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ニュルンベルグのマイスタージンガー

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第一幕その十三


第一幕その十三

「マイスター達の判断は何にもならないことになります」
「いっそのことです」
 ベックメッサーは少し投げやりになってまた言った。
「娘さんに選んでもらっては?試験なしに」
「まあそういうことを仰らずに」
 ポーグナーはここでまた周りの騒ぎを止めて述べた。
「マイスター達が賞を与えようとするその者を娘は拒むことができます」
「それが問題なのです」
 ベックメッサーは口を尖らせて指摘する。
「それはマイスターをです」
「しかしその者はマイスターでなくてはなりません」
 ポーグナーはこうも注釈を入れるのだった。
「決して。いいですね」
「マイスターでないといけない」
「マイスタージンガーと」
「そう、それ故貴方達が勝利者と定めた者とだけ結婚できるのです」
 ポーグナーはここまで語った。それを聞いたザックスはここで周りに対して言うのだった。
「お待ち下さい」
「ザックスさん」
「何か」
「皆さんの御意見ですが」
 ここでまずはベックメッサー達を制止する。
「行き過ぎです」
「行き過ぎ!?」
「我々が」
「そうです。行き過ぎです」
 こう彼等に告げるのだった。
「乙女の心とマイスターの芸術とは同じ情熱に燃えているとは限りません」
「同じではないと」
「そう仰るのですか」
「そうです」
 ザックスはまた言うのだった。
「教えを受けていない女性の感覚は民衆の感覚と同じと思われます」
「やはりそれが問題なのでは?」
「ですなあ」
 マイスター達は今のザックスの言葉を受けてまた言い合う。
「やはりそれこそが」
「問題です」
「貴方達が芸術を高く尊重されることを民衆の前に示そうとなさり」
 ザックスはさらに語る。
「娘さんに洗濯の権利を与えるにしても皆さんの決定に背くことを欲しないというのなら」
「そうならば?」
「どうされると」
「民衆を審判にされてはどうでしょうか」
 ザックスの提案はこれであった。
「彼等はきっと娘さんと同じ審判を下されるでしょう」
「またそれは」
「ちょっと」
 マイスター達は今のザックスの提案にかなり困った顔になった。とりわけコートナーはこう言うのだった。
「それは意味がないです。民衆に規則を委ねても」
「よく聞いて下さい」
 しかしザックスは粘り強く語りだした。
「貴方達は御存知の筈です。私がマイスターの歌の規則を心得ており、またこの組合のことを心から考えていることを」
「それはそうですが」
「その通りですが」
「しかしです。その規則は年に一度は吟味されるべきです」
 今度の提案はこうであった。
「習慣の惰性によって力と生命が失われていないか。自然の道を歩んでいるか」
「それですか」
「そう。それを告げるのはただ作歌規則を知らない人達だけです」
「幾ら何でも無茶では?」
 ベックメッサーは首を捻ってザックスに反論した。髭のない彼が髭の濃いザックスの横で動くとさらに目立った。
「それは」
「ですな。確かに」
「それは」
 マイスター達はザックスの今の提案にはしゃごうとする弟子達をそれぞれ目で見回して制止させながら言い合った。
「だからです」
 ザックスはまた語る。
「毎年ヨハネ祭の時にはマイスター達が民衆に来いと呼び掛けるのではなく」
「そうではなく」
「自ら雲の上から降り」
 マイスター達をこう表現するのだった。、
 
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