| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

駄目親父としっかり娘の珍道中

作者:sibugaki
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第44話 寺子屋へ行こう

 重苦しい空気が部屋内を支配していた。此処、真選組屯所内にて、副長の土方十四郎と近藤勲が対座していた。その二人意外には誰も居ない。
 その二人しか居ないからこそ、この重苦しい空気が出来上がるのかも知れない。
「見ての通りだ近藤さん。奴等、そいつを使って何かとんでもない事を企てているに違いねぇ」
「なる程、ところでトシ、一つ良いか?」
「どうしたんだ?」
「さっきから言おうと思ってたんだが……これ、何の設計図なんだ? って言うか、これ設計図なのか? 見ててもさっぱり分からないんだが」
 どうやら近藤の脳みそではそれを理解するのは酷だったようだ。土方は溜息を吐いた。
 そんな事まで説明させるなよ。とでも言いたげな雰囲気を出しながらも説明を挟んだ。
「さっきも言ったと思うが、奴等はその大掛かりなカラクリを使って何かとんでもない悪事をしようとしているって事なんだよ!」
「トシ!」
 近藤勲の顔が何時にも増して強張って見えた。ようやく事の重大さに気付いたのだろう。土方もそれを察し、顔を強張らせる。
「悪事って……なんだ?」
 真顔でそんな事を聞いてきた近藤。土方はまるで待ってましたかの如しに思い切りずっこける。
「あんたそれでも局長かぁ!」
「す、すまん! と、とりあえずこれが何かやばいものだってのは分かった」
 怒り顔になる土方に青ざめながらも近藤は了承を見せた。そうでも言っておかないと多分殴られるだろうと思ったのだろう。
「とにかく、今その設計図の元を全力で探させている。奴等が手を出す前にそれをどうにか押えたいんだが、一つ問題があってなぁ」
「と言うと?」
「これからでかい戦いの準備で隊士達は皆ピリピリしだす。そんな場所にガキ共を置いておきたくはない。近藤さん、何とかならんか?」
 土方が気掛かりにしているのははやて達の事だ。これから真選組は大きな戦いに備えて隊士全員が臨戦態勢に入る事になる。そんな状態の隊の中に幼い子供を置いておくのはいささか教育に悪い。そう思ったのだろう。だが、下手に彼女を泳がせればそれこそ危険極まりないと言える。
 此処は江戸のかぶき町。歓楽街と言うだけあり、その裏には犯罪や攘夷の目もはびこっている。
 その中には、彼女が真選組の元に身を寄せていると言う事を知っている者も居たりする。そんな者達の手に落ちようものならこちらの弱みを握られる事となってしまうだろう。
「何所かに身を置ける場所が必要……と、言う事か」
「あぁ、俺としてもこうピリピリしている状況の中にあんなガキを置いておくのはちと心苦しいからな。何かないか? 近藤さん」
 鬼の副長と言われた土方とて畜生ではない。人の心を宿し、遭えて鬼の道を行くからこそ鬼の副長と言われているのだ。
 その土方だからこそはやての身を案じてこうして近藤に相談を持ちかけた次第なのである。
「そうだ、寺子屋に置くと言うのはどうだ? あそこなら同年代の子も多いし、身を隠すには絶好だと思うが」
「確かに、だがそうなると護衛がつけないぞ。幾ら何でも大人が寺子屋内に入りびたりじゃ怪しまれる」
「トシ、その点に関しては打ってつけの奴が居るだろう」
「打ってつけ? そうか!」
 笑みを浮かべて述べる近藤に土方は察した。はやてを守護する存在。守護騎士達。その中には丁度そう言った任に適した存在が一人は居た。その存在ならば、他の隊士とは違い寺子屋の中に潜ってもさして怪しまれる事はないだろう。
「どうせ今隊の中で主立って活動しているのは二人だけだ、残りの二人は今の所手が空いている状態だし、そう考えるなら寺子屋は絶好の場所とも言えるな」
「うむ、やはり年頃の子供は同じ年の子と過ごすのが一番だからな。それじゃ、早速入塾の手配をしておくか」
 話が纏まれば行動は早かった。それから数日の後に、八神はやてと守護騎士ヴィータの二人は揃って寺子屋への入塾が決まった。
 これから始まる江戸内に潜む悪を倒す為の前準備は、着々と進められているのであった。


