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東方攻勢録

作者:ユーミー
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第七話



(なに? ……力が……抜けて……いや、違う。吸い取られてる!?)


脱力感が体中を駆け巡る中、幽香は微かに自分の力が手錠に流れていってるのを感じ取っていた。

目の前の男達が何かをしているそぶりはない。だが、確実に手錠は幽香の力と体力を奪っていた。


「うぐっ……あぁ……」


なんとも言い難い感覚に、思わず声をあげてしまう幽香。それを見て、男達は再び笑みを浮かべていた。


「威勢がいいのは最初だけか? 余裕ぶっこいてたわりには、かなり弱ってんじゃねえか」

「ちっ……こざかしい……マネを……くっ!」


膨大な力を吸い取られた幽香は、片膝をついて息を荒げていた。幸い、これ以上の吸引はないらしく、手錠も光り続けてはいたがなにもしようとはしなかった。


「これで貴様もただの弱小妖怪。それでどこまでやれるかな!」


男はそう言って何かを操作すると、倒れていたメディスンが起き上がり、幽香にゆっくりと近寄り始めた。


「ちっ……まだ動けるわね……」


残った力を振り絞り、よろけながらも立ちあがる幽香。だが、その表情には、さっきまでの生き生きした色は見えていなかった。










「なにが……おこったんだ……」


向日葵畑の間に隠れていた俊司達は、目の前で起こった予想外の出来事に呆気にとられていた。


「あの風見幽香がここまでおされるなんて……それもすべてあの手錠のせいでしょうね」

「どうするんですか映姫様。幽香さんに手は出すなと言われたばかりですよ?」

「こうなってしまえば、助けるしかありません。ここで風見幽香を失えば、我々がここに来た意味も失ってしまいます。それに……メディスン・メランコリー……かなり様子がおかしいですね」

「おそらく……操られてます」

「そのことについては、ずいぶん前に情報を得ています。ですが、今回はそれとは関係がないみたいですね……」


革命軍が幻想郷の住人を無理やり仲間にする際、人質をとるかあるものを使用する。いままで俊司が見たことがあるのは、『タイプA』と呼ばれていたチップのみだった。

『タイプA』というのは、何らかの方法によって幻想郷の住人の思考を、『幻想郷を守る』から『革命軍の手助けをする』に変更するチップである。チップを取り付けられた住人は、意識を失い制御されるのではなく、自身の性格や考えを持ったまま、ただ革命軍を助ける・革命軍の命令に従うことを優先に行動するようになる。

欠点と言えば、開発に無理やり加入させられていた『河城にとり』によって作られた、『記憶が残る』ということ。にとりは自身の居場所や革命軍の作戦を伝えるために、他の仲間を信じて制御をいじっていた。そのため、チップを無理やりはがした際、被検体に副作用でなんとも言いがたい苦痛を発生してしまうようになってしまったが、永遠亭の襲撃や霧の湖の拠点を伝えることに成功している。

だが、今目の前にいるメディスンは、『タイプA』をつけているにしては様子がおかしかった。何もしゃべらず無表情のまま幽香に立ち向かう姿は、自我を持ったままとは言い難い。ましてや、彼女が行動を始める際は、必ず男が何かを動かすそぶりを見せていた。


「結局どうするんだい?」

「まず僕があの機械をなんとかしてみます。小町さんはころ合いを見て男達の後方に飛び、攻撃を開始してください。映姫さんは、男たちが混乱したのを見計らって、メディスンさんと幽香さんの保護に向かって下さい」

「了解」

「わかりました」

「では、よろしくおねがいしま」

「待って下さい」


すぐに行動に移ろうとした俊司に、映姫は声をかけた。


「なんですか?」

「行く前に約束を。今フードをかぶっているので視覚で正体がばれることはないと思いますが、それ以外で正体をばらすようなことはしないでください」

「と……いいますと?」

「たとえば、スペルカードを『詠唱して』使用するのをやめる。もしくは、正体がばれそうなスペルカードは使用しない。そういったことですね」


出発前にも話していたが、映姫は俊司が死んだことを利用して、革命軍に俊司の存在が伝わらないようにしている。それによって、革命軍の油断を一気に突こうと考えているのだ。

もし、スペルカードを詠唱した場合、過去に俊司が使用していたことから彼の存在がばれやすい。ましてや、変換『コンバートミラー』を使用するとなると、隠し通すのはさらに難しくなる。

俊司にはより慎重な立ち回りを要求されていた。


「……わかりました。何とかしてみます」

「お願いします」


俊司は二人に軽く礼をしたあと、ゆっくりと行動を開始した。


「さて、俊司君のお手並み拝見ですね」

「そうですね。どのようにしてあの機械をばれずに壊すのか……」


映姫はそういいながら軽く笑みを浮かべていた。








「ここらへんか」


数十秒後、俊司は誰にも見つかることなく、男達の側面に回りこんでいた。

目の前ではメディスンと幽香が戦闘を続けている。凶悪な力を持つ幽香でさえも、手錠の効果のせいか、互角というよりかは劣勢の戦いをしいられていた。


「やっぱりあの男の腕についてるキーボード……あれがコンピューターになってるのか。ならメディスンさんを操っているのはあれのせい…だろうな」


メディスンが行動を起こすたびに、男はキーボードを使って作業を行っていた。おそらく、行動の指示や微調整を行っているのだろう。

まずはあれを止めないと幽香が危ない。そう考えた俊司は、ポケットからあるカードを一枚取り出した。


(あの武器は科学的にはすでに証明されてたはず……ちょっと無理やり感はあるけど、使えないわけじゃないはず!)


一息ついて鼓動を落ち着かせた俊司は、ゆっくりとカードを発動させた。


変換『科学で証明されし弾薬』






「何だ!?」


俊司がスペルカードを発動させた瞬間、青白い光が男達を襲っていた。


「今の光……スペルカードでしょうか?」

「さあな……しかし、まだ敵がいるということか。おい、確認してこい」

「了解」


二人の男が、光が現れた場所を確認しようと動き始める。


(いったい誰が……!)


向日葵畑の間を凝視していた男は、かすかに光る黒い物体を目に捉えていた。どこかで見たことのある小型の物体は、一瞬で危険だと判断できる物体だった。


「たっ退避!」


男がそう叫んだ瞬間、乾いた発砲音があたりに響き渡る。

その数秒後、男達のすぐそばで空気が噴出するような音がゆっくりと流れていった。
 
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