じであった。
「それも」
「では誰から教わりここに来た」
「それもわからない」
「では名前は?」
「名前は沢山あった」
 返答は変わった。しかしであった。
「けれど一つも覚えていない」
「つまり何もわからないのか」
 グルネマンツはこのことだけがわかった。
「つまりは」
「何も」
「これだけの愚か者はクンドリーの他には知らん」
 ここでまた倒れ伏したまま寝ているクンドリーを見るのだった。
「まあい。それではだ」
「はい」
「王の元へ」
 小姓達がグルネマンツの言葉に応えた。
「今から行きます」
「そして白鳥は」
「湖で癒されるだろう」
 グルネマンツは穏やかな口調で述べた。
「だからだ」
「はい、それでは」
「白鳥もまた」
 小姓達も騎士達も向かう。後に残ったのはグルネマンツにクンドリー、それに若者の三人だけになった。グルネマンツはまた若者に対して言う。
 
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