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真・恋姫†無双 劉ヨウ伝

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第121話 何進暗殺

 
前書き
突然ですが一人称から三人称で執筆することにしました。
突然書き方が変わりますがすみません。 

 
 冀州に帰還した正宗は本拠地を魏郡鄴県に移した。鄴県は冀州魏郡の治所。正宗は重要拠点の魏郡大守に揚羽(司馬懿)、勃海郡大守に冥琳(周瑜)を置いた。
 正宗は内政で揚羽に勃海郡から正宗の封地である清河国の間の街道整備、冥琳に勃海郡と東萊郡の間の航路と港の整備と海軍創設をそれぞれ一任した。朱里(諸葛亮)を中心とした文官達は清河国を中心拠点に他郡の治水、農作物の増産、兗州・青州・幽州の国境要所に要塞建設を進めていた。軍事では青州黄巾兵を取り込み膨張した二十万人にも及ぶ軍を本隊十万を冥琳(周瑜)、冀州北方軍五万を星(趙雲)、冀州南方軍五万を榮菜(臧覇)が統括していた。
 正宗が内政と富国に力を注ぐ中、後漢の第十二代皇帝、劉宏が崩御した。正宗が冀州に戻り半年程経った後のことだった。後継には何進と何皇后によって擁立された劉弁が即位した。
 正宗の元に定期的に届く彼の妻麗羽(袁紹)からの手紙には劉弁派と劉協派の争いが水面下で激化しており、いずれ大事を招くだろうというきな臭い話題が増えていた。
 つい最近の手紙には『何進様が宦官を一掃するために各地の諸候に招集を掛けているらしく正宗様の元にも招集がかかると思います』と書かれていた。
 麗羽の知らせ通り、正宗の元にも何進から幾度となく招集の文が届いていた。彼は招集には応じず冀州の治政が多忙であえることを理由に応じなかった。
 正宗は何進の策を察した宦官が生き残りを賭け博打に出ると見ていた。宦官は彼らの身の上故、金と権力えの渇望は人一倍であり、それは彼らにとって生きる証そのものだ。このまま黙って何進に殺される訳がないことは容易に推測できた。
 正宗は洛陽の変事に対応するために彼の父の治める山陽郡に兵を駐屯させようと画策していた。



 鄴城——————

 正宗は幽州より二人の人物を鄴城に呼び寄せた。

 「善く来てくれた。泉(満寵)。瑛千(無臣)」
 「正宗様のご下命とあらば火の中、水の中何処にでも参ります」
 「お久しぶりです。ご健勝の様子で何よりです」

 感極まった様子の泉とは対照的に瑛千は真面目な表情で拱手をし挨拶をした。

 「今夜、お前達のためにささやかながら宴を催そうと思っている。その宴の前に、お前達に頼みたい重要な話がある」
 「喜んでお引き受けいたします」
 「慎んでお引き受けいたします」

 二人は間を置かず拱手し答えた。

 「ところで任務の詳細をお聞かせ願えませんか?」

 泉は正宗に質問をした。

 「兗州へ行ってほしい」
 「兗州にございますか?」

 泉は要領を得ない表情をして正宗の表情を窺った。瑛千は私の話の続きを待っている様子だった。

 「騎馬兵五千を率いて山陽郡に暫く駐屯してほしい。父上への書状も既に書きしたためている。兵糧は冀州より定期的に届けさせる。行ってくれるか?」

 正宗は真剣な表情で二人の表情を窺う。

 「正宗様、大軍を引き連れ他国へ駐屯する意図をお聞かせ願えますか?」
 「ちょっと瑛千、私の言葉を取らないでくれる。ここは私に譲るべきじゃない」
 「何故?」
 「何故って・・・・・・。もういいわよ。正宗様、駐屯の理由をお聞かせください」

 泉は項垂れながら正宗に話を進めるように言った。

 「都の変事に備えるためだ。都で何かあれば、都にいる麗羽、揚羽の母上の身に危険が及ぶ可能性がある。そのための備えとして兗州に兵を駐屯させる。駐屯先を兗州にした理由は都に近過ぎても無用な疑いを受けかねないからだ。それに、縁者の治める土地の方が何かと融通が効く」
 「都は危険なのであれば、麗羽様と揚羽様のお母上には冀州にお下り願えばいいのではないでしょうか?」

