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友人フリッツ

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第一幕その二


第一幕その二

「彼女と周りが悪いんだ」
「けしかけられて告白したら泣いて逃げられて」
 そのかつてのことを自分から言うフリッツだった。彼がまだ十五の時のことだ。
「それで女の子全部からあれこれ言われてけしかけた奴は逃げてそれからずっと周りにこのことを言われ続けてね。あの時つくづく思ったよ」
「何てだい?」
「もう二度と恋とか愛なんてしないってね」
 言葉は微塵も動かないものだった。岩の様に堅い決意がそこにあった。
「絶対にね」
「それはこれからもかい」
「そうさ、これからもね」
 はっきりとダヴィッドに答えたのだった。
「もうね。絶対にだよ」
「そうか。もう四十になるのに」
「四十になっても五十になっても六十になってもだよ」
 つまり永遠にというわけだ。
「僕は結婚なんてしないよ。またあんな思いをするだけだからね」
「女の子はああした娘ばかりじゃないよ」
「それでもだよ」
 彼は言葉を変えなかった。
「もうね。あんな思いはしたくないからね」
「だからかい」
「そうさ、本当に何があってもだよ」
 言葉はさらに強いものになっていた。
「僕はこのままで充分に幸せだからね」
「だといいけれど。ただ」
「ただ?」
「一人は寂しいと思うけれどね」
 こう言わずにはいられなかった。
「やっぱりね」6  ここから
「いや、全然寂しくないよ」
 ところがそうではないと答えるフリッツだった。
「全くね」
「寂しくないのかい」
「まず君がいるし」
 ダヴィッドを見て笑って述べるのだった。
「子供の頃からの友人の君がね」
「まずは僕かい」
「そう、そして」
「やあやあフリッツ」
「ここにいたんだ」
 ここで三人来た。陽気な顔をした穴熊に似た男とこれまた明るそうな顔の狐に似た男、それに小鳥みたいな顔をしたメイドの三人である。
「旦那様」
「何だい、カテリーナ」
 フリッツはメイドに対して言葉を返した。
「フェデリーコとハネゾーを連れてきた」
「実はですね」
「まずはフリッツ」
 穴熊に似た男が言ってきた。
「どうしたんだい、フェデリーコ」
「実はだね」
「うん、ハネゾー」
 今度は狐に似た男に応える。
「どうしたんだよ、二人して」
「おめでとう」
「はい、これ」
 二人はここであるものをフリッツに差し出してきた。それは一枚の絵だった。
「これは」
「ゴーギャンだよ」
「タヒチから貰って来たんだ」
 二人はこう言いながらこれまた大胆なデザインの絵を見ながら述べた。
「君が好きだと思ってね」
「お祝いにね」
「お祝い?」
 祝いと言われてまずは怪訝な顔になったフリッツだった。
「そんなことをする必要があったかな」
「何言ってるんだ、今日は誕生日じゃないか」
「君のね」
 二人はこう彼に言うのだった。
「君の四十歳のね」
「自分の誕生日を忘れてしまっていたのかい?」
「ああ、そういえばそうだったね」
 実際に言われて思い出した彼だった。
 
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