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不可能男との約束

作者:悪役
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覇は未だに唱えられず

 
前書き
まだだ

まだ、始まらない。まだ進まない。

だけど、もう止まらない

配点(これから) 

 
「───さて諸君。私は今、実に機嫌が良い……」

本多・正信邸の一室において、暫定議会議員のメンバーに囲まれながら、本多・正信が深い感慨とともに言葉を吐き出した。
その感慨深さを理解しているメンバーは全員、うんうんと頷き、次の言葉を待つ。
正信ははぁー、とわざとらしく息を吐き、その間を楽しんでいるかのように笑い

「まだ正純は帰ってこれないが……ようやく会いに行ける。解るか? 私は今から再会の時に正純に抱きついて心配するという行為が許されるのだぞ……!」

「くっ……! 何とも卑怯な父親……!」

全員が演技ではないマジな悔しさという表情を前面にだし、睨みつけるが本人は無視する。

「悔しいかぁ? だが、この権利は如何な権益を渡されても譲る気はない。無論、見る事───」

も不許可だ、と告げようとした口の動きよりも早く動く者がいた。

「コニタン……やはり、ここで貴様が動くか……」

「なぁに……別に特別な商品や権益を渡すというわけではないですぞ」

正信は危機感を感じる小西の表情に何かが来る、と身構えていたら何時の間にか目の前に表示枠が浮かんでいる。
その表示枠は思った通りに小西からのであり───録画術式であった。
そして内容は

「コニタン……貴様……!」

「おやおや、ノブタン。どうしたのですかなその表情は? 別に私は攻性術式を出しているわけではないですぞ。ただ、私はノブタンが娘との交流を思い悩んでいるから、手助けをしようと思い、君のここ二週間の記録をアルバムとして一緒に見ればどうですかなと提案しているだけですぞ」

「くっ……!」

全員が小西の言った内容に息を詰めた。
理由が解らなかったからではない。理由が物凄い解ったからである。
普通の御家庭なら冗談レベルで済むが、本田・正信の名誉の為にボヤかして言えば、見せた瞬間に本多家が崩壊してしまう。主に、本人の悲嘆と娘の感情表現によって。
今まで作り上げたキャラが崩壊させられる驚きにに娘が耐えられるのかがポイントだが、中々難問である。
本多・正信……絶対の危機!? と全員で思わず中腰で様子を見守る中、正信はいきなり、という動きで立ち上がる。
その姿勢は前傾の姿勢であり、周りはごくりと唾を飲み、小西は口を横に広げた。

「やる気ですかな、ノブタン? 今の所、我らの勝率は五分五分───二分の一で地獄ですぞ?」

「Jud.前回は私の権益ゲージが溜まらずに必殺技を放てなかったが、今回はそうはいかんぞ───正純がいなかった事で私のリミットブレイクは5まで突破しているぞ……!」