 ……多分。




     ***




 真選組達が準備を進めている最中、銀時は何時も通り暇を持て余していた。
 毎度毎度の事だが相変わらず仕事はない。たまになのはが仕事を見つけてきてくれるが最近は遊びに夢中なのでそれもない。なので本当の意味で手持ち無沙汰となっていたのである。
 そんな訳で銀時は今、下の階にあるスナックお登勢に飲みに来ていたのである。
「相変わらず暇そうだねぇ銀時」
「相変わらず色気がねぇ店だなぁババァ」
 売り言葉に買い言葉を交えつつも話に華を咲かせる両者。これが普段の光景なのだから仕方ないと言えば仕方ない。
 グラスに注がれた酒を一口含み、その味が消え去らぬ内につまみを口に運ぶ。
 大人なたしなみと言えた。
「最近なのはの奴元気そうじゃないかぃ?」
「何でも新しい友達が出来たみたいでなぁ。その友達とも遊んでるせいか四六時中遊びっぱなしだよ」
「結構な事じゃないか。子供は遊ぶ事が仕事だからねぇ。家の手伝いをしてくれるのも結構だが、やっぱ子供はそうじゃなくちゃねぇ」
 元気なのはお登勢にとっては何より嬉しい事実だったりする。元々なのはを銀時に押し付けたのはお登勢なのだから。
「元気なのは良いが、ちと気掛かりな事があるんだけどさぁ」
「何だよ?」
「あんた、あの子に教養とか施してんのかい?」
 心配の種は其処であった。確かに元気なのは嬉しい。だが、教養がないのは少し心配だったりする。
 健康に育って欲しいと願ってはいるがせめて馬鹿よりはマシな位の教養はあって欲しい。そう願っての問いだったのだ。
「んな面倒な事やってる訳ねぇだろ? 基本ほっぽりっ放しだよ」
 予想通りと言えば予想通りな返答が帰って来た。この銀時がなのはに教養を施している筈がないのは既にお登勢も知っていたのだから。
 しかし、それではお登勢も心配の芽が潰える事はない。返って膨らんでしまった。
「やっぱりねぇ、でもそれじゃ将来あの子困るんじゃないのかぃ?」
「そうは言うけどよぉ、俺にどうしろってんだぁ? 銀さんこう見えても教育免許は持ってねぇし、仕事の合間を縫ってあいつに勉学を仕込むなんて無理だぜ」
 普段からやる気のない銀時がそんな面倒な事をするとは到底思えない。かと言って、神楽や新八に任せるのも不安が残る。
 どうしたものかとお登勢は顔を曇らせていく。そして、ひらめいた。
「そうだ、銀時。寺子屋に入塾させたらどうだい?」
「冗談じゃねぇよ! そんな金、一体何処にあるってんだよ? 最近の教育費用って結構高いんだぜぇ」
 折角の妙案を金銭で不意にするとか、この男は何所まで腐っているのだろうか?
 そう思える発言でもあった。しかし、お登勢がそんな言い分で引き下がる筈がないのは既に承知の事。
「しょうがないねぇ。そんじゃこっちで何とかしてみるかねぇ」
「お、費用全部持ってくれるのか?」
「何言ってんだい? そんな上手い話に行く訳ないだろうが! 半分はあんた持ちだよ」
「あっそぅ」
 半分安堵して半分落胆する。そう言った心境の銀時であった。だが、考えようによっては悪い事だけではなさそうだ。
 まずいちいち五月蝿いなのはが寺子屋入塾すればそれだけ静かに時間を過ごせる事となる。
 本人は遊びと勉学に忙しくなるのでその分こちらに飛び火する危険度がグッと下がると言うのだ。
 これは銀時としては大変嬉しい話でもあった。まぁ、欠点としてはその間仕事は自分で探さねばならないと言う事があるのだが、その点についてはさほど問題視してはいない。
 そもそも面倒臭がりの銀時がなのはの見つけてくる面倒臭い仕事を有り難がる事はあんまりないのだから。
「しゃぁねぇ。あいつの将来の為に此処は一つ、無い袖を振ってみるとすっかぁ」
「振る袖もない癖に良く言うよ。ま、寺子屋代も含めて月にこれだけは払って貰うからね」
 そう言うと、お登勢は懐から一枚の紙切れと筆を取り出し、サラサラと書き記した内容を銀時に手渡した。それを受けた銀時が内容を見た後、冷や汗を流す。
「こりゃぁ、ちと厳しい事になりそうだなぁ」
「今更撤回は聞かないよ。それでも結構安くしたつもりなんだからねぇ」
 簡単に言うと、今まで本来払う家賃を50パーセントカットして貰っていたのがなくなり、本来の額に跳ね上がった。
 と言う感じである。