 泉は正宗に素直な気持ちを伝えると瑛千も頷く。彼女も泉と同じ意見のようだ。

 「私も、そう思うのだが・・・・・・。麗羽はともかく、義母上は都がどんな状況になろうと絶対に下野することはないだろう」
 「何故ですか?」
 「『義母上は漢臣として務めを放棄することはできない。その結果、死するなら本望。後事は朗に任せる』と私に文を送ってきた」

 正宗は泉の言葉で複雑な表情で答えた。正宗は揚羽にも彼女の母親に解官して下野するように説得するように促したが結果は芳しくなかった。

 「麗羽様はいつごろ下野されるおつもりなのでしょうか?」
 「麗羽は限り限りまで都の情報を私に伝えると伝えてきている。定期的に届く文の内容ではいつ下野するかわからないが、都の不穏な空気から察するにそう遠くはないはずだ。念のため水蓮(夏候蘭)に精鋭百騎を与え、明日にでも都に派遣する手筈だ」

 「都はどのような状況なのでしょうか?」

 瑛千が質問してきた。正宗は一呼吸置いて話始めた。

 「皇帝陛下がお隠れになったのは知っているか?」

 正宗は人の耳を憚るように、泉と瑛千を側に呼び寄せ囁くように二人に言った。

 「皇帝陛下がお隠れになったのですか?」
 「初めて知りました」

 泉と瑛千は驚きの表情を浮かべていた。劉宏の崩御は数ヶ月前まで箝口令がしかれていた上、幽州の辺境に居たことも加味すれば二人の様子はおかしいことでない。

 「皇帝陛下が崩御し、現在、弁皇子が皇帝に即位したが求心力が弱く空位の状態とあまり変わらない。そんな中、先帝の御子である弁皇子を押す何進様達と協皇子を押す宦官達が熾烈な権力闘争に明け暮れている」
 「正宗様は都に上洛しなくても大丈夫なのですか?」

 泉は正宗が麗羽と縁のある何進に協力しないことが不思議なようだ。
 瑛千は正宗と何進の関係を知らないから泉が話すのをただ聞いていた。

 「私は劉弁派でもあり劉協派でもある微妙な立ち位置だ。上洛すれば傍観することはできなくなる。だから、理由をつけて上洛するのを先延ばししている」
 「?」

 泉は要領を得ない様子だった。

 「私は元々、麗羽と縁ある何進様と懇意にしていることは知っているな。だから私は劉弁派だ。しかし、先帝が生前に私に協皇子を後援するよう頼んできたため劉協派でもある。このことを知る人間は協皇子と何進様と私の妻達、宦官の張譲のみだ」

 正宗は『蹇碩』の名を省いた。彼は劉宏が崩御した後、早々と何進を殺そうと決起しようとしたが、事前に事が露見し何進に返り討ちにあい殺された。
 正宗にとって懸念の一つであった『蹇碩』が消えたが、一番の懸念である『張譲』は未だ存命だ。張譲は既に齢八十を越えるが未だ死ぬ気配が全然ない。正宗は張譲が老衰で死ぬことを望んでいた。

 「正宗様、複雑な人間関係なんですね」

 泉は正宗の顔に自分の顔を近づけヒソヒソと言った。

 「そういうわけで私は洛陽に上洛できない。お前達には麗羽達が下野するような事態に陥った時に彼女達の手助けをして欲しい」
 「納得いきました」
 「泉、瑛千、何かあれば些事に関わらず早馬を送るようにしれくれ」
 「どんなことでもですか?」
 「そうだ。それと山陽郡に流れてくる洛陽の情報は必ず報告してくれ」
 「わかりました」
 「私は大事あれば援軍を送れるよう準備はしておく」
 「正宗様、何をそんなに警戒しておいでなのですか?」

 瑛千は正宗の警戒感に疑問を抱いているようだった。

 「私が警戒しているのは董仲穎だ。違うな。董仲穎の軍師、賈文和だ」
 「賈文和?」
 「黄巾の乱の時、董中郎将の代理として正宗様を訪ねてきた人物ですね」

 泉は黄巾の乱の征伐に正宗に随行していたので面識があり思い出したようだ。

 「黄巾兵相手に負け戦続きだった董仲穎の軍師が都で何かできるとは思えないです」

 泉は賈文和を気にする程の人物でないと思っているようだ。

 「あの時、賈文和はわざと負けていた。賈文和は黄巾の乱が収まることを望んでいなかった。あのまま世が乱れ、黄巾の乱の被害が拡大し国が崩壊することを望んでいた」
 「正宗様、その根拠をお教え願えますか?」