「何の当たらなければどうと出来るのですぞ……! 必殺技はモーションが激しいので躱されたら絶死であるという事を何度でもその脳に刻みますぞ……!」

互いに構え、気を溜める。

「ミラクル充填!! 元気リンリン意気ヤァッホォーホォーーーーーー!!」

気合充電、元気満点。
神話が今始まる……! とテンションMAXになった瞬間。

「あ。輸送艦の方……正純君の方で女王の盾符(トランプ)が接触したみたいです」

全員が服装を正し、暴れたせいでずれていた椅子や机を直して、速攻で座り、表示枠を開いた。
表示枠に映った人物は三人。

「先の襲撃の時のベン・ジョンソンに……」

もう一人は女性の、しかし人間ではない。
自動人形である。
背後に十字型の操作機によって自らを操っている、正しく人形の

「"2"のF.ウォルシンガムか……」

そして、もう一人の眼鏡の短軀が

「"7"のチャールズ・ハワード。英国艦隊の所有者まで来たか……」

豪勢とも言える陣営に思わず驚愕よりも呆れの感情の方が強い。
大袈裟なと思ってしまう感情を否定することが難しい。
何せ、こちらは今まで武蔵という巨大な艦と貿易力を持っただけの暫定支配を受けていた極東の船である。
人材、経験、武装などを含めて明らかにどこよりも劣っている存在だったのだ。
そこに歴史の動きを許可する特務級の襲名者が三名。少し前を思い出せば、このような襲名者相手に接するとすれば多少の交流くらいしかなかったのである。
その事実に、一人笑う男がいた。
正信である。
クク、と押し殺そうとして失敗した声を、しかし無かった事にはせずに微笑を浮かべて表示枠を見る。
睨むのではなく見る。
そこには当然、彼が愛する愛娘がいるはずだ。ならば、娘が今、思っている事を自分は一方的に想像できる。
自分達は武蔵の、そして本多の政治家なのだ。ならば

「楽しいだろう、正純……歴史がお前と対面しているぞ……!」

襲名者と相対するというのはそういう事である。
彼らは力のみで襲名の権利を得るのではない。その力と意思を研ぎ澄ました人間こそが襲名者になるのである。
力を持っているだけでは三流。
意思だけでは二流。
二つを持ってこそ一流である。
その一流の人間に課せられた者こそが襲名者という存在なのだ。
なぁ、正純。

「ぞくぞくするだろ……? 歴史を相手にするという事は。政治家である私達の言葉で歴史、いや世界を動かせるのだから」

だから

「楽しめ、正純。恐れるものはないだろう? 何もかもを笑う不可能の王の支持を受け、疾走する刃がお前達の先導をしてくれる。王道を共に歩むのが武蔵のやり方だ」

ハッ、と心底愉快気に笑い、この瞬間さえも愉快の延長上だと思うと今までの人生がちょっと詰まらなくなってしまうのがまた面白い。
ハッ、ともう一度笑おうと思い───次の瞬間を見て呼吸が止まる。
原因は表示枠の中にある。
女王の盾符の背後に何時の間にか発生した水浸しのワカメを持った馬鹿がいたからである。






「へ、変態だーーーー!!」

全員で何時の間にか生えた副長を見て思わず合わせてしまうこの一体感にミトツダイラは冷静な自分が何ですの、これと思わず呟くがあんまり意味がない。
というか、どうしてこの副長はわざわざ女王の盾符の背後に立って、しかもこちらに指を突きつけるポーズ付きで出現するのだろう。
脳の病気か。じゃあ、仕方がない。

「おいおい、何だテメェら……俺様の華麗な登場を変態扱いってぇのは……脳の病気か。じゃあ、仕方がねえ……」

「ふ、副長! 冷静に言わせてもらいますが、頭、イカれてますわよ!?」

「率直過ぎるのもどうかと思うけどね?」

ハイディに言われるともう駄目かもしれない。
ともあれ、この狂い始めている空気を何とかしないと武蔵の威厳やら何やらがやばい。
全裸が総長である時点で既にやばいですわ、と理性が叫んでいるが気にしてはいけない。気にしてたらストレスがマッハで溜まる。

「ふ、副長? ど、どうしてそんなに濡れているんですの? 風邪ひきますわよ?」

とりあえず、無難にそのままだと風邪をひくのでとっとと離れてという言葉を丁寧にしたので出来ればこれに乗ってくれれば物凄い有難い。というかお願いしたい。
すると、彼は何を思ったのか。顎に手指をかけてふんふんと頷くと

「───聞きたいか!?」

ポーズを決めて笑顔を浮かべたので諦めが八割を支配した。
ぐっ、と思わず膝を着きかねん程の敗北感に身を浸しそうになったが、ここで負けたらプライド的な何かが砕ける。
だから、勇気を胸に秘めて頑張って微笑を作り、拳を握る。

「え、ええ! 出来れば簡潔に!」

「OKぇ……簡潔に言えば───智の愛で水も滴るいい男になったんだよ!」

横にいきなり表示枠が浮かんだ。

『こらーーー!! シュウ君はいきなりない事を大声で叫んでいるんですかーー! あ、ちょっと待って下さいハイディ! まだ上訴が聞き届けられて───』

笑顔で浮かび上がった表示枠を手刀で割っているこの商人相手にどんな感情を抱けばいいのか、と思うがこの固まった微笑を誰か何とかして欲しい。
そう思っていたら、脈絡もなく全裸が自分達の隣に出て彼と話し合う。
あっ、と思う暇もない。