     ***




「と、言う訳なんで、明日からお前は此処に行くように」
 話が終わり、万事屋に戻るや否や、銀時は簡単に書いた地図をなのはに手渡した。
「これ、何の地図?」
「あぁ、明日からお前はそこで勉強するんだよ。遊んでばっかりいちゃ馬鹿んなっちまうからな」
「ふ~ん」
 納得したようなしないような。そんな返事をしつつ、なのはは渡された地図を見た。
 其処に記されていたのは真っ白な用紙の上に一本線でジグザグに塗られた簡素と言うか適当と言うべきな感じの地図が載せられていた。
(これ、ミミズじゃないの?)
 心底そう思えたりする。
「あ、それからなぁ」
 付け足すかの様に銀時が声を発した。
「その場所にはあの税金泥棒達んところで世話んなってるはやてとウサギ娘も行くみたいだぜ」
「へぇ、はやてちゃんやヴィータちゃんも行くんだ。だったら凄い楽しみだなぁ」
 新しく出来た友人も一緒に来ると言う事実に喜びを感じるなのはではあった。
 無論、断ることなく、なのははその場所、つまり寺子屋への入塾を承諾したのであった。
 これでなのはが寺子屋に行っている間の銀時は完全なフリー状態となる。これで今まで出来なかった事をやりまくる事が出来ると言うものである。
(へへへ、今まではこいつがしょっちゅう隣に居たからやりたい事とか全然出来なかったからなぁ。まずはパチンコ行って、その後はキャバクラ行ってバーに行ってそれから………)
(勉強かぁ。万事屋の経理とかならやった事あるけど一体どんな事をやるんだろう?)
 それぞれの思いを胸に抱きながら、時間は止まる事を知らずに動いていくのであった。