 瑛千は正宗の言葉に反応した。

 「董仲穎が預かった軍は元々先任の盧中郎将の兵だ。その数は四万だ。黄巾兵と相対する兵数としては決して少ないとはいえない。盧中郎将が指揮している時は後一歩というところまで追い込んでいた」
 「それは董仲穎の指揮が不味かったのでは?」
 「私もそう思います」

 泉と瑛千は口を揃えて言った。二人の意見に正宗は全く同意せず話を続けた。

 「それはない。あの時、私の前に現れた賈文和の連れて来た兵士達は一糸乱れないほど統率が取れていた。泉、お前も見たはずだ」
 「確かに言われてみればおかしかったです。とても統率が取れていて弱卒の集団に見えませんでした」
 「指揮官が変わったことで兵の指揮に影響が出たと言えなくもないが、それだけ統率の取れている軍が連戦連敗は常識的あり得ないだろう」
 「わざと負けて兵を損耗させたということですか? でも、それだと敗戦の責任を取らされるんじゃ」

 泉は正宗に意味がわからないというと表情で言った。

 「先任の盧中郎将を解任したのは誰だ?」
 「!」

 泉の表情は明るくなった。

 「小黄門の左豊です」
 「左豊?」

 瑛千は初めて聞く名前の人物の説明を求めるように泉と正宗の顔を交互に見る。その様子に正宗は左豊を説明すると共に話を進めた。

 「左豊は宦官だ。賄賂を渡さない盧中郎将を讒言で失脚させ、その後釜に董仲穎が送り込んだ。話を戻すが、もし董仲穎の敗戦の責任を追求したら宦官達も連座することになる」
 「董仲穎は宦官と通じているということですか?」
 「董仲穎は涼州の小勢力。この時代は血筋が無い者が中央の権力を欲するなら宦官と通じるのが一番の近道だ。だが、董仲穎に関しては宦官と通じているというより、互いに利用しているというのが正しいだろう」
 「でも、結果は負け戦続きだったんですよね。軍をしっかり統率できたのに。確かにおかしいです」

 泉も瑛千も得心いったという表情をしました。
 
 「中央の権力を欲するなら戦功を挙げようとするはずだ。態々、負けようとするのは負けることが自分達に利すると思っているからだ」
 「だから、董仲穎は乱が収まることは望んでいなかったということですか」

 泉は正宗の言葉を継いだ。

 「正宗様、軍師の賈文和が絵図を書いたのでなく、董仲穎自身が書いた可能性はないのですか?」

 瑛千は正宗が賈文和を警戒する理由は理解できたが、彼女は警戒すべきは董仲穎と思っているようだった。

 「詳しくは言えないが私は董仲穎の人となりを知っている。人死を最も嫌う者だ。わざと兵を損耗させるような真似はしない。表向きは董仲穎に軍事の全権があるが、実態は賈文和が掌握していると見ていい」
 「断定なされるのですね。わかりました、その言葉信用いたします。しかし、賈文和が洛陽の権力闘争に介入できるのでしょうか?」
 「涼州の小勢力が洛陽で幅を効かすなど無理でないですか?」

 泉も瑛千も董仲穎が中央に出張るのは不可能と思っているようだ。
 正宗は二人の態度を見て目を綴じ考え込む。数分後、正宗は突然刮目すると二人を見て話始めた。

 「これから話すことは絶対に他言無用だぞ」

 正宗はドスの効いた表情と声で二人を交互に見る。泉と瑛千は正宗の様子の変化にごくりと唾を飲んだ。

 「何大将軍が地方の諸候に『兵馬を率いて上洛せよ』と招集をかけている。もちろん、私にも招集が掛かっているが無視している」
 「!」
 「!」

 泉と瑛千は話の内容に驚いていた。

 「このままいけば宦官は皆殺しだ。奸知に長けた宦官が黙って殺されると思うか?」

 泉と瑛千は黙したまま顔を左右に振った。

 「宦官達も保身のため陰で息の掛かった諸候を洛陽に呼び寄せるはずだ。その中に董仲穎も含まれると思っている」
 「宦官達は董仲穎を役立たずと思っているのでないでしょうか?」
 「宦官達は猫の手も借りたいはずだ。軍事に疎い宦官達だ。かき集められるだけの兵を集めようと思うはず。役立たずと思っている董仲穎も必ず呼び寄せる。それに狼のような番犬より主人の命令を忠実に効く番犬を望む宦官達だ。案外、董仲穎を重用するかもしれない」
 「もし、董仲穎が重用されれば麗羽様や揚羽様の母上の身が危険に晒されるということでしょうか?」
 「なるだろうな。賈文和は二人を私を抑える為の最良の手駒と思うはず。重用されずとも、二人を抑えれば私を抑えることができる。どっちに転んでも賈文和の損にはならない」