「おいおい親友! 馬鹿な俺でも浅間に何をされたか想像できるから言うけど、実はオメェ、サドを装ったマゾじゃね!?」

「馬っ鹿野郎! トーリ……テメェは何も解っちゃいねえな……それでエロゲソムリエを自称すんのか!? ああ!」

「へっ。巨乳と巫女にしか拘らねえシュウに言われる気もねえぜ!? 悔しかったら信仰増やしてみやがれ!」

「俺は一筋なんだよ……テメェみたいにフラフラしてホライゾンに股間を殴られるようなマゾじゃねえんだよ……!」

「───おいおい! 皆! 俺、今、物凄くお前にだけは言われたくねえ! って内心で叫んじまったけど俺の感想間違えてねえよな!?」

同感ですけど、密かに否定していない気がしますわよ我が王。
そして、こっちを巻き込もうとしないで欲しい。正直、もうストレスが限界である。
あれだけ、会わなかったらちょっと、そうちょっとだけ。ものすごーーーーーーーーーぅくちょっとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉだけ張り合いがないと思っていた気持ちはどうやら一瞬で脳内ゴミ箱に捨てられてしまった。
再会の喜びという言葉が非常に無価値なのが残念過ぎる。
涙を浮かべて抱き合いなどというロマンは言わないが、もう少しまともな喜び合いはないのだろうか。
そうして、溜息を吐いて溜まっていくストレスをどう対処しようかと思っていたら

「あ、いました。シュウさん」

聞き覚えのない声で副長の名を呼ぶ声が聞こえた。
あら? と思い、声が聞こえた方向を見ると、そこには背はそこまで高くはなく、髪を後ろで括った巫女の少女が小走りで副長の方に向かっていった。

……成程。

彼女がさっきから話に出る留美……さん? という熱田神社の巫女なのだろう。
姿だけを見ると、可愛らしさを感じるのだが表情やら雰囲気が年上な雰囲気を出しているので一種のギャップが生まれているのが凄まじい。
智も見た目美少女なのだが、ジャンルが違う。
色々と大丈夫だろうか、と思う思考を別に時は勝手に進む。

「おう、留美か。他の馬鹿共はどうよ?」

「はい。コウさんもジンさんも碧ちゃんもハク君も元気ですよ」

聞きなれない名前を聞いて、そういえばと思う。

私達……余り、プライベートの副長の事、知りませんね……

もしくは私達じゃなくて私なのかと思うとあわ~~と少し落ち込んでしまう。
落ち着くのですネイト・ミトツダイラ。
そこでネガティブ思考に陥っては駄目なのです。何故なら陥っても結論は一緒で……あーーーー。
駄目ですわー私ーと思うが、最早性分ですわねーと思ってしまう。
自分でもこの性分はこれからの人生に支障を来たすだろうとは思うのだが、性分をそんなコロコロ変えることが出来ないのも事実なのでどうしたものか、と毎回悩んでしまう。
悩んでも解決策が一向に出ない脳は自分の数多くある欠点だと思い、再び無視してしまうというのも欠点なのだが。
ともあれ目の前には女王の盾符もいるので、こうも無計画なのはどうかと思うので何とかしなくては。
正純なんてもう脳がショートしているようで、さっきから固まっている。
ハイディは録画術式を構えたままだし、我が王は最初から除外である。

ここは騎士である自分がしっかりしなくては……!

自分しか今、まともに脳が働いている人間はいないのである。
ここで武蔵の騎士としてちゃんと働かなければどうする。武蔵の尊厳は今、この両肩に背負っているのである。
そう思って奮起しようと思い、無防備なメンバーに声をかけようとした刹那に留美さんが先に何らかの表示枠を副長に見せた。

「あん? 何だこ───」

れ、と言おうとした表情がそのまま固まった。
その態度に注意を促そうとする行動よりも、何だ何だという疑念が打ち勝ってしまい思わず?マークを浮かべてしまう。
そしてそれに答えるかのように固めた笑顔のまま、こちらも曇りのない笑みで微笑んでいる留美さんに聞く副長。

