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プリテンダー千雨

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桜通りの吸血鬼編
  第六話


クインテッサ星人が攻めて来た日の翌朝。私は朝食を食べていた。内容はトーストに目玉焼きと牛乳というお手軽な物だ。だが、昨日は派手に戦ったのでエネルギーが全然足りない。ならもっとガッツリした物を食べればいいんじゃないかって?残念ながら、人間の食べ物をエネルギーに変換する効率はとても低い。ゆえに、直接エネルギーを摂取する必要があるのだ。現在、父さんにもらった装置でその用意をしている。もう少しで出来るハズだ。
因みに、昨日父さんは無事戻ってきた。敵はシャークトロンとかいう雑魚ばっかりだったから楽だったらしい。だが当然ながら麻帆良の防衛を行っていた魔法使いに姿を見られてしまったらしい。それでも、見られたのはトランスフォーマーとしての姿だけだったので、魔法使いが直接父さんに接触して来る事は無いだろう。だが、私の方は別だ。

ピンポーン

と、考えている間に玄関のチャイムが鳴った。全く、ちゃんと説明するとは言ったけど、こんな朝っぱらから来なくてもいいのに・・・




《アスナSide》

私はネギとエロガモと一緒に長谷川の部屋の前に来ていた。昨日約束した通りに説明をしてもらう積りだったけど・・・ちょっと早く来過ぎちゃったかしら?でもまあ、善は急げって言うし多分大丈夫でしょ。って考えているとドアが開いた。けど、そこから出て来た長谷川の顔は少し不機嫌そうだった。

「確かに説明するとは約束した。けど、こんな朝っぱらから来るとは思わなかったぞ。」

あちゃ〜。やっぱり早く来過ぎちゃったか。

「ったく。朝飯もまだ途中だって言うのに。」

うわあ。しかも何ていうバッドタイミング。

「そ、そうだったんですか!すみません、出直してきます!!」

ネギなんか謝ちゃってるし。私も出直そうかな。

「いや、別に入ってもいいですよ。どうせ残りは最後に飲むスープみたいな奴ですし。」

あ、そうなんだ。じゃあ、遠慮無く入らせてもらうとしますか。




長谷川の部屋はパソコンとか機械で一杯だった。これもこの子がロボットだからかしら?
私がそんな事を考えてる間に、長谷川はキッチンからSFチックなデザインの電気ポットみたいなのを持ってきた。そして、その中身をマグカップに注ぐ。そこから出て来たのは・・・紫色に輝く液体だった。

「って!何よその明らかに身体に悪そうなスープ!!」

「千雨さん!それを飲むって正気ですか!!!」

ほら!ご飯が不味い事で有名なイギリス出身のネギもこう言ってるし!!

「いや、これ私のエネルギーだぞ。」

あ。そう言えば長谷川ってロボットだったわね。あれ?でも・・・

「長谷川って食堂で普通にご飯食べてなかったっけ?」

「ああ、普通に飯も食えるぞ。ただ、昨日みたいに派手に暴れた後だと人間の食べ物だけじゃエネルギー不足だからこっちも飲んでんだ。」

そう言って長谷川はマグカップに口をつけて中身を飲んでいく。う〜ん・・・分かっていても思わず顔が引きつっちゃうわね。ネギとエロガモも何か引いてるし。

「んじゃ、説明するから適当な所に腰掛けてくれ。」

すると、長谷川は知らないうちあの紫色の液体を飲み干していた。き、きっとロボットにとっては当然の事なのよ!茶々丸さんだってきっと毎日ああいうのを飲んでるに違いないわ!!
まあ、それはさて置き。私とネギは適当な場所に座って長谷川が話すのを待った。

