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フィガロの結婚

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21部分:第二幕その十三


第二幕その十三

「申し訳ありません」
「馬鹿な、そんな筈がない」
 しかしそれにアントーニオがすぐにクレームをつける。
「何時の間にそんなに大きくなったのだ?飛び降りた時はずっと小さかったというのに」
「誰がこのままの格好で飛び降りるものか」
 そのアントーニオに平然と返すフィガロだった。
「身軽にならなければな」
「嘘をつけ、嘘を」
「わしは嘘は言わんぞ」
「そうよ、フィガロ程正直な人はいないわよ」
 スザンナもここぞとばかりにフィガロに加勢してきた。
「それは保障できるわ」
「ふむ」
 しかし伯爵はここで考える顔になる。顎に右手をかけたうえでだ。
「アントーニオ。そなたはどう思う?」
「私にはそうは見えませんでした」
 アントーニオはここでも正直に述べるのだった。
「あれは小僧ですね」
「そうか。やはりな」
 伯爵はアントーニオの言葉にまた納得した顔になる。
「それではな」
「まあそうでしょうね」
 ところがフィガロはここでもフィガロであった。相変わらず平然としている。
「あの小僧、街から馬でここに来ましたから。戻って来て」
「いや、それは違う」
 アントーニオはここでもフィガロと対立する。
「わしは馬は見ていないぞ」
「何が何だかわからんぞ」
 伯爵もいい加減話が把握できなくなってきて困った顔になる。
「もうこの話はこれ以上話しても無駄か」
「そうなりそうね」
「はい、そうですね」
 夫人とスザンナも顔を見合わせて言い合う。
「それならいいけれど」
「けれど。この妙な流れがどうなるか」
「そえでフィガロ」
 伯爵はむっとした顔になってフィガロに声をかけてきた。
「そなたがこのバルコニーからだったな」
「はい、飛び降りました」
 彼は伯爵に問われても平然としたものだった。そしてバルコニーを指差して話す。
「あのバルコニーから」
「それは何故だ?」
「恐ろしさのあまり」
「何が恐ろしいのだ?」
「あちらでスザンナを待っていたのです」
 右手の召使の部屋を指差しての今度の言葉だった。
「あちらでです」
「何故あそこで?」
「少し楽しもうと思いまして。ところが外で伯爵様のお声がしまして」
「私の声が?」
「書いたあの手紙のこともありまして」
 その手紙のことも話すのだった。丁度いいタイミングだった。少なくともフィガロにとっては。
「それで恐ろしさのあまり飛び降りて足の筋を痛めてしまいました」
「むう」 
 伯爵はあまり信じてはいない顔でフィガロが足をさすっているのを見ている。そしてここでアントーニオも半信半疑な顔になってそのフィガロに問う。
「ではこの手紙もあんたのものか?」
「その通り」
 フィガロは彼が差し出したその手紙を見て答える。
「それを早くわしに戻せ」
「いや、待て」
 だが伯爵が横から口を出してきた。
「これは私が貰っておこう」
「はい、それでは」
「あっ」
 フィガロは伯爵がアントーニオから手紙を受け取ったのを見て声をあげたがこれは演技だった。実際は内心会心の笑みを浮かべていたのだった。
(これでよし)
「そうね、とりあえずはね」
「上手い具合になってきたわ」
 スザンナも夫人も彼の顔を見て納得した顔で頷く。しかしここで一切のことに気付いていない伯爵は手紙の中身を少しだけ見てからフィガロに問うのであった。
 
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