「おい……もしかして……これは……!」

「はい───シュウさんが隠していたエッチなゲームのタイトルです」

ついさっきまで感じていた感情が一瞬で抹消されて、代わりに生まれたのは同情というか哀れという感情であった。
二人がどういう関係かまでは流石にこの短い時間では読み取れないが、まぁ、少なくとも友人。深くいけば家族みたいな関係なのだろう。
恋人と思うには、ちょっと智応援派として待ったをかけたから。
まぁ、それでそういった対象にエロいのを見られるのは物凄い恥辱であろうと思う。どこぞの全裸と狂い姉は例外だ。あれは二人ともキチガイオープン系であり、彼女はそんな感じには見えない───

「姉と巫女系以外全部処分しましたので」

「お……あ……あ、ああ……!」

訂正。かなりの豪傑であった。
余りのショックに副長が膝をついてマジ泣きしている。
いいのですか、それでと思う所を副長が先に叫ぶ。

「ま、負けていねえ……! 俺は負けちゃいねえ……! 負けて諦めた時が本当の負けなんだ!? な、なぁ、そうだろ馬鹿親友!」

「シュウ! オメェ、格好つけているつもりなんだろうけど、絶対に物凄く負けているからアウトだぜアウト! そして解ったか……普段、オメェが俺にしている仕打ちが! このエロゲ嫁を砕かれる理不尽に対しての憤りが……!」

2人とも格好いい事を言っているように見えるが、内容は非情に馬鹿みたいな事を言っているので両者アウトである。
故に両者が持っている役職については忘却したい。これで、一国を率いる総長&副長なんて武蔵の恥である。
出来るなから縛って隠し置きたいレベルだが、既に女王の盾符に全恥部を見せてしまっている。
武蔵の国際的威厳、潰えたり。
後は騎士ではどうしようもない領分なので正純に任せよう。それが一番、最善策である。決して投げたわけではない。きっと……。
そして、項垂れていた副長も項垂れているだけではいけないと思ったのだろうか。とりあえず、立ち上がって深呼吸をし、何かを言おうとしたところを留美に先手を取られる。
それは

「……今度は何だ? この紙袋?」

「いえ……流石に他人の物を勝手に燃やすだけじゃいけないと思って……代わりの物を」

ぐっ……と再度ダメージを受けたかのような表情を浮かべる。
こちらはと言うと思わず半目で睨んでしまうのを止められない。
いや、まぁ、いやらしいゲームを買うのは男の人として仕方がないかもしれませんし? それを隠すのも解るが、最初の辺りの話を聞かずに聞けば同年齢の女の子にエロゲを買いに行かせた酷い男の図である。
剣神、情けない。

「そ、そうか……あー、いや……うん、サンキューな。かはは……ちなみにどんな物を?」

「Jud.その辺りは余り解からないので、店員さんに聞いて買いました───姉系と巫女系と巨乳系のタイプのものを」





ハイディはゴクリと息を呑む音が周りに響いたのを聞いた。
自分もその響かせた者の一人である。

……まさかエロゲ攻めとは……新しい攻略法……!?

男の方から自分のタイプの嫁のエロゲを買うことはよくある。
しかし、まさか女の方からエロゲを利用して自分を売り込むとは凄い恋愛好戦家である。

『アサマチ! アサマチ! いいの!? 絶対に今までの消極的な戦法がヘタレである事を証明するような光景が目の前に広がっているけど!? このままだとワンサイドゲームだよ!?」

『ククク、恋愛好戦家と恋愛ヘタレじゃ分が悪いわねぇ……最終手段よ浅間! 乳じゃ同レベルなんだからもう押し倒すのみよ! 安心しなさい! いざという時はあの馬鹿の根性加護を殴り倒せる悲嘆の怠惰をホライゾンに借りて殴って気絶させればKOよ! 後はその乳を押し付けて窒息死させたらイケるわ!? カンカンカン! エイドリアァァァァァァァァァーーーーン!!』

