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フィガロの結婚

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2部分:第一幕その二


第一幕その二

「わしは使い走りで御前は秘密の伯爵夫人で大使夫人」
「いいお話でしょ」
「そうだな。こんなにいい話はない」
 言いながら立腹している。
「よし、それならだ」
「覚悟を決めたのね」
「伯爵様、若し踊られたければ」
 ここでギターを奏でる動作をしながら言い出すのだった。
「わしはこうしてギターを奏でて差し上げます。若し学校において下さればわしはカプリオーラ、バレエの跳躍を教えて差し上げましょう」
「それはいいのね」
「そう。しかし」
 彼は言うのだった。
「謀略は許しませんよ。そうそうお勝手な謀略は」
 これが彼の決意だった。
「巧妙な策略、大胆な振る舞い。こちらの武器でその様な目論見は全て覆してみせますよ」
「じゃあフィガロ。後は」
「ああ、やるぞ」
 こう言い合う二人だった。その頃屋敷の白い廊下では二人の初老の男女があれこれ話をしていた。二人は白い絹のカーテンと窓の向こうのエメラルドグリーンの草原を見ながら話をしている。男の方が背が高く太めで威厳を持たせようとしているがどうにもおかしさというか滑稽さも併せ持っている男だった。服は緑の貴族の服で襟や袖のフリルに膝までのズボンと編み上げ靴にシルクの靴下が彼が貴族であることを示している。
 女の方はスザンナとほぼ色違いである。エプロンは白だがスカートはブラウンでブラウスは赤っぽい。赤茶色の髪で結構皺が目立つが中々奇麗ではある。どういうわけかフィガロに似ている感じがする。
「のうマルチェリーナ」
「何ですか、バルトロさん」
「今日を待っておったのじゃな」
「勿論ですよ」
 マルチェリーナはその手に契約書を出してからまたバルトロに述べた。
「この日にこれを出せば二人の結婚式は終わりですね」
「ふむ。借金を払えなければ御前と結婚するとあるな」
「これを見せれば」
 にこにことしてバルトロに語る。
「フィガロは私と結婚するんですよ」
「随分年齢が離れておるのう」
「愛があれば年の差なんて」
 勝手なことを言い出した。
「そうじゃないですか」
「うむ。フィガロにはわしも借りがある」
 実は彼は元は伯爵夫人の保護者だった。その財産を狙って彼女と強引に結婚しようとしたのだがそこでフィガロに邪魔されて伯爵に彼女を取られてしまったのだ。それで恨みがあるのだ。
「それではここは仇討ちじゃ」
「仇討ちですね」
「仇討ちこそ賢い者に残された楽しみ。恥や不名誉を忘れるのは卑劣なことじゃ。下賎な輩のすることじゃ」
 こう言うのであった。
「悪知恵を働かせ才気を以って思慮深くかつ良識を喪って動けばやりおおせる」
「では私に協力して下さいますね」
「御前とわしの仲ではないか」
「ええ。かつては一度は夫婦だった」
「そうそう」
 意外な関係である。
「子供はどっかに行ったがのう」
「あの子は何処に」
 このことを思い出すと悲しい顔になったがそれは一瞬だった。バルトロはまた言い出した。
「目次を読み尽くすまで本を読んでも曖昧な言葉や同義語は何たかの混乱から見つかる。このセヴィーリアに知られた賢者バルトロ様がフィガロを御前の二番目の夫にしてみせようぞ」
「期待していますよ」
「うむ、期待しておるように」 
 こんな話をしてから二人は別れた。マルチェリーナは廊下を歩いているとここで前にスザンナを見た。早速言うのだっや。
「あの美しい真珠の玉をお嫁さんにしようと言っていたわね」
「私のことね」
 当然スザンヌも彼女に気付いていて声も今聞いた。それですぐにわかった。
「けれど世の中行き着くところはお金。先立つものはまずそれ」
「言うわね」
 スザンナはそれを聞いてむっとした。
「誰でも自分の値打ちは知っているわよ」
「控えめな目つきでおしとやかな素振りだけれど」
 今度は聞こえないようにしながらスザンナを見ていた。
「野ってきたわね」
「やり過ごそうかしら」
 お互いに剣呑な調子である。
 
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