     ***




 月日が変わるのは早い物であり。次の日の朝頃、なのはは万事屋を出て記されている通りの場所を目指した。
 あんな簡素な地図で迷わなかったの? と言う疑問があるだろうが、その点についてはノーコメントと言う事で。
 そんな訳で辿り付いたのは一軒の建物であった。
「て…て…何て書いてあるんだろう?」
 ここら辺りで教養の無さが伺える。建物の横に達筆で書かれた「寺子屋」の漢字がなのはには読めなかったのだ。
 依頼の文章ならどんなに難しくても読破出来てしまうのに、こう言った一般的な事に関しては相当疎いようだ。
「此処で間違いないのかなぁ? 地図を見ながら来たんだけど、こんな地図だし」
 そう言って再度銀時から手渡された地図を見た。やはり何度見てもその地図は地図と言うよりミミズにしか見えない。
 黒く太い一本線がジグザグに書きなぐられただけと言う適当感が漂う地図なのだから。
 不安が募るが、とにかくこんな所に立ちっ放しでは回りから迷子と見間違えられる。下手するとそのまま警察関連の所へ搬送されるかも知れない。
 ならばダメ元でこの建物の中に入ってみよう。もし間違っていたのならその家の人達に聞けば良いだけの事だ。
 そんな訳で意を決し建物の扉を開く。まぁ、扉と言っても此処は江戸なのでスライド式の奴なのだが。
 中に入ると一面木造と言うのが一目で分かる作りであった。
 木目が残る床からは木の匂いが漂ってきて鼻をくすぐってくる。独特の匂いだが別にこの匂いが嫌いと言う訳ではない。
 下を見ると何足か草履が脱いで置かれている。大きさからして子供の履いていた代物だろう。
 それも10人以上は居る。それ程の量の草履が脱がれていたのでそう予想が出来た。
 とにかく、此処でこうして誰もが草履を脱いで入っているのだから自分もそうしなければと、その場で履物を脱ぎ、中へと足を進めた。
 床を踏みしめる度に木製の床が軋む音がする。これもまた木製住宅の良さとも言えるが、小さなお子様にはこの音が恐怖心を掻き立てられるのは決して作者だけじゃなかったりする。
 そんな感じでどうでも良い駄文を交えながらなのはは建物内を練り歩いていく。
 廊下はそれほど広くない。せいぜい大人が二人横一列に並んでようやく通れる程度の広さだ。当然天井もそんなに高くはなく、あったとしてもせいぜい3メートル行かない位しかない。
 そんな廊下を歩いて行くと突き当たりに扉が見えた。同じく木造式のスライドで開くタイプだ。
 迷う事なく引き手に手を伸ばす。多分此処に家主が居るのだろう。もし開いて中に入ったとして、家主達からは何と言われるだろうか?
 勝手に不法侵入をした不届き者として叱られて親元へ強制送還されるかも知れない。
 だが、来てしまった以上は仕方が無い。どうせこのまま戻った所で間に合うまい。その前に廊下の気配に家主が気付いてやってくるだろう。
 そんな時背中を見せていては誤解を招く。ならばいっそ潔くしよう。
 そう心に決め、なのはは思い切り引き戸を引き、中へと躍り出た。
 中は思っていた以上に広かった。床一面に畳が敷かれており、その上に長く作られた木製の四足テーブルが幾つも並べられており、その机に陣取っているのは皆、なのはと同じか近い少年少女達であった。
 生徒達の殆どが部屋に入ってきたなのはを見る。視線が自分に向けられてる事に気付き、些か戸惑いを覚える。
 どうにか誤魔化そうと視線を動かし生徒達を見たが、どの生徒も見覚えのない顔ばかりであり返って緊張が増すばかりだった。
 しかし、そんな中で、見覚えのある顔ぶれが居る事に気付く。
 丁度一番前で真ん中辺りの席に二人一緒で座っていた。
「あ」
 思わずなのはがそう声を上げる。それに呼応して例の二人もこちらを見る。
 座っていたのははやてとヴィータの二人だった。顔見知りの二人に出会えて少しだけホッとする。部屋を数歩歩き、二人の前へと歩み寄り、膝を曲げて二人と同じ目線に合わせて顔を近づける。
「奇遇やねぇ、なのはちゃんも寺子屋に来る事になったん?」
「てら……こや?」
 ぎこちない受け答えをする。はやては首を傾げて疑問を抱いた。何故寺子屋と言う言葉に疑問を抱くのだろう。確か入り口に大きく書かれていた筈だが。
「入り口の方に書いてなかったっけ? 看板に大きく書かれてた筈なんやけど?」
「何か書いてあったのは見たよ。でも、私漢字あんまり読めないんだよね」
「読めへんって……あの字って結構常識やで」
「だって、私漢字習った事ないもん」
 あんぐりとはやての口が開いてしまった。此処でははやてとなのはとの間で常識の違いが大きく出てしまっているようだ。
 一応はやては9歳までの教育をそれなりにこなしているが、なのはは学業など全くやっていない。
 万事屋の手伝い系統の事ならば既に覚えており慣れたものだが、その反面一般常識が著しく欠如してしまっているようだ。
 お登勢の心配が此処に出てきたと言えるだろう。
 すると、その横で笑い出す者が居た。言わずもかなヴィータの事である。
「何だお前、頭良さそうな顔してるのに結局は馬鹿丸出しなんだな。お前んとこの奴等と同じじゃねぇか」
 大声で壮大に叫びながら笑うヴィータ。そんなヴィータに膨れっ面で睨み付けるも、事実な為なのか? それともこれが大人の対応と誤解しているせいなのかは定かではないが、なのはは反論はしなかった。
 変わりに、隣に居たはやてがヴィータの鼻を摘みあげる。