『あ、明らかに二人とも楽しんでいますね!? い、何時も何時もネタにばかり飛びついて……! だ、大体、シュウ君がどうなろうとわ、わ、私には関係ありませんから!』

『浅間。端的にいうが無理をしない方がいいと拙僧思うぞ』

以下同文。
アサマチはそこら辺、往生際が悪いねーと思うが、それもアサマチの性分だろう。
だから、からかうが。
ついでに、色んなところに売るが。
とりあえず、現在、敗色が強い我等が副長はそれはもう冷や汗だらだらである。絶対に海水などではない。
それに、さっきから周りから殺気が凄い。これはもう、シュウ君は今日寝れないなと思う。

「そ、そうかよ……ちなみに何て風に買ったんだ?」

「はい───片思い中の人へのお詫びとしてのプレゼントが欲しいのですがと尋ねました。すると、何故か周りの皆さんが急に真面目な顔になりましたが」

笑顔で小首を傾げる小動物チックなアクションと共に止めを刺された神様。
ふっ、と何故か彼は微妙に男らしい笑顔を浮かべて

「トーリ。後は頼んだ」

そのまま笑顔で後ろに倒れた。
ドサッという軽い音が嫌に空しく聞こえたが、何時も通りだねと思い、正純に目配せをする。傍にいるトーリ君が「き、汚ねえぞ! 親友!」などと叫んでいるが無視だ。人工呼吸しようとしていたのは流石にミトツダイラが止めていたが。
そこで呆れ返ったどころか冷たい目でシュウ君を見ていた正純もあ、ああ……という感じでコホンと咳払いをして

「───女王の盾符(トランプ)よ。何の要件だ」

女王の盾符の皆が正純を信じられないものを見る目で見るが、正純は必死で無視している。

「えーと……You。今のは……」

「お気になさらず───あれはただの変態でして」

その言い方じゃ外交問題だよ……!

ハイディもその言葉には物凄い同意なのだが、それでは不味い。
副長が変態だと脅すのに……別に問題ないか。じゃあ、いっか。完璧だね、シロ君!
だが、正純はそれでは不味いと思ったのか笑顔のまま汗を流しながら

「すまない、間違えた。あの副長はただの変態というわけではなく……」

続きを何故か正純が止めたので、何故? と思っていると答えが見えた。
後ろに倒れた彼だが、その手には何時の間にか彼女から渡されたエロゲを大事に持っており、しかも彼女からあらあら顔で肩を揺さぶられている始末。
色々ともう何も言えない状態を見た正純は

「───あれはただのではなく唾棄すべき変態だ」

すっごく駄目じゃん! と全員で声を合わせて叫ぶが正純は余裕がないのか、もう女王の盾符しか見れてない。
毎度の事ながら、余裕がないなーと思い、まぁ、楽しければいいんだけどねと自分の中で結論を出す。
さてさてと思う。
多分、こっからは商人の仕事かなーと楽しみに期待しながら、己の勘が正しかった事を数十秒後の土下座で知る事になる。





昼前の日差しだが、流石に日向は少し暑いかなと正純は外交艦のテラスでの急増の交渉上のイスとテーブルを前にどうでもいい事を思った。
少々、緊張しているかもしれないなぁ、と思う。
自分の場ではないが、これはつまり、世界征服宣言を出した武蔵の初交渉という事になるのではないだろか。
いや、それはまだ気が早い。まだ、葵からあの暴言をもう一度吐けるかどうかの意思確認はとってない。
いかんな、と思う。
自分が結構冷静じゃない事を自覚する。政治家志望が、これでどうする。
教皇総長の時は、勢いがあったし、葵の支持の熱もあって緊張は消し飛んでしまっていたが、毎回あの馬鹿に頼るのは自分が情けない。
今回も気を抜いていいというわけではないが、これはまだ始まりではない。
そして、それで油断するなと思いを視線の先のチャールズ・ハワードとF・ウォルシンガム、そして、ベン・ジョンソンを見て再度確認する。
目の前にいるのは襲名者なのだ。
どんな姿やキャラや能力だからといって油断などあってはいけない。むしろ、これからの事を思って彼らの技や知識を吸収しろ、と深く思う。
内心にケリを着けたところに、給仕代わりの浅間とアデーレが何か食べ物を持ってくる。
腹が空いているわけではないが、純粋な興味ではて? 何だろうと思い視線をそちらに向ける。
刺身にカレーがかかっている珍品であった。

