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SAO─戦士達の物語

作者:鳩麦
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キャリバー編
  百二十八話 霜の巨人の王

 
前書き
はい!どうもです!

では一気にスリュム戦。サクサク行きましょう!

では、どうぞ!!! 

 
さて、それからしばらくして、リョウ達13人は、既に第四層にまで突入していた。と、此処で少し訂正なのだが、現時点でパーティメンバーは13から14人に増えていた。
と言うのも、彼等の後ろに一人。先程までメンバーには居なかった、ゴールドブラウンの髪に、アイリ以上の胸を持つ超絶美人の女性が付いて来ていたからだ。

女性は名をフレイヤ。先程この第四層の中に突入した際に、氷の檻の中に幽閉されており、自分を助けて欲しいと懇願してきたのを、皆が罠だと反対するなか、クラインが強硬に彼女を檻から出してしまったのである。
なんでも、彼に曰く「それが俺の生きざま──武士道って奴なんだよォ!!!」だそうだ。成程、凄まじく格好良い。同時に凄まじくアホでは有るが。

さて、そんなこんなで第四層を進んでくと、ひときわ周囲の装飾の細かい、ゲームデータとして重そうな雰囲気の通路に出る。その影響か空気が重く感じ、より雰囲気的な演出になっていた。

「アインクラッドもそうだけど、相変わらずボス部屋近くは無駄にマップデータ重いのよね」
「そうなのですか?」
「うん。空気も重いから、あんまりボス部屋の近くに長居したいって思った事は無いんだ」
アウィンの呟きに聞いたヒョウセツに、アスナが答えた。

「てかお前はボス部屋行った事ねぇのかよ?」
「いえ、確かに何度かレべリング用のダンジョン等に行った際にボス戦はしましたが、それ程多くは……」
「あ、私とおんなじ。私もね、まだALO来てからボスにあんまり参加した事無いんだ~」
のんびりとした口調でそんな事を言うアイリに、ヒョウセツは驚いたように言った。

「それは……驚きました、アイリさんは、てっきりベテランの方かと」
「え?どうして?」
「いえ、動きにとてもキレが有りましたし、剣の扱いもとても慣れてらっしゃるようだったので……」
「あははは。それはね、私がずーっと剣使って他のVRMMOでも闘ってるからだと思うよ?それに私のお母さんの実家、凄ーく古い歴史の有る流派の剣道場なんだ。子供のころから剣道やってたから、剣使って体動かすのは慣れてるの」
笑いながらアイリがそう言うと、シノンが意外そうに聞いた。

「へぇ……それ、初めて聞いたわね」
「あれ?言って無かったっけ?GGOに行ったのもね、その前にやってた格闘系のMMOで、銃剣使ってる人に負けちゃって、それで遠距離系の武器が面白そうって思ったからなんだよ?」
「けど、スタイルは変えられずに……」
「光剣使いになっちゃったのです」
えへへ……と笑うアイリに、シノンは呆れたように溜息をついた後、小さく微笑んだ。

「って、それ言うならシノンも人の事言えないわよね~、アタシがいっくら言っても弓で狙撃してるんだし」
二ヤッと笑って言ったリズに、シノンは苦笑して返す。

「仕方ないの。これはもう性分見たいなものだから」
「要は、そう言う事ですよね」
そう言って、シリカはピナに頬ずりする。

そんな光景を見ながら、先頭を進むリョウとキリトは其々笑った。
キリトが剣士で有るように、リョウが戦士であるように、クラインが武士道精神旺盛な侍で有るように、要は、そう言う事だ。

さて、そんな一同は、いよいよ持って巨大な扉の前に辿りつく。
両側に巨大な狼の装飾が為されたそれは、いかにも玉座と言った様相を呈している。ALOがポイントセーブ性のゲームで無かったら、間違いなくリョウやキリト、クラインは此処でメニュー画面を開いてセーブを押しているだろう。

慎重に扉へと近づいて行き……距離が五メートル程度まで縮まった所で、扉が重々しい音を立てて左右へと開く。
一層吹きつける冷気と威圧感の中、メイジ組が全体に支援魔法(バフ)を掛け直し、フレイヤさんもまた、全員のHPを大幅に増量させると言う未知のバフを掛けてくれた。

