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恋姫無双~劉禅の綱渡り人生~

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劉禅、仲間を得る

「一刀様、申し訳ございません。劉禅を取り逃がしました」
「何だと。手練の者を選んでお前に与えたのだぞ!」
 腹心の部下の報告に、北郷は苛立った。
「申し訳ございません。しかし劉禅は予想以上に手強く、皆斬られていました。劉禅の行方は今のところ不明です」
 部下の報告に、北郷は考え込む。
(愛紗よりは少し劣るという評判だったから手練の者十数人で充分だとおもったが、意外に強いな)
 今まで如何に自分が見る目が無いというか、女しか見ていなかったのかが分かる。これは劉禅に対する認識を改めねば、と北郷は考え始めていた。
「わかった。劉禅の行方がわかったら、お前が直接行け。お前なら、劉禅に勝てるだろう?」
「承知しました。必ず劉禅をこの手で始末して見せましょう」
 北郷の部下は一瞬のうちに姿を消した。

*****

 旅から戻る途中、普浄は一人の賊と遭遇してしまった。今まで賊に遅れをとった事は無く、軽くあしらうつもりであったが、敵の方が上手であり、次第に追い詰められていた。
(この賊、予想以上に強い)
 滅多に見ない武に、普浄はだんだん焦りの色を強くする。
「いい加減あきらめろ。おとなしく金目のものを出せよ」
 ジリジリと賊は迫ってくる。そして普浄に向かって剣を一閃させた。普浄は持っていた鉄棒で防ぐも、賊の一撃によってはね飛ばされ、丸腰になってしまう。
「死ね」
 賊は剣を振り下ろす。普浄は死を覚悟して目を閉じ、斬られるのを待った。しかし、その一撃は来なかった。
 目を開けると、一人の男が普浄を庇うように立ち、剣で賊の攻撃を防いでいた。
「何だお前は!」
 賊は突然現れた男に対し、斬りかかる。それに対して男は、一振りで相手の剣を根元から斬り折り、返す刀で両手首を斬り落としたのだが、普浄には男の動きがはっきりと見えなかった。
(……すごい)
 その男は賊をあっという間に倒してしまった。


「間に合って良かった。無事か?」
 俺は呆然としている男に尋ねた。
「ええ。助けていただいてありがとうございます、劉禅様」
 男は助けてもらった礼を言う。
「俺のことを知っているのか」
 俺は驚いて言う。
「はい、貴方は有名ですよ。関羽殿に匹敵するほどの武を持ち、御使い殿に反逆するほどの気概の持ち主だと」
(……俺は関羽には勝てなかったんだけどな)
 俺は内心で呟く。
「それに、私は一度、貴方を成都でお見かけしたことがありますから」
(北郷を殺す為に成都の近くまで戻って来たんだが、これじゃあ俺が先に捕まってしまうな。戦ではあまり表に出なかったから民には顔は割れてないと思っていたが、案外知られているようだな)
 俺は普浄の言葉を聞いて考え込む。しかし普浄は気にせず話し続けた。
「劉禅様。もしよろしければ、私の村まで来ませんか。御礼ぐらいはさせていただきたいと思います」


 普浄に連れられて、俺はある村にたどり着いた。
「普浄様、ご無事で何よりです。で、この方は?」
 この村の村長らしき人も出迎える。
「この方は私を賊から助けてくれた命の恩人です」
「そうですか。普浄様を助けていただいてありがとうございます」
 村長は俺に頭を下げた。
「普浄どのはこの村で大事にされているようですね」
「そりゃあ、普浄様は以前、私どもを賊から守ってくださいましたから」
 村長は胸を張って言う。
「そんな大げさな。賊って言っても、たった十人程度ですよ」
「それでも、武力を持たない私たちにとっては一大事ですよ。普浄様はこの村の恩人なんです」
「やめてくれ、恥ずかしい!」
 普浄は照れて叫んだ。

「普浄様、お帰りなさい」
 普浄の家に着くと、数人の子供が出迎えて普浄にしがみついた。
「ただいま。客人が来てるから、今日は家の中では静かにな」
「はーい」
 子供達は普浄に返事をして、外へ駆けて行った。
「普浄どの、あの子らは?」
 俺は部屋に案内されると、普浄に尋ねた。
「戦や賊によって親を失った子らです」
「戦や賊か……」
 普浄は一息ついて、話を続ける。
「貴方の前でこう言うのもアレですが、劉備殿や御使い殿の失策のせいで、いまや成都の周囲では賊がはびこる状態です。劉備殿が要らぬ情けを賊にかけた為、賊が増長してしまったのです。私は、賊に情けをかけたのは最大の失策だと考えています」
「普浄どのは随分と手厳しいですな。賊とて同じ人であろう?」
 俺は普浄の言葉に少し驚く。
「私にとって、情けをかけるべき相手は、この子供達であり、悪人にかける情けはありません。たしかにやむを得ず賊に身を落とした人もいるでしょう。しかし民を手にかけた事実は消えません。民の為にも、賊は見逃すべきではありません」
「……たしかにな」
 普浄の意見に俺は納得する。
「今や蜀の中枢は腐りかけています。御使い殿は女に溺れ、武官も御使い殿に骨抜きにされ、軍部はダラけた状態です。政治も孔明殿、ホウ統殿に任せきり。これでは民は不安です。劉禅様、御使い殿を討ち、私たちでこの国を変えましょう!」
「国を変える、か……」
 俺は呟いた。今まで見てきた村は、どこも賊に怯えながら暮らしていた。たしかに孔明やホウ統達の政策で成都の街は活性化しつつある。しかし人材不足の為、地方にまで行き渡っていない。また軍部が腐りかけている以上、そろそろ変革が必要かもしれない。
 北郷を斬って、桃香の目を覚まさせる。それでもダメなら、俺が桃香の代わりに皇帝になる。
「普浄どの。俺と一緒に来てくれるか」
 普浄は、俺の問いに笑顔で答えた。
「はい。喜んで」 
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