「……」

そういえば厨房にいたのは御広敷とハッサンであったな、と思い視線をそらす。
腕はいいらしいが、頭があれじゃあ料理もこうなるのかと思い、以後気を付けようと思う。
ちなみに刺身の方は海に落ちた熱田が何となく狩ったらしいものである。何となくで死んだ魚に軽く黙祷を捧げておこう。
向こうでハワードが生贄になっている中、ふと足元の方に光が来たのを理解する。
ハイディの走狗(マウス)のエリマキである。
何故、エリマキがこちらに来たのかという意図は十分にわかる。
すると、エリマキがこちらに見えるように表示枠を掲げた。女王の盾符をちらりと見るが、珍妙な料理を食っているハワードに釘付けである。
これも、作戦の内なのだろうかと思うが、考えても詮無き事なのでチラリと表示枠の方を見る。

『ちょっと、上がっていい?』

了解の意の代わりに指でちょいちょいと手招きすると白狐は足を駆け上り右腿辺りの位置でお座りをした。
その感触に思わず、うわーとちょっと感動してしまう。

……いいなぁ、小動物。

さり気なくこういう動物が好きな自分にとっては至高の感触である。
人型の走狗も悪いというわけではないのだが、やっぱりこういうのにも憧れる。
とは言っても、走狗を持つほどお金がないから無念しか貯まらないのだが。
いいなぁ、凄いなぁ、欲しいなぁ、と欲丸出しでそんなことを考えていると

『じゃ、ちょっと皆にもリアルタイムで理解して貰う為に実況通神にするね? ───接続っと』

『接続:共有設定表示枠:神社間共通通神・浅間神社代行により限定領域許可:───確認』

・〇べ屋:『ん。繋がったみたいだね。ありがとアサマチ。皆も初期設定で入っているから好きに話していいよーー』

・俺  :『え!? 好きに話していいのかよ!? じゃあ、俺はオッパイについて話すぜ!? 皆! オパーイについて語り───』

『・───俺様が強制退出されました』

『・───俺様が再入場されました』

・あさま:『もう、そういう事をするのは止めてください。重くなって仕方がないんですよ?』

・剣神 :『ククク、馬鹿め。そんな正攻法で行くから駄目なんだよ。こういう風に婉曲的にチチって言えばいいんだよ! ほーれ見ろ! どっちの意味で言ってるか解んねえだろ! 胸の意味で捉えたらむしろそんな風に解釈をした神がエロいって事だ! どうよ……今、俺は神に喧嘩を───』

『・───剣神様からの反応が消えました』

表示枠から少し目を離してみると給仕をしていた浅間が少し離れた場所で何時の間にか弓を手に取っていた。
残心をしている所から放った後であると見える。
見なかったことにしよう。
神に喧嘩を売った馬鹿神について考えても時間の無駄であるし、というかさっきまで倒れていたくせに無駄に元気だな、あの副長。
そして別に神様=エロくないというのは神話的に否定できないだろ。あ、だから、あの馬鹿はエロいのか。

……納得しても満足する要素が一欠けらもないぞ!?

ここまで無意味な真実もそうあるまい。
会議が始まる前から倦怠感に身が包まれる様な状況に溜息を吐きそうになるが負けてはならない。負けたら正義が悪に負けることを良しとするバッドエンドな風潮が流れ出す気がする。
頑張れ、本多・正純。武蔵の秩序はお前に守られているのだと自惚れるんだ。
そこまで考え、ふと無駄にあった肩への力が抜けている事に、危うく苦笑を漏らすところであった。

……まったく。

この馬鹿達は狙っているのか、狙っていないのか解らないから悪態しかつき辛い。
そして皆もそんな改まっての礼を言われるのを黙って受け入れるような素直なキャラではない。
楽しもう、とそう思った。
自分が主役の舞台ではないからこそ、観客席ではない端役の役を楽しもうと。それが武蔵にとっても、自分にとっても最良の道だろうと思う。
それをあの馬鹿が支持しているものだろう、と内心の苦笑を残しながら会議に対して期待を持つ。
楽しむ舞台がまさかの土下座祭りとは思ってはいなかったが。







