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ニュルンベルグのマイスタージンガー

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第三幕その十三


第三幕その十三

「ではこの歌を頂けるのですね」
「はい」
 わざわざその歌を書いた紙を手に取りベックメッサーに対して差し出してきた。
「どうぞ」
「この歌を私にですか」
「そうです。どうぞ」
 またこう言って差し出すのだった。
「差し上げますよ」
「ハンス=ザックスの作った歌詞をですか」
 ここでベックメッサーは歌詞を見つつ驚いたような声をあげた。
「ううむ。まさか本当に」
「何を驚かれているのですか?」
「これが驚かずにいられるでしょうか」
 彼はこうまで言うのだった。
「貴方の作られた歌詞ですぞ」
「ええ。それが何か?」
「それがどれだけ価値のあるものか」
「私の歌詞にですか」
「御存知ないのですか?」
 ザックスがわからないふりをしていることに気付かず少し引いて目を顰めさせたうえで問うのだった。
「そのことを」
「ですから何をですか?」
「貴方の歌詞はマイスタージンガー達の中で最も素晴らしいものです」
 こうザックスに対して告げるのだった。
「貴方が一番なのですよ」
「私がそうだったのですか」
「そうですよ。その貴方の歌を頂ける」
 彼はまた言った。
「そうなれば今日は勝ったようなものですが」
「ですからどうぞ」
「しかしです」
 流石に先程までのことがあり彼も用心深くなっていた。それでまた問い詰めてきた。
「貴方はです。昨日は私の敵でしたし」
「ですからそれは誤解です」
 彼はまたベックメッサーに告げた。
「貴方の」
「そんなことはありません」
 とにかくまだ疑い続けているベックメッサーだった。
「私はです。ただ好意で」
「昨日あれだけのことを私にされてもですか?」
「誤解なのですがね。その証拠に」
「今度の証拠は一体?」
「貴方の為に夜遅くまで靴を作っていたではありませんか」
「靴を」
「そうですよ。御覧になられていましたね」
 今度はこのことをベックメッサーに対して話す。
「それは御傍で」
「まあそうですけれど」
「ではおわかりの筈です」
 またここぞとばかりに話してきた。
「私の好意を」
「では貴方は私の為に」
「はい。ですからどうぞ」
 再度その歌詞を書いた紙を彼に差し出してきた。
「この歌を」
「そこまで仰るのなら」
 ここで遂に信じだしたベックメッサーだった。
「受け取らせてもらいます」
「はい、是非」
「ただ。一つ申し上げておきますが」
 ようやく歌詞を受け取っての言葉であった。
「これは貴方の歌とは誰にも言いませんので」
「ええ、そうして下さると何よりです」
「あくまで。私の歌詞ということで」
 完全に自分のものに、ということだった。
「それで宜しいですね」
「はい、そうして頂けると私も何よりです」
 自分でも微笑んでみせてベックメッサーに話す。
 
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