「そないな事言ったらあかんよヴィータ。それにヴィータかてあの字読めへんかったやないか」
「だ、だってよぉ~」
「だっても何もあらへん! ヴィータかて漢字読めへんのやから」
 どいうやらヴィータもあの文字が読めなかったようだ。つまり、二人の脳レベルはほぼ同じ位と言う事らしい。
 三人がやいのやいのと騒ぎ立てているのを、回りの少年少女達はじっと見ていた。まるで珍しい生き物でも見つけたかの様な目線で。
 まぁ、この三人は今日からこの寺子屋で勉強しに来た為に初めて見るのも無理はない。
「それで、寺子屋って何? 皆で集まって何する所なの?」
「う~ん、要するに学校みたいなもんやないんか? あ、学校って言うのはなぁ、こないな風に皆で集まって色んな事を勉強する所なんやでぇ」
「へぇ~」
 なのはにとっては初めて触れる空気であった。今まで万事屋の仕事などはノリと勢いで覚えてしまった感じなのだが、その為に一般的な常識の殆どが欠落してしまっていた。
 なので万事屋の仕事以外では殆ど馬鹿と呼べる位のレベルでしかないのだ。
 まぁ、生まれてこの方、一度も勉強をした事がないのだから無理はないが。
「ねぇねぇ~、君達は今日から来た子達なのぉ~?」
 そんな感じで三人で話していた矢先、三人の隣の机に一人ポツンと座っていた少年が訪ねて来た。
 間延びした語り口調で銀時と似た様な死んだ魚の様な目をしており、鼻からは鼻水が垂れ流しっぱなしと言う結構だらしない風体に見える。
「そやでぇ。君は誰なん?」
「ん~、僕は大五郎。北大路大五郎って言うんだよ~」
 相変わらず間延びした声で話す大五郎。名前は結構立派そうである。
「にしてもお前、随分間抜け面だなぁ」
 そんな間抜け面を見ていの一番にヴィータがはやしたてる。どことなく大五郎の顔が銀時に見えてしまったからなのだろうか? それとも単にいじめっ子体質なのかどうかは永遠の疑問だったりする。
「あ~、そう言う君はさっき入り口で看板の字読めなかったアホの子だ~」
「ぐっ! あ、あたしはこの国に来てまだ日が浅いから漢字とか読めないだけだっつぅの!」
「でもその割には結構偉そうにしてたよね~。外国の人って皆そんな感じで偉そうにして馬鹿なのを隠してるの~?」
 間延びした口調なのに何故か痛々しい事を止め処なく聞いてくる大五郎氏。そんな大五郎氏に対しヴィータの額や頬辺りに青筋が立ち始める。
 元々短気な彼女が大五郎のその言葉にドッシリと構えていられる筈がないのは既にご承知の筈だったりする。
「こんのガキャァ! 好き勝手抜かしやがってぇ! ぶっ潰してやるから表出やがれぇ!」
「ちょっ、ヴィータ! 落ち着きぃや!」
 突如立ち上がり、大五郎に対し殴り掛かろうとするヴィータをはやてが必死に止めに入る。
 本来主である筈のはやてが体を張って守護騎士を止めると言う何ともシュールな光景であった。
「まぁまぁヴィータちゃん、落ち着きなよぉ。ヴィータちゃんが馬鹿なのは皆知ってる事なんだからさぁ」
「同じ馬鹿のお前にだけはそんな事言われたくねぇ! ってか、お前も漢字読めなかったじゃねぇか!」
 遠目からなのはも止めようと声を掛けたのだが、返って激情してしまったようだ。
 正に火に油を注ぐとはこの事である。
「やれやれ、折角新しい奴等が入ってきたかと思えば、とんだ馬鹿が入って来たもんだぜ」
「!!!」
 突然、横から大五郎の声が聞こえてきた。だが、さっきの様に間延びした声ではない。刃の様に鋭く尖りを見せた言葉であった。とてもさっきの鼻垂れ小僧の言葉とは思えない鋭利で背筋が凍るような言葉であった。
 三人が一斉に大五郎の方を見る。
 言葉もそうだったが、それだけじゃなかった。
 目の色が明らかにさっきとは違っている。まるで獲物を駆る肉食動物の様に鋭い目線をしている。さっきまで垂れていた鼻水は既に引っ込んでおり、今の彼は全く別人の様にも見えてしまうのだ。
「だ、大五郎……君?」
「方や同じ江戸の人間の癖に漢字が読めない馬鹿。もう片っぽは漢字も読めない上に短気で切れ易い異人かぁ。こりゃこれから先大変だぜ。何せ馬鹿を通り越して大馬鹿と一緒に勉学するってんだからよぉ」
 まるで嘆いているかの様に語りだす大五郎。明らかに雰囲気が違う。
 本来ならば即座に切れて襲い掛かる筈のヴィータでさえ、突然変異した大五郎に驚いてそんな事すら忘れ去っている程でもあったのだから。
「と、とにかくや! これから私等は皆で仲良く勉学をするんやし、喧嘩はこれ位にして仲良くしようや。なっ?」
「う、はやてがそう言うなら……そうする」
 何はともあれはやての一言でヴィータもすごすごと引き下がる事となった。騎士である以上主の命を無視する訳にはいかない。そこら辺はヴィータでも弁えているつもりのようだ。
「宜しく頼むぜ。三馬鹿トリオさん達よ」
「さ、三馬鹿ああああああぁぁぁぁ!」
 何故かはやてまでもが馬鹿扱いされてしまった事に当のはやても含めて三人が大声を上げて驚きだす。
 どうやら、今日の騒ぎのせいでなのは、はやて、ヴィータの三名は皆「馬鹿」の称号をつけられてしまったようだ。
 まぁ、はやての場合は完全なとばっちりなのだが。
 果たして、三人はこの不名誉な称号を払拭する事が出来るのだろうか?
 まぁ、面白いのでずっとこのままでも良かったりするのではあるが。




     つづく 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