「とりあえず。もう先生には私の種族について話してあると思うけど、神楽坂は先生身体聞いたか?」

「ええと、まだだけど。」

「じゃあ、まずそこからだな。」

長谷川が話した内容は何とも壮大な話だった。何でも、昨日出て来た一杯お面をつけたタコが長谷川のご先祖様にあたるロボットを作ったらしい。で、タコは自分の代わりにロボット達に働かせてぐうたらしてたとか。しかもロボットを作る事までロボット任せとかどれだけ働きたく無かったのよあのタコ・・・しかも調子に乗ってロボットを虐めて怒らせて宇宙に追い出されるとかバカ過ぎるでしょ。地球でも物語の中でロボットが人間に反乱を起こすって事はよくあるけど、これはどう考えてもあのタコが悪いわね。

「それで、その後ロボット達は平和に暮らしたって訳?」

「ああ。暫くの間はな。」

「え?」

「昨日話の中でデストロンって言うのが出ただろ。」

「そう言えば・・・」

「それと、向こうは千雨さんをサイバトロンって言ってましたよね。」

あっ、そう言えばそうね。ネギ、良く覚えていたわね。って言うか、知ってるって言ってたわね。

「ああそうだ。私たちはサイバトロンとデストロン。二つの種族に別れてた。」

それから長谷川が話した内容は大雑把に言うとこうね。
クインテッサ星人は自分達の代わりに働くロボット“サイバトロン”とは別に敵と戦うロボット“デストロン”を作ってた。クインテッサが追い出された後、皆平和に暮らしていたんだけど、デストロンが宇宙征服を企んで手始めにサイバトロンを攻撃したの。それに対してサイバトロンは自分達を改造して立ち向かって戦争になっちゃった訳。まあ、その戦争もとっくに終わってるみたいだけど。

「まあ。ここまでが先に先生に話しておいた部分だな。」

そう言うと長谷川は喋り続けて喉が渇いたのかコップにペットボトルのお茶を注いで一口飲んだ。

「あの、それでは千雨さんがトランスフォーマーと人間の間に生まれた存在って言うのは?」

その時、ネギが長谷川に聞いた。そう言えば、あのタコがそんな事を言ってたわね。

「まんまの意味だ。先生はまだだけど、神楽坂は授業参観の時に私の父さんと会っただろ?」

「うん。そうだけど・・・」

長谷川のお父さんってなんかすっごく若かったのよね。まあ、麻帆良祭に来ていた友達の人達は皆私好みな渋い人たちが多かったけど。

「父さんは人間に姿を変えられる能力を持つトランスフォーマー“プリテンダー”なんだ。地球へやって来た父さんは人間の女、つまり私の母さんと結ばれて、私が生まれたって訳だ。」

ええと。つまり長谷川はロボットと人間のハーフって意味?

「それで、これから千雨さんはどうする積もりなんですか?」

すると、ネギが聞いた。そう言えば、そうね。

「とりあえず、今まで通りに暮らして行きますよ。まあ、デストロンとかクインテッサが攻めて来たら叩き返しますが。」

「そうですか。」

長谷川の言葉を聞いてネギはホッとした様子だった。多分、この前の自分みたいに皆に迷惑をかけないために麻帆良を出て行くとか言わないか心配だったんでしょうね。

「って!もうこんな時間だ!!」

って!急に叫んでどうしたのよネギ!!