『このまま味方で居てくれると良いんだけどな……』
そんな事を思いつつ、キリトは再び扉の奥を睨む。一度全員と、続いてリョウとアイコンタクトを交わして頷き合うと、氷の床を強く蹴り、14人は部屋へと突入した。

────

内部は、縦横共に非常に広い空間だった。
青い氷の床壁に青い燭台と其処に灯る青紫色の炎。遥か上に存在する巨大なシャンデリアも、やはり青一色である。
しかしそんな中に会って、メンバーの目を特に引いたのが、左右の壁から奥に向けてうずたかく積まれた金銀財宝の山だ。金貨や装飾品は勿論、剣やら盾やら鎧、家具に至るまで、何でもありの黄金の山が、見渡すのも不可能なほど広範囲に積まれていて、金ぴかの光を放つその様相は、まさしくして王様趣味のそれである。

「総額何ユルド位になるかな……」
「カウンターがカンストすんじゃねぇの」
ショップ持ちのプレイヤーらしい事を言うリズに、リョウが呆れたような様子で返す。
別にリズに呆れているのではない。正直なところ、やたら金銀財宝ばかり有っても、金に変えないと意味がないのではあるまいかとリョウは思っている人間なのだ。
なのでこう言った光景には正直驚きより呆れの方を覚える。

と、そんな感じで一同が唖然としていると……

「……小虫が飛んでおる」

不意に、暗闇に隠れた部屋の奥から、重々しくしわがれた声が響いて来た。

「ぶんぶんわずらわしい翅音が聞こえて来るぞ……どれ、悪さをする前に、一つ潰してくれようか……」
ズシン……と、重々しく床が揺れた。
下の氷が割れてしまうのではあるまいか、そう心配になってしまう程のそれが、何度か鳴り響くと……そこに、一体の影が姿を現す。

「……おっ、きぃ……」
後ろでアイリが唖然としたように言った。
そう、それはこれまでの巨人たちと比べても、圧倒的に巨大な体躯を持った一体の巨人だった。
と言うか、一目見ただけでそれまでの巨人たちと比べるのもばかばかしくなる。倍以上とかそんな物では無い。そもそも下から見上げただけでは、一体何メートルの体躯を持っているのかすらわからないレベルだ。

肌は鈍い青。脚や腕に巨大な獣の皮を巻いて居るのだが、あれはいったいどんな獣から剥いだのだろうか……
上半身はそのたくましい筋肉を見せつけるように裸だが、下半身は流石に巨大な板金鎧を付けている。と言うかアレもどれだけデカイ炉で打ったのやら……

「リズ、お前あの鎧作れる?」
「その冗談面白くないわよ」
「そりゃ失敬」
上半身の上に乗った頭は長いひげが有るが、目の辺りは最早ライティングが届かないはんいに有る為影になって見えない。

「ふっ、ふっ……アルヴへイムの羽虫共が、ウルズにそそのかされてこんな所まで潜り込んだか。どうだ?いと小さき者どもよ、あの女の居所を教えれば、この部屋の黄金を持てるだけ呉れてやるぞ?ンンー?」
この尊大な台詞と、頭の上に見える金ぴかの王冠を見るに、この巨大な巨人(表現としてはあれだが)がスリュムで有る事は間違いないだろう。
と、スリュムの言葉に、真っ先にクラインが返した。

「へっ!武士は喰わねど高笑いってなぁ!俺様がそんな安っぽい誘いにホイホイ乗ってたまるかよォ!!」
ちなみに、クラインが言うことわざは元々《武士は食わねど高楊枝》と言うことわざで、武士は名誉を重んじ、貧しく空腹でも満腹であるかのように楊枝を使って見せる。つまり、気位を高く見せる。と言う意味だ。ちなみにこれは、やせ我慢、三重を張っているという意味でもある。
クラインは先程宝の山を見た際にフラリと脚がそちらに向きかけていたので、このことわざの使い方は的確であると言えよう。

さて、クラインが言いながら刀をカン高い音を立てて引き抜いたのと同時に、他のメンバーも次々に各々の武器を構える。
スリュムはそれらを睥睨するように見回すと、ふと全員の後方に居る、フレイヤに目を向けた。

