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世界の片隅で生きるために

作者:桜里
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プロローグ
  落ちてきた私と師匠

「遅いっ!! 指を立てたらすぐに凝って言ったでしょうが」

「うぅ……師匠の鬼!!」

 殴られた頭の痛みに、思わず悪態をついてしまう。
 私を殴った師匠は、怒っても可愛らしい表情で赤色のゴスロリドレスのスカートの裾を軽やかに揺らしながら睨んでくる。

「強くなりたいって言ったのはスミキ、あんただわさ。あたしの弟子なら四の五の言わずにやるっ」

 そう言いつつ、またひっそりと指を立てた師匠に気がついて慌てて私は凝を使う。
 目に力を込めるというか……集中すると、その指先に念で作られた数字が見える。

「6!!」

「正解」

 満足そうに師匠は微笑んだ。







 私は井上 澄樹(すみき)
 男みたいな名前だが、れっきとした女である。男の孫が欲しかったお祖父ちゃんが付けてくれた名前で、自分でもちょっとこの名前には困らされていた。

 ……過去形なのは、マンガのハンター×ハンターだったこの世界に、私が落ちてきてしまったから。

 元の世界の最後の記憶は、海外旅行に行くために乗っていた旅客機が天候不良時にエンジン故障で海へと墜落する瞬間だった気がする。
 あれから二年たった今でも、悪夢として時々見るくらいだ。

 そして、何故か師匠に拾われ今に至っている。

 私の師匠は、ビスケット=クルーガー、通称ビスケ。
 原作のGI編で主人公たちの師匠となる人。
 見た目は金色の髪の人形のように可愛らしい少女。

 実際の筋骨粒々としたあの姿は、私は見たことはない。

 ちなみに、宝石の原石を求めてアイジアン大陸にある原生林の奥の鉱山まできた所、上空から光を放ちながら私が落ちてきたそうだ。
 ……思わず、それを聞いたときに「親方! 空から女の子が!!」という、あの有名なセリフを言いそうになった私を誰もせめはしないはず。

 それで、色々身の上を聞かれたりなんだりして、かなり怪しまれたんだけど……まあ、ここがマンガの世界だということだけは隠して身の上を話して、信用してもらった。

 まあ、持っていた持ち物がこの世界にはないものだったしねえ。
 手持ちの細々したものを入れていた肩掛けタイプの布カバンも一緒にこっちに来たみたいで、その中にこの世界じゃ使われてない文字が使用された小説や、目的地だったイギリスのガイドブックとかモバイルPCとかMP3プレイヤー(ipodじゃない)とか化粧品が色々入ったポーチとか出てきたから。
 漢字自体は、ハンゾーの出身地だっけ? ジャポンは漢字を使ってるみたいだけど、ひらがなとカナは存在しないみたい。

 師匠が、こんな私を拾ってくれた理由は実は他にもある。

 私……もうすぐ三十路、アラサーの28歳なんだ。
 でも、この世界に来たら若変ってしまったのか、どう見ても14~15歳くらい……いや下手したら、もっと下かもしれない。
 PCに取り込んでおいた元の自分の写真を見せたら、師匠はかなり興味津々だった。
 師匠は念能力で若返りしているわけだし、もっと他に方法があれば楽だと思っているのは間違いない。リアル50代だしねえ……。

 原因不明だけど、それを解明できれば自分にも転用できるかも!? と師匠は思ったらしい。
 結局、解明はできないまま今に至っているんだけれど、当初は師匠としてではなく、迷子(研究材料)の保護者だった。




 それが師匠になったのはいつからだったっけ……?

 確か、ハンター試験の283期の試験官に師匠がなった時だから、拾われてから一年くらい過ぎた辺りだ。
 それまで私は師匠の家でお世話になり、時々師匠の研究に付き合いつつ、家政婦代わりに家事をして過ごしていた。

 主人公のゴンたちがハンター試験を受けるのは287期。
 原作が始まる五年前に私は落ちてきたのだ。
 それに気がついた私は、原作となるべく関わらないでこの世界を生きていこうと思った。

 普通、原作のキャラたちと積極的に関わるんじゃ? とか思う人もいるだろうけど(実際、重要人物の一人ビスケの世話になっていたわけだし)、私はなるべく原作はそっとしておきたい。なので、極力原作キャラとは接触は避けるつもりだ。

 自分が関わったせいで――バタフライ・エフェクトによって話が横道にそれるとか面白くない。

 元の世界に戻れれば一番いいけど、現状では帰れるあてはないし、最後の記憶が落下する飛行機の中だから戻ってもその時点で死亡フラグが立っている。
 そしてここでは、私の身分を証明するモノもなにもなくて、普通の仕事をすることも無理だ。
 このままでは、ビスケの専属家政婦として一生を過ごすことになってしまう。



 身分証明として使える何か。
 それさえあれば就職、そして食べることに困らないもの。


 ……あるよ、あるじゃない!


 ハンターライセンスがっ!



 という連想をしたあとに、そう簡単には弟子にしてくれないだろうなーと漠然と思っていた私だったけど、頼んだらあっさり許可もらえた。
 むしろ「いつになったら弟子にして下さいと言ってくるかと思っていたわさ」と呆れたように言われた。

 それからは、師匠とは色違いのゴスロリ服を着るようになった。
 黒と白のコントラストのドレス。やたら長いストレートの黒髪と合わせて、暗いところで見たら軽くホラーだ。

 もちろん、これは師匠が用意したもの。
 弟子になったら、着せたかったらしい。

 ―――ちょっと、後悔したのは秘密だ……。



 そして弟子になったばかりの頃は、そんな風に見た目以外は保護されていた時とあまり変わらなかった。
 しばらくの間は、体力をつけることと、それにプラスして、身が守れない私のために護身術を教えてくれた。
 格闘のかの字も知らない者に教えることは、とても苦労したんじゃないだろうか。

 まあ、ゲームは好きだったから、格闘ゲームは得意だったんだけどね。

 ……いい歳した女が一人でゲーセン行ってたってどうなんだろう。
 女子力足りないといわれるのはそこが原因?

 KOF、餓狼伝、サムスピ、GG、メルブラ、鉄拳にSCと……微妙に偏ってるけど気にしたら負けだ。
 使用キャラは、基本女性キャラ。小柄で素早いキャラが好み。
 例外は、KOFXIと餓狼MOWとメルブラ系列くらいかな?
 XIは主人公チーム使ってたし、MOWはカイン、メルブラはワラキアの夜を持ちキャラにしてたから。
 オズワルドはあのカードを使う暗殺術が好きで、カインとワラキアの夜は見た目が好みだったんだ。
 使いにくいキャラばっかりだったけど、そこはキャラへの愛で乗り切る。……でも、溜めキャラはほんと使いにくくて困る。
 アッシュとカインの必殺技コマンドは変えるべきだと思います。

 ……しまった、格ゲーの話でつい熱くなってしまった。

 まあ、ともかく。保護者から見ても、手が掛かり過ぎるから自力で何とかさせるために弟子と称させたんじゃなかろうかと今は思う。納得できるあたり、ちょっと悲しいけれど。

 念のことも、話にもでない。

 別にそれは想定の範囲だったので「ああ、やっぱり教えてはくれないんだなー」と思っていたし、ハンター試験に受かったら改めて習えばいいやと簡単に考えていた。
 
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