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ローエングリン

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3部分:第一幕その三


第一幕その三

「宜しいでしょうか」
「ううむ」
「まず申し上げておきます」
 テルラムントはここでまた皇帝に対して言うのだった。
「私はエルザ様に求婚したことがありますが断られております」
「つまりだ」
「それでもって婚姻した場合公爵位継承にとって邪魔となるゴッドフリート殿を害する理由はない。そう言いたいのであろうな」
「おそらくそうだな」
 王の側近達は話を聞いてこう判断した。
「では彼はこの件に関しては潔白か」
「そうだな」
「それではだ」
 王はあらためて一同に告げた。
「今より裁判をはじめよう」
「はっ」
「ここで」
 皆一斉に剣を抜く。王の側近達はその剣を目の前の地面に刺しブラバントの者達はその前に寝かせて置く。これがはじまりの合図となった。
「判決が正義を与えないうちは剣は鞘に収まらない」
「今それを誓おう」
「それではエルザ様」
 伝令が金髪の美女に声をかける。
「宜しいでしょうか」
「はい」
 エルザはそれに応えて前に出て来た。王に従うザクセンやチューリンゲンの者達はその彼女を見てまた囁き合うのであった。
「あの美女がか」
「とてもそんなようには見えないが」
「悪事を犯すようには」
 彼らはそう思わざるを得なかった。
「だがそれでも」
「裁判は裁判だな」
「うむ。見守るとしよう」
 彼等の言葉を受けつつエルザは王の前に進み出た。王は彼女が一礼するとすぐに言葉をかけるのであった。
「エルザ=フォン=ブラバントだな」
「はい」
 名を聞いてきた問いに頷いて答える。
「その通りです」
「今の伯爵の訴えだが。申すことはないか」
「いえ」
 王の問いに対して首を横に振る。王はそれを見て言うのだった。
「だがそれでは罪になるのだが」
「公女の様子がおかしいが」
「どうしたのだ?」
 そんな彼女を見て皆言うのだった。
「何故あの様な態度を」
「解せぬが」
「もう一度聞こう」
 王もまた釈然としなかったのでまた彼女に問うた。
「そなたは。何か言うことがあるか」
「ある日のことです」
 ここで彼女は静かに口を開いてきた。
「弟がいなくなり私は悲しみに囚われ一人寂しく神に祈っておりました」
「ふむ」
「私の胸の奥底からの訴えを祈りに込め。すると胸の溜息の中から嘆きに満ちた声が起こりそれが力強い響きに変わり」
「不思議な話だ」
 人々はそれを聞いて言った。
「その響きが遠くへ消えていくのを私はそれが聴こえなくなるまで聴き。そのうえで深い眠りに入ったのです」
「夢の話か?」
「まさか」
 皆それを聞いていぶかしむ。それは王も同じだった。
「ここは裁きの庭だ。弁明は」
「輝かしい銀の鎧に身を包んだ騎士が近付いてきて」 
 だがそれでもエルザは語るのである。夢見るような顔で恍惚となり。
「黄金のホルンを腰に下げ白銀の剣を両手に抱き。空の彼方から清らかな方が降りて来て私の前で端整に片膝を折られたのです。その方こそ」
「その方こそ?」
「私の為に今戦ってくれる方です」
「何という御言葉か」
 皆それを聞いてまずは瞑目する顔になった。
「その様な方がおられるなら」
「どうか罪ある者を名刹されるように」
「伯爵よ」
 王はエルザの話を聞き終えたところでテルラムントに顔を向けて声をかけた。
 
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