「ほぉ?其処におわすはフレイヤどのではないか。檻から出て来たという事は……ふむ、わしの花嫁になる決心が付いたのかな?ン?」
「は、花嫁だぁ!!?」
スリュムの言葉に、半ば裏声で言ったクラインの声はスリュムの言語モジュールに反応する対象と捕えられたらしく……

「そうとも。その娘は、我が嫁としてこの城に輿入れしたのだ。だが宴の前の晩に儂の宝物庫を嗅ぎ回ろうとしたのでなぁ、仕置きに獄へつないでおいたと言う訳だ。ふっ、ふっ、ふっ」
ふーん、成程。とリョウは納得した。
確かこのフレイヤと言うキャラはパーティに入る際、「盗まれた一族の宝を取り返しに来た」とか何とか言っていた筈だ。しかしリョウ達の見つけていない裏道等が無い限り正面入り口を通ってフレイヤは仲間で来なければならない訳だが……成程、そうやって内部に侵入した訳だ。

『とすっと……』
どうやらフレイヤが裏切る可能性は幾らか減ったとみてよさそうである。しかしだとすると……

『ん……?何だっけか、確か……』
そう言えば、こんな感じの展開の話を以前に……

「誰がお前の妻になど!かくなる上は、剣士様たちと共にお前を倒し、奪われた物を取り戻すまで!!」
「ぬっ、ふっ、ふっ……威勢の良い事よ、流石はその美貌、武勇共に球界の果てまで轟かすフレイヤ殿、と言った所か?しかして、気高き花ほど手折る時は興深き者……小虫共を捻り潰した後で……念入りに愛でて……「「「話が長いんだよ!!」」」ぬぐぅ!!?」
話途中のスリュムの足元で、三人の人影が剣を振りかざした。
と言うのも、スリュムの発言がこれ以上続けさせると全年齢で出来るギリギリの、それも女性陣には非常に不愉快な所まで行きそうだったからである。それに加えて不届きなメンバーは誰かと言うと……

「ったく、女の前だぞ、デリカシー持ちやがれ」
「兄貴がそれ言うか?」
「はぁ!?」
「あー、いや、確かにリョウさんは結構……」
「オイ其処に直れレコンテメェ」
「えぇ~!!?」
とまぁこの三人である。ちなみに後ろで女性陣はと言うと……

「愛されてるわねぇ」
「え?えへへへ……」
等とリズがアスナに言っていたり……

「貴方もいい加減レコンくんの事認めてあげても良いんじゃないの?」
「は、はぃ!?な、何をどう認めろって言うんですか。そ、それに別に認めるとか、そんな必要ないと思います!」
「意地っ張りも行きすぎるとチャンス逃すわよ?」
「それ、もしかして自分の事?ヤミ!」
「はぁ!?」
とか何とか言ってるリーファや、アウィンとアイリが居たり……

「なぁ、サチよう」
「え?クラインなに?」
「おりゃあちょいと思うんだけどよ……リョウってもしかして、実はお前に気ぃあるんじゃ「えーい!!」ぶほぁっ!?」
「(ひそひそ!)駄目ですよクラインさん!そう言う事は本人達で解決してこそ意味が有るんです!」
「(こそこそ……)え、あ、お、おう……」
「?」
等とひそひそしている三人が居たりした訳だが……

「っ、みなさん!来ます!」
そんな会話を、巨人の王が遮った。

「おのれぃ、羽虫共……よかろう。それだけ死にたいと有らば、ヨツンヘイム全土を我がものとする前祝いじゃ……先ずは、貴様等から平らげてくれようぞ!!」
言うと同時に、スリュムが一歩前へと踏み出した。と同時に凄まじい量のHPバーが視界に姿を現す。
恐らく他と比べても最も長い。それも三本だ。

しかし現在の新アインクラッドのフロアボスは、いやがらせかと思うほど強い癖にHPバーが見えないと言う鬼畜仕様だし、それに比べれば何時パターンが変わるのか等が分かるだけマシだ。
それに巨大なボスとは言え、この位ならば何時か何処かで(正確には何処だか分かって居ないのだが)倒した(巨)大蛇の経験もある。

