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Fate/magic girl-錬鉄の弓兵と魔法少女-

作者:セリカ
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A's編
  第七十七話 安らかな夢

side フェイト

 大好きな母さんがいて、アルフがいて、士郎がいて、もう会えないと思っていたアリシアとリニスもここにはいる。

 母さんの言葉に席について朝食を摂りながら、改めてアリシアとリニスを見つめる。

 違う。
 これは夢だ。

 母さんと一緒に穏やかな時を過ごす私の夢は叶った。
 士郎もいつもじゃないけど居てくれる。

 でもそこに、私の世界にはリニスとアリシアはもういない。

 リニスと別れ、アリシアの別れ、全て覚えている。

 でもここにはそれが、失ってもうなくなってしまったものがある。

 食事を終えて、今はもうない時の庭園を皆で歩く。

 ただ静かで穏やかな日常

 母さんとアルフと士郎がいて
 そして

「そうだ。今日は街に出ましょうか」
「いいですね」
「フェイトには新しい靴を買ってあげないとね」
「あ~、フェイトばっかりずるい」

 母さんとリニスの言葉に頬を膨らませるアリシア。
 私達の少し後ろで穏やかな笑みを浮かべてるリニス。

「魔導試験満点のご褒美ですよ。
 アリシアも頑張らないと」
「そうだぞ」
「むう」

 リニスとアルフの言葉に少し落ち込むアリシア。
 ちょっと厳しいもう一人の母さんの様な、姉の様なリニス。

「まあ、アリシアももう少しで満点だったんだから今日のおやつはこの前のリクエストを作ってやるから」
「ホントっ!
 えへへ」
「もう士郎はアリシアにもフェイトにも甘過ぎです」
「そうか? 満点ではなかったけど惜しかったしな」
「うん。そうそう」
「もう仕方がありませんね」

 士郎に頭を撫でられて頬をわずかに染めて喜ぶアリシア。
 厳しいようで一杯甘えさせて褒めてくれたリニス。

「フェイト、今度の試験までに補習お願い」
「う、うん」

 私の返事に楽しそうに笑うアリシア。
 常に見守ってくれたリニス。

 母さんとすれ違っている中で傍に居てくれて、時に厳しく、でもとっても優しく甘えさせてくれて見守ってくれた、今はいない私の家族。

 お姉ちゃんなのに私より少し小さくて、だけど一緒に居る事も直接会う事も出来なかった大切なお姉ちゃん。

 私がずっとほしかった時間。
 何度も、何度も夢に見た時間。

 それがここにあった。




side 士郎

 満月の浮かぶ空の下で、そこに立つ漆黒のドレスを纏った少女。
 その髪は一片の曇りもない闇色に染まり、瞳は鮮やかな深紅。

 よく知っている。
 否、忘れるはずがない。

 俺を救ってくれた人。

 死にきれなかった俺を人の理から解き放つ事で
 世界を超える俺を見送ってくれた人。

 アルトルージュ・ブリュンスタッド。
 俺が住まう城の主にして、俺の吸血鬼の親。

 いや、何かおかしい。
 世界を超える?
 そんなことあるはずがない。
 まだ魔法に到達してないはずなのになんでそんな事を考えた?

「ふむ? 真に大丈夫なのか?」
「ああ、大丈夫だ。
 いつの間にか月に魅せられたらしい」
「その割に私を見ても、呆けていたようだが」
「あ~、アルトの髪と瞳に魅せられていたみたいだ」
「戯けたこと」

 俺に背を向けて歩きだす。
 だけど背を向ける瞬間、顔を赤く染めるのはしっかりと気がついていた。

「そろそろ時間だ。お茶の準備を頼むぞ」
「ああ、すぐに行く」
「毎度騒がしいあやつらも来ておるからの」

 アルトを見送り、俺も庭園を後にする。

 紅茶とスコーンを用意して、リビングにいくといつもの面子が揃っていた。

「シロウ!」
「おっと、危ないぞ」

 抱きついてきたイリヤを抱きとめながら頭を撫でる。

「イリヤ、はしたないわよ」
「ふーん、本当は羨ましいじゃないの、リン」
「そんなわけあるか!」

 にやりと笑みを浮かべるイリヤと顔を赤くして吠える遠坂。
 そのやり取りを見て苦笑している桜。
 またか、とあきれ顔のセイバーにライダー。
 そして、遠坂が吠えている姿に笑みを深くするルヴィア。