 正宗の考えを全て聞いた二人は重大な任務を負ったと思うような表情になった。

 「二人とも安心しろ。お前達はあくまで先駆けだ。勝つ必要はない。負けない戦を心がけ逃げることに専念すればいい。そのために私はいつでも援軍を出せるように準備する」

 正宗は緊張した泉と瑛千を勇気づけるべく言葉を掛ける。二人は三十分程考え込んでいたが覚悟を決めたように正宗へ力強く返事した。


 「いつ向えばよろしいのですか?」

 泉が出立時期を確認してきた。

 「出来るだけ速く頼むといいたい所だが、一週間休暇を与える。ゆっくり一休みして山陽郡に向うといい」
 「それでしたら直ぐに山陽郡に向ってもよろしいでしょうか?」
 「ああ、そうか。泉は故郷が山陽郡だったな。瑛千、お前はどうだ?」
 「私は山陽郡に直ぐに向うことに異論はないです。ところで今夜の宴はどうなるのでしょうか? 宴には参加したいです」

 瑛千は宴の催促をしつつ泉の顔を見た。

 「瑛千、もちろん私も宴には参加するわけよ」
 「決まったな。今夜はよく食べよく飲んで日頃の憂さを存分に晴らしてくれ。山陽郡へは明後日以降に準備が整い次第向ってくれ」

 泉と瑛千は正宗に力強く拱手をし応えた。



 洛陽 宮廷内裏某所——————

 皇帝の家族の住まいである内裏であるため人気は疎ら。また、ここでは武器の携帯は禁止されている。
 その内裏を一人急いで歩いている者がいた。彼女の名は何進。彼女は元は「屠殺」を生業とする下賤の身だったが、彼女の妹が先帝の劉宏の目に止まり寵愛を受けたことで大将軍にまで出世した。
 その彼女が供の者をつけず一人歩いていた。正確には内裏との境までは供を連れ来ていたというのが正しい。内裏は皇帝と皇帝の家族の生活空間のため、許可無き者はおいそれと出入りできない。

 「このような時間に妹は何の用なのだ」

 何進は機嫌悪そうに周囲から除く空を見やる。早朝ということもあり空は未だ完全に日が出ていない。
 何進が内裏の奥へ進んで行くと急に歩くのを止めた。彼女の目の先には屈強な十人の郎官が完全武装して道を塞いでいた、その背後に張譲が底意地の悪い笑みを浮かべ立っていた。

 「大将軍、よくぞ参られた」

 張譲は郎官達の後ろから笑みを浮かべ何進に言った。

 「張譲、私はお前に用はない。私は妹に呼ばれて来たのだ道を空けてもらおうか」

 何進は冷静な返答をしているが、その表情は緊張していた。彼女は張譲の様子から自分が罠に嵌められたことを察したようだ。彼女は張譲に厳しい視線を送る中、時折周囲に目を向けた。

 「大将軍に用が無くとも、私には用があるのです」

 張譲は嫌らしい笑みを浮かべ話を続ける。その様は猫が鼠を嬲る様のようだ。張譲の表情は何進の命を握ったと確信した表情をしている。
 何進はいきなり踵を返し駆け出した。

 「大将軍、何処に行かれるのです。用は済んでいませんぞ」

 張譲は何進が逃げる後ろ姿を暫し眺め郎官に視線を向けた。

 「お前達! 遠慮はいらん。先帝の密勅に従い、協皇子に仇なす何進を誅殺せよ!」

 張譲が甲高い声で郎官を叱咤すると、郎官十人が鞘から剣を抜き放ち何進を殺すために走りだした。張譲は何進の逃げた方向に向う郎官達の後ろ姿を見ながら満足そうな笑みを浮かべた。

 「屠殺屋の娘が分を弁えぬから、このような目に遭うのだ。その点、お前の妹は貴様と違い物わかりがいい。勘違いしおって。我らは持ちつ持たれつなのだ」

 張譲は伝えるべき本人の居ない場所で独白した後、踵を返し宮廷の中に姿を消して行った。 
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