輸送艦での会議が進む中、勿論、武蔵の住民全員がそれを見守りながら仕事をする中、ひとつの場所だけが注視している場所があった。
その場所は神社であった。
神社の大きさとしては大きい。武蔵最大の浅間神社とそこまで変わらない。
玉砂利が敷かれた庭に本殿。
ただし、浅間神社と違って違う部分がある。
それは信者が武器を握っていること。本殿とは別に訓練するための道場などもあること。
浅間神社とは違う、純戦闘系神社。
荒の神を信仰する熱田神社の境内であった。
信者達が修行する中、それを見つつ、輪の中から外れているメンバーがいた。
その数は四人。

「おっ? おい、皆! 熱田センパイのクラスの交渉……ってはえぇな! 皆!?」

「うっさい、コウ。ちょっと黙ってて。あんた……声大きいのよ……」

「碧さんも少し落ち着いて……あ、コウはもう少し黙っててもいいですよ?」

「女尊男卑の権化が……! おい、ハクセンパイよぉ! ちょい、ジンとミドリになんか言ってやってくんないっすか!?」

「……」

「……コウ? ハクさんは若様にご執心だから諦めなさい。後で飴あげるから。味は青春! の男の初恋失恋涙味……! でいい?」

「余計に虚しくなるし、んなゲテ商品……んげ……IZUMO製かよ……」

一人はコウと呼ばれた男子。
見た目は結構、年の割には厳つい感じがするのだが浮かべている表情自体が子供……というよりは邪気がそんなにないので怖いイメージを浮かべさせない。髪を金髪に染めている辺りはイメージ通りだが。
何というか尊敬する人を親分と呼びそうな感じである。だが、その彼のイメージを裏切らない両手に持っている野太刀が物騒さを出している
次は碧と言われた少女。
少女は肩まで伸びるショートの茶髪交じりの髪と顔は少女らしい顔だが、その周りの騒ぎにやれやれとする態度が少し年上のような雰囲気をだし、手に持っている薙刀が彼女の雰囲気を落とすどころか精錬とされた雰囲気を生み出している。
もう一人がジンと呼ばれる少年
髪は男子としては少々長く、邪魔にならないように後ろで軽く纏めており、顔は一言でイケメン。
腰に吊ってる双剣が、少年をまるで騎士のようなイメージに作り上げてしまいそうになる。
そして、最後の少年がハクと呼ばれた少年。
彼だけは個性溢れる四人のメンバーである意味で一番、普通であった。
黒髪の短髪であり、今は無表情……ではなく会議の光景に無心になって見つめている少年。
それの視線の熱中度なら、正しくこの四人の中で一番であるが故に周りを気にしていない。
そして、異様な事に彼の周りには剣が大量にあった。明らかに自分の腕の数を超える数であり、投剣と使うには明らかに大きい。
剣神の八俣ノ鉞よりは小さいが、大剣クラスではある。
それらが彼の周りに刺さっているのだが、周りも彼も気にした様子がない。

「あーーー。こういうのを見ると、何か体がウズウズしてしゃーーねぇ。全く……どうして熱田センパイは三河で俺ら戦わせてくれなかったんだよーー」

「恐らく、それはまだ熱田先輩の王がまだこれからも志を貫けるから宣誓してないからですよ……ってこの話。僕、以前も話しましたよね?」

「脳筋に記憶力を要求する方が間違ってるわよ……ま、それでもこの英国で嫌でも総長の宣誓が見れるわよ、コウ。どっちであってもね」

あの無能な総長はどう考えているか知らないが、ここが分水嶺である事くらい……理解できていると……うん、思う……と三人で首を傾げる。
結構悩んだが、そうであると祈るという事にした。
大体、ここにいるメンバーでも何故、熱田・シュウがあんな馬鹿な王を王として認めているのかの経緯を知らないのである。
いや、まぁ、そりゃあ彼の理不尽な死を否定するという願いは共感できるし、あそこまで開き直ったらついて行きたくなるというの気持ちは理解している。
ただ、強いて言うなら親友と。
どちらとも同じクラスメイトなどを友と呼んでいるのに、この二人の強固な絆が発生した所以が解らない為、少々判断が全員解らないのである。
お互い、そういうのはあんまり上下などしない人間に思えるから余計に。
そこに一つ声が放たれた。