 俺はそんな二人のやり取りを見ながら紅茶とスコーンを並べていく。

「ほら、イリヤも座ってくれ」
「はーい」

 俺の言葉にイリヤも座り、俺もいつもの面子なのでアイコンタクトでアルトに許可を得て、ソファに座る。

 そういえば

「リィゾとフィナは?」
「所用で使いに出している。
 シロウ、本当に大丈夫か?
 昨夜、伝えた事をまた聞くなどお前らしくもない」

 ああ、そうだ。
 魔術協会とのやり取りで彷徨海に出ているんだった。

「そうだったな。すまない」
「シェロがそのような事を忘れるなど珍しいですわね」
「大丈夫ですか、先輩」

 心配してくれるルヴィアと桜、それに

「大丈夫だよ、ルヴィア、桜
 ありがとう、プライミッツ」

 体を摺り寄せてきたプライミッツを撫ぜる。

「それにしても妙なものよな」

 穏やかなこの光景を面白そうにアルトが笑う。

「長く生きてきたがこの様に騒がしく、毎日のように誰かが訪ねてくるなど」
「まあ、我々は士郎に会うためのおまけのようなものですが」

 確かにライダーの言うとおり最初はここで暮らす事を反対した遠坂達が乗り込んでくるというものだった。
 だが、いつの間にか日常のお茶会というか衛宮邸の時の様に全員が集まる場所になっている。

「わかっておる。だがシロウに会うため、乗り込んでくる者らと気が付けば、こうして共に過ごすなどという事は予想もせぬよ」

 アルトの言葉に納得したように皆が頷く。

「シロウに関わった者同士というところでしょうか」
「まあ、この中心に居るのが士郎だしね」
「シロウだもんね」

 セイバー、遠坂、イリヤの言葉に仕方がないかみたいな表情で皆がうなずく。

 俺がこの中心というのに内心首を傾げるが、皆が納得しているならいいか。

 他愛もない穏やかな時間。

「シロウ、今日の鍛錬はどうしますか?」
「そうか、リィゾがいないしな」
「よろしければ私が相手になりましょう。
 無論、時間が遅くなるのでアルトルージュが宿泊を許可していただけるのでしたらですが」
「私はかまわん」

 セイバーとの鍛錬も久々……というわけではないか。

 先週にもしたしな。

「それにしてもシロウも諦めぬな。
 戦闘者としては一流とリィゾやフィナにもお墨付きをもらっておるというのに」
「だけど単純な剣技だとセイバーやリィゾに全然敵わないからな。
 それに剣技だけで一本取りたいしな」
「負けず嫌いな」

