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友人フリッツ

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第一幕その五


第一幕その五

「君もだよ、カテリーナ」
「私もとは?」
「堅苦しくなくていいんだよ」
 こう言うのである。
「全然ね。僕だって君達がいないと困るんだし」
「そうなのですか」
「そうだよ。君達がいてくれるから僕は安心して他の仕事ができるんだよ」
 彼の仕事ということである。
「本当にね」
「私が使用人の仕事をすることで、ですね」
「その通り」
 まさにそうだという。
「だから。旦那様とかおっくうな呼び方でなくていいんだよ」
「では何と呼べば」
「フリッツでいいよ」
 名前でいいというのであった。
「もうね。気軽にね」
「ではフリッツさん」
「うん」
 こう呼ばれてまんざらでもないのだった。
「それで御願いするよ」
「わかりました」
「それでフリッツ様」
「様付けもよしてくれないか?」
 今度はスーゼルへの言葉である。
「それも」
「駄目なのですか」
「だから。そんなに堅苦しいのは好きじゃないんだよ」
 また彼女に告げる。
「いいね」
「はい、それでは」
 本人の言葉を受けて。彼女も遂にこう言った。
「フリッツさん」
「うん」
 笑顔で彼女に応えることができた。
「それで何だい?」
「これです」
 ここでその手に持っていた花束を差し出したのだった。その花束は。
「すみれかい」
「はい」
 にこりと笑って彼に差し出すのだった。
「どうぞ」
「有り難う」
 受け取ったフリッツも品のいい笑顔で応えた。
「有り難く受け取らせてもらうよ」
「御気に召されたでしょうか」
 手渡してから気恥ずかしそうにフリッツに問う。
「すみれは」
「花は何でも大好きだよ」
 笑顔のままスーゼルに述べる。
「とてもね」
「それならいいのですが」
「それじゃあ」
 受け取ったうえでさらに言うフリッツだった。
「いいかな」
「何ですか?」
「今度君の家に行っていいかな」
 こう彼女に問うのだった。
「今度ね。いいかな」
「私の家にですか?」
「駄目かな」
 こう彼女に問い返す。
「それは」
「あの」
 そう言われたスーゼルは戸惑った顔になる。
「それは」
「駄目なのかい?」
「私の家は小さくて汚いですけれど」
 申し訳なさそうに言うのだった。
「それもかなり」
「いや、そんなことはないよ」
 彼女のその謙遜を否定しての言葉であった。
「君の家のことはね」
「ですが」
「そして御礼をしたいんだ」
 優しい声でスーゼルに声をかけ続ける。
 
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