| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

緋弾のアリア 一般高校での戦い

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第6話 遠山家

 
前書き
いつもより更新する時間が遅くなりましたが、更新できました。 

 



 今日から身を寄せる俺の実家は、駅から少し離れた所にある。
 東池袋高校からは、ギリギリ徒歩圏内だ。
 商店街をかすめるようにして歩き、古い一戸建ての多い住宅地に出る。路地でキャッチボールをしてる子供たち、チャリンコで警邏(けいら)するお巡りさん、雑種のネコとすれ違い……(さび)れたタバコ屋の角を曲がり、材木屋の前を通り……もう少し歩いた所にある日本家屋が、俺の実家だ。古いが、けっこう広い。
(久しぶりだなぁ、実家)
 と、門に向かう角を曲がろうと思ったら、
「ちょっと待って、お兄ちゃん!」
 ――かなめに手を掴まれて止められた。
 レキもそれに合わせて足を止める。
「何だ? どうし……」
 そこまで言いかけて気づく。かなめの手が少しだが震えていることに。
「かなめ……もしかしてお前、緊張してるのか……?」
「そ、そりゃあちょっとはするよ……。初めて自分のお爺ちゃんたちに会うんだから……」
 なるほど……
 しかし意外だな。かなめのことだから、(あらかじ)め爺ちゃんたちに会ってから学校に来たのかと思ってたんだが……
 それに、いつものかなめならアメリカ人特有の堂々さで、緊張もせずすんなり会えるはずだ。
 ……まあ考えても仕方ない……かなめも緊張する時くらいあるか。クラスに初めて来たときも珍しく緊張してたし。
「爺ちゃんたちに何の連絡も入れてないのか?」
「先にサードが行って、あたしが行くことと事情を話してると思うけど……あたし自身はまだ……」
「……そ、そうか。まあ気にすることないと思うぞ。爺ちゃんたちはあまり細かいことは気にしない人たちだからな」
 そうやって、かなめの緊張を()こうと声をかけている中、俺の頭の中でかなめのさっきのセリフが何度も繰り返される。
『先にサードが行って――』
 ……サードが……どこにだ? もしかして爺ちゃんの実家か……まさか……
「おいジジイ。道の清掃終わったぞ。奥義(エザテリクト)を教えろ」
 聞こえる。聞こえるぞ。角の先から、今考えてしまっていた奴の声が。
 そいつの姿を確認するために、そー、と角の先を覗いてみると――
「お前は近所づきあいってモノが分かっとらーんッ! 向こう三軒両隣の前も掃除せんか! 次は鉄拳制裁(てっけんせいさい)じゃぞ!」
 ――着流し半纏(はんてん)を重ね着して、角刈り頭がすっかり白髪になったヨボヨボの爺ちゃんが、ぽかーん! と、下駄(げた)でジーサードの頭を家から出てきて叩いていた。
「チッ」
 舌打ちしつつも、あの凶暴なジーサードが……ちゃんと従って、(ほうき)を持ち直してる……!
 そのあまりの姿に、俺は肩を下げながら、まだ出るかどうか迷ってるかなめを連れて角を曲がる。
「ジーサード……お前、何してるんだ……」
 爺ちゃんへの挨拶より先に、俺はそのロック歌手みたいな姿で家の前を掃除している疑問を口にしてしまう。
 なんてったって、あのエセ暴君っぷりを発揮したビデオを見ているのだ。
 大人しくこんなところで掃除をしてる姿を見て、驚かないはずがない。
「――おう、兄貴じゃねえか。そりゃこっちのセリフだぜ。俺はホームステイだ。かなめもやけに遅かったじゃねえか」
 だんだん分かってきたぞ。
 さっきから考えていたが……ジーサードの奴、監視してたな。米軍の偵察衛星とか通信傍受施設を借りて、俺を。
 壮絶な喧嘩別れをしたから、かなめからジーサードに連絡を取る可能性より、サードからかなめに連絡を取った確率の方が高いからな。
 それで、俺の転校をダシに仲直りして、サードが先に爺ちゃんの家を訪ねることになったのだろう。
 俺が推理できるとしたらこれが限界だな。これ以上の事が起きてても後で聞こう。
 とりあえず、サードの事は後回しにして爺ちゃんに、