「アスナさん!もうエヴァンジェリンさん達来ちゃってますよ!!」

あっ!そう言えばこの後エヴァンジェリンに会う約束をしてたわね。待たせたら後が怖いかも・・・

「すみません、千雨さん!もう失礼させていただきます!!」

「まあ、マクダウェルの奴は何か時間にはうるさそうですからね。別にいいですよ。」

「ありがとうございます!さあ、行きましょうアスナさん!!」

「ええ!」

私はネギと一緒に待ち合わせ場所のカフェに急いだ。何とか間に合うといいけど・・・




《エヴァSide》

「フォッフォッフォ。今回は残念じゃったな、エヴァ。」

学園長室に入ると、開口一番にデスクの椅子に座るジジイはこう言った。

「黙れジジイ。まさかそんな小言を言うために私を呼んだのでは無いだろうな。」

私はこの後坊や達と会う約束があるんだ。もし遅れでもしたら私のメンツは丸潰れだ。そうなったらどうしてくれようか・・・

「いや、そうでは無い。一つ聞きたい事があるのじゃ。」

「ほお、それは何だ?」

「長谷川親子について本当の事を教えてもらいたいんじゃよ。」

なるほど。そう言えば魔法使いどもは私を坊やにぶつけて成長させようとしていたな。それなら、万が一の時のために監視していてもおかしくは無い。なら、長谷川千雨が変身した所を見られたのだろうな。

「何故わざわざ私に聞く。直接奴らに聞けばいいではないか。」

「むっ、それもそうなんじゃがなあ・・・」

「まあ、もしあれ程の巨体で暴れられたら色々と困るだろうな。」

「うっ・・・」

どうも図星のようだな。

「そんなに奴らが信用出来んのか?」

「逆じゃよ。ワシら魔法使いの方が彼らに信用されてないのではないかと言う話じゃ。」

「まあ、確かにそうだな。」

機械の身体を持つゆえ、あの親子には認識阻害が通用しなかった。親の方は大人として周りに合わせる事が出来たが、子供の方はそれが出来ず孤立して行った。

「まあいい。私が知っている事だけならば話してやってもいいぞ。」

「いいのか?」

「ここで隠しておいても私にとって有利にはならんからな。だが、こっちも暇じゃ無いんだ。手早く済ませるぞ。」

そして、私はジジイにトランスフォーマーと言う種族と長谷川千雨の生い立ちについて大まかに説明した。

「なるほど。彼ら・・・いや、長谷川小鷹は宇宙から来たのだったか・・・」

「ヤケにあっさりと信じるな。」

「昨日、圧倒的な力を見せられたからのう。」

「ほお。何があった?」

「実はな・・・」

ジジイが話した内容は大まかに言うとこうだ。
昨日の夜に攻めて来た侵入者の中にはなんと、機械で出来た巨大な魚の化け物が混じっていたらしい。それも一体や二体ではなく十体以上は居たそうだ。奴の装甲には並の魔法は通じず、魔法使い達は皆防戦一方であった。そんな中、一機の戦闘機が飛来。それが黄色いロボットに変形して魚ロボットどもを一掃したと言う。

「娘の千雨君も、敵の弱点を上手く突いて戦っておった。」

「まさかジジイ。あの親子を取り込む積もりか?」

「いや。ワシもそこまで欲張りではない。じゃが、他の魔法先生達がうるさくてのう・・・」

「なるほど。」

ここ麻帆良は魔法使いの街だ。ゆえに、この街の裏に関わるのならば魔法使いの流儀に従うのが当然だと考えている者が多い。

「じゃあ、どうするんだ?」

「ワシとしては昨晩のようなロボット達が現れた際には協力をしてもらえたら充分なんじゃが。」

「なら、その度に龍宮みたいに傭兵として雇ったらどうだ。」

「なるほど・・・その手があったのう。」

「でわ、私はそろそろ行かせてもらうぞ。坊や達を待たせているからな。」

「ああ。もう行っても構わんよ。」

そして、私はジジイの部屋を後にした。




《三人称Side》

エヴァが去った後、麻帆良学園の学園長“近衛近衛門”は長谷川親子をどう扱うか考えていた。

(さて、協力関係を結ぶとして、どうやって接触しようかのう・・・)

彼らにはエヴァの手で魔法使いに対する悪いイメージが刷り込まれている可能性すらあるのだ。

(やはり、ここは誠意を持ってこちらの方から出向くしか無いのかのう・・・)

それで大丈夫かどうかは長谷川親子の種族“サイバトロン”が温厚であると言う話を信じるしか無かった。




続く
 
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