 確かに負けず嫌いといえば負けず嫌いなのかもしれない。

 剣も魔術も一流になれない事は理解している。
 魔術は固有結界とそこから零れ落ちた投影や解析のみ。
 剣も極めて二流。

 だからこそ一流、いや超一流の相手から剣技だけで一本取ってみたいという半ば無謀な挑戦。

「それでは夕食の前にするとしましょう」
「そうだな」

 夕食の準備なんかを考えるといい時間だろう。

「ねえ、アルト、私も泊まってもいい」
「構わんぞ、部屋は空いておるからの」

 珍しい。
 イリヤがアルトの城に泊まるなんか数えるほどしかない。
 というかこれはリィゾが人間を泊める事にあまりいい顔をしない事も関係しているか。

「イリヤが泊まるなら私も泊めて貰おうかしら」
「どうせなら全員泊まればいい。
 小言を言う二人もおらん、たまには羽目を外すのもよかろう」

 アルトの誘いに全員が乗り気になる。
 俺も含め八人の夕飯か。

 アルトの城に来てから大人数の食事を作る事もあまりなくなったから、こういうのは久しぶりだな。

 とりあえず夕食の準備の前に鍛錬なので中庭に移動する。
 当然だがこの城に道場などあるはずもないので、鍛錬はもっぱら中庭である。

 ちなみに城の地下には俺の魔術の鍛練用の部屋も用意されている。

「これを使ってくれ」

 刃を潰した無銘の西洋剣をセイバーに渡し、俺も刃を潰した双剣を握る。

「だけど珍しいな。
 俺の鍛錬をみたいなんて」

 中庭で並んで今から始まる鍛錬を観戦している皆に視線を向ける。

「気にしないの。
 たまにはそんな時もあるだけだから」

 遠坂の言葉に、まあ、いいかと内心で納得させつつセイバーと向かい合う。

「それでは始めましょうか、シロウ」
「ああ、よろしく頼む」

 静かに足を肩幅に広げ、いつもの構えをとる。
 セイバーも正眼で剣を構える。

「いくぞ」
「いつでも」

 俺の本来の戦い方であれば、受けに回るがたまにはという事で踏み込む。

 だけど

「っ!」

 想定外な事が起きた。
 一歩でのいつも通りの踏み込み。
 だけどそれが違った。

 明らかな踏み込み過ぎだ。
 間合いが近過ぎて剣を振るうどころではなく、自らセイバーの剣に刺されに行くような踏み込み。

 間合いを詰める途中で無理やり体を捩じり、軌道を変えながらセイバーの剣を逸らして間合いをあける。

「どうしたのですか、シロウ。
 今のは踏み込みというよりまるで自ら刺されに来るような突撃でしたが」
「すまない。いつも通りに踏み込んだつもりなんだが」

 構え直して何度かセイバーと剣を交えるが、おかしい。

 間合いが、足の動かし方が、あらゆるところが食い違う。
 繰り返し剣を交えるが、いつも通りやろうとすればするほどずれていくような、そんな感じだ。

「シロウ、ここまでにしましょう。
 今の貴方はどう考えてもおかしい」
「ああ、俺もそう思う」

 何だろう、この違和感。
 まるで自分の身体ではない様なそんな感じだ。

「シェロらしくないとは思っておりましたが、やはり本調子ではなかったのですね」
「そういう事なら仕方ないか。
 桜、手伝いなさい」
「はい。姉さん」
「遠坂、桜、一体」
「本調子じゃない奴はゆっくりしときなさい」
「そうです。私達に任せて先輩はゆっくりしていてください」

 遠坂と桜は厨房に向かっていくのを見送る。
 そうなるとのんびり待つしかする事が無いけどいいのかな。

「シロウ、のんびりしておれ」
「そうだよ、シロウ。
 リンとサクラの料理が出来るまでのんびりしよう」

 イリヤに手を引かれてリビングに向かう。
 まあ、たまにはこんな日もあるという事かな。

 そのあと遠坂と桜の作ってくれた夕食を楽しんで解散となった後、俺は休む事になったが、俺は一人中庭に居た。

 投影した干将・莫耶を握る。

 やはりナニカが違う。

 ずっとセイバーとの鍛錬の時からまとわりつく体の違和感。
 そして、何か大切な事を忘れているような喪失感。

「ホント、シロウはしょうがないな」

 闇の中から現れる白い髪に赤い瞳。
 いつもとは違う、たまに二人きりの時だけに見せる姉の顔をしたイリヤがそこに居た。 
 

 
後書き
というわけで二週間ぶりです。

しかしまだ体調が本調子になりきれていなくてまだ引き摺っていたりします。
またつぶやきでは返信を頂きありがとうございます。

夢の話は本当は一話にまとめようと思ったんですが、纏まりきれなかった。
次回の話で纏める予定です。

しかしアルトの話し方を自分の中で巧く決めれなくて結構厄介でした。

次回で夢の話は終わりです。
このまま一気にエンディングまで駆けぬけたいな・・・

それではまた来週に会えるように頑張ります。

ではでは 
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