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フィガロの結婚

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42部分:第四幕その六


第四幕その六

「臆せず私の憧れのあの方の腕の中で喜びを感じる時。けれどそれが不安な気持ちをかきたてる」
「やはりそうか」
 フィガロはスザンナの言葉に気付かないうちに煽られる。
「あいつ、やっぱり」
「私の胸から消え去って。私の最愛の喜びを邪魔しに来ないで。この燃える愛の炎にこの心地よい場所も大地も空も答えているようだわ」
「おのれ、おのれ」
 スザンナの言葉を聞いてさらに歯噛みする。
「やはり、やはり」
「夜が私の秘密を助けてくれるようだわ」
「まだ言うのか、まだ」
「早くおいで、美しい喜びよ」
 これが誰への言葉なのか。フィガロは今は気付くことができない。
「愛が快楽の為に御前を招いているところにおいで。夜の明かりが空に輝き」
 さらに言葉を続ける。
「大気がくすみ世の中が黙している間に」
「愛を果たすというんだな」
「ここでは小川が呟きそよ風がたわむれ」
 言葉はまだ出されていた。
「甘い囁きで心を蘇らせる。ここでは花は笑い草は新鮮に全てを愛の喜びに誘い込む」
「まだ言うのか?あの女」
「早くおいで、私の恋人。この隠された木々の間で貴方に薔薇の冠を被せてあげるわ」
 フィガロはずっと自分自身が見られていることがわからず地団駄を踏んでいた。するとここにまた来客だった。今度は誰かというと。
「あれは」
 夫人は彼の姿を見て声をあげた。
「ケルビーノ!?まさかこんなところに」
「そういえばバルバリーナはあずまやにいるって言ってたっけ」
 彼女の言葉を思い出しながら先に進んでいる。
「それじゃあこっちだな。んっ!?」
「あっ」
 夫人は折り合い悪くケルビーノと出会ってしまった。思わぬ事態だった。
「スザンナ?ひょっとして」
「しまった、見つかったわ」
「近寄ってみるかな」
 またケルビーノの好奇心が沸き起こった。
「そおっとね。そおっと」
「困ったことになったわ」
 夫人は彼が自分のところに近付いてきているのを見ながら顔を曇らせた。
「あの人がこんなところを見たら」
「ねえスザンナ」
 ケルビーノは服から彼女がスザンナだと思いこんでいる。
「どうしてそこにいるの?ねえ」
「あっちに行って」
 夫人はたまらすこうケルビーノに言った。
「あっちに。いいわね」
「そんなこと言わないで」
 しかしそんなことを聞くようなケルビーノではなかった。
「優しくしてよ。つれないなあ」
「さて」
 今度はまた別の声がしてきた。
「この辺りだが」
「出たわね」
「出て来たな」
 スザンナとフィガロは今の声を聞いてそれぞれ声を出した。
「鳥刺しさんのおいでね」
「いよいよだな」
「ねえスザンナ」
 ケルビーノはその声にも気付かず夫人とスザンナと思い込んだうえで声をかけ続けている。
「そんなに冷たくしないで」
「むっ!?」
 伯爵もその声に気付き顔をそちらに向ける。
「あれは」
「ケルビーノね」
「あいつだな」
 スザンナとフィガロもそれぞれ彼に気付いたのだった。
「またうろうろとして」
「何処にでも出て来る奴だな」
「あ奴、またしても」
 伯爵は彼の姿を認めてまずは怒った顔になった。
 
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