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クラディールに憑依しました 外伝

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幼い日もありました

 親に連れられて本家の敷居を跨ぐ、武家屋敷とでも言うべきかマジモンの武家屋敷だった。
 ウチの苗字と伊織って名前から、もしかしたらぐらいには思ってたが。
 マジで歴史にちょくちょく出てくる家の親戚とはな…………格式とか面倒臭そうだ。


「――――伊織? どうしたの?」
「…………なんでもないよ、母さん」
「気分が悪いなら直ぐに言いなさい」
「あぁ、大丈夫だから」


 気分が悪いのではなく、やる気がマイナス値だ――――早く日が暮れろ、夜になって終われ。
 初めて見るいとこや親戚がぞろぞろと居やがる。次々とウチの親と挨拶を交わして、俺はただ頭を下げる。
 気分が悪いと言う事にして、人の居ない所に座って置くべきだった。

 挨拶回りが終わった後、配膳された昼食をつまみ、案内された部屋に引き篭もる事にした。
 親は再び挨拶回りへと引き返し、こっちは帰りの時間まで不貞寝する。
 畳の匂いと木造の天井――――面倒臭い将来にならなきゃ良いなー。

 チラリと目を向けた先は床の間――――そこに刀が二本飾られている。
 脇差を片手で持上げようとするが重い。子供の筋力では握る事も難しいな。
 軽く鞘から抜けないか動かして見るが、ピクリとも動きはしない。
 目を凝らすと――――鞘の隙間から少しだけ光を反射する金属が見えた。

 怒られる前に元に戻して置くか――――マジで寝よう。

 脇差を床の間に戻した所で子供の泣き声が聞こえて来た――――暫く放置してみたが、一向に泣き止む気配が無い。
 仕方なく襖を開けて子供を捜す事にした、長い廊下やいくつかの部屋をショートカットすると、その子は居た。
 整備された庭の岩に女の子が座り込んで泣いている。外履きを見つけて女の子に近寄って声を掛ける。


「大丈夫か? 転んだのか?」
「うん」


 こくりとうなずく女の子、膝を怪我して血が出ていた。近くを見渡せば水場があったので傷口を洗う事にする。


「向こうで傷口を洗うから、歩けるか?」
「うん」


 既に痛みは引いているのか、俺に手を引かれて普通に歩いている。
 傷口を洗うと少し痛がったが、俺の服を握り締め泣くのを我慢していた。
 洗い終わった後も傷口から少し血が滲んで来たので、いつも数枚持ち歩いている絆創膏を貼り付ける。

 ガキの頃、盛大にすっ転んだ事があって、傷口が強烈にしみてどうし様も無く涙が止められない事があった。
 その時に通りかかった学生のお姉さんが、絆創膏を貼り付けて去っていった――――――傷口洗えよ。
 まぁ、傷口の痛みからは解放されて、それから絆創膏を持ち歩く様になったのだが、今度はこの子が誰かに絆創膏を張る番だ。

 数日前に近所のスーパーで見かけた苺の飴玉に懐かしさを覚え、購入して持ち歩いていたのだが、その一つを女の子にあげた。

 暫くすると、この子を探して母親がやって来た。


「あら? あなたは?」
「伊織です、怪我をしていたので手当てをしていました」
「えらいのね、ありがとう。ほら、お礼言いなさい」
「ありがとうございました」

「おばさん急いでるから、もう行くわね」
「はい、さようなら」
「さようなら、して」
「さようなら」


 誰も居なくなったし、部屋に戻るか――――どっちだったっけ?
 池まで戻り、外履きを元に戻し、ショートカットした部屋と廊下を戻り、元の部屋に辿り着いた。


「――――伊織? 何処に行ってたの?」
「トイレ」
「そう、帰るわよ。忘れ物は無い?」
「特に無し」


 無駄にデカイ門から出て振り返ると、女の子が母親に連れられて手を振っていた。軽く振り返して駅に向かった。


………………
…………
……


「おーい、起きろー。起きないとキスするぞー」
「………………すまん。まだ夢の中みたいだ」
「起きてるんだったら、さっさと準備しなさい。アスナとシリカももう起きてるわよ――――あんただけよ」


 あー、SAOの世界だもんなー…………随分と懐かしい夢だった。


「あんた、聞いてるの?」
「あぁ、聞いてるよ、待たせて済まなかったな、今日は何するんだっけか?」
「今日は黒猫団と組んでイベントでしょ、しっかり頭回しなさいよ」

「あー、そうだった気もする」
「そうなの! さっさと起きて、アスナの朝食食べちゃいなさい」
「あー、気が向いたら」
「さっさと食えッ! 後片付けが残ってるのよッ!!」

「あー、だりい――――リズ」
「――――何よ」
「ありがとな」

「――――あ、あんた。まだ寝惚けてるでしょ! 変な事言わないでよ!」
「飯食ってくる」
「――ちょ」


 何か言い掛けたリズを放置してドアを閉める。
 あー、頭が回らねー、三日間完全徹夜した後は大体こうだ。


「おはよう。リズは?」
「おはようさん、部屋で寝てるんじゃね?」
「え? 調子良さそうだったけど?」
「二度寝したかったんじゃないのか? 今日の飯は何?」
「久々にサンドウィッチね、ソース変えてみたから感想を聞かせて」


 アスナに手渡され、一口パクリと行って見る。


「――――微妙に甘い。口の中全体に甘ったるい味がする」
「あまりお気に召さないかしら?」
「ワッフルの亜種だと思えば食えなくも無い、朝から食うにはどうかと思うがな」

「わたしにとっては懐かしの味、思い出の味なのよ」
「ふーん」
「今朝子供の時の夢を見てね――――」


 そしてどこかで聞いた話が上機嫌で展開される訳だが、
 ――――――本人の思い出をワザワザぶち壊してやる必要は無いよな。 
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