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ニュルンベルグのマイスタージンガー

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第三幕その二十七


第三幕その二十七

「それでです。騎士殿」
「はい」
 ヴァルターは穏やかな笑みと共にザックスの言葉に応えた。
「それでは今から」
「御願いします」
「さあ、どうなる?」
「どうなるんだ?」
 皆ヴァルターを見て話をしていく。どうなるか彼等にもわからなかった。
 ヴァルターはその中で遂に歌いはじめた。その歌は。
「朝は薔薇色に輝きて大気は花の香りにふくれ」
「んっ!?」
「これは」
 皆ヴァルターの歌がはじまるとすぐに顔色を変えた。
「どうだ?」
「今までにない歌だぞ」
「えも知らぬ快さに満たされて庭は私を誘う」
「いいな」
「ああ」
 皆その歌を聴きはじめた。ヴァルターはその中でさらに歌っていく。
「実の豊かに下がれるかの不思議なる樹の下に幸なる愛の夢の中にこよなき喜びを満たすことも」
「いいですな」
「そうですな」
 マイスタージンガー達も頷き合うようになっていた。何時しかベックメッサーも黙って聴いていた。
「喜びもて約束したまえるはいと麗しき乙女」
「その名は?」
「楽園のエヴァ」
 彼は歌った。
「やっぱりいいな」
「そうだ、別物だ」
 民衆達はまた口々にヴァルターの歌を評する。
「こんないい歌だったのか」
「まさかと思ったが」
「では証人よ」
 ザックスはさらに彼に告げる。
「歌を続けて下さい」
「はい」
 ザックスの言葉に頷きまた歌うのだった。
「夕べとわかれば夜が我を囲み私は険しき道を辿り」
「どうするんだ?」
「次には」
「清き泉に近付けり。泉は私に微笑んで誘い」
「誘い」
 誰もがヴァルターの次の歌を待つ。
「そこに月桂樹があり星は明るく枝達を通し」
「枝達を」
「そうして」
「目覚めたる詩人の夢の中に私が見たものは優しき身振りを以って泉が水をもて私を潤す」
「泉がか」
「この騎士殿を」
「いと気高き乙女パルナスのミューズ」
「ううむ」
 ベックメッサーは彼の歌を聞いてまた述べた。
「そうだな。聴くべきものはあるか」
「変わった歌ではあるが」
「韻がいいな」
 マイスタージンガー達もこの歌を認めるのだった。
「歌いやすいし」
「難しいようでな」
「遠くに浮かぶように優しく馴染み深く」
 民衆達も言う。ヴァルターの歌を聴いて。
「しかも共に体験するようだ」
「不思議な歌だ」
「さあ、騎士殿」
 またザックスが彼に告げる。
「終わりまで」
「いと恵み深い日々よ」
 ザックスの言葉に応え最後の歌に入った。
「私は詩人の夢より覚めてその恵み深い日を迎える」
「それが何時かは」
「そうだな」
「私が夢に見た楽園は新しい栄光を以って我が前に現われた」
 さらに歌を続けていく。
 
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