「……ただいま」
 とだけ、言った。
「ん、よく帰った」
 爺ちゃんは……嬉しそうに、笑ってくれた。
 それだけで少し、帰ってきて良かったな、という気分になる。
 だが爺ちゃんはすぐ、
「――んー? この別嬪(べっぴん)さんはキンジのこれか?」
 などとレキに少し近づき、スケベな目つきで小指を立て、心底ハッピーそうにレキの顔を覗きこむ。
「いや、これは何というか勝手についてきちゃったんだけど……」
「んー、若い娘はいいのう。ウェヒヒ、ミントの香りじゃ、ミントちゃんと呼ぼう」
 俺にも遺伝したムダに鋭い嗅覚で、レキのニオイを少し遠くから嗅ぐ。
 そして少し真面目な顔になり、次はかなめの前に行く爺ちゃん。
 そのまま少しかなめを眺め、
「なるほどのう。そこで掃除しているバカ同様に、うちの緑者じゃな」
「爺ちゃん、よく分かるね……見ただけで」
「お前のこともじゃ、キンジ」
 にい、と、爺ちゃんは俺を褒めるように笑った。
「ずいぶん、男の顔になった。修羅場をくぐり、死線(しせん)を超えてきたか」
「……まあ、いろんな意味でだけどね」
 俺との話しが終わり、再びかなめに目を合わせ、
「――理由は聞かん。じゃが、お前はうちの緑者であることは間違えない。ならわしの可愛い孫じゃ。キンジ同様、ここに住め」
 かなめの頭に手を置いて、そう言う。
「お爺ちゃん……ありがとう」
 嬉しそうに、はにかむかなめ。
「良かったな、かなめ。俺以外にも家族が出来たじゃないか」
 と、なんとも言えない気持ちで、俺も隣にいるかなめに声をかけてやる。
「……うん。あたし変に緊張してバカみたいだったよ」
 いったい、どんな事を考えて緊張していたのだろうか。かなめは。
 ……なんてかなめと話していると、
「それにしても……お前もキャラメルのようないいニオイが……」
 マジメモードの終わったらしい爺ちゃんが、かなめに顔を近づけ匂いをレキのように嗅ごうとしたら――
「おやキンジ、おかえり。あれまあ、可愛い女の子だねぇ」
 ――ゴスッッッ!
 いつも間にか現れた、俺の婆ちゃんによる、喋りながらのベリーショートパンチが叩き()まれた。
 爺ちゃんは「ほぉぷっ!」などという声にならない声を上げ、向かいのブロック塀まで吹っ飛ばされ、がしゃ、がらがら……衝撃で壊れたブロックの下敷(したじ)きになっていく。
「……しゅ、『秋水(しゅうすい)』……!」
 初めて見た。遠山家の奥義の一つを。意外すぎるシチュエーションでだが。
「『秋水』? なにそれお兄ちゃん?」
 驚きのあまり声が漏れていたらしく、かなめが初めて聞く言葉に反応する。
「ん……ああ。家に入ったら教えてやる。今の婆ちゃんの動き、よく覚えておけ」
「あ、うん。分かった」
 かなめも遠山家の一員になったんだ。教えてやってもいいだろう。
 ただし奥義の技名と、理屈だけな。
 遠山家の技は基本的に、手取り足取りは教えてもらえないものなのだ。
 なので、見様見真似で覚えるしかないんだ。
 だから今の秋水はよく覚えておけよ。
 俺も爺ちゃんという(とうと)い犠牲のもとに実演を見せてもらって、ようやく実践方法が掴めたところだ。……できるかなこれ、ヒステリアモード時。
「おいジジイ! 掃除が面倒になるだろ!」
 というジーサードの怒声なんかどこ吹く風で、婆ちゃんは……
「おいでキンジ。金花(きんか)の『(そろ)いぶみ』があるよ。ミントちゃんもかなめもお入り」
 曲がった腰の後ろに両手を戻し、ノンビリと家に入っていく。
 婆ちゃん……帰ってくること聞いて、買ってくれたのか。揃いぶみ。
 俺が小さい頃に好きだったのが、婆ちゃんの中では現役なんだなあ。
 いや、いつまで()っても、俺は婆ちゃんの中では子供なのかもしれないな。






 
 

 
後書き
感想や間違いの指摘待ってます! 今回は原作のエピソードが少し多めです。
次回の更新は、明日になるか……それとも一か月後になるか分かりませんが、これからも宜しくお願いします。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