『ま、何とかなるだろ!』
そんな事を思いながら、リョウは駆けだした。

────

「ぬぅぅぅん!!」
スリュムが基本攻撃の一つである、三連続ストンプを放つのを、メンバーはユイの指示で全員がジャストのタイミングで直撃を避ける。

スリュムの攻撃は幸いな事に、基本的にはその殆どが完全回避可能だった。パターンとしては左右の足で三連続ストンプのほかに、霜を纏った氷属性の拳。直線の軌道の氷属性ブレスそれと、床から十二体のアイスドワーフを生成すると言う物で、最後の一つは非常に厄介だったのだが……

「どっりゃぁぁぁっ!!」
「逝っちゃえぇぇぇぇぇっ!!」
とまぁこの暴力鍛冶屋と狂気的な刀使いが、出て来る傍からガッシャンズッバンと片づけ、加えて……

「ぐ、ごぉ……」
「シノン、ナーイス援護!!」
「はいはい」
「アイリ!右から来てるわよ!」
「うんっ!」
と、このようにシノンが滅茶苦茶な精度の弱点精密射撃で二人を援護する物だから、大概の場合は出て来た傍からアッと言う間に殲滅されていた。
寧ろ問題は攻撃の方で、スリュムには案の定高さ的な問題で脛あたりまでしか攻撃が届かなかった。しかし其処にも勿論金属製の鎧が有って、その硬さが尋常ではないため殆ど破壊不能オブジェクトを叩いて居るとしか思えないような──

「砕けとけ!!」

薙刀 三連撃技 壁破槍

「ぬぐぅ!?わしの鎧が……おのれ羽虫共ぉ!!」
「しゃぁ部位破壊!ざま見やがれ!」
「あいっ変わらず馬鹿げてるだろその威力は……」
「俺のアイデンティティだ」

──失礼。どうやらその破壊不能級のオブジェクトは砕かれたようだ。
しかしそれでも此処に至るまでの物理耐性は高く、攻撃の間と間も大きいとは言えない為ソードスキルも三連撃以上の物を叩き込むのは難しい。やはり魔法攻撃無しには……

「はぁぁっ!!」
「──ディディクト・ヴァイル!!」

炎系統 極点集中型攻撃魔法 《ドラゴン・クリメイション》

フレイヤさんの放った紫色の雷がスリュムの脚のど真ん中にぶち当たり、サチの放った巨大な竜の形をした炎がスリュムの髭だらけの顔面を直撃する。其処にすかさず……

「ウオ、羅ァァっ!!」

薙刀 八連撃技 《斬華 花炎》 物理一割 火炎九割

リョウの薙刀が彼の左右で咲き乱れるように乱回転し、火の粉をまき散らしながら彼の破壊した脛部分にヒットする。
これだけ派手な魔法を撃ってしまうと、サチの方にタゲが向きかねないので更に派手な技で此方のヘイトを稼いだ訳だ。
しかしそうすると当然今度のヘイトはリョウに向く訳で……

「でぇい!」
「ヒョウセツさんよろ!」
「──フィリティ・ヴィント」
「うおっ!!?」

風系統 妨害系魔法 《エアリアル・バーン》

フリ押された拳がリョウに直撃する寸前で、ヒョウセツの放った魔法がリョウのすぐ脇で発動した。
圧縮された風が一気にその地点で破裂して、リョウは真横に向けてぶっ飛ばされる。しかし幸いにも、それによってリョウは攻撃を回避した。

「サンキュ!ヒョウセツ!」
「ヘイトを取るならもう少しマシな離脱法を考えてください」
呆れたように言って相手に向き直るヒョウセツに苦笑すると、次は彼女の向こうから声。

「リョウ!大丈夫!?」
姿は見えずとも誰だかは分かる。

「モーマンタイ、モーマンタイ!!」
そう言うと、リョウは再びスリュムの方に向けて走り出す。それを遠くから見てほっとしたように息を吐くと、サチは再び詠唱を始める。示し合わせていたとはいえ、流石に肝が冷える。

と、そんな危なっかしい奮戦が十分も過ぎたころ、スリュムがひと際巨大な咆哮を上げた。

「っと……此奴は……」
「パターン変わるぞ!みんな気を付けろ!!」
一本目のゲージが消失したのだ。その警告の中で、リーファがリョウとキリトに近寄り言った。

「不味いよ……!お兄ちゃん、メダリオン、もう四つしか光って無い……多分後二十分有るか無いかってところだと思う……」
「…………」
「ちっ、何ヒートアップしてんだ下の連中はぁ……」
キリトが黙りこみ、リョウが苛立ったように言った。
スリュムのゲージは三つ。十分で一ゲージだ。正直残り二十分ではギリギリ……いや、恐らくは不可能だろう。
何しろ攻撃パターンが変わる場合、殆どはより攻撃が過劣になる。それだけの勢いで攻撃される事を考えれば、更に時間がかかる事は明白だ。しかしかと言って、先程の金牛のようにソードスキルの槍攻撃でと言うのも無理が有る。別にスリュムは物理や魔法が弱点と言う訳ではないし(どちらかと言うと炎属性には弱いが、それとて焼け石に水である)、何よりHPの総量が多すぎる。13人で削っているのにこれなのだ。更に時間がかかるのは明白で……

「…………あ」
「兄貴……アレなら……」
リョウが思いついたのと同時に、キリトが言って──直後、スリュムが大きく息を吸い込んだ。

「げっ!?」
「っ!?ヤバい!!」
胸をふいごのように膨らませたそれは、一気に此方側に全員を引き寄せようとする。恐らくは広範囲攻撃の予備動作だ。凄まじい風圧で殆どのメンバー(装備がやたら重たいリョウは無事だ)が引き寄せられる。
この手の攻撃の回避には、先ず風魔法で風を相殺する必要が有る。現にリーファが詠唱を始めているが、この場合動作を見始めた瞬間で無いと間に合わな──

──直後、リョウの見る世界が遅くなった──

「っ──!」
反射的に、計算する。

スリュムのこれまでの攻撃動作とそのタイプ。
現在までにリョウが見て来た氷属性、及び巨人タイプの敵の攻撃動作。
その比率と発生確率。
其処から割り出せるスリュムの行うであろう次の攻撃

肉体系物理攻撃──除外
単一属性直射遠距離攻撃──17%
複合属性直射遠距離攻撃──8%
単一属性範囲遠距離攻撃──66%
複合属性範囲遠距離攻撃──9%

最も確立の高い単一属性範囲攻撃出会った場合、其処に付加されるであろう可能性

属性

氷──89%
それ以外──11%

氷であった場合の異常状態付加

付加なし──15%
凍傷──36%
凍結──49%

結論。

──時間が戻る──

「(ちっ……!)サチ!!凍結“解除”!!!」
「っ!?リディル・アパラ──」
スリュムが息を吸い込み終わり、サチ意外の全員がキリトの指示で防御姿勢を取る。と、直後、スリュムの口からこれまでのブレスとは違う、広範囲に広がるダイヤモンドダストが放たれ、前衛組の体がガード体制のまま凍りついて行き……

直後、サチの看破魔法が発動し、オレンジ色の光の粒子が全員に振り注いだ。

「っ……!全員!ストンプ回避!!」
「ぬぅぅーーーーん!!」
次の瞬間振り下ろされた右足が衝撃波を起こし、しかし全員が、寸前で空中に飛んでそれを回避した。

「全員!攻撃再開!!」
「「「「「「おぉっ!!」」」」」
キリトの掛け声に、全員が答える。と、リョウの横にキリトがやって来て、苦笑しながら聞いた。

「兄貴、さっきの何で分かったんだ?」
「あん?」
その問いに、リョウは何時ものようにニヤリと笑って答える。

「勘だ!!」

────

その声が飛んで来たのは、それから少ししてからだった。

「剣士様!」
「え、は、はい!?」
突然後方組から、フレイヤの良く通る声がキリトの耳に響いたのだ。反射的に叫び返した彼に、フレイヤは続けた。

「このままでは、スリュムを倒す事敵いません!私の宝を……黄金の金槌を、その宝の中から探し出し下さい!」
「え、か、金槌ィ!!?」
「はいっ!」
行き成りの申し出にキリトが話を整理出来ずに戸惑うのに対して、フレイヤははきはきとした声で叫び返す。

「それさえあれば、私は真の力を取り戻し、スリュムを打ち倒す事が出来ます!!」
「真の力……いや、って言われても……」
金槌、形としては特徴的だが、目の前の宝の山は相当な量だ。今からこの中からたった一つのお宝を探しだすと言うのは、いくらなんでも難易度が高すぎる……

「金槌……?あぁ!!」
「うわっ!!?何だよ兄貴……」
文句のありげな顔で自分を睨んだキリトに、リョウは二ヤリと笑って返した。

「思いだしたぜキリト!!サンキュー!」
「え、は、はぁ!!?」
言うが早いが突然リョウは奇行に出た。ソードスキルを、“地面に向けて”放ったのだ。

薙刀 六連撃技 《斬華 砲雷》 物理一割 雷九割

放たれたのは雷の刃だ。突き刺さった冷裂から紫電が地面を伝い……宝の山にぶち当たった。

「な!?」
「っ……!」
生み出した雷を無視して、リョウは宝の山を見渡す。見えた。生み出した電撃に反応するように、宝の向こうで青紫色の光がまたたいた!

「キリトォ!!」
「あぁ!!」
言うが早いが、キリトは既に駆けだしていた。一瞬で宝の山まで接近すると、そのままそれに手を伸ばす。
キリトが宝の山から重そう引っ張り出したもの。それは間違いなくフレイヤの言う黄金の金槌だと言えた。既にフレイヤはキリトの近くまで接近している。

「っ、フレイヤさん!!」
キリトはフレイヤに向けて思いっきりそれを投げ、見事なフォルムで彼女はそれを受け止める。その瞬間、事は起きた。

俯くように体を丸め、白い肩を震わせた彼女が、小さな声で言った。

「…………ぎる……」
さて、北欧神話で、雷と金槌、この二つのフレーズに、見事に当てはまるアイテムが一つ有る。北欧神話を知る人ならば、いや、あるいは神話を知らぬ人でも、その名には一度は聞き覚えのある人も多いだろう。

「……みなぎるぞ……」

その名は、《雷鎚ミョルニル》。雷の力を宿す、北欧神話でも指折りに強力なアイテムだ。多くのゲームの多くのメイスが、これと同じ銘をさずかっており、中には実際ゲーム内でかなり強力な物もある。

フレイヤさんの体から、スパークが走り……直後、それが凄まじい爆光と共に弾けた。

「みな……ぎぃぃぃぃぃぃるぅぅぅおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!」
《ミョルニル》とは、即ち《粉砕するもの》の意味を持つ。
実際、神話の中で多くの巨人の頭を砕いたとされ、世界蛇ヨルムンガンド以外のあらゆる生物を一撃で屠ったそれを扱うのは、それまた扱うにふさわしいナイスミドルの神だ。

そう、もうおわかりだろう。
今現在無数の雷と共に巨大化している彼女、否、彼こそその正体。
最早フレイヤさんの面影一切なく、長いひげを蓄えてスリュムと向き合ったその巨神に向けてリョウは叫んだ。

「頼むぜぇ……トールのおっさん!!」
その名を、《雷神トール》。
神々の敵たる巨人を無数に討ち取ったとされる、北欧神話きっての戦神である。

────

トールが現れてからの流れは、それこそ怒涛だった。

トールは自分から宝を奪った罪を購わさせてやる!と怒鳴り、スリュムはよくもたかばってくれたな!と怒り狂う。
まぁ正直、男性陣としてはスリュムにも怒る権利は有ると思えた。美人が嫁に来たら実は四十過ぎのおっさんでしたとか、そりゃ怒る。誰だって怒る。先程の発言が無ければ同情していたかもしれない。

ちなみに実はこの展開は、「スリュムの歌」と言う北欧神話のエピソードにちゃんと残っている展開だ。
本来はスリュムがミョルニルを盗んでフレイヤとの引き換えを望み、トールはフレイヤに化けてスリュムとの結婚式に臨む。
何度もぼろを出しかけながらも同行したロキの機転でそのピンチを乗り越え、最後にはミョルニルを取り戻して巨人を皆殺しにする。と言う話だ。
先程リョウが思い出したのは、これだったのである。何しろ知ったのが中学の頃だったため半分忘れていたのである。

まぁそれは良いとして、現在怒り狂ったスリュムの注意は全てトールに向いている。この期を逃す手は無かった。

「おし!キリト、行くぜ!」
「お、おぉぉおう!!」
「なにパニクってんだよ」
「え!?あ、いや、流石に驚いたんだよ、ウン」
何故か頷いて言ったキリトに、リョウは快活に笑った

「っはは!まぁ、なぁ……警告ぐらいすりゃよかったか?」
「いや、多分俺はともかく、アイツは駄目だったと思う」
キリトが示した先には、仲間たちと共にここぞとばかりに大型のソードスキルを繰り出しているクラインの姿が有った。心なしか彼の目から、光るものが吹きだしているような気がしたが、気のせいだろう。

「さて、そんじゃいっちょ、俺らも全力行きますか?」
「おう!あ、そうだ、一応俺らの奥の手も……」
「あぁ、ま、良いか。大盤振る舞いだ、サチ!」
「えっ!?」
「最大でアレ、撃てるか!!?」
キーを取った以上、此処からは大盤振る舞いだ。トールがタゲを取っている間に、全力で攻撃を与えておかねばならない。
言われたサチは一瞬驚いたようだったが、即座に真剣な顔になると、コクリと頷いた。

「やってみる!!」
「よしっ!!」
言うが早いが、詠唱を始めたサチに向けてニヤリと笑って、リョウは前線へと走り出した。
と、突入と同時に自分の右に来たレコンに、キリトが言った。

「レコン、槍は何処まで今行ける!?」
「えっ!?えっと……丁度半分くらいです!」
「十分。詠唱少し下がって準備してくれ!攻撃には参加しなくて良い。詠唱に集中して最大限速く!」
「は、はいっ!!」
言うと、レコンは即座にバックに下がっていく。

さて、残った前戦組はと言うと、次から次へと三連を超える大技ソードスキルを乱発していた。

クラインとアイリの刀が、シリカのダガーが、アウィンのクローが、リーファの長剣が、次々にスリュムの脚を切り裂き、リズのメイスガ明らかに小指をガチ狙いしている。

リョウの冷裂は脚の鎧ごと脛をぶった切り、その進路をキリトの剣が高速のソードスキルを撃っていると言うのが信じられないスピードと正確さで切り裂き、いつの間にかワンドから持ちかえたらしいアスナが更に続ける。

「ぐ……ぬ、むぅ……」
流石にトールと合わせたこのコンボはきついのか、たじろいだような声を上げたスリュムを狙うように、後ろからレコンの声が響いた。

「皆さん、行きます!!」
「おう!!」
「分かった!一旦みんな離脱だ!!」
「やったれレコン!!」
男どもが声援を送る後ろで、リーファはレコンが構えている者を見た。
それは先程と同じ、雷撃の槍だしかし……

「違う……?」
つい先ほど見た物とは、それは大きく異なる部分が有った。

見るからに、それが金属の騎士槍の形をしていたのだ。
全体からバチバチと紫電をほとばしらせるそれは確かにレコンの最大魔法である《ランス・オブ・オーディン》なのだが、つい先ほど見た物は見た目はどちらかと言えば光の槍。と言った様相で、槍と言うよりエネルギーの塊とみた方が表現としては正しかった。
しかし今見えるそれは、細かな装飾と明らかな金属の光沢が見て取れ、其処に有る質量すら感じそうな程である。

さて、此処で前回に引き続き、伝説級魔法の説明をさせていただこう。
伝説級魔法は確かに強力な魔法だが、実を言うとその効力は、威力は術者の錬度(プレイヤースキルの方だ)によって大きく違う。
と言うのも、伝説級魔法の詠唱を完全に行った場合、そのワード数は確認されている限り実に300~500代と言う、アホかと言いたくなるようなワード数に上る。
ちなみに、レコンの《ランス・オブ・オーディン》は、総計で348ワードだ。これでもまだ短い方だと言うのだから頭が痛くなる。