「───笑っている」

全員でその呟きに反応する。
呟きの主は声で既に分かっているし、彼が何を見てその呟きを発したのかも全員理解している。

「笑っているって……熱田先輩がですか? それは別に───」

「───あの笑顔は今を楽しんでいるものじゃなくて先に期待する笑顔だ」

何時も通りと答えようとする言葉を遮って喋る答えに思わず、全員が会議と共にばらばらに別れてはいるが、梅組が映っている表示枠の内の剣神が映っているのを見る。
笑っている。
彼はそういえば三河での宣言があってから終始笑っているように思える。
無論、別にずっと笑顔というわけじゃなくて状況に応じて表情を変えたりするからおかしな事ではないのだが……ハクはその笑顔は未来に向けたものであると判断した。

「過去を忘れず、今を感じ、未来に疾走する事が我が生き方也。つまり、そういう事なのだろう。若はその生き方を貫く覚悟をとうに終えている」

過去を忘れたわけじゃない。過去は常に彼は覚えている。忘れるはずがない。
今を無視しているわけではない。今を常に彼は感じている。その幸福を噛み締めている。
だからこそ、その魂は更なる未来を求めている。
まだだ。もっと欲しいという現状の幸福のみで我慢できないという傲慢な強欲。
その生き方を───どこかの誰かに似ていると気付いているものは気づく帰結。

「……逆に言えばこれからが本番ということだ……私は若と道を共にするのは決定している。君達は好きにしろ」

「ハッ、水臭いっすよハクセンパァイ! 俺だってあの人に拾われた恩があるんですから存分にやらせてもらいますよ!!」

「だから、声が大きいって……まぁ、それについては同感だけど。ハクさんや留美さんには全然、及びませんが出来る限り、自分のやりたい事をさせてもらいます」

「僕は元より。誰に言われるまでもなく。というか、基本、僕はやりたい事をするしか出来ないので」

成程、とハクは苦笑の響きで言葉を吐く。
単純、などとは言わない。
そんな輩はこの熱田神社にいないことは理解しているし、知っているつもりである。
ここにいる人間は自分の中の論理を信じて疾走する人間が集まっている。
要は馬鹿の集まりである。
全員が、それぞれの武や内面に没頭しているのを確認すると、ハクは一人密かに目を閉じて独り言を放つ。

「……何時か……貴方が覇を語る……そんな未来も……私はあってくれればと私は祈ります。我らに疾走を教えてくれた神よ……」

それが個人に向けた祈りなのか。
本当に神に対して祈ったのか。
簡易だが、その祈る姿に問いかけるものは無粋であると思われる。
その目の前の映像がトリプルアクセル土下座をかましているのが、微妙に台無しであったが。






 
 

 
後書き
皆さーーん!!
長らく待たせ過ぎた……! 申し訳ありません!
理由はテストなどもありましたが、簡単に言えばスランプです! もう、中々進まないの何のストレスしかたまらん!
とりあえず、ようやく出せた……深くお詫びします……頑張ります……。

まぁ、これでようやくチャット解禁。
これで、昔はよく言われた誰が誰かわからない状態を回避できます。ふー、長かった……。
そして、最初はまた自分らしいギャグ……になってますよね? 久しぶりで結構自信がない……
そして、最後は感想によく来てくれた人の名を使ったキャラです!
誰か、誰がわかったら面白いなーー。
次回は一気に飛ばして焼肉かな……とりあえず、次回も何時になるかわかりませんがお待ちを!
感想お待ちしております!!

追記
言っておいた方がいいかもしれないと思って新キャラ4人が誰か発表しておきます!
ずばり、白翼さん、飽紅さん、神さん、そして紺碧さんです。
期待させてしまった人とか本当にすみません!
選んだ人もぶっちゃければこの作品によく感想に来てくれた人を選んでいます!
そして、じゃあ古株な俺は? と思っている人(ぶっちゃけ幸の村さんやエロゲマスター・シンさんやクロさん)。安心してください───もう少しです 
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