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友人フリッツ

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第一幕その八


第一幕その八

「それはね」
「そういう人は滅多にいないよ」
 こう言うのだった。
「全くね」
「それが人徳なんだよ」
「そういうものかな」
 そういった自覚はない彼だった。そんなことを言っているとだった。ベルが鳴った。
「おや、またお客さんかな」
「旦那様・・・・・・いえフリッツさん」
「ああ、何だい?」
 若い男の使用人が部屋に入って来た。そのうえでフリッツに対して挨拶をしてから告げてきた。
「馬車が来ました」
「馬車がかい」
「はい、スーゼルさんの馬車です」 
 こう告げたのだった。
「あの方の為に御呼びした馬車がです」
「また用意がいいね」
 それを聞いたフリッツは感心した声で述べた。
「もう用意してあるなんて」
「それでですが。スーゼルさん」
「はい」
 今度はスーゼルが応えた。
「それでは私は」
「はい、それでは」
「また来てくれないかな」
 ダヴィッドが席を立った彼女に対して声をかけた。
「またね」
「はい、それでは」
 にこりと笑ってそのうえで一礼してフリッツの屋敷を後にしたスーゼルだった。彼女が姿を消すとダヴィッドは満足した顔になっていた。
 そんな彼を見ながら。フリッツは声をかけてきた。
「そうだ、今度だけれど」
「今度とは?」
「あの娘を結婚させるよ」
 こう言うのである。
「近いうちにね」
「そうなのか、それじゃあ」
「それじゃあ?」
「君も同じだね」
 にこりと笑って彼に言葉を返した。
「君もね」
「僕がかい?」
「そうだよ。君も結婚するよ」
 ペッペが好意で演奏する中でフリッツに対して話すのだった。
「近々ね」
「だからそれは有り得ないよ」
 しかしフリッツはここでも笑ってそれを否定する。
「絶対にね」
「絶対にかい」
「だから僕は恋とか結婚には興味がないんだよ」
 彼はまだ笑っていた。そのうえでの言葉だった。
「全くね」
「興味がないんだね」
「そうだよ、全然ね」
 あくまでこう言うのだった。
「そういうものにはね」
「果たして死ぬまでそう言えるかな?」
「言えるよ。だったら」
 今のダヴィッドの言葉を受けてだった。彼は少し強気になってこう言ってきた。
「賭けよう」
「賭けるのかい」
「葡萄園を賭けよう」
 それを話に出してきたのだった。
「クレルフォンティーヌの葡萄園を賭けよう。それでいいね」
「おいおい、あの葡萄園とは」
「また随分と大きく出たな」
「全く」
 話を聞いていたフェデリーコとハネゾーがそれを聞いて驚きの声をあげてきた。
 
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