その為、伝説級魔法には威力を犠牲にして詠唱を一定のレベルで短くし、其処で詠唱を止めても術が発動すると言うシステムが導入されている。ちなみに先程放たれた《ランス・オブ・オーディン》は、大体75ワード。あれだけの威力を持ちながら、全体の実に四分の一以下である。
と言うかエギルの友人の制作側曰く、どうやらこのスペルは制作陣が半分ノリで制作した「本来フル詠唱では発動不能な魔法」らしい。

この事はネット上でも周知なので、今現在伝説級魔法を撃てる者の中でも、フルで詠唱し、発動する者等“居ない”のだ。

──否、居ない筈だった。と言うべきか──

「はぁぁっ!」
レコンの持った雷撃の巨大な槍が、やり投げの要領で発射され、スリュムの腹部を無数の雷と共に貫いた。

「ぬぐぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!?」
「おぉ!」
「よっしゃぁ!!」
「何と……!!」
初めてスリュムの上げた悲鳴らしい悲鳴に、前線チームはガッツポーズ。レコンも、疲れたのかへたり込むが内心ガッツポーズだ。
ちなみに、今ので174ワード。これが現在のレコンに出来る限界の威力だった。

「…………」
リーファはそんなレコンを一瞬眺めて……少しだけ微笑んでから、再びスリュムへと向き直った。
スリュムは左ひざを付き、王冠の上には星が舞っている。

気絶(スタン)状態だ。

「此処……だっ!!!」
キリトの言葉で、全員が一斉に最大級のソードスキルを放った。空中からは炎の矢が降り注ぎ、スリュムを押し包む。と其処に……

「っ!!キリト君!サチが……!」
「!?全員!離れろ!!」
「っと!」
「え!?え!?」
突然のキリトからの声ながら、全員反応は速かった。行っているスキルが終わるや否や、即座に離れる。と、そんな中で、もたもたしている獣使いの首根っこを……

「早く来いシリカ!!」
「むぎゅっ!!?」
「きゅるっ!」
リョウがひっつかんで全力でバックステップ。同じような事が有ったのを思い出しつつ、着地する。

「……お願いします」

そして直後、サチの言葉と共に、それは発動した。

始めに、天井からスリュムの下に光が振る。
照らされた彼の上に、突如、光の人型が現れた。

それは男性のようにも見えるが……同時に女性のようにも見えるシルエットだった。
降臨するように現出したそれは、直後にスリュムに向けて手をかざし……スリュムを、小さな光の球へと変えた。

「「「「「「「「「!!?」」」」」」」」」
キリトやリョウ、アスナを除く全員が驚愕に目を見開き、その光景を見つめる。
本当に一瞬。瞬き一つ分の間に、スリュムの体はごく小さな光の球体へと代わり、光の巨人の下へと向かっていく……やがて巨人の下へたどり着いたそれを、ゆっくりと巨人は手にとって……それを、包み込むように小さく、小さく圧縮して……握りつぶした。

「…………」
余りにも現実離れした光景に何も言えず、目を見開く一同の前で……ひと際強く輝きが視界を覆い……

目を開いた時には、既にトール意外に巨人はいなかった


伝説級魔法(レジェンダリィ・スペル) 《アメノミナカヌシノカミ》


「…………はふぅ……」
静かになった広間の中で、548ワードを唱え上げた少女が、小さく息を吐いてへたり込む。
そんな背中を……

「よっ、お疲れさん」
「あ……うんっ」
リョウが軽く叩き、二人が微笑みあう。

それが、決着。

あれだけの騒がしい戦いが終わったにしては余りにも静かな、決着だった。
 
 

 
後書き
はい!いかがでしたか!?

と言うわけでサチさん、スリュム丸ごと消滅させてしまいましたw
彼女のメイジとしての実力は多分現時点でウチのALOでも随一です。まともに発動さえできればすさまじい威力の魔法バンバン出して来ますので彼女w

まぁあくまで発動できればなので、完全に援護向きなのですがw

さて、次回か、その次でキャリバー編は終わり。明後日から僕も大学再開なので、きばります!